ヴァンドレッド


VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 11 -DEAD END-






Action33 −終戦−






  想像を絶する苦痛を、気合と根性で耐える。
 
  決意の声明は、理屈や倫理を超えた心の吐露。
 
  言い切った爽快感と、止まない疲弊感の間を迷夢のような意識でもがく。
 
  動き回る体力は既に底をつきかけているが、戦いは決してやめない。
 
  負けられないから。
 
  認められないから。
 
  許す事なんて、出来ないから。
 
  蛮型九十九式、十徳ナイフ。
 
  ブレード・ランスを除いて、残り八種のタイプが残されている。
 
  胴体は大部分破損しているが、手足と頭は思っていた以上に無事だった。
 
  武器を切り替える。
 
 
  ――ハンマー。
 
 
  ランスを構成していた細長の部分が、鈍重に。
 
  鋭利な穂先は大槌を形成し、破壊力を約束する。
 
  軽く叩き込んでも、巨大な岩を豆腐のように砕く威力がある。
 
  戦闘態勢を新たに、カイはドレッドチームへ向かって叫ぶ。
 
 
  「迷ってるのか? 何故迷う。
  お前らの敵だと、俺ははっきり言ったぞ」
 
 
   せせら笑う、自分に。
 
  何故相手が自分を殺す事に迷いを感じているのか、知っている。
 
  知っているから、自分もまた迷った。
 
  悩んだ。
 
 
  悩んだ末に――今日の悲劇を生んだ。
 
 
  味方ではなかったから、ソラを教えられなかった。
 
  敵ではなかったから、ディータを近づけてしまった。
 
  敵にも、味方にも、なれなかった自分。
 
  その迷いの根源に――彼女達の今の迷いが付随する。
 
  自分を殺す事に躊躇する、一抹の優しさ。
 
  この半年間の関係で悩み続けたのは、決して自分だけではないのだから。
 
  空白の一時。
 
  ――迷いより踏み出すのは、相手側から。
 
 
  「…あんたは、何も知らないからそんな事が言えるのよ…」
 
  「…」 
 
 
   バーネットの声は小さくて、ただ哀しい。
 
 
  「皆それぞれ動機はバラバラだけど…海賊になった。
  ええ、認めてあげる。
  奪う事が純粋に好きな子もいるわ…
 
  ――私のように、好きに暴れられるから海賊になった娘もいる。
 
  でも、大切なものを奪われたのは皆同じよ!」
 
 
   耳鳴りがする。
 
  全身の苦痛が絶え間なく続くが、カイは耳をしっかりと傾ける。
 
 
  「故郷に見捨てられて、傷つき、悲しんで…このまま死んでいくなんて惨めじゃない。
  あんまりじゃない!
 
  私達は――生きたかった! 何をしても!
 
  例え、それがあんたの嫌う――」
 
 
   聞かなければならない。
 
  自分が知らない、現実を。
 
 
  「――略奪であったとしても。
  奪わなければ死ぬなら、私達は奪うわ。
  生きたいって気持ちが、そんなにおかしい?
 
  自分の力で生きていこうって思うのが、そんなに間違えてるの!」
 
 
   何が何でも生きていく。
 
  この旅の間で、何度思った事だろう。
 
  負けられない、負けたくない。
 
  苦境に立たされて、カイはそれでも諦めなかった。
 
  何故?
 
  生きたい、から。
 
  死ぬ訳にはいかないから。
 
  何も成してはいないのだから。
 
  ――バーネットはしっかりとした眼差しで、画面の向こうからカイを見る。
 
  全員の気持ちを、代表するように。
 
  一致一丸となって歴戦を重ねた、海賊の目で。
 
 
  「こんな私にも――大事な仲間が出来た。
  自分よりも大切に思ってる、人だって出会えたわ。
  それは海賊になったから。
  皆で一緒に、今まで頑張ってきたからよ」
 
 
   仲間、そして大切な人。
 
  バーネットだけでは決してない。
 
  マグノ海賊団として結集して、新しい人生を見つけた人間は数多くいるだろう。
 
  奪い続けた人生でも、大切だと思える人に出会えたのは誇りですらあった。
 
 
  「あんたがそれでも否定するって言うなら、あんたは私たちの敵よ。
  最初から、一緒に生きていくなんて間違えてたのよ」
 
 
   大切な人を守る為に、手段は選ばない。
 
  社会や倫理的に間違えていたとしても、彼女達はそれでも守りたかった。
 
  自分を、仲間を。
 
  不純な気持ちを抱いている人間もいる。
 
  略奪を楽しんでいた面もある。
 
  だけど根源に強い想いがあるからこそ、マグノ海賊団は生きてこれた。
 
  国家ですら恐れられ、敗北を知らずにこれまでやってこれた。
 
  彼女達に助けられた人達も大勢いるだろう。
 
  略奪を否定するという事は、救われた人達を否定するのと変わらない。
 
  その否定を彼女達は決して認められず、許せないのだ。
 
 
  「…ディータの事、あの女の子の事。
  それがなくても、私達とあんたとは結局こうなってた」 
 
 
   この場にいる誰もが、空気を察する。
 
  個人の主張は違えど、互いの主張を受け入れられないのは同じ。
 
 
 
  カイは突風のように駆けて――
 
 
 
  ――バーネット達は嵐のように攻撃を繰り出す。
 














「…ハァ…ハァ…ァ…」
 
   左腕がイカれた。
 
  鉛のように重く、力がまるで入らない。
 
  体力はもう限界。
 
  攻防戦に費やした時間など、もはや頭にも入らない。
 
  無数の傷を機体に刻み――得た勝ち数は数知れない。
 
  シールドに波状攻撃、翼へ稲妻の如き衝撃をハンマーで叩き付ける。
 
  時には逃げて、時には守った。
 
  死に物狂いでドレッドにしがみ付いて、破壊を繰り返した。
 
  ――コックピットを壊さなかったのは、奇跡に近い。
 
  マグノ海賊団は敵。
 
  理解していながら、それでも尚殺さない。
 
  優しさや思い遣りではない。
 
  法律や倫理、常識に従ったのでもない。
 
 
 
  奪わないと、決めた。
 
  奪うことを、否定した。
 
 
 
  奪った彼女達を、どうしても許せなかった。
 
  負傷は、代償。
 
  命を奪わない、その代わりに己が命を削る。
 
  信念なんて上等なものではない。
 
  凝り固まった意地と、マグノ海賊団への見栄。
 
 
  何より――自分が納得していないから。
 
 
  奪う事も、奪われる事も、ごめんだった。
 
 
  「…カハァ…ははは…ざまあねえ…な。
  大勢の人間から奪えても、俺一人満足に倒せない」
 
  「…く、どうなってんのよあんた…」
 
 
   バーネットや他のパイロット達も驚愕していた。
 
  仲間は次々と戦線離脱しているのに、蛮型一機が落とせない。
 
  相手の機体はもうボロボロ。
 
  左腕が千切れて、肩口からコードが伸びて垂れ下がっている。
 
  胴体は穴だらけ、噴煙が全身から吹き出ている。
 
  信じ難い事に、機体はそれでも稼動している。
 
  ――そして、パイロットも。
 
  彼の生命力に呼応するように、機体は最後の最後まで戦いを止めようとはしない。
 
  その姿は、無様。
 
  だけど見る者の心を――熱く震わせる。
 
  カイは血反吐が混じった唾を吐く。
 
 
  「…いつまで続ける気だ、こんなこと…」
 
  「まだそんな事を――」
 
  「一生続くと、思ってるのか? いつまでも続けられると、本気で信じてるのか?
  生きる限り、永遠に続けるのかよ」
 
  「私達は今までずっとやってこれたって言ってるでしょう!
  あんたさえ、いなかったら――」
 
 
 
  「奪えなくなったら、どうするんだ?」
 
 
 
  「え――」
 
  「…難民を救えば、より多くの食糧が必要となる。
  その食糧は何処から持ってくるんだ。メジェールか?
 
  お前らを切り捨てて――
 
  お前らを討伐する戦力も無い国が、無限に物資を提供してくれるとか寝ぼけた事考える訳じゃねえだろうな」
 
  「っな」
 
 
   カイは血溜まりの中で笑う。
 
 
  「タラークから奪うか? 男は卑怯卑劣、野蛮な生き物だからいいってか? 
  ――はは、笑わせる」
 
 
   傷は熱を生み出す。
 
  鈍く崩れ行く身体は残された命を燃やしているように、ただ熱い。
 
  熱気に火照った意識で、言葉を紡ぐ。
 
 
  「男が卑怯? 
 
  ――予告も無く奇襲して、無関係な人間に銃を突きつけて脅迫するやり方は卑怯じゃないのか?
 
  男が野蛮?
 
  ――有無を言わさず、攻撃してるくせに。
  少しでも話し合いをしようとしたのかよ、お前ら。
 
  男が最低?
 
  ――イカヅチでは虫けらの様に男を捨てようとしたじゃねえか。
 
 
 
  男だって、人間なのに。
 
  女と同じように…懸命に生きているのに」
 
 
   感情が零れ落ちているだけ。
 
  不満を。
 
  苦悩を。
 
  そして、
 
 
 
  「…醜い男・・・だ――お前らは…」
 
 
 
 額が、操縦桿に落下する。

画面の向こうで聞こえる絶叫――

非常警報。

敵機、接近。

もう何も考えられない…



"貴方に出会えた奇跡に、感謝を"


"大好きだよ、ますたぁー"



 カイは一瞬顔を上げる。

頬をかすめる一条の光――レーザー。

どうやって回避したのかは分からない。


気付けば――既に斬り捨てていた。


「…そ、んな…」


 後悔か、屈辱か。

一声だけを残して、紫の機体は宇宙の虚空へ沈んでいった。

 
 

 
 

 
 

 
 

 
 
俺は、正しいのだろうか?

彼女達は、正しいのだろうか?



俺は、間違えているのだろうか?

彼女達は、間違えているのだろうか?



伝わらず、分からないまま。



少年と少女達は、決別した。


































<to be continued>







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