とらいあんぐるハート3 To a you side 第十二楽章 神よ、あなたの大地は燃えている!  第十二話




 CW本社がある第3管理世界は正式にヴァイゼンと名付けられ、企業誘致に合わせた世界活性化が今急速に行われている。

イリス事件解決の成果が認められ、時空管理局との正式な取引と交渉が行われた今、レジアスとカリーナお嬢様が手動して産業都市計画を進めているのだ。

宅地や道路が効果的に整備され、土地の財産価値を圧倒的に高めた上で、カレイドウルフ大商会の豊富な経験と実績を利用して、スポンサーの希望に沿った形で区画整理事業を支援してもらっている。


企業誘致業務委託方式から業務代行方式まで行われている世界に、綺堂さくらが招かれた。


「貴方が社長に就任した企業と聞かされて不安でしかなかったけれど――これほど立派に都市計画が進められているのなら安心ね。
カレン様達と同じく、強力な支援者を味方につけているのね。余計な事はしないで、先人達の声に耳を傾けてほしいわ」

「……俺以外の全てにお褒めの言葉を頂けて感激です」


 一年前まで就職もせずに一人旅していた浮浪者が社長になったと聞けば、誰だって不安にはなるか。俺自身が経営している訳ではないので、反論の余地がなかった。

時空管理局という次元世界最大の取引相手を得られた実績が大きかったのか、カリーナお嬢様は大商会をまとめあげて、CW社にあらゆる権限と商談全てを費やして、販路を拡大している。

第3管理世界は企業基盤となり、近日にはカレイドウルフの商館が建築される予定だ。都市計画と銘打っているが、実質は第3管理世界の革命なのだから恐れ入る。


そういった意味でも、俺が惑星アルトリアへ島流しされるのは彼らにとっても都合がいいのだ。俺がいなければ、彼らが主導して事を進められるのだから。素人が手出しできない領分だった。


「異世界ミッドチルダの移動手段は、列車や乗用車(に酷似したもの)が使用されているのね。案内されたこの世界では、各種線路や道路も完備されていて驚いたわ」

「空港も近い内に建造される予定だ。都市計画が順調に進めば、旅客用の航空路線も拡充されるだろう。今は固定翼の航空機を主体に、企業用の固定翼航空機による輸送がメインだな。
大きな事件が最近起きた影響で、回転翼のあるヘリコプターも実装されている」

「旅客も含めた航空運業も発展されていくのね。地球というより、自分の企業認識が適用されるのはありがたいわ」


 欧州の姫君達より信任を得ている綺堂さくらから、どうやらお墨付きを得られたようだ。忍の為だけではなく、さくらの承認が得られたのは俺にとってもありがたい話だった。

これから先も地球と異世界との行き来が活発になる中で、地元の有力者による支援が得られるのは大きい。自由気ままな身分とはいえ、仲間や家族を持ったのであれば協力者は不可欠だった。

自分がいない間に海鳴で何が起きるか分からないし、自分が異世界へ連れ出した忍や那美達だって故郷での縁がある。フィリスやリスティ達の話を聞かされて、彼女達の今の危うさも伺えたのだから。


地元の有力者である綺堂さくらが協力してくれるのであれば、彼女達の今後も少しは安定するだろう。だからこそ、こうして自分が自ら案内を務めている。


「お待ちしておりました、綺堂さくら様。私は月村忍さんと同じ開発チームに所属する、シュテルと申します。
今回カレンさん達の見届け役としても来られているとお聞きしまして、父上の子供代表としてお迎えに上がりました」

「うう、本当にさくらが来たんだ……ものすごく、居た堪れない……授業参観の気分」

「ようやく今回の主役に会えたわね。こうして異世界で顔を見ることになるとは思わなかったわ」


 第3管理世界の案内を終えてCW本社へ向かうと、予定通りに研究職員の服装をしたシュテルと忍が出迎えてくれた。忍は嫌そうというより、恥ずかしそうな感じではあるけれど。

壮健な企業ビルに案内されたさくらは建物の規模に圧倒されていたが、忍達の顔を見てようやく相好を崩した。何処の世界にいようと、なれた顔ぶれを見れば安心するというものだ。

CW本社は交通の便こそ少し悪いが輸送機の出入りはしやすくて、立地条件としては的確な場所に建てられている。周辺の雰囲気も海鳴に似ていて、自然豊かな風景が広がっている。


建物自体は非常に新しく、広さについても余裕がある。第3管理世界という未発展環境の利点を活かして、規模を拡張する形で広い施設類が用意されている。


「事前に案内はされていたけれど、企業ベースにヘリポートまで設置されているのね」

「ヘリコプターに搭乗する際は、こちらから見えるあのヘリポートを使用いたします。通常業務以外でも、有事の際は利用できますので危機管理は徹底しています」

「異世界の情緒も何もないと思うけど、意外と地球の常識も通じるよ」

「それは良介の案内を受けて、私も実感しているわ。そういった意味でも、この異世界案内を受けられたのは非常に有意義だったわね。
異世界への就職を聞いた際は困惑が大きかったけれど、心配や不安はだいぶ払拭されたわ」

「今の話聞いた、侍君!? 私達の関係が、認められたよ!」

「何いってんだ、お前」

「むしろもう良介に嫁入り出来なければ結婚も出来ないのではないかと、不安さえ感じているわよ」


 俺の手を取って大はしゃぎな忍さんに、冷たい目を向ける俺とさくら。こいつは俺への愛に全力だが、俺が拒否し続ければどうするつもりなんだろうか。結局異世界まで乗り込んできやがったし。

保護者である綺堂さくらにまで話が通ってしまった以上、もう忍を突き放すことは出来ない。今更大学受験なんて無理なので、CW社に就職させる道しか残されていないのだ。

所詮は、たんなる神輿。レジアスやカリーナお嬢様達に梯子を外されたら俺はあっという間に社長解任になるのだが、忍は有能な技術者なので放り出されたりはしないだろう。


綺堂さくらにもここまで信任を得られた以上、将来を共にするのは死んでも嫌だが、面倒くらいは見てやるつもりだ。


「父上より事前にご説明は受けていると思われますが、当社はあらゆる産業へ技術提供を行っております」

「ええ、その中でも――兵器に関する運用と開発を行っていると聞いたわ」

「否定はいたしませんし、時空管理局及び聖王教会からの資金援助と支援を頂いております。その点がカレンさん達の注目であり、綺堂さくら様の懸念でありましょう。
本日各施設をご見学して頂く予定ではありますが、まずは兵器開発部門を紹介致しましょう。重要な機密を多々扱っておりますので、セキュリティが厳しくなっておりますがご容赦を」

「当然の警戒レベルね、私の可愛い姪が従事するのだから受け入れるわ。徹底してくださって結構よ、シュテルさん」

「ありがとうございます」


 月村忍は結構平然と出入りする施設だが、セキュリティについてはあのレジアスやカリーナお嬢様も認めるほど厳重な体制が敷いられている。あのローゼのアホも監修に加わっているほどだ。

警備システムの一環としてあのガジェットドローンも警備型として用意されており、通信システム等はCW者独自の運用で情報が外部に漏れる心配はない。

事前の手続きは徹底して行われているので、綺堂さくらはセキュリティ関連だけ終えて、兵器開発部門への見学を許された。異世界人なので、情報漏えいの心配は最初からしていないが。


兵器開発部門のある施設を入ると、早速のお出迎えが来てくれた。


「さくらさん、お久しぶりです!」

「わーい、さくらさんだ!」

「こんにちは、さくらさん!」


「ファ、ファリン!? えっ、何でこんなに沢山いるの!?」

「おい、何で肝心の叔母が混乱しまくっているんだよ」

「あ、しまった。ラプターの事話すの忘れてた……」


 CW社が誇る自立作動型汎用端末デバイス、人型の戦闘端末として生まれ変わったファリン達がにこやかな笑顔でお出迎えする。メイド軍団の襲来に、さくらは目を回していた。

ライダーによって自我に目覚めた機械端末で、自動人形のオプションとしての機能を持った自律行動や遠隔操作が可能。筋力は常人の数十倍に達しており、高温・極低温・有毒ガス下でも活動可能な人型兵器。

CW者特製の内燃バッテリーにより通常稼働なら40時間で、全機能開放状態の限定稼働で最大25分の連続稼動が可能となっている。イリス事件では、マクスウェルの暗躍からCW社を守った立役者である。


混乱するさくらに、シュテルがラプター型自動人形の説明を行った。


「忍さんと私との共同開発で、ソードブレイカーを両手に装備しており、CW社製のAEC武装すべてに完全対応している完全版です。
採用されている組織内の全てのファリンさんの記憶や知識が共有されており、主要機体であるファリンさんの得た情報が全てのラプター型に共有されます」

「……何でメイドなの?」

「忍お嬢様とすずかお嬢様のメイドであることはこのファリン、正義に目覚めても忘れておりません!」

「なるほど……自動人形としての使命を持ったままなのは本当なのね。
地球より進化された技術に驚くべきなのか、ロストテクノロジーを馬鹿なことに使う忍を怒るべきなのか、すごく悩むわ……」

「スカリエッティ博士と一生懸命開発した私の新技術が小馬鹿にされてる!?」

「メイド軍団は、社長の俺もアホだと思っているぞ」


 ちなみにイリス事件以後、ラプター型自動人形は正式採用された。ファリン本人の顔形はともかくとして、ラプター型自動人形は時空管理局や聖王教会にも将来的に配備される。

主要機体であるファリンの出向も求められてはいるのだが、さすがに本人が嫌がっている。正義の組織は信用ならないという特撮知識で反対する、ファリン独自のアホな理由が原因だった。何だそれ。

メイド軍団にこそ度肝を抜かれたが、彼女は肝心の要点を忘れていなかった。


「忍、私はノエルやファリンの武装化には反対したはずよ。言いつけを守らなかったの、あなたは」

「ここは日本じゃないから――という言い訳は通用しないよね。でも、必要なことだから」

「兵器の量産にだって本来は反対したいのよ。良介を信頼しているから貴女を預けているけれど、これ以上エスカレートするのであれば断固として反対するわ」

「うん、だから私がこうしてさくらを出迎えたの。シュテル、ここから先は私が案内するね」


 厳しい目を向けるさくらに、忍は歴然とした態度で応対する。兵器開発部門の主任としての顔に、さくらは一瞬目を見開いた。

彼女が案内する先はCW本社の特別訓練施設で、兵器開発部門の中でも特別厳重なセキュリティで守られている。基礎設計を忍とシュテル、内容監修をジェイルが行った。

デバイスにシミュレータ用の細工を施す事でAMFも再現可能となっている施設で、対AMF戦も実施可能になっている。いわば、今後の兵器運用を想定された開発施設である。


施設内を案内された瞬間――綺堂さくらは、息を呑んだ。


「――ノエル?」

「紹介するね。"CW-AEC00X-S2"――S2シールド搭載型自動人形、ノエル・K・エーアリヒカイト。

AEC装備の到達点にして開始点となる、総合支援ユニット型自立兵器。S2シールドを機を防御装備として運用された、人々を守る自動人形の到達点。
S2シールドの後方支援用チューニングが施されたこの子は、支援と防衛に特化した性能を持つ。人としての器と機械を融合させ、常人を超える能力を得た存在だよ。
鋼の骨格と人工筋肉を持ち、リンカーコアに干渉するプログラムユニットの埋め込みにより高い戦闘力を持っている。

人為的な力を介在させることで安定した数の武力を揃えられる技術として私が作り上げた」

「忍……貴女はノエルにまでこんな改造を!」

「――身体機能の代わりを務める人工骨格や人造臓器は地球でも珍しい存在じゃないけど、身体機能の強化目的で用いる場合において様々な問題があったの。
それがミッドチルダにおいても違法な研究を広めてしまう要因となり、スカリエッティ博士や戦闘機人を利用せんとする最高評議会のような正義を冠した暴走がされてしまう。
ヒトをあらかじめ機械を受け入れる素体として生み出すというコンセプトそのものを、私はノエルやファリンの生みの親として拒絶する。

そのためにエスカレートし続ける技術の暴走を止めるべく、地球から来た私がロストテクノロジーを持って対抗しようと思っている」


 イリス事件ではフィル・マクスウェルが持ち込んだ技術が暴走して、世界を揺るがすテロ事件にまで発展した。その際同じ技術を持つアミティエ達と共に、マクスウェルの技術に対抗したのは忍達である。

兵器の量産を嬉々として行うのではなく、抑止力として利用する。その上で自分達が暴走しないように、時空管理局や聖王教会、そしてクロノ達のような横のつながりを持った関係を構築して歯止めとする。

もしも他の組織から技術運用を求められれば、忍は拒否していただろう。あくまでも彼女はここを選び、ここにいる人達と一緒に働くことを選んだのである。


彼女が胸を張れているのは自らが保つ技術を活用する自信と、背中を支える人達がいてこそだった。


「ファリンやノエルだって、自ら率先して望んでくれたんだよ。この異世界で生きていくための必要な技術を学ぶために」

「得るのではなく、学ぶ姿勢だということね。本人達の意思があってこその技術なのね……
良介。情報の持ち出しは禁じられてはいるけれど、平和的に開発されているという事実はカレン様達に話すけどいいわね」

「ああ、黙っていても下手に探られるだけだからな」

「それと――あの子達のことを、貴女が守ってあげてね。その代わり、貴女のことは全力で私が支えるから」

「ありがとう、心強いよ」


 兵器運用を認められた、のではない。兵器を運用する俺達を信用して、今は見守ってくれる姿勢を見せてくれたのだ。

姪可愛さで平然と許可するよりも、ずっと信頼できる関係だ。彼女は厳しいからこそ、これまで忍達を守ってこれたのだろう。夜の一族という重い秘密を背負ってでも。

戦闘機人や自動人形は自我を持っているからこそ、倫理的な面に問題を抱えている。違法性が問われる試練ではあるのだが、それはこれから俺が成すべき事であろう。


綺堂さくらはコホンと咳払いして、おもむろに人差し指を施設に向ける。


「ところで――あの巨大ロボットは何かしら」

「よく聞いてくれたわ、さくら!
あの機体こそ、かつてミッドチルダを震撼させた怪物。先日起きた事件で大暴れした機体を回収して、シュテル達と改造しまくった巨大兵器!

「掘削」の名を持つ機動外殻、エクスカベータだよ!!」


「連れて帰るわね」

「オッケー」

「ちょっと!?」


 ――こうして海鳴で起きつつあった問題点を洗い出したところで。

イリスとイクスヴェリア両名の、ミッドチルダ追放の日が訪れた。















<続く>








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