ヴァンドレッド


VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 11 -DEAD END-






Action48−分析−






  故郷との連携と絶え間なく襲撃する刈り取りへの対策に、忙しい身の艦長。

心落ち着く間もない激務の最中に、面会の許可を出た事に感謝してカイはブリッジへ。

ブリッジ内は立て込んでいたが、艦長は的確に指示を飛ばし、改めてカイと向き合う。


「ドクターに話は聞いている。回復は順調のようだね」

「すぐに戦いに出られるさ、今なら」

「ははは、それは頼もしい」


 疲労が色濃く皺に刻まれているが、カイに向ける艦長の顔は一隻を支える男の顔だった。

マグノとはまた別の顔を持つ、艦長たる器の人間――

戦いに勝つ力とは違う強さを、この人は確実に持っている。


――自分には、まだ備わっていない強さを。


マグノ海賊団との対立、半ばで途絶えてしまっている男女共存への道。

この先、自分達はどうなっていくのだろうか…?

まだ何も分からない。

きっと、何も分かっていない――


「…何か悩み事かね」

「い、いや、悪い。何でもないよ」


 つまらない意地かもしれないが、艦長に相談するのは憚られた。

答えが出ないから、他人に求める行為がみっともなく感じられたのだ。

こういうところも子供っぽいと、カイは痛感している。

考え続けていると暗くなるので、ストレートに本題に入る。


「今後の事を少し話し合っておきたいんだ。
俺や皆の処遇で艦長やこの船の皆に、本当に世話になった。
俺の怪我も治ったし、恩返しをしたい」

「気にしなくて良い。我々は同志だ。
仲間を助けるのに、国境や人種の隔てりはないよ」


 こちらへ向けるブリッジのクルー達の目は温かい。

艦長の気持ちが、皆に伝わっている何よりの証拠だ。

数百人の男と女が一つの目的に向かって、心を一つにして戦っている。


――この船こそ、自分が目指すニル・ヴァーナの未来かもしれない。


カイは心を熱くして頭を下げる。

屈辱は何もない。

純粋に、感謝している

だからこそ――


――誰も死なせたくない。


熱き志を持つこの人達を、地球人に奪われるなど断固認められない。


「ありがとう、艦長…

俺も、貴方達の為に戦いたい。

皆を平和で明るい世界へ行かせてやりたい。


――貴方達が今戦っている、地球人のデータを見せてくれ」


 艦長の、皆の顔が厳しくなる。

作業をする手すら止めて、真剣な眼差しでカイを一瞥する。

その視線だけで――どれほどの、手強い敵なのか想像できる。

絶望を抱かせるに、十分に足る脅威が目の前にまで来ている。


「…よいのだね」

「ああ、避けられない相手だ」


 カイの決意を感じ取ったのか、艦長はブリッジクルーの一人に頷く。

眼鏡と三つ編みがチャームポイントの女の子が、テキパキとコンソールを操作する。

巨大モニターがスライドされて、ブリッジの中央へ。


真っ黒な画面に――敵が、映し出された。


「――っな…! な、何だ、これ…」

「これが――


――奴等の、母艦だ」


 手強い敵だと、予想はしていた。

気持ち悪い形態、人知を超えた戦闘能力。

大よそ、人間のあらゆる想像の斜め上を行く奇怪な戦闘兵器。

事前に認識出来る方がおかしい。

とはいえ。

半年間の苦難を乗り越えたカイも、度肝を抜かれた。



広大な宇宙空間を埋め尽くす、巨大な物体。



あのニル・ヴァーナでさえ点にしか見えないほどの、構造体。

不気味さはなりを潜め、シンプルな形状をしている。


丸みを帯びた円柱――


五本の巨大なオレンジの線が切れ込みとして刻まれている。

その単純差が、何よりも恐ろしい。

奇抜なデザインが消えたことで、敵が本気であることを何より思い知らせてくれる。

カイは息を呑む。

仮にヴァンドレッド・ディータのキャノンを最大出力で撃っても――


――カスリ傷程度で終わるだろう。


はっと、カイは気づく。


「ま、まさか…この大きさ――中に!?」

「正解だ。第二のデータを」


 画面が、切り替わる。


――開いた口が塞がらない…


五本のオレンジラインは、母艦の巨大な射出口だった。


次々と飛び出す無人兵器――


数百を超えるピロシキ型、数百のピロシキ型から排出されるキューブ型は軽く千を越える。

無論、敵陣はその程度ではない。

一機でドレッドチームを苦しめたウニ型が同じく数百。

マグノ海賊団を壊滅の危機に追い詰めたトリ型の無人艦隊が、千の列を成して襲い掛かる。

星一つを飲み込むユリ型も健在で、大きな顎を開いて格納した冗談のような数の無人兵器を吐き出している。


星の海を凌駕する、敵数――そして、圧倒的な大きさの母艦。


一国の戦力を駆逐する、絶望が映し出されていた。

人間の小さな希望を嘲笑する規模の戦力が、画面に映し出されている。

気持ち悪さを胸いっぱいに抱えて、カイは蹲る。


――あいつらが、近隣の惑星を襲っていたんだ…


恐怖の海に溺れながら、カイはようやく合点がいった。


襲い掛かる敵の、恐るべき襲撃速度――


毎日のようにニル・ヴァーナに襲い掛かり、疲れ果てるまで責め続けた。

地球人が今回の敵の正体だとすれば、疑問点も当然出る。

地球は遥か遠い――

何故倒しても倒しても、敵はこれほど早く艦隊を整えられるのか?

無人兵器を製造して襲ってこれるのか、ずっと気になっていた。


――その答えが、目の前にある…


この母艦が内部で莫大に格納して、周期的に排出していたのだ。

恐らくあの中は巨大な格納庫であると同時に、大規模な兵器工場でもある。

倒してもすぐに自己改良して製造し、新しい敵を生み出す。

この母艦そのものが、敵の前線基地でもあるのだ。


そうなると――、カイは思考を重ねる。


無から有は生み出せない。

兵器材料は製造出来るにしても、無限製造には無尽蔵なエネルギー源が必要の筈だ。

一体どうやってそんなエネルギーを――!


ペークシス・プラグマ。


ニル・ヴァーナと同じ、ペークシスを敵も持っている。

恐らく、あの母艦の中に。

カイは歯噛みする。

敵が同じペークシスを持っているなら、同じ奇跡を起こす可能性がある。



ニル・ヴァーナ。

ヴァンドレッド。



――脅威の合体を、敵がもし実現すれば…



カイは目の前が真っ暗になった。

これまでの戦闘経験から、間違いなくこの敵にも驚異的な再生能力が潜在している。

こちらの攻撃手段を学習する能力。

そして――同じ奇跡と、エネルギー源。

これまでの戦いの勝利の鍵は、間違いなくヴァンドレッドが握っている。

敵がもし実現すれば――最後に頼めるのは、数だけ。

純粋な戦力勝負。


そして、数は圧倒的に向こうが上…


ジワジワと、戦意を黒い影が覆いかぶさっていく。

洗面所が傍にあれば、吐き出していたかもしれない。


最早――勝機は、ない。


こちらにあるものは全て、敵が持っていた。

敵側に無くて、こちらに有るものは――人間。


だから、何だ…?



心?
団結?
希望?



それで――この戦力差は、埋まるのか?

カイは震える拳を床に叩き付けて、小さい自分を嘲笑する。



心――迷っている。
団結――壊してしまった。
希望――


――今、消えた… 


ドゥエロ、バート――メイア。


こっちの問題は、ちょっとやばくなってきた…


メラナスの人達の――艦長の苦悩を、今理解する。


































<to be continued>







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