とらいあんぐるハート3 To a you side 第十二楽章 神よ、あなたの大地は燃えている!  第八十五話




 ――磁気嵐と呼ばれる現象がある。

惑星が持つ磁性と、惑星により生じる磁場。通常の状態から変化して、乱れが生じる現象をこう呼ぶそうだ。全て後になってから詳しく聞いた話ではあるが。

全世界的に地磁気が減少するこの現象は、フレアに伴ってコロナ質量放出と呼ばれるプラズマの塊が惑星から放出され、それが強い磁場をともなって惑星の磁気圏に吹きつけた場合に発生する。


このような磁気嵐は、惑星が起こす活動が最も活発な時期によく観測されるそうだ。


「な、何が起きているんだ……惑星が、波立っている……!?」

「激しいオーロラ嵐が発生しているようですわね……確かにこれほど磁場が乱れれば、通信なんて出来ませんわ。
王女様、"声"は?」

「聞こえなくはないのですが、これほど環境が乱されると聞き分けるのが難しいです」


 トラブルが起きたことが楽しいとばかりに声を弾ませるクアットロに、妹さんは淡々と事実を述べる。音楽室で生徒達が好き勝手に演奏している状況だと、日常的な例えで説明してくれた。

クアットロの固有武装と妹さんの固有能力で敵からの攻撃を回避しながら、ようやく辿り着いたエルトリア。商船から観測できる惑星は、炎上していた。

炎上と言っても燃え上がっているのではなく、複雑で空間的広がりを持つ地磁気が大気圏を掻き乱している。激しい磁場の乱れにより、大気圏外から観測できない程に乱れていた。


そして大気圏外には――最後に残された、イリス群体。


「あれが妹さんが確認した、イリス群体」

「衛星砲に改造された独立個体のようですわね……
どう見ても連邦政府より依頼された衛星の設計思想が組み込まれていますが、これでもまだあの娘を庇うつもりですか?」


 イリスは元々、エルトリア惑星再生委員会のラフォーミングユニット。言うまでもなく、惑星の環境に影響を及ぼす機能と能力を有している。

機能特化したラフォーミングユニットであれば、惑星に点在する人為的な磁気嵐くらい起こせる。無機物や金属を自在に操れるのであれば、人工衛星を模した固有型くらい製造できるだろう。

クアットロの指摘は的外れではない。惑星エルトリアにこれほどの影響を与えられる容疑者は、イリスが問答無用で最有力候補だろう。ここまで来ると、俺も否定しようがない。


ニヤニヤするクアットロに鼻フックしながら、あらゆる可能性を模索する。


「イリス事件の黒幕はウィルスコードで他人を操る力があった。
事件後あの野郎はボコってとっ捕まえたが、またイリスを操っている可能性があるだろう」

「ふごごごご……ミッドチルダからエルトリアまで、どれほどの距離があると思っているのですか。
遠隔操作するにしても、無理があるというもの。単独犯の可能性を推奨いたしますわ」

「妹さん、見分けがつかないのか」

「少なくとも目の前の機体に、犯人の"声"は聞こえません。イリス群体として甦ったフィル・マクスウェルの可能性はないでしょう」


 フィル・マクスウェルは、イリスに入念な仕込みを施していた。

イリスの思念データが一欠片でも残っていれば再生するという機能と、自身の記憶と人格の複写データを隠しておく仕掛けだ。

結果として事件ではイリスが暗躍すると同時に、マクスウェルもまたイリス群体として復活を果たした。ユーリとイリスによって結局倒されたのだが、仕込みがあったのは事実である。


妹さんの話では、本人ではないらしい。それ見たことか、とクアットロを見やるが本人は悪びれない。


「エルトリアもミッドチルダも等しく私の実験場、などと後述していた人間です。イリスも同じ見解かもしれませんわよ」

「俺がどうしてイリスを信じようとしているかというと、お前がそうやって頑なに犯人説を主張するからなんだよな」

「どういう目でわたくしを見ておりますの!?」


 怪しい。何が怪しいって、何か妙にクアットロが俺に対して協力的なのが怪しい。こいつは基本的に悪事以外のことには、あまりやる気がない。

こいつは性根が腐っているが、悪巧みについては天下一品である。先の議会でも俺は政争で大苦戦していたのに、こいつは喜々として敵勢力を追い込んでいた。

多分これまでセッテが睨みを利かせていたから大人しくしていたが、今回は別行動となったのでこれ幸いと俺にあれこれ言っているのだろう。


そこまで考えて、ふと気付いた。


「お前、何か根拠があるな」

「な、なんですか急に」

「この状況下でエルトリアにいるセッテ達を心配もせず、俺ニイリスを追い詰めようとするのは何故だ。
お前はセッテにビビっているが、無慈悲ではない。今までだってお前は身内に対しては、イタズラの一つもせずに接していた。

変身技能を悪企みに使うドゥーエもそういう奴で、お前はそういう姉を尊敬していた」

「ですからそんなセッテちゃん達を一刻も早く助けようと、陛下に進言を」


「セッテ達は生きているという確証があるんだな」

「あっ」


 いやまあ、俺もセッテ達が死んだとは夢にも思っていない。ただ俺の場合は単純な信頼だが、クアットロの場合は別の理由があるらしい。

世界都市を出る前にも一度クアットロにはセッテ達の事について確認は取っているが、今問い質した限りだと温度感が異なる。


詰め寄ろうとした際、猛烈な白光に襲われる。


「イリス群体――とりあえず衛星砲護衛機とでも呼びましょうか。護衛機がこの商船に攻撃を再開しています!」

「妹さん、アミティエと協力して時間を稼いでくれ。俺はこのバカを吐かせる」

「お任せください、剣士さん」

「了解、あたしも商船の乗員たちと協力して対処しますね」


 敵であれば誰であろうと斬るのが剣士だが、流石に宇宙空間にいられると為す術がない。今まで宇宙で戦った経験はない、当たり前だが。

そこまで考えて、頭を抱えそうになる。宇宙は確かに無いが、それでも海鳴に流れ着いてから色んな場所で戦っている。海外や異世界、魔導師やメカ等てんこ盛りだ。

日本で天下を取るという目標も、今となっては虚しいどころか笑えてくる。自分の人生に頭を抱えつつも、クアットロに詰め寄る。


「何を隠している。本当の事を吐けぇぇぇぇ!」

「きゃあああああ、言います、言いますからー!
シルバーカーテンをフルスペックで使用すれば、現地と連絡を取ることが出来ます!」

「何だと、どうして世界都市で連絡できなかった時に言わなかった!?」

「いくら何でもエルトリアには戻らないといけませんし、戻ったら戻ったで何か楽しいことが起きているのでつい……」


 襟首をつかんでガクガク揺さぶると、思いっきり目を回したクアットロが驚愕の事実を述べる。こいつ、この状況で趣味に走りやがったな。

阿修羅バスターを食わせると、あっさり白状した。クアットロの持つ先天固有技能は幻影を操り、対象の知覚を操作する。そしてその対象は人のみならず、レーダーや電子システムにも及ぶ。

電子媒体に影響を及ぼすこの能力を使えば、今起きている磁場変化に干渉して誘導電流を作る事ができる。磁気嵐が発生すると電子精密機器が故障するが、クアットロはその逆が行えるということだ。


磁気コンパスを磁気嵐に撃ち込んで、エルトリアに点在する遺跡システムに干渉できると白状した。


「それを今すぐ実行すれば、とりあえずセッテには黙っていておいてやる」

「すぐにやらせていただきますわ!」


 ちなみにセッテ達が何故無事なのか訪ねると、複雑で空間的広がりを持つ地磁気の擾乱規模はシルバーカーテンで計測できるらしい。こいつ、ふざけやがって。

惑星を乱す磁気嵐というと大災害であるかのように聞こえるが、今のところ今の規模で起きる磁気嵐の影響は電子精密機器の故障、無線通信の障害などの悪影響との事らしい。

だったら人工衛星のあいつだって影響があるはずなのだが、その辺は流石に分からないと首を振られた。耳を引っ張ってみたが、悲鳴をあげるだけで嘘はいってないようだった。


クアットロが固有能力を発動して数分後――商船の通信画面が突如クリアとなった。


『やった、繋がった。ちょっとそこの船、例の商会から派遣されたのよね。あたしの親父にすぐ繋いで!』

「イリス、無事だったか!?」

『よかった、ようやく帰ってきたのね。実は大変なことになったの!?』

「ええい、パニックになるな。状況は見れば分かる、何が原因なんだ!」


『聖典よ。法術に関するデータもあった聖典を復旧しようとしたら、急にシステムが暴走したのよ!』


 イリスに頼んでいた、法術に関する記録があった聖典の復旧作業。

俺の留守中に気を聞かせて作業を開始した際の、突如の想定外。


今まさに主権が勝ち取れつつあったエルトリアで、新たな暴走事故が起きていた。













<続く>








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