ヴァンドレッド


VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 11 -DEAD END-






Action47−母艦−






  ――信じ難いほど、疲労していたようだ…
 
  目覚めの茫然とした頭で、寝起きの時刻を見ながらカイは嘆息する。
 
  一日寝て起きて、御飯を食べて、また寝る。
 
  気付けば数日が平気で経過しており、蓄積した疲労を実感させられた。
 
 
  ニル・ヴァーナより離れて、一週間。
 
 
  平和な生活が一変。
 
  仲間が敵に回り、平和な生活は地獄の修羅場へ変化。
 
  慕ってくれた者を傷つけ、悲しませて、挙句の果てにかつての戦友に発砲。
 
  どん底に落ちて再び這い上がり、望まない死闘へ投じて死に掛けて――
 
  心は故郷へ向けて熱く燃え上がっても、傷付いた身体は限界に達していたようだ。
 
  カイは医療室とカフェの往復のみ、一日数時間程度起床の療養生活を送っていた。
 
  包帯は毎日取り替えられて、最新の医療技術で傷を癒す。
 
  元来カイは回復の早い性質だが、本人の落ち着きの無さが身体に負担をかけていた事になる。
 
  他所の星の軍艦へ移り、迎えられた温かな人達の好意を受けて心身共に緊張が抜けたのだろう。
 
  グッタリとベットに寝そべり、警戒の必要のない生活を満喫していた。
 
  カイは洗面所で顔を洗い、鏡を見ながら身支度を整える。
 
 
  知らぬ間に、心も疲れていたかもしれない…
 
 
  ――ディータ・リーベライの声を聞いて、泣き崩れた自分。
 
  非常な現実を突きつけられ、自分が壊した女の子の残骸を見せ付けられた。
 
  少女は何も知らぬまま、自分を慕ってくれている。
 
  記憶を壊した自分に、無邪気な声を――
 
  カイは頭から水をぶっ掛けた。
 
 
  結局、あの日以来向こうから連絡は来ない。
 
 
  あの時静かにカイが涙する間、ジュラが変わってディータの話し相手をしていた。
 
  昔はマイペースなディータを毛嫌いしていたジュラだが、あやす様子は優しげだった。
 
  落ち着いたカイはジュラに礼を言って交代。
 
  ディータもメイアと代わって、互いに幾つか近況報告。
 
  出て行ったメンバー名と無事を知らせると、向こう側のメイア達は安堵した様子だった。
 
  仲間の身を案ずる気持ちは、男も女も変わらない。
 
  カイも同じだった。
 
 
  『バーネットが――?』
 
  『・・・床に伏せている。心労によるものだ』
 
 
   死傷者や重傷者はいないと聞いていたが、負傷した人間は当然いるだろう。
 
  カイが気になったのは、バーネット・オランジェロ。
 
  討伐騒ぎに発展した当時、先陣を切った女性――
 
  カイへの憎しみは、彼女が一番抱いているだろう。
 
  そんな彼女だからこそ、カイは気になっていたのだが・・・
 
 
  『本当に問題は無いのか?』
 
  『ああ』
 
 
   ・・・ドゥエロは寡黙で、必要最低限な事以外は話さない。
 
  興が乗れば自分の考えや意見を述べる程度で、不要なおしゃべりはむしろ嫌い。
 
  友人の性格はこの半年で少しは理解したつもりだが、カイは引っ掛かりを覚えた。
 
 
  ――返答が簡素すぎる。
 
 
  特に、ドゥエロは医療面に関しては弁舌だ。
 
  余分な知識まで提供してくれる、困った医療博士。
 
  そんな彼が症状や容態、治療に関わる日数を何一つ自分から話さない。
 
  問い質そうとして――止める。
 
  バートは言っていた。
 
  これは自分達の戦いだと。
 
  医療分野は、ドゥエロが専門だ。
 
  パイロットにはパイロットの領分があるように、医者に医者の領分がある。
 
  彼らが現在どのような状況で、どのような心境を抱いているのか分からない。
 
  事態をどのように考えているのか、どのように打開するべきか。
 
  彼らもまた、戦場の最中でもがいている――
 
  話さないのなら、まだ話すべきではないのだろう。
 
  そう信じる事にした。
 
 
  地球人の事は、話さなかった。
 
 
  確証がない以上に、今伝えるのは危険だと判断した。
 
  ニル・ヴァーナは外も中も戦場。
 
  刈り取りの正体を伝える事は、火薬庫に爆弾を投げるのと変わらない。
 
  ドゥエロやバート、自分を必要以上に敵視する理由の一つに自分達への恐怖がある。
 
  恐怖は混乱を呼び、戦場下において死すら招く。
 
  無人兵器――未知なる敵だから戦えていたアドバンテージが消えてしまう。
 
  何より敵の姿が明白になったところで、ドゥエロ達の立場は変わらない。
 
  地球人の情報は慎重に取り扱う必要がある。
 
  腰を据えて話すべきだ。
 
  伝え終わった両者は談笑して、互いの友情を温め合った。
 
  メイアは始終機嫌が悪そうだったが、今後について念押しに注意する辺り自分の身を案じてくれているのだろう。
 
  鏡の向こう――世界の向こう側の仲間達を思い出し、カイは温かい気持ちが心に灯る。
 
  考えなければいけない事は、沢山ある。
 
  立ち止まり、陰鬱に俯いていれば何も見えない。
 
 
  戦う為に顔を上げる――
 
 
  決意の炎を鏡に映して、カイは洗面所から出た。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
   現状自分に出来る事は、情報収集。
 
  カイは医務室の人に許可を貰って、一時の自由を許される。
 
  メラナス軍艦の船医は健康管理に非常にうるさく、怪我や病気は完治しない限り病室から出さない。
 
  緊急事態を除けば、自由行動も許されないのだ。
 
  お陰でカイは寝不足改善、心身健康、三食昼寝付きの真っ当な生活を送る事が出来た。
 
  幸いとも言うべきか、メラナスに現在刈り取りが来る気配はない。
 
  見舞いに来てくれたジュラの話によると、ドレッドや蛮型の整備は進んでいるとの事。
 
  敵襲があれば、自分も出撃する事になるだろう。
 
  医務室を出たカイは、艦長への面会を求めた――
 
 
  「オッケー、案内するね」
 
  「――何故お前が…」
 
 
   ブリッジへ連絡を取れば、何故か迎えに来たのはセラン。
 
  健康的な魅力を発散させて、明るい笑顔を振りまいている。
 
  彼女の事は嫌いではない。
 
  むしろ、人間的には好きな部類に入る。
 
  初対面の女性にこれほど親切にしてもらった経験はない。
 
  ――ないからこそ、無垢な好意に戸惑いを覚える。
 
  セランはカイの肩を元気に叩いて、
 
 
  「少年君の担当はわたしだもん。任せて」
 
  「何時からそんな決まりになったんだ!?
 
  …少年君?」
 
 
   眉を潜めるカイに、セランはむしろ清々しく頷く。
 
 
  「アナタの呼び名。名前がないと不便でしょう?」
 
  「カイ・ピュアウインドって言う立派な名前があるわ!?」
 
  「少年君のほうが格好いいよ、絶対! そうだよね?」
 
  「俺に聞くな、俺に」
 
 
   気が狂いそうな頭を、懸命に抑える。
 
  真剣に対応していると、脳味噌が怒りで捻れそうだった。
 
  どう文句をぶつけてやろうかと思案している内に、セランは軽いステップで先に歩く。
 
  マイペースな彼女に肩を落として、カイも後に続いた。
 
 
  「怪我はもう平気?」
 
  「寝まくったからな、逆に身体が変になりそうだ」
 
  「あはは、グーグー寝てたもんね。疲れてたんでしょう」
 
 
   ジュラ達もそうだが、セランもカイの病室には毎日通っていた。
 
  世間話をしている間に、カイにも少しずつ彼女の事が分かってくる。
 
 
  ――彼女は、外の世界に興味があるらしい。
 
 
  自分の専門分野のメカニック的な話から、タラーク・メジェールの星の環境まで。
 
  同席するジュラ達は最初こそ馴れ馴れしい彼女に良い感情を抱いていなかったみたいだが、ここ数日ですっかり友達になっている。
 
  故郷の話は懐かしさを感じさせるのか、ジュラ達は昔の思い出話まで語っていた。
 
  懐かしい故郷――
 
 
  ――敵であるとは、今でも思いたくは無かった。
 
 
  「改まって艦長に話って何? 恋愛相談?」
 
  「何でそんなもん、あの人に話さないといけないんだ!?」
 
 
   カイはそれなりに艦長には敬意を払っている。
 
  苦しい現状に苛んでいる印象こそ受けても、必死に立ち向かおうとする姿は男として立派だと思う。
 
 
  「失礼ね!
  艦長見た目こそオジサマだけど、ああ見えて奥さんいるのよ。
  すっごくすっごく美人の」
 
  「お前も大概失礼だが…奥さんって――女の?」
 
  「男の奥さんって何よ。気持ち悪いじゃない。
 
 
  え、もしかして少年君って――」
 
  「豪快に距離を取るんじゃない!?
  俺だって――!」
 
 
   ――俺だって…なんだ?
 
  女が好きだとそう言いたいのか、俺は。
 
  途端、蘇るかつての共同生活と毛嫌いされた思い出の日々――
 
  楽しくも荒々しい毎日は、女への認識を色々変えられた。
 
  恋人や妻の明確な概念はタラークにはないが、似たような関係を男同士で築いている。
 
  タラークの慣習に従うつもりは少しも無いが、将来隣に居る人間が誰かなんて想像も出来ない。
 
 
  誰に、傍に居てほしいのか…?
 
 
  (青髪とかだったら、面白いかもな…)
 
 
   女性への認識を、一番変えてくれたのは彼女だ。
 
  喧嘩ばかりしていたが、関係が良好になってから随分互いに支え合っていた気がする。
 
  メイアが傍にいれば、心強いとも思う。
 
  苦笑い。
 
  毎日説教されて、怒鳴られて――でも、気遣ってくれて。
 
  刺激的だが、落ち着いた日々が待っていそうだった。
 
  興味深く覗き込んでくる隣の女性には、とりあえず誤魔化すように咳払い。
 
 
  「――と、とにかくだな…あんたらの今の戦況を知りたいんだ。
  俺達も無関係じゃないからな。
 
  あんたらを襲う敵は、どんな無人兵器なんだ?」
 
 
   刈り取りは襲う星々の環境や必要とする臓器によって、適応した兵器を送り込む。
 
  砂の惑星では砂塵を利用する敵に、水の惑星では星丸ごと飲み込める吸引力のある兵器が襲ってきた。
 
  前者は手遅れ、後者は情報不足で後手に回らされた。
 
  戦う前に、敵の正体は知っておく必要がある。
 
  カイの質問に、彼女は――初めて表情を険しくした。
 
 
「…母艦よ」

「母艦? それって――」


 絶句するカイに、セランは真剣な顔で頷く。


「映像を見せてあげる。

――この辺り一体の星を襲う、敵の主力よ」


 人類の敵、地球。

その恐るべき正体が、少しずつベールを脱いでいく。


































<to be continued>







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