とらいあんぐるハート3 To a you side 第十二楽章 神よ、あなたの大地は燃えている!  第十四話




「なんでアタシとザフィーラは留守番なんだよ!?」

「去年活躍したでしょう、次は私とシグナムよ」

「暦でいうとややこしくなるからやめろよ!」


 惑星エルトリア出向の人選は意外と揉めていた。隊長判断で選別するのはいいのだが、こいつらメンバー同士で言い争うからである。

人材が豊富なのは組織として喜ぶべき点なのだが、個性豊かな面々なので我の張り合いが生じてしまう。案外、オルティアもその点で悩んで託したのかもしれない。

メンバー選びで地球へ帰って候補を決めているのだが、ここ八神家でも争いが起きていた。正直この一家はすんなりと決まると思っていただけに、予想外だった。


反対勢力の代表格は、鉄槌の騎士ヴィータだった。


「白旗のメンバーはアタシことのろうさと、ザフィーラだ。アタシらが行くのが自然だろう」

「戦争では大苦戦したと聞いたわよ。完全勝利してから功績を誇ってよ」

「ぐぬぬ……ザフィーラも何か言ってやれよ」


「主の守護も大事な役目だ。是非はない」

「くそっ、この正論犬め」

「……口の悪さで主張するのはやめてくれ」


 仲裁を主にお願いしようと視線を向けたが、肝心要の八神はやてはすました顔でお茶を飲んでいる。おのれ、一家の主として貫禄が出てきたじゃねえか。

俺は普通にヴィータとザフィーラを誘いに来て彼らも快く承知してくれたのだが、何故か湖の騎士シャマルがこうして反対しているのである。

肉体労働が専門ではないはずなのだが、俄然張り切っている。主婦業とは訳が違うのだといいたいのだが、本人のやる気を損なう訳にもいかない。


ここは一つ、守護騎士の将であるシグナムに聞いてみる。


「シャマルはこう言っているが、シグナムはどうなんだ」

「主の許可があれば、私は構わない。剣道道場の弟子達も、この春先は学業や就業で忙しいからな。
シャマルとは違って、家事への貢献は不得手だ。であれば、家族の一員であり恩人でもあるお前の力になりたい」

「お、おう、思っていたよりも好感度の高い意見を言われると面食らうな……」


 正当性の高い意見を言われて、仰け反ってしまう。どうやらシグナムなりに色々と考えてはいたようだ。

剣道道場で剣を学んでいるとはいえ、剣を本職とする人間は少ない。これは当然の話で、平和な世で剣に生きるのなんて難しいからだ。

忍や那美と同じく、学生達にとって春は忙しい時期だ。新しい季節を無事に迎えるためにも、今は頑張らなければならない時期なのだという。


生憎と勉学を教えるのは苦手だと苦笑するシグナムが、何だか可愛らしく見えた。


「アタシだってはやてを守るのに異議なんてないけどよ……
惑星開拓なんていう大事業で、こいつをほったらかして大丈夫なのか心配なんだよ」

「……ヴィータちゃん、以前は手伝うにしてもツンデレなことばかり言ってたのに、いつの間にそんな素直になったの?」

「何だよ、ツンデレって!? アタシの子分は今では組織の長で、世界を背負ってる英雄になっちまってる。
こいつは気楽な顔してるけど、色々大変なんだ。アタシがビシッと守ってやんなきゃ駄目だろう」


 ヴィータの主張も大変好ましい発言で、シャマルとしても真っ向から反対はできない。健やかな意見は論戦していても、心地よいものだ。

面倒見がここまで良くなったのは関係が改善されただけではなく、ヴィータも白旗の一員として仲間たちと一緒に戦ってきたからだろう。

八神家というある種閉鎖的なコミュニティのみならず、外へ出て多くの人間関係を築いてきた。だからこそ、家に帰るのに抵抗があるのだ。


両者の考え方を尊重しているからこそ、はやても自らの意見は言わずに静観している。どんな意見でも受け入れるつもりなのだ。


「リョウスケの話からすると、お仲間さん達のご両親が具合悪いんでしょう。きちんとした環境を整えるまで、医療が支えなければならない。
スカリエッティという博士が技術を使用して命を保つのと同様、魔導を用いて命を救う事だって大切よ。

まずは私が言って、根本的な治療方法が見つかるまで全力を尽くすわ。悪いけど、ヴィータちゃんにそれは無理よ」

「むっ……」

「今回の出向は大事業で主力メンバーのみならず、様々な技術を持ったスタッフも向かうと聞く。若い彼らには護衛だけではなく、指導も必要だろう。
特にお前達の作った組織はまだ若い、今までは天賦の才で乗り切ってきたのだろうが、今後の将来のためにも育成は必要だ。

私はこの町で若い剣士達を育って、私生活の相談にも応じて彼らと共に学んできた。この経験は大いに活かせると思う」

「むむっ……」


 ヴィータやザフィーラも優れた人材であるのは事実だが、こうして聞いていると惑星エルトリアにはこの二人の方が生きる気がしてきた。

特にシャマルの存在は重要だ。正直なところ惑星エルトリアの開拓よりも、死病に侵されたキリエ達の両親をどう救うのか困り果てている。

どんな結果になろうとも彼女達は俺を責めたりしないだろうが、キリエはやはり心に深い傷を負うだろう。彼女が号泣する姿はやはり見たくはない。


死は決して避けられないにしても、出来る限りの延命はしてやりたいと思う。


「分かった、今回のメンバーはシャマルとシグナムに頼む」

「ぐっ……それはリーダーとしての判断か」

「そうだ。"のろうさ"とザフィーラは残って、八神の家と聖地を守ってくれ。俺が不在の間、何が起こるのか分からないからな」

「――分かったよ、判断に従う」

「安心していってくるといい。何が起ころうと、我らがお前の留守を守る」


 鉄槌の騎士ヴィータではなく白旗の一員であるのろうさの名を出されて、ヴィータは渋々矛を収めた。組織の一員としての自覚と誇りがある所以だろう。

気位の高さこそヴィータの強みであり、メンバーに慕われる要因である。彼女はその点を自覚していないからこそ、皆に好かれている。

ザフィーラの姿勢も一貫していて、頼もしさが伺える。聖地では特に波乱続きだったので不在が心配だったが、彼なら安心して任せられる。


メンバーが正式に決まったところで、はやてが笑顔で柏手を打った。


「だったら今晩は送別会やね、すき焼きにでもしようか」

「久しぶりすぎて泣く」

「そんなに和食が恋しかったん!?」


 こうして新しいメンバーは湖の騎士シャマルと、烈火の将であるシグナムに決まった。

シャマルは無事決まって、ガッツポーズを取っている。そんなにエルトリアへ行きたかったのだろうか。


何故かこっちを見て不敵に微笑んでいるのが、気になった。















「わたしも行くよ、パパ!」

「駄目に決まっているだろう」

「そうです、ここは主の忠実な下僕であるローゼにお任せ下さい」

「エルトリアにアホを感染させるな!」


 シグナムとシャマルの出向が決まったのはいいのだが、アイツラは白旗のメンバーではないので管理外世界からの出向となってしまう。

"聖王"という権力と立場があってこそ異世界旅行はスムーズに行えるのであって、基本的に次元世界を航行するのは大変な手続きと労力を必要とする。

ならばいっそのこと俺自身がスカウトしたという形にして、白旗に所属させる方が早い。本人達に了解を得て、俺は手続きをするべく聖地へ戻ったのだが――


ガキンチョ共にこうして難癖つけられて、手続きに難儀させられていた。


「ガキンチョのお前を連れていけるか」

「これぞ育児放棄」

「ええい、図書館に入り浸って妙な知識ばかりつけやがって」


 俺より勝手に強奪した遺伝子を用いて、聖王の後継者として生み出されたヴィヴィオ。認知とかいう以前の問題なのだが、聖王教会が要請した事なのでジェイルばかり責められない。

古代ベルカ時代では世継ぎの問題からクローン技術による後継者を製造するのは常識的だったようだが、現代社会で同じ倫理観を持ち込まれても困る。

本人不在で強引に進められて勝手に我が子が出来てしまったのだが、ヴィヴィオやディード達は可愛い盛りで手のかからない子達だったのが救いだった。


ただ子供とは思えないほど実力をつけてきていて、たまにこうしてやりこめられる。


「エルトリアは劣悪な環境なんだ、お前を思ってのことだぞ」

「だいじょうぶだよ、パパ」

「何がだ」

「だってわたし、パパの子供だもん。パパが大丈夫なら、ヴィヴィオだって大丈夫だよ!」

「なんでどいつもこいつも遺伝子の力をそんなに過信するんだ!?」


 ヴィヴィオは金髪碧眼、オッドアイの美少女で、純日本人の俺の子供では絶対違うはずなのだが、俺は夜の一族の姫君達全員の血を摂取しているので何ともいえない。

カレン達には絶対こいつのことを言いたくないのだが、シュテル達の事ですでにもめているので、今更感が強すぎる。むしろ告白するべきか。

同じ我が子であるディードやオットーは参戦予定だが、あいつらは戦闘機人なので過酷な環境にも適応しているのだ。ヴィヴィオとは一緒にできない。


そもそもの話、こいつには別の役目がある。


「とにかく、お前は留守番」

「おーぼー、おーぼー」

「うるさいよ。それにディアーチェが行く事になるから、お前には聖地の統治を頼みたい」

「えっ、でも子供のヴィヴィオがやってもいいの?」

「素人がどうとかいい出したら、俺だってそうだからな。お前の能力なら可能かもしれないが、主な役割は立場だよ」


 "聖王"とはとどのつもり、神輿である。聖王教会や聖女様だって、俺本人を本当に聖王だなんて思っていないだろう。

ただ聖女の予言が成就して、聖王のゆりかごまで確保できた以上、聖王教会は権威を保つべく神輿が必要なのである。

特に昨今俺や仲間達の活躍によって、聖地への注目が高まり、世界中から様々な人達が訪れて関心を寄せている。ゆえにこそ、"聖王"様が必要なのである。


とはいえ先の事件で責任を追われて、俺は島流しされなければならない。ならば、代わりが必要ということだ。


「聖女様にはくれぐれもよろしく頼んでいるから、安心して役目を果たせばいい。白旗の連中も支援してくれる」

「カリーナ様は?」

「……何故その名前を出した」


「エグいことしてくれそうだから」


「よく分かっているじゃないか、ヴィヴィオ君……」

「泣いてる!? そんなに恐ろしい人なの!?」


 聖王様あってのカリーナ商会の繁栄なので、あのお嬢様ならばあらゆる便宜を図ってくれるだろう。敵なら恐ろしいが、味方なら頼もしい少女である。

ちなみにセレナさんには、CW社の代理経営を頼んでいる。今回惑星開拓ということで、俺は自ら新事業を立ち上げて予算を獲得している。

どうせ本当に開拓しないといけないのだから、次の経営政策ということで提唱してみたのだ。魔導殺し製作も軌道に乗って、そろそろ次なる企画を求められていたからな。


試しに言ってみたらカリーナお嬢様に大ウケして、失敗したら殺すまで言われた。ひどすぎる。


「ご安心下さい、主の隠し子様。ローゼが貴方の代わりに、主の力となりましょう」

「隠し子扱いされてるよ、パパ!?」

「ふっ、ついに世界の秘密に触れてしまったか」

「意外といいコンビだと思うよ」


 俺とローゼがアホコンビだといいたいのか、こいつ!?

ローゼは聖地の救世主という立場を獲得として、時空管理局の封印処置をようやく免れた。自由を確立したこいつは、今も俺への忠誠を誓っている。

ていよく聖王教会に押し付けられてウキウキだったのだが、暇を見てはこうして顔を出してくるのでこのアホ面が記憶から消えることがない。


今日も仕事をさっさと終わらせて、俺に会いに来ている。


「お前は、聖地で仕事をしていろ」

「ガジェットドローン」

「むっ……」

「惑星開拓で大いに役立つと思うのですが、いかがでしょうか」

「むむっ……」


「成果を上げれば新事業で更なる予算を確保できますし、惑星開拓ロボットとしてガジェットドローンを運用できますよ。
兵器だの何だのと言われてなかなか使用できなかった我が機体、今後は大っぴらに使用できます」


 ――そう、ガジェットドローンは現在非常に扱いが難しい機体となっている。

あの魔女が奪って悪用したせいで、イメージが良くない。加えてイリスが人形兵器を使って暴れまわったので、機械類の兵器は人々にとって敏感なのだ。

このままでは粗大ごみにしかならないのだが、惑星開拓で転用して立場を確保すれば、今後様々な分野に転用できるかもしれない。


アホの分際で、意外と考えられた経営戦略だった。


「お前がここに残って、ガジェットドローンを動かすのはどうだ」

「ロケットパンチが誤射で主に当てるかもしれませんね」

「そんな機能を追加するな!? 分かったよ、ついてこい」


「名コンビ復活ですね」

「……やはりコンビだったんだ」


 男装の美少女が親指建てるのを見て、金髪碧眼の美少女が戦慄している。シュール過ぎて笑いが出てしまう。

くそったれ、久しぶりにこいつのアホな行動や言動に気を配らないといけないのか。しかし、ガジェットドローンは本当に役立ちそうだからな。


――それにレリックの事もあるしな、ガジェットドローンは必要かもしれない。


こうしてヴィヴィオは聖王として残り、ローゼは俺の従者として出向となった。















<続く>








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