VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 10 -Christmas that becomes it faintly-






Action33 −女の子−







 資材の全てを奪われた。

前準備の一切を失い、事実上0に戻ったと言っていい。

毎年積み重なった努力と成果が水の泡。

この事実は思いの他重く、大いなる損失だった。

実質的に言えば反対派が王手をかけ、賛成派は敗北寸前に追い込まれている。

前年度までの協力者は半数を切り、参加数は増え難い傾向にある。

苦労の連続に効果はなかなか訪れず、クリスマスまでいよいよ十日に差し迫った。


「・・・電飾系の作り直しが一番痛いな。
装飾関連は他の資材で応用が利くが、電球とかは作り直しになるからな。
パルフェもアイも今忙しいし、ガスコーニュにこれ以上頼めないし」


 賛成派の本拠地であるシークレット・ルームで、カイは書類を片手に頭を抱えていた。

朝から晩まで走り回り、スタッフ達への労いと協力者増援への懇願を行う。

一方で反対派の動向に気を配り、マグノやブザムとの話し合いをする。

空いた時間は料理と書類確認に始終し、睡眠時間を削る。

ここ十日間カイは殆ど寝ておらず、艦内を奔走していた。

仕事を引き受けた以上、いい加減な真似はしたくない。

より確実に、より最高に。

クリスマスパーティが輝かしく終わりを迎えるまで、目を離す訳にはいかなかった。

まだまだ問題は山積み。

ジュラ達も頑張ってくれているが、人手はまだまだ足りなかった。

むしろ此処まで順調にやれているのは、彼女達の類稀な協力によるものだ。

人脈と持ち前の才能を発揮し、優秀な成果を出してくれている。

各職場のリーダー格を任される者達、その力は本当に大きい。

まだ若手だが、マグノ海賊団の一翼を担う彼女達の能力はずば抜けていた。

それでも――足りない。

時間も資材も、人手も足りない。

そもそも毎年開催されるクリスマスパーティは、通常マグノ海賊団総員が手助けして行われている。

メジェールのアジトに残っている物達を除いても、艦内全員が味方ではない。

幹部クラスやエリート候補の人間も、まだ半数は傍観や敵側に回っている。

カイは一枚のリストを取り出す。

バート・ガルサスの尋問による反対派の主力メンバーが記載されていた。


『反対派リーダー メイア・ギズボーン
補佐 ミレル・ブランデール

ヘレン・スーリエ
アマローネ・スランシーバ
セルティック・ミドリ
ディータ・リーベライ
ピョロ
バート・ガルサス

バーネット・オランジェロ――』


 他続々と顔写真と名前、所属名が記載されている。

このリストはあくまでバートの主観によるもので、厳密に言えば正確ではない。

バートは反対派に属していたが、彼はタラークの男である。

信頼は得られず、発言権も圧倒的に小さい。

名前が挙がっている面々は会議で見た者や、反対派に誘われた者達だった。

とはいえ、概ねこの情報源は間違えていないだろう。

カイに信を向ける者はまだまだ少なく、反対派に誘われて断る者は少ない。

冷凍庫で名前を聞いた者達もいるのでショックは少なかったが、手痛い損出ではある。

何より協力者側だと思っていた者達が、敵側に回っている。

この事実は、思っていたよりもこたえた。


『私は反対派に――』

(青髪・・・)


   普通に考えれば――当たり前だ。

メイアはカイの味方ではない。

むしろ数ヶ月前までは、真っ向から対立していた。

メイアにとっては目障りな敵でしかなく、カイを疎んでいた。

ぶつかり合ったのは一度や二度ではない。

反目し合ってばかりで、分かり合える余地は何一つ無かった。

仲良くなるなんて、絶対にありえないと思っていた。

そんな彼女と話せるようになったのは何時だっただろうか――


『お前が戦わないでどうする』


 ――叱咤してくれた。

今まで説教ばかりしていた自分を、激励してくれた。

カイはリストを置いて、手の平を広げる。

メイアを腕に抱いた感触――

パイロットスーツより伝わる温もりと、細い肢体。

こぼれる青い髪が頬に心地良く、抱擁する胸の感触が驚くほど柔らかい。

何より男にはありえない、女の匂いが鼻をくすぐった。

沈んでいた心は癒されて、胸の鼓動が苦しいほどに高鳴った。

今、頑張れているのはメイアのお陰だった。

そんな彼女がどうして、反対派にいるのか。

立場的な見方では敵対するのは納得出来るが、心情は嫌がっている。

傍にいて欲しいと、思っている。

あのまま力づくで抱き締めて、誰にも渡したくないと。

あの柔らかな身体も、凛々しくも綺麗な心も、全て自分の――


「うがあああぁぁぁぁっ!? 
女相手に何考えているんだ、俺は!
英雄どころか、正真正銘の変態じゃねえか!?」


   女の事を考えて情欲を抱いている。

タラークにこの事実が広まれば、精神異常者として収容されるだろう。

あの国では、この事実は獣を相手に交尾を望んでいるのと変わらない。

最悪、遺伝子欠損として処理されるかもしれない。

カイは髪の毛を掻き毟って、机に突っ伏した。

自己嫌悪と羞恥。

気持ち悪さと気持ち良さが混ざり合って、言いようの無い興奮を感じる。

本当に、近頃はおかしい――

女との共同生活に何一つ不満は無く、共に作業するのは充実感すらある。

一方で、身近になった女の一挙一動に目を惹かれる自分がいる。

作業中の無防備な笑顔に、汗に濡れた身体。

無防備な胸元や感触に眩暈すら感じたのは、一度や二度ではない。

凶暴な衝動すら襲われた事もある。

今までには無かったこの奇妙な興奮は――


『えへへ、ますたぁー大好き』


 ――あの無邪気な女の子に出会ってからだ。

夢の中で出会った彼女を押し倒し、柔らかな唇を奪って、唾液に濡れた舌を絡めて・・・・・・


「興奮するな、興奮するなって、俺!?
し、仕事だ。仕事に専念しよう!」


 このまま考え続ければ、余計な事まで考えてしまいそうだった。

男女関係に無駄なヒビまで入れたくは無い。

必死で忘れようと、カイは事務仕事に戻る。

積まれた書類を慌てて拾い上げようとして――


「ぬああああっ!?」


 手元が狂って倒してしまい、床に書類が散らばる。

誰もいないから幸いだったが、誰か居れば笑いを誘う光景だった。

普段には見られない動揺である。


「何やってんだ、俺は・・・・・・」


 自分の情けなさに溜息が出る。

こんな調子で男女関係がうまくいくのか、不安になった。

自分への呆れが良い抑制になったのか、ようやく正常な思考に戻る。

冷静さを何とか取り戻し、心に灯っていた情欲の炎が薄らぐ。

カイは屈んで一枚一枚書類を拾って、


「・・・・・・うん?」


 書類に埋もれた、一枚の白い封筒を見つけた。















『御相談したい事があります。今夜、ブリッジで待っています。

  セルティック・ミドリ』


 封筒に入っていたのは、一枚の手紙。

簡素な内容で、曖昧だった。

カイは一応丹念に見渡してチェックしたが、封筒に細工はなかった。

恐らく自室に積んでいた書類の中に、留守中に封筒をしのばせたのだろう。

カイとしては、何時の間にか封筒があった事自体に驚きは無い。

問題にしたいのはむしろ別。

手紙をあのセルティックが、自分に寄越したこと。

深刻な悩みでも抱えているのか、何か大切な用事でもあるのか。

相談したい――つまり、相談相手に自分を選んだ。

カイはセルティックとのこれまでを振り返って、


「・・・罠だろ、これ」


 あっさりと、結論を下した。

盗聴器や監視カメラを仕掛けられた、前科のある女の子である。

彼女が反対派に回ったのも知っている。

資材強奪で戦力を奪った気になっているのか、反対派は近頃大人しかった。

そこへ、この手紙――

待ち伏せして襲撃もありえる。

ブリッジにトラップの類を仕掛けるのは、場所を考えれば不可能だ。

マグノ海賊団お頭のマグノや副長のブザムが指令を下す場所である。

挙動不審な態度を取るだけで見咎められて、処罰される。

カイが表立って問題にしなかったが、ビデオの放火や資材強奪も訴えれば処分ものだった。

隠蔽工作は行われるだろうが、厳しい監視がつくのは逃れられなかっただろう。

敵はリーダーにメイアを据えているのだ。

これ以上公の場で騒ぎを起こすとは考えづらい。

となると、待ち伏せでもしてまた拉致でもするのだろうか?

やり方は色々あるだろうが、罠だと分かっている以上は行かなければいい。

無視すればすむ話だった。

待ち伏せだろうが、反対派の言う事を聞く義理は無い。

冷凍庫に監禁するような勢力に所属する相手に呼び出されて、誰が行くというのか――



「おっす、クマちゃん。来たよ」



 ――この男が行く。

罠だと知りながらもやって来る男、カイ・ピュアウインド。

平然とした顔でブリッジへ向かい、自シートに座っているクマの着ぐるみに話し掛けた。

コンソールに向かって作業していたセルティックはビクっと震わせて、慌てて振り向く。


「――っ」

「手紙、見たよ。相談があるんだって?
俺でよかったら、力になるよ」


 にこやかにそう言って、セルティックからやや離れた位置に腰を下ろす。

ブリッジには他に誰もいない。

もしくは何処か物陰に潜んで、反対派が待ち構えているかもしれない。

周囲には気を配りながらも、カイのセルティックに対する態度に警戒は無い。

彼女は敵なのだと――最初から二人の関係はそうなのだと、理解はしていた。

話し掛けても、ほぼ一方通行。

迷惑だといわれた事は数知れず。

もう来ないで下さい、と何度も言われた。

一応敬語だが慇懃無礼で、態度から察するだけだ。

彼女本人の心の声を聞いたことは無い。

初対面で怖がられ、嫌がられて、顔を合わせる度に拒絶されている。

そんな彼女が、自分に相談事を持ち込むはずは無い。

罠だとは、頭では分かっていた。

やって来たところで、はめられて傷つくだけだ。

責任ある立場の人間が、無警戒に行動していいはずは無い

自分の浅慮で、また仲間に迷惑をかけてしまう。

分かってはいる。

分かっていて――此処へ来た。

僅かな可能性を、期待して。

もしも・・・・・・万が一、セルティックが本当に悩んでいるのなら。

自分では解決出来ない重荷を抱えていて、仲間に頼れず自分をあてにしてくれたのなら。

信じたかったのではない。

力に、なりたかった。

メイアのように――

心が悲鳴を上げている時、誰かが傍に居る。

その喜びは、何よりに勝るから。

それに比べれば裏切られるなんて、些細な事だ。

日常茶飯事だ。

裏切りを恐れて何もしないより、信じて裏切られるほうがいい。

何に対しても戦うのだと、決めたのだから。

表情を隠すセルティックに感情は見出せないが、カイの言葉にまた身体を震わせた。

カイが来た事が余程驚いたのか、コンソールを収納して、フカフカとした縫い包みの腕で顔を隠す。

セルティックの異様な態度に、今度はカイが首を傾げた。


「どうしたんだ、クマちゃん。・・・・・・え? 何しに来たんですかって?
何しにって、クマちゃんが俺を呼んだんじゃないか。・・・・・・よ、呼んでない?

何でわたしが、貴方なんか呼ぶ必要があるんですか。
顔も見たくないです。
わたしは怒ってるんです、貴方なんか大嫌いなんです。

って、必死でそこまで言わなくてもいいだろ!?

大体俺に手紙を渡しておいて・・・・・・は? 渡してない?
貴方に手紙を送る理由なんて無いですって・・・・・・!?

相談事があるって、この手紙に書いてあったぞ!?」


 持って来た手紙を差し出す。

セルティックは首を傾げながら恐る恐る受け取り、じっくり読んだ上で手を左右に振った。

心当たりがないというサインだろう。

カイは茫然とする。


(クマちゃんじゃない・・・・・・? じゃあ誰が・・・・・・)


 手紙の文面は自筆ではなく、印刷された文字だった。

筆跡から判定するのは無理だが、カイはセルティックだと疑わなかった。

セルティックは反対派で、敵対する立場にある。

罠だとばかり思っていた為に、差出人が別人の可能性を考えていなかった。

迂闊と言えばそれまでだが、逆に分からなくなった。

セルティックに心当たりが無いのだとするなら、差出人は何故彼女の名を語ったのか。

その差出人は、何故此処にいないのか?

ブリッジへ呼んだ理由は何か?

セルティックが現場に居るのだと知っていたのなら、そこへ呼んだ理由も分からない。

あらゆる疑問が浮かび、カイは困惑していた。

セルティックはそんなカイを見ていて、ようやく冷静になったようだ。

手紙を無造作にカイに渡して、シートに座り直す。


「――」

「悪戯でしょう。わたしではありません。
分かったなら、出て行ってください――か。

うん、そうだな・・・・・・ごめん、仕事の邪魔して」


 差出人の目的は不明だが、セルティックには全く関係はない。

巻き込まれただけでも迷惑千万だろう。

言葉無き意思を伝えて、カイに背を向けて仕事へと戻る。

カイは手紙を握ったまま、ブリッジを出ようとして――


(・・・・・・)


 ――振り返る。

全身を覆うクマの毛皮。

背中を見つめても、のそのそと動いているようにしか見えない。

彼女はこちらを見ていなかった。

温度差は今でも変わらない。

彼女は彼女、その関係に変化はない。

いつも通り冷たくて、素っ気無かった。

ツンケンしていて、決して心を許そうとしない。

罠では確かになかったが、むしろカイには普段通りなのが辛かった。

頼りにする筈がない。

その現実を、見せ付けられて。



"3――セルティック・ミドリに土下座して謝る"



「・・・・・・ごめんな」


 こぼれた言葉。

極寒の地獄で突きつけられた彼女からの、条件。

不意に脳裏によぎり、カイは無意識に小さな声を漏らした。

自分の何が彼女を拒絶させているのか、はっきりとは分かっていない。

メジェールの価値観か、ただ自分という人間が嫌いなのか。

分からないが――彼女を不快にさせたのは、事実だ。

何も分からないまま謝るのは、不誠実だろう。

気持ちがこもっていないと思われても仕方が無い。

でも――自分の存在が、彼女を不快にさせたのなら。

セルティックは謝って欲しいと、願っている。

たとえ言葉だけでも、その気持ちは伝えなければいけない。

信じ合える関係ではなく、分かり合える絆も無い。

言葉にしなければ、絶対に伝わらないのだ。

絶対に――

カイは頭を下げて、それ以上何も言わないまま出て行く。



「・・・待って下さい」



「え・・・・・・?」



 少し子供っぽさの残る、大人びた口調。

信じられぬ思いで、カイは振り返る。

仕事をする手を休めて、セルティックはカイを見ていた。

少し、居心地が悪そうに。



「反省、してますか?」

「く、クマちゃん。喋――」

「反省しているんですか!!」

「し、してます! 反省してます! ごめんなさい!」


 クマの顔のまま身を乗り出されると、異様な迫力がある。

必死にカイが頷くと、セルティックはついっと顔をそむけて、


「・・・初めから、そう言えばいいんです。
わたしだって、鬼じゃありません。
ちゃんと反省して謝ってくれれば、貴方のようなどうしようもない人間でも許してあげる心をもってます」

「は、はあ・・・・・・ど、どうも・・・・・・」


 他にどう言えばいいのか分からず、頷くしかなかった。

セルティックは顔を背けたまま、続ける。


「・・・仕方ないですね、手助けしてあげます」

「へ・・・?」

「何ですか? わたしに何か不満があるんですか!」

「いえいえ!? そんな、そんな!?
で、でも、何の助け――

ま、まさか、クマちゃん・・・・・・」


 茫然とするカイに――セルティックは、頷いた。


「――今回だけ、です。大変なんでしょう?

仕方ないですから――助けてあげます」


 少し、弾んだ声で。

ひょうきんなクマの顔が、ほんの少し笑っているように見えた。






















































<to be continued>







小説を読んでいただいてありがとうございました。
感想やご意見などを頂けるととても嬉しいです。
メールアドレスをお書き下されば、必ずお返事したいと思います。

お名前をお願いします  

e-mail

HomePage






読んだ作品の総合評価
A(とてもよかった)
B(よかった)
C(ふつう)
D(あまりよくなかった)
E(よくなかった)
F(わからない)


よろしければ感想をお願いします



その他、メッセージがあればぜひ!


     










[ NEXT ]
[ BACK ]
[ INDEX ]