とらいあんぐるハート3 To a you side 第九楽章 英雄ポロネーズ 第六十六話




 聖王教会騎士団、ベルカ自治領で最強を誇っていた軍事組織の猛攻が白き旗を掲げる騎士団の勇士達に止められた。最前線を構築していた平均魔導師ランクAAの従士達が、名も知れぬ騎士達に倒されたのである。

その堂々たる雄姿、その凛々しき勇姿、その麗しき英姿に誰もが見惚れ、感嘆と賞賛の歓声を上げた。誉れ高き賞賛は聖王の旗印ではなく、"聖王"を冠した白旗騎士団に届けられたのだ。


決闘場を埋め尽くす拍手と歓声を誰よりも喜んでいたのは親代わりの博士――ではなく、旗揚げした幼き騎士団長殿だった。無表情な頬に赤みがさして、我が事のように胸を張っているのが微笑ましい。


世界を揶揄する魔女も愚衆の狂態だと哂いながらも、目元を熱く震わせている。妹達の覚悟を見届けた姉のシスターも親の研究が認められた事を受け止めて、神に祈るかのように胸元で手を握りしめていた。

時代が違えば彼女達は人々に祝福される騎士などではなく、人々を恐怖させる犯罪者であっただろう。俺のおかげだと、自慢するつもりはない。彼女達を変えたのは他の誰でもない彼女達自身、チンク達の成長に他ならない。

英雄譚を飾れるのは、華となる主役ばかりではない。主人公を支えてくれる仲間達、歴史上には登場しない裏方もまた必要不可欠。


チンク達白旗の騎士団を影で支えたのもまた、同じ騎士達であった。


「騎士が人々に祝福される――いい時代になったもんだな、ザフィーラ」

「我らには過ぎた栄光だが、悪い気分ではない」


 姿も、名前も――顔さえも隠して、栄光の舞台を影から見つめる二人。同じ決闘の場に立ちながらも祝福を受けずに、戦いの場に留まって陣形を維持すべく戦闘に赴いていた。

のろうさのお面をつけた、鉄槌の騎士ヴィータ。使い魔に偽装している、守護獣ザフィーラ。チンク達と同じ騎士でありながら、彼女達とは真逆に己の全てを隠して参戦している。

名を偽り、誰にも名乗らない。姿を偽り、客にも見せない。力を偽り、敵にも誇らない。白旗騎士団に栄光があるのならば、八神の守護騎士は斜陽であるのだろう。本人達も望んでいる。


古代ベルカの騎士、古き時代の戦乱で猛威を振るった自分達は滅ぶべき存在であるのだと。


「のろうさちゃん、ザッフィーちゃん、出るよ」


「あん……? アタシらは露払いじゃねえか」

「我らは横歩取りの後手番、下手に動くと左右の逃げ道が広くなってしまうぞ」


 ルーテシア・アルピーノ、彼女も同じである。白旗に所属しているが、本職は時空管理局の捜査官。潜入捜査で聖地へ派遣されている為、正体は明かせず客将となっている。

所属が明確であれば身元や身分は白旗という組織と、その組織を支える三役や司祭様達に保証して頂いている為、魔法で変身して出場している。御前試合は実力を広める場、変身魔法とて技量の一つである。

ジェイル・スカリエッティの司法取引等により事件捜査は半ば佳境を迎えているが、彼女は正体を明かしていない。名を広める機会であろうと栄光を求めず、職務に徹していた。騎士でなくても、彼女はプロだった。

他人との交流を求めつつあれど、他人の事情に干渉するつもりはない。栄光を求めないのであれば、無理に引き摺り出すつもりはない。俺もまた孤独を望む剣士、人斬りに栄光の舞台は相応しくはないだろう。


  俺がお披露目したいのは、自分達を力強く支えてくれる大人達なのだから。


「寄せあった柔らかな肩をただ抱いて、愛しさに心震わせるこんな夜も」


「――はっ!? そ、その歌は!」

「ヴィ――コホン、のろうさよ、どうした!?」


 白旗騎士団の攻撃により最前線が崩れて聖王教会騎士団が慌てて陣形を立て直す中で、突然ルーテシアが感情を込めて歌い始める。少女らしい甘酸っぱい声に、のろうさが分かり易く驚愕してくれた。

ヴィータは俺の兄貴分、たとえ俺がどれほどお膳立てしても使命を全うするだろう。自分はあくまで裏方であり、サポート。八神はやての使いで此処へ来たというだけ。手柄を欲さず、栄光も求めない。

ザフィーラやヴィータの気持ちは尊重する。裏方もまた大事な仕事であるし、サポートしてくれるのは本当に嬉しい。けれど、それではやはり寂しいと思う。理解を求めずとも、知って貰いたいとは思う。

だから、同じ立場であるルーテシアに相談を持ちかけた。


「どういえばつたわるのだろう、ことばにできないから」

「ただだきしめてめをとじる、もっとそばにいたくて」


「ガ、ガキ共、てめえらまで……うぐぐぐ!」


 白旗のベンチを陣取っているヴィクターお嬢様とジークリンデも、ルーテシアと一緒に歌い上げる。ベンチ入りが不満だった彼女達は、俺の願いを聞いて即引き受けてくれた。

この際音痴でも何でも良かったのだが、お嬢様は勿論のことジークリンデもなかなか達者な歌声だ。ワルモノに憧れているだけあって、テーマソングには熱が篭っている。

子供達の歌声を聞いて、影に徹するつもりだったヴィータが拳を震わせている。ふふふ、愚か者め。弱者であるこの俺にとって情報は命綱、強者のお前について調べ上げていないと思ったのか。


そしてトリを務めるのは白旗騎士団の"応援団長"――ウェンディ


「花の色、季節の巡りをあなたと過ごし変わってゆく」

「こ、これは、のろうさの――」


 ――そうだ、鉄槌の騎士ではない。のろうさの曲、お前自身を歌ったテーマソング。

この広くて真っ白な空を強い真紅の色に染め上げる、迷わない強さを持ったヒーローのテーマソングだ。ヒーローが俯いたままで、いいのか。


傷ついた弱さの数だけ俯かず、天を見上げていけ!


「風の中咲くよ、真紅の花!」

"ラケーテンハンマー!"


 ヴィータのデバイス、グラーフアイゼンのラケーテンフォルムで使う大技。重量を活かした打撃に加えて、魔力噴射による爆発力で敵の陣形に向かって突撃していった。

態勢を立て直すべく尽力していた聖王教会騎士団、彼らとて悠長に構えていたのではない。部隊長の返り討ちに加えて、従士達の全滅。戦力が半壊した事は彼らにとって緊急事態であるが、絶望には至らない。


その際たる理由が、陣形を守る守護結界。ベルカ自治領を堅牢に護り抜く軍事組織である聖王教会騎士団、尖った矛だけでは人民を守れない。敵を貫く矛と、信徒達を守る盾が歴然と立ちはだかる。


聖王教会騎士団と時空管理局の共同訓練、ルーテシア・アルピーノに訓練記録を調べて貰った際の戦績は五分五分。法の組織の精鋭に対抗出来ている最たる理由が、盾と名乗る鉄壁の壁。

屈強な従士達の最前線とバランスが取れた、聖王教会騎士団の防衛ライン。あのラインを崩さない限り、聖王教会騎士団の牙城は崩せない。その自信を持っての立て直しが、今の硬直状態。


参謀のクアットロは戦略で崩すことを提案してくれていたが、俺の我儘により戦術で破壊する事となった。


「陛下ったら、隨分と残酷ですこと」

「おやおや。お優しい、の間違いじゃないのか?」

「完璧な戦略で倒されるよりも、完全な戦術で壊される方が惨めですのよ」


 自分の魔力を起爆の燃料としてロケットのように噴射、超加速されたのろうさの攻撃が目標である結界に叩き付けられた。鳴り響く轟音はのろうさの技の破壊力と、結界の鉄壁さを演出してくれる。

噴射に加えて自身をフル回転させる事による遠心力、類まれな柔軟性と爆発力が生み出す破壊の打撃。古代ベルカの力が結集した一撃、それを持ってしても盾の如き結界が破れない。

固いと舌打ちするのろうさと、堅牢であると豪語する騎士団長。騎士団名うての魔導師達が作り出した結界は、永き歴史を思わせる重厚さを感じさせた。攻撃と防御の火花が、観客にまで飛び火している。

バリアの防御力とシールドの弾力を融合させた、守護結界。聖なる力が織りなす壁は、歴史の影に潜んでいる騎士を跳ね除けていた。


「――何という、気高き御方であるか。さぞ名のある騎士であろう、私も見習わなければならない」


 肉薄するその光景を無様であると罵る愚か者は、一人とて存在しない。聖王教会が認めた絶対の騎士アナスタシアは感嘆の息を漏らし、団長を筆頭とした騎士団は鮮烈な眼差しを向けている。

のろうさのお面をつけた、正体不明の少女。彼女は実力を隠しておきながら、全力を発揮している。矛盾していながら、矛盾を成立させている。騎士団を貶めず、騎士として立てている。

子供達はヒーローだと声援を上げ、大人達は騎士であると歓声を上げる。子供が憧れ、大人が夢見た、理想の存在。眩い強さが勇姿となって、人々の目を美しく輝かせていた。


加速時間を延ばしてパワーを上げていっているが、騎士団も負けじと魔力を高めている。敗北も勝利も考えていない。騎士として、お互いに向かい合っているだけだ。


苦笑いがこみ上げる。理解できない世界だった。何なんだ、あの痩せ我慢は。小細工一つでどうにもなるだろうに、張り合ってどうするというのか。観客を楽しませるだけのプロレスじゃないか。

人を斬るだけの剣士には、あの光景は絶対に作り出せないだろう。強さを目指していたのは同じなのに、何処で違ってしまったのだろうか。所詮他人を傷付けるだけの力では、他人を魅せることは出来ないのか。


ならば、リーダーとして責任を全うしよう。仲間として、助けよう。友として――送り出そう。


「ザフィーラ、ルーテシア、俺が責任を取る。思う存分、やってしまえ」

「貴方に命令される筋合いはないけれど――」

「――友として応えよう!」


 変身魔法を解除したルーテシア・アルピーノ、獣人形態へと進化したザフィーラ。麗しき美女へ成長したルーテシアと、雄々しき漢として生まれ変わったザフィーラの魔力が、喚起となって叩き付けられる。

ミッドチルダとベルカの魔力が螺旋状に絡み合い、推進剤となってヴィータの背中を力強く押した。人体を粉々にする破壊力を秘めた力を受けて、尚燃え上がれるのは鉄槌の騎士としての器。


友の力を爆発力としたラケーテンハンマーはリアクターパージを発揮して――



守護結界を、破壊した。



「ベルカの真骨頂、見せてもらったぞ」

「――何のことだか分からねえな。アタシは、のろうさだ」


 お面は半分砕けてしまって、素顔を覗かせてしまっている。だというのに誰一人として勘繰らず、結界を張っていた騎士達はどこか満足気に平伏した。かの騎士はのろうさ、それで十分だというように。

人々が送り出す盛大な拍手はきっと、のろうさだけに向けられたのではない。偉大なる騎士を支えた二人の友に、騎士を相手に最後まで尽力した騎士達に、惜しみない賞賛を送ったのだ。

陣形は崩された。戦術を破り、戦略を破壊した。組織力のバランスが崩れた一戦、不利にまで追い込まれても騎士団長は部下達に労いの視線を向けていた。素晴らしい一戦であったと、誇っていた。


誰一人、正体を追求する人間は居なかった。ヴィータも、ザフィーラも、ルーテシアも、元の姿に戻っている。皆もまた何も言わず、ただ褒め称えている。


かつて名誉を求めて道場破りをしていた自分、あの時師範に勝てていたとしても誰からも賞賛は得られなかっただろう。誇りのない強さに、見るべき点は何もない。敵を倒す強さも、宿りはしない。

御前試合の意義は十分果たされた。騎士達も、従士達も――そして俺達も、存分に力を発揮出来た。今や白旗や聖王教会騎士団の強さに疑問を抱き、治安維持能力を不安視する者は居ないだろう。

それほどまでに、素晴らしい決闘だった。ヴィータ達が、騎士の本懐を見せてくれたのだ。

騎士団長も、感極まっている。


「皆の者、本当に素晴らしき一戦であった。我らもまた部下達に負けず、決闘をもって雌雄を決しようではないか、"聖王"陛下!」

「いいだろう、我々も全力で――えっ、"我ら"?」


 ――観客席のアリサが頭を抱え、リーゼアリアが盛大にズッコケた。参謀のクアットロが手元の銀盤に突っ伏し、妹さんが珍しく狼狽えてしまっている。

我が意を得たりと、聖王教会騎士団の騎士団長が両手を広げて宣言した。


「これほどの戦いを見せられて奮い立たぬ人間など、騎士ではない。騎士団を率いる私とて同じ気持ちであったが、陛下もまた彼らの気迫を感じておられたご様子。
なればこそ同じ団を率いる者として、我ら二人で思う存分力を発揮しようではないか!」


 総力戦の意味が全く無い!? そう言いたかったが、そう言わなければいけないタイミングが正につい先程であった。騎士団長の宣言に、世界中が歓喜で沸いた。何でだよ!

普通ならあり得ない展開だが、最悪な事にヴィータ達を使ってお膳立てしたのは他ならぬ俺だった。もしあのままクアットロによる戦略を持って攻め込んでいたら、そのまま勝てていた筈なのだ。

なまじ戦術に傾けてしまったせいで、一対一が成り立ってしまっている。それでも拒否出来た筈なのに、あろう事か熱気に流されて俺自身が承諾してしまった。


いややっぱりやめますと気軽に言えればどれほど幸せだろうか――見ろ、あのVIP席にいる聖女様のお喜びようを。ほんとどういう訳か、俺に熱烈な拍手を贈って下さっている。やめろ、その賛成モードを今すぐやめろ。


ローマのコロッセオ等が良い例だが、こういう決闘では主賓が賛同すれば認められてしまう。"聖王"を除けばこの場で一番位が高いのは聖女様、お姫様がGOサインを出せば当事者の合意があれば認められてしまう。

この御前試合、唯一やってはいけない禁則事項があった。アリサ達頭脳陣がキツく、キツく、これまたキツく、何度も何度も注意していた。



ライフポイント制――このルールで俺が戦っては、絶対に駄目だと。















"「 」――それが御神流、基礎乃参法だ"

"全ての技の基本となる動きの一つ、ですか"

"御神流の使い手はほぼ全員これが使える、知識として蓄えておけ。使用するのは薦められない"

"どうしてですか。実戦となれば使うべきでしょう、師匠"



"この技を使わなければならない局面となれば、今のお前では負けるからだ"










<続く>








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