とらいあんぐるハート3 To a you side 第十二楽章 神よ、あなたの大地は燃えている!  第十三話




 海鳴での用事が一通り終わったので、いよいよ惑星エルトリア出向の準備をしなければならない。

出向と言えば聞こえはいいのだが、扱い的には島流しである。イリス事件で起きた時空管理局や聖王教会の不祥事や失態の数々を全部、俺が責任を取る羽目になったのだ。

ここでの焦点は責任を押し付けられたのではなく、あくまで責任を取るという名目である。責任を全て押し付ける代わりに、栄光や名誉も全て与えられている。


神輿として世界中を英雄誕生で熱狂させておいて、裏で起きた不始末の数々はその神輿に背負わせるということだ。その結果が、エルトリアの島流しである。


「おかげでイリスとイクスヴェリアは早々に追放処分が決まったから、まあいいか」


 時空管理局として事件の全貌を知るイリスの存在が、聖王教会としては聖王のゆりかごを起動できるイクスヴェリアの存在が目障りなのだ。

イリスは黒幕であるフィル・マクスウェルに操られて事件を起こした被害者だが、事件を起こした以上人々は疑惑の目で見る。そしてその疑惑はやがて、時空管理局にも目を向けられてしまう。

黒幕と一緒に処分するのが一番の近道なのだが、事を公にされるのは非常に厄介だ。かといって秘密裏に処分することは、俺の目がある以上は出来ない。


イクスヴェリアの存在は、さらに厄介だ。聖王のゆりかごは聖王教会の象徴であり、聖王のみ起動できるものでなければならない。聖王という神の存在は、絶対なのだから。


そしてイリスと同じ理由で、イクスヴェリアを処分することは出来ない。本人が封印や破壊を望んだところで、得する人間は誰一人いない。政治が関わってくる限り、彼女達の存在はどうしようもないのだ。

だからこそ俺ごと巻き込んで、とっととミッドチルダから追放する方が早い。俺も承諾しているのだから、文句のつけようがない。ならば早く執行するべきだ。

こうした思惑が過分に働いて、イリスやイクスヴェリアは俺ごとエルトリアへ追放となったのである。


「準備と言っても、俺がするべきことはメンバーの選抜だけどな」


 特務機動課の副隊長オルティアが主導して、エルトリア出向準備は着々と行われている。隊長である俺が自ら動く必要がないのだ。

有能な人材である彼女を連れていきたいところだが、ミッドチルダ側の連絡及び調整役が必要なので本人は在留である。オルティア本人も率先して引き受けてくれた。

隊長である俺は島流し処分となっているが、だからといって特務機動課まで付き合う必要はない。俺の留守中は、彼らがミッドチルダを必ず守ってくれるだろう。


メンバーを選抜する何よりの理由として、惑星エルトリアの過酷な環境にある。


そもそも島流し先がエルトリアとなっている理由はキリエ達にあり、そのキリエ達は今苦難の危機に遭っている。未開の地エルトリアは、人の住める環境ではないのだ。

開拓がまともにされていない大地は命が育たず、動物は植物を食い荒らして弱肉強食の憂き目にあっている。世界は死に絶えつつあり、生命は困窮している。

そのような環境で生まれ育ったキリエやエルトリアは美しさを感じるほどに強く、人並み外れた生命力を持っている。しかし大人達は過酷な環境に耐えきれず、死に瀕しているのだ。


弱者が生きられない世界へ向かう人材もまた、強くなければならない。


「エルトリアの事情を知っているのに行きたがっている奴らが多いからな、隊長の俺が選出しないといけない」


 社員のリストラ問題に頭を抱える社長は、こんな気分でいるのだろうか。

他人のいる世界で共存していくうちに、馬鹿にしていた大人達の気持ちを知ってしまって頭の下がる思いだった。大人は皆大変なんだな……

辛い責務だが隊長にしか務まらない職務だとオルティアにも諭されたので、隊長として最後の仕事に励む事にしよう。















「姉は留守番、妹さんは出向で」

「お任せ下さい、剣士さん」

「不平等だ、男女差別だー!」

「同じ性別じゃねえか!?」


 まず何の罪悪感もなく、真っ先に切れる人材をリストラした。俺は心晴れやかに、月村忍にクビだと言い放った。こんな奴、連れていけるか。

夜の一族の血は回復効果があるのは確かだが、そもそも人間には劇薬である。キリエ達の両親に輸血したら、まず間違いなく死んでしまうだろう。

過酷な環境であっても夜の一族なら耐えられるだろうが、妹さんさえいれば問題ない。むしろ妹さんがいれば、俺はそれでいい。


にこやかに退職させてやったのに、俺の愛人を名乗る女はうるさかった。


「なんですずかはよくて私は駄目なの、侍君!」

「卒業式でないのか、お前」

「うっ……」


 今はまだ日本は新年一月だが、二ヶ月で帰ってこれる自信はまったくない。そして何より最低でも一ヶ月以上はエルトリア在住になるだろう。

学校は三学期に入るというのに留守になんぞしていたら、余裕で留年確定である。先日綺堂さくらが心配して異世界にまで来たのが、全くの無駄足になってしまう。

ごく当然のことを言ってやったら、ごく当然のように困った顔をする女。ちなみに妹さんが学校に行ってないので、普通に行ける。


「だったら那美はどうするの、不公平だよ!」

「なんで那美は行けるみたいな話になっているんだ。留守番に決まってるだろう」

「うう、どうしたの那美。最近は可愛こぶって侍君の気をひいていたのに……」

「結構辛辣だな、お前」


 神咲那美は最初からメンバーに選んでいない。リスティにも相談されたので、学業に専念するように言っておいた。

春先に姉が来る予定もあるので、那美は申し訳無さそうな顔をしつつも頷いた。しばらく日本で平和に学生生活していたほうがいい。

春が訪れれば、新学期だ。生活が落ち着けば、また異世界へ行ける日も来るだろう。


「久遠ちゃんは?」

「あんな小狐が耐えられる環境じゃない。招待するにしても、環境改善してからだな」

「むぅ、せっかくエルトリア開拓計画に向けて色々準備していたのに」

「その辺はお前の同僚であるシュテルが引き継ぐから、お前はとっとと卒業してこい。
うちの会社は、採用条件が高卒だぞ」

「初めて知ったよ、その選考基準!?」


 冗談のように言っているが、本当に月村忍はエルトリア開拓計画に向けて色々準備はしてくれていた。

そもそもの話、キリエやアミティエより依頼されたのは両親の治療だが、その両親を生かすにはエルトリアの環境を改善しなければならない。

環境を改善するには惑星そのものを開拓する必要があるので、人力では到底手に負えないのだ。どうしたって、機械や魔法の力を借りなければならない。


忍は自分の保有するロストテクノロジーをフル活用して、俺達の力になってくれた。それで十分だ。


「学校を卒業したらすぐに就職するから待っててね、侍君」

「分かった、分かった。ノエルとファリンは連れて行くから、一人でおとなしく留守番していろ」

「本当に私一人なの!? ちょっとちょっと、ノエルがいなかったら私の生活が成り立たないんだけど!」

「お前、この前何のためにさくらが来たと思っているんだ。卒業するまで、お前はさくらの元で生活するんだ。
異世界での就職を認める代わりに、必ず学校は卒業すること。それが条件だ」

「ぎゃー、まったく逃げられない!?」


 春先まで勉強生活という学生として当然の義務を課せられて、月村忍は卒倒した。















「全員でいいだろう」

「駄目です。陛下が選んでくださることが肝心なのです」

「それでまた揉めるから、出発前になっても決まらんのだ。アミダクジにするぞ」

「駄目です、陛下が選んで下さい」

「鬱陶しいな、こいつら!?」


 戦闘機人とは人の身体と機械を融合させて、常人を超える能力を得た存在を定義する。レジアス中将が新時代の戦力として考えていた案の一つだった。

鋼の骨格と人工筋肉を持ち、遺伝子調整やリンカーコアに干渉するプログラムユニットの埋め込みによって高い戦闘力を持っている。

才能や努力に頼るしかない魔導師とは異なって、製造時に人為的な力を介在させることで安定した数の武力が生み出せる。違法でなければ優れた技術と言い切れるだろう。


過酷な環境で活動できるうってつけの人材であった、のだが――


「私とオットーが代表として参ります、お父様。最もお父様の優れた遺伝子を持つ私達こそ、選別メンバーに相応しいのではないかと」

「だめ、騎士団である私達が行く」

「体力馬鹿を連れて行っても労働力にしかなりませんわ、陛下。わたくしとドゥーエお姉様で十分ではないかと」

「全員必要だと言っているだろう!」


 ――何故か俺がメンバーとして選べと、ディード達が揃って詰めかけてくるのである。こいつら、人の話を全然聞きやがらねえ。

クアットロ達は前時代より幾度も開発が試みられた人型兵器なのだが、問題が多くて廃棄処分扱いとなっていた。ジェイルが手を回して引き取り、完成の域に達したのである。

身体機能の代わりを務める人工骨格や人造臓器は地球でも存在する技術だが、身体機能の強化目的で用いる場合は様々な問題がある。だから違法として扱われていた。


ジェイル・スカリエッティは、ヒトをあらかじめ機械を受け入れる素体として彼女達を生まれ変わらせたのである。


「そもそもクアットロだって、惑星開拓なんぞ嫌だろう。お前、日頃から埃っぽいところは嫌がるじゃねえか」

「不衛生かつ過酷な惑星になんて本来は行きたくないんですけど、こと惑星開拓とまでのスケールとなると話は変わってきますわ。
惑星まるごと弄れる機会なんて滅多に無いんですのよ、どう弄ってやろうか今からワクワクします。博士もきっと同じ気持ちでしょう」


「じゃあこいつ以外、全員で」

「ちょっと陛下!?」


 ジェイルによって長期使用における機械部分のメンテナンスといった問題が解決されているので、今回の選抜メンバーにはうってつけの人材である。

当然の事ながら倫理的な面に大問題を抱えているからこそ、追放という形で出向いても問題はない。事件解決で今熱狂している世界で、コイツラの存在はむしろレジアス達には邪魔だろう。


こうして戦闘機人達が、エルトリア行きに決まった。


「では参謀として、早速ですが開拓計画に向けて助言を」

「そうしてちゃっかりメンバー入りしようとしているな、お前」

「コホン、黙って聞いてくださいな。惑星エルトリアは発展途上世界、何をするにしてもまず真っ先にエネルギー不足の問題が立ち上がるでしょう」

「ああ、CW社でも取り上げられていた議題だ。エネルギー開発を行うべく、カリーナお嬢様からも意見を求められている」


 惑星を開拓するには人力では無理だと先程述べたが、機械類を動かすには当たり前だがエネルギーが必要となる。

ヴァリアントシステムといったエルトリア独自の技術もあるのだが、それら全てに頼りきりでは限界が来る。新しいエネルギー源が必要となるのだ。

これはカレイドウルフ社でも立ち上がっている問題で、兵器開発が順調な現在、エネルギー開発にも取り組むべきだと商会を代表するカリーナお嬢様から言われている。


俺に提案を求められて、正直どうするべきか悩んでいたところだ。



「陛下――"レリック"というのをご存知ですか?」















<続く>








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