VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 10 -Christmas that becomes it faintly-






Action12 −会合−










マグノ海賊団を構成する職務には、専門家と最新鋭の設備が存在する。

専門部署に就く職務員は言うに及ばず、チーフ・サブチーフともあればスペシャリストである。

業務内容は様々で、優劣は誰にもつけられない。

一つ一つの職務がマグノ海賊団を支え、今日までの発展を築き上げてきたのだから。

毎日の生活がかかっている仕事である限り、手を抜く事も出来ない。

そんな彼女達の仕事で敬遠されがちな職務が――クリーニングである。

各施設・衣料品・その他日常関係における清掃。

華やかさとは程遠い職務。

事実マグノ入団後希望する仕事で――適正・資質を除いて――最低の不人気な職場である。

マグノ海賊団の年齢層は十代・二十代が大半だが、クリーニングクルーは比較的年配な女性が多い。

専門的な知識を必要とされない職務であるがゆえに、どうしても配属の関係上そうなってしまう。

その上で地味の烙印が押されている職場だ、無理もなかった。

そんなクリーニングクルーの最年少にして、チーフを任されている女性がルカである。

ルカ・エネルベーラ。

性格は表面的には明るいのだが、その本質は大人しめである。

孤独ではないのだが、人付き合いを好まない女の子。

クリーニングの仕事を第一希望した理由も、他人との接触が極端に少ないからに相違ない。

コツコツとした性格で真面目な仕事振りからチーフに選ばれたが、恒例のリーダー会議にもただ顔を出すだけ。

報告が終われば、すぐに帰ってしまう。

クリーニングクルーだから疎外されているのではない。

彼女本人が原因で嫌われている訳でもない。

メイアのように孤高の強さを求めてもいない。

過去に悲劇があり、他者との共存を否定もしていない。


彼女は――自分の空間を愛していた。


「汗を拭いて。汚いよー」

「ハア、ハア、ハア・・・・・・すんませんね、何しろ遠くて」


 差し出されたタオルを受け取り、全身の汗をふき取るカイ。

お頭の部屋を後にして、カイは一路クリーニングルームへと走ってきた。

此処から自分の部屋まで何キロあるのか、想像したくもない。

別に走る必要もなかったのだが、自分の中にある恥ずかしさを振り払いたかった。


『――俺がいる限り、あいつらの写真が増える事はないよ』


 保証も無いくせに言ってしまった台詞。

この言葉の意味する事はたった一つ。

マグノ海賊団を自分は――


(――考えるのはやめよう)


「――カイちゃんは一人自己完結するのでしたマル」

「勝手に完結させるなっ!?」


 黒の三角巾に、白のエプロン。

見栄えが妙としか言いようがないが、彼女のお気に入りである。

丸ホッペの表情は幼いが、スレンダーなプロポーションを持つ彼女。

仕事の途中だったのだろう。

制服の上着は脱いでおり、エプロンの下から覗く素肌が汗ばんで透けている。

魅力ある女性特有の甘い汗の匂いに、カイはタオルで顔を隠して自分を誤魔化す。


「今、皆のパジャマを洗ってたところなのー。
手伝いに来てくれてありがとう」

「勝手に話を進めるな! 俺はそんなつもりで来たわけじゃないの!」

「そうだよ、ふざけないで!」

「ふざけてるのはお前だぁぁぁぁ! ゲホ、ゴホ、ゲホ!」

「過度な運動をした後に叫んだら、肺が悲鳴をあげるよー。気をつけてね」

「ゲフ、ゲフっ! ・・・あ、ありがとよ・・・」


 激しく痙攣させて、カイは呼吸困難に陥る。

明るい面と暗い面。

楽しい面と辛い面。

仕事の面と私生活の面。

怒鳴る時もあれば、笑う時もあり。

叱咤する時もあれば、慰める面もあり。

見習いとして所属していた当時も――


『じゃ、さっそく仕事してもらうわ!そこ、全部お願いね!!』

『ん? 下着類も勿論入っているわよ。他のクルーには内緒ね♪』


 そして、今の高低の激しいテンションの言葉。

彼女ほど個性豊かで――無個性な人間はいない。

掴みどころが無く、どういった人間なのか断定できないのだ。

もしかすると、今までの全てが偽りなのかもしれない。

彼女の持つ世界を――カイは一度も見た事が無い。


「パジャマなんて、俺が洗ったら他の連中に何て言われるかわからんだろう」

「ばれなきゃ問題なし!」

「見習いの時もそんな事いってたよな・・・・・・何故か、後で全員に知れ渡ってたけど」

「あたし――ルカが全部ばらしたもん」


 彼女の一人称ははっきりと分かれる。

他人と、そうでない人。

年齢や性別に関係なく、話し相手に応じて彼女は言い分ける。

どうやらこれまでの会話で、少し彼女の内面でカイの評価が変化を得たらしい。


「お前がばらしたのかよ! お陰でどれだけ怒られたと思ってんだ!!」


 カイの評判の悪さが激しくなった原因である。

ウニ型を倒し、レジでの仕事を終えた後に、急激に広まったのだ。

何しろあっという間だったので、噂の出所を突き止められなかった。

てっきり他のクリーニングクル−が突き止めてばらしたのかと思ったが、違うらしい。

彼女はウインクする。


「お礼なんていいよー。当然の事をしただけだから!」

「怒ってるんだよ、俺は! しかもお前にとって当たり前なのかよ!?」

「お話があるんでしょ、ルカに。何?」

「ああああああああァァァァァァァァっ!
この女、殴りたい! 思いっきりぶん殴りたい!!」


 都合が悪くなって話をすり替えたのなら、まだ可愛げがある。

ルカは自分だけの判断で、勝手に話を終わらせて本題に移したのだ。

カイの意見や抗議なんて聞いてもいない。

膨れ上がった怒りの反動で、急激な虚脱感を覚えたカイは肩膝をついた。

暴れ回らないだけ、カイの心に以前に比べての落ち着きが見られる。


「もう疲れたから端的に聞くけど――俺の部屋改造したのはお前らしいな」

「うん、汚かったから」

「汚い?」

「ユカはクリーニングチーフさん。
何ヶ月も掃除の一つもしていない家主さんを殴り殺そうと思いました」

「う・・・・・・」

「埃の染み付いた家具は撤去。
水汚れがひどい手洗い場は改造。
拭き掃除もしない壁や床を清掃。
家主さんを撃ち殺そうと思いました」

「あうう・・・・・・」


 考えてみれば――整理整頓はしたが、きちんと掃除した事は殆ど無い。

洗濯は交代で男同士やっているが、部屋までは不干渉だ。

ディータが遊びに来ては部屋の掃除をしてくれたりするが、彼女の場合自分の色(宇宙人色)に染めようとするのですぐにやめさせる。

空調で換気はするが、放置に近かった気がする。


「で、でも、だな! 俺の部屋に無断で入るのは――!」

「入院中着替えを取りに行き、毎日下着まで洗った奥さんは誰だったでしょう?
そんな健気なファーマに部屋に入るなとオーマは言うのです!
鬼です、悪魔です、人殺しです、女たらしです!!」

「し、しまった!? お前に頼んでたっけ!?
それに好き勝手に言ってないか、お前!」


 入院中、身体の面倒を見てくれたのはドゥエロだ。

身の回りの世話はパイウェイやディータがやってくれた。

しかし肝心の衣類に関しては、見舞いに来たルカがやってくれていた。

部屋を丁寧に清掃し、模様替えまでしてくれた。

家主に黙ってインテリアまで整えたのはやりすぎだが、逆に承諾を求められたら反対しただろうか?

全ては結果論であり、後の祭りだが――微妙なラインである。


「それにあの部屋、あのままにしとくのはまずかったし」

「そ、そんなに汚くも無かっただろう!?」

「チッチッチ、人の話を聞きなよおにーさん」

「お・前・に・言・わ・れ・た・く・な・い」


 堪忍袋の尾が切れそうだったが――


「部屋の奥に扉があったでしょ?」

「そうそう! あれだって――!」

「大変だったんだから。

マグノ海賊団に入られない・・・・・ように工事するのは」

「・・・・・・え?」


 ――予想外の言葉に目を丸くする。

誰が犯人であるかは別にして、確かにあの扉の存在は不気味であり謎だった。

何の意味があるのか分からず、そもそもどこに通じているのか分からない。

ただセキュリティを仕掛けている以上嫌がらせか、マグノ海賊団の利に繋がるものではないかと予想はしていた。

結果、ルカの発言でその可能性は潰えた。

ルカは年相応の笑顔を浮かべて、告げた。


「カイちゃん、クリスマスを主催するんだよね。
噂になってるよ」

「そうだけど・・・・・・それとこれと何の関係が?」

「これだから、カイちゃんは駄目駄目なんだよ。
甲斐性なしの駄目パイロット」

「関係ねえし!」

「ルカが言い触らしてるんだけど」

「その軽い頭を思いっきり殴ったろうか!」

「――そんなカイちゃんに素敵なお話が」

「すげえ怪しいし」


 不穏な単語を聞きつけて、カイは振り上げる拳を下ろす。

ルカは小さな頭をコクリとする。


「耳かして」

「・・・俺とお前しかいないぞ、この部屋」

「隠し事は男のロマン」

「お前、女。――その言葉、誰から聞いた!?」


 お得意の台詞をパクられて、カイは声を張り上げる。

彼女に言い様に扱われているのが悔しかった。


「耳」

「・・・はいはい、何」


 身長差があるので、カイは腰を下ろして耳を寄せる。

ルカはそっとサクランボ色の唇を寄せて、彼に囁いた。


「好き」

「ええっ!?」

「冗談は顔だけにして」

「お前こそ大概にしろ!」

「首筋にキスマークがついてる」

「何処だ、何処!?」

「チュッ」

「うわあああっ!?」

「えへへ」


 などと、やり取りする事十分。

一向に本題に入らない彼女に翻弄されていたが――



「――監視されてるよ、カイちゃん」

「なっ――!?」

「じっとして。ルカから離れないで」


 カイの首筋に腕を回すルカ。

傍から見れば抱擁しているようにしか見えず、会話内容もじゃれあっているだけ。

聞かれて困る・・・・・・会話をしているとは誰も思わない。

今までのルカの言動も、行動もまさか――

小さな身体にアンバランスな胸の豊かさを腕に感じ、カイは狼狽しながら周囲に意識を向ける。


「・・・ほ、本当か?」

「うん、よく聞いてね。
あの扉の向こうには――」
























































<to be continues>







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