とらいあんぐるハート3 To a you side 第九楽章 英雄ポロネーズ 第六十七話




 ――そして、殺された。


『……どうしてだ。一度は勝てた相手、しかもあの頃より俺は強くなっている筈だ』


 前崎道場の師範、海鳴で通り魔となった老剣士。人を斬る技術を積み重ね、人を斬らない時代に絶望し、人を斬る欲求のまま人を斬り続けた剣士。他人を斬る人生を選んだ俺と対立して、路上の決闘を行った。

決闘とは、主に己の名誉を賭けて行う儀式。自らの正しをが証明するべく、己の剣に賭けて戦闘が行われる。文明開化の時代に入って死闘は禁じられたが、あの日の夜は法の枠を超えて決闘が行われた。

技量の差は明らかだった。道場破りで一度は倒され、為す術もなく頭蓋を断ち割られた。初戦は竹刀、決闘では真剣が突きつけられ、俺は荒削りの枝を木刀代わりに対峙。全力で振るった一撃で、幕を閉じた。

殺し合いに偶然はなく、結果だけが残される。俺が勝利して生き残り、爺さんは敗北して捕縛された。運も実力の内であれば、師範級の剣士であっても勝機は必ず見いだせる筈であった。


そして何回、何十回、何百回、何千回――何万回繰り返しても、殺され続けている。


『殺し合いに、偶然はありません』


 殺された仮想空間から戻ってきた俺に対し、今を生きている現実を背景にリニスが淡々と述べる。同じ結果、同じ結論、勝負観は何一つ違っていないのに、隔てている壁は目が眩むほど厚い。

一撃を狙えば脳を割られ、斬ろうとすれば断ち切られ、捌こうとすれば両断され、突こうとすれば突き刺され、引けば退かれ、追えば負われて、殺そうとすれば殺される。幸運に恵まれれば、不幸に遭わされる。

膨大に積み上げられた死体の山、どの顔も自分であり悲痛であった。才能のない人間は、才能のある人間には勝てない。当たり前の結論に、奇跡的な偶然はなかった。

ならば、あの時の勝利は何だったのか。


『勝利こそが、貴方を弱くした』


 宮本良介という剣士は――

生きているからこそ弱いのだと、リニスは教えた。


『貴方は、一度も負けていない。

自分の命をかけた勝負、自分の魂をかけた戦争、自分の人生をかけた試合、自分の信念をかけた死闘、自分の大切なモノ――他人をかけた、決闘。全てにおいて勝利している。
どれほど挫折しようと、どれほど失敗しようと、どれほど反省しようと、どれほど苦悩しようと――

敗北を知らぬ剣士が、どうして強くなれようか』


 他人より導かれた結論は、今を生きる自分そのものが正しいと証明している。世界で一番弱くても、生きているのであれば敗者ではない。人を斬る剣士の結末は、人に斬られる幕引きのみだから。

敗北していないのだと力説しながら、俺は弱いのだとリニスは断じている。理解不能であるはずなのに、理屈を抜きにして納得している。生涯をかけた生き様が、矛盾を成立させている。


弱いはずなのに、勝利している。勝利している筈なのに、弱くなっている――この矛盾こそが今の俺なのだと、リニスは指摘する。


『俺が今も生きているのは――他人に救われたからか』

『0点ですね、本当に出来の悪い生徒です』

『事実じゃないか、俺は何度も助けられている!』

『一人で生きている人間なんて、この世には居ません。知らずとも、誰もが皆誰かに助けられている。貴方の身体も、心も、多くの存在の助けがあって形作られているのです』

『そ、それは……誰かに助けられているということでは?』


『貴方は、強くなっていないではありませんか』


 多くの他人に助けられておきながら、何一つ血肉になっていない。だからこそ何度戦っても、一度も勝てない。今まで倒したどの相手であろうと、殺され続けている。勝利は、無かった。

他人がいるから、俺は生きている。その事実は解答ではなく、単なる結果なのだ。結果に基づいた解答ではない。だから今も強くなれず、惨敗し続けている。辛酸を嘗め尽くしている。


膝を付いている俺の肩に手を置いて、リニスは囁いた。


『剣を、捨てなさい』

『……それは、出来ない』


 剣無しで生きていくなんて、俺には無理なのだ。他人を斬れば、いずれ他人に斬られる。そんな人生に何の意味があるのか、あの爺さんが身を持って教えてくれた。牢獄の中で、人生を閉ざしたあの人に。

独りぼっちで、暗くて寂しい――報われた、人生だったのだ。


『俺は、あの人達を斬ったんだ。強くなれなくても、剣士である事を辞める訳にはいかない』

『だから、0点だと言ったのです』


 リニスは、厳しかった。過酷なまでに扱き抜いて、苛烈なまでに鍛えあげて、執拗なまでに追い込んでいる。それがどれほど厳しくて――


『己の中に解答があるというのに、試験で生かしていないのですから』


 どんなに優しいことなのか、涙が出るほど痛感していた。















 聖王教会騎士団の長を務める騎士、魔導師ランクはオーバーS。聖王家に連なる血筋、大仰な名目に相応しき戦士であり、天才の名を欲しいままとした実力者。聖地の頂点に君臨する剣士である。

本来であれば俺如き一般人は見向きもされないというのに、世界が注目する舞台で決闘を挑まれた。口が滑った形で承諾してしまったが、正直なところ迷惑よりも光栄にさえ思えてしまった。卑屈にも程がある。


勝ち目はない、断言して言い切れる。手段を問わない殺し合いであれば命を断つ機会もあるだろうが、この決闘はライフポイント制である。己の実力が全てであり、あらゆる付加価値が除外されてしまう。


申し出られた決闘を受けないという選択肢もある。一度口にした承諾を否定するのは名誉に関わるが、それでも尊厳は守られる。名誉は挽回出来るが、尊厳を取り戻すのは難しい。敗北すれば、化けの皮が剥がれるだろう。

参謀のクアットロが視線を向けるが、首を振った。場を取り繕う力量を信頼しているが、不毛に陥るのは間違いない。自分の失言で参謀に汚名を被せたくはない。彼女が汚れ役を気にせずとも。

アギトやミヤも参戦を申し出るが、突っぱねた。プレセアとの死闘でミヤは破壊され、アギトは自爆した。修復はされているが、プレセアとの生死をかけた戦いは俺の勝手である。そこで傷を負った彼女達を今また連れ出すのでは筋が通らない。


「イレイン」

「――やだ」

「やはり、お前は優秀だな」

「マスターの馬鹿、何でアタシにばっかりそんな命令するんだよ!」

「お前だから命令出来るんだ、頼んだぞ」


 よく分かっていると心から満足すると、イレインは悲しげに舌打ちした。自動人形であるイレインに、"非戦"を命令するのは自己否定に等しい。ロボット三原則を根底から覆す命令である。

数ある自動人形、無類のガジェットドローンシリーズ。他のあらゆる戦闘兵器であれば、何を差し置いても主の生命を絶対とする。自分が破壊される事になろうと、主の為に戦って死ぬ。ローゼでも然りだ。

この世で唯一、イレインだけは違う。イレインは自律回路に重きが置かれた自動人形、自分の気持ちを優先して行動出来る。主を危険に晒す結果になろうとも、非戦の命令を受諾出来る。

  自分のみに与えられる命令、至福であり矛盾だった。苦悩を抱えながらも、イレインは誇らしげに――仲間達の前に、立った。


「どんな結果になろうと手出しは無用だよ、アンタ達。マスターの決闘を邪魔する奴は、誰であろうとアタシが殺す」


 この戦いは決闘裁判、犯罪を犯した者の生死を賭けた決闘。正義の在り処を問う決闘においては、勝敗も含めて結果が求められる。結果を受け入れられない人間に、決闘の場に立つ資格はない。

決闘の妨害とはすなわち、決闘の結果を受け入れない事。勝者を断じて責めてはならず、敗者を決して慰めてはならない。報復など以ての外、あらゆる全てを受け入れてこそ公平の裁判となる。

イレインの決意に、ユーリ達が息を呑む気配が伝わってくる。俺が勝利するべく手を貸すこと、俺が敗北したら手出しする事、そのどちらも許さないと、宣言した。

救世主のローゼには出来ないもう一つの一面、戦闘兵器の顔。自分の役割であると正しく理解された事への喜びと、理解されてしまったことへの悲しみがあった。彼女もまた、ユーリ達と同じ心境なのだ。


「副団長、手出しは無用だ。この一戦を持って、終わらせる」

「――はっ」


 騎士団長もまた、同じ心境であった。どのみちこのまま集団戦を続けていても勝敗は明らか、だからこそ一対一に全てを尽くす。敗北すれば終わりだと腹を括ったからこそ、同じ心境に立てる。

のろうさ達が沸かせてくれた、決闘の場が静まり返る。陣形を分けて最前線に立った両者は、自分の武器を掲げる。俺は竹刀を抜き放ち、団長は大剣を手に取る。その滑稽さに、内心で自嘲してしまう。

何という大仰な剣、何という勇ましき鎧、何という凛々しき戦士である事か。一般家庭の主婦より贈られた剣道着、田舎道場の娘より借り受けた竹刀、島国を放浪していた剣士とは、格が違う。


「"聖王"陛下、貴君に感謝を」

「聖王教会騎士団の誉れ高き騎士に、尊敬を」


「勝負!」


 いざ尋常に、とは公平かつ拮抗した実力があってこそ成り立つ。明確な実力差があるだけで、神妙なる勝負とはならない。蟻がどれほど正々堂々と決闘を挑んでも、相手が恐竜では不平等に踏み潰されるだけだ。

白銀に輝ける大剣から幾つもの薬莢が飛び出して、目を覆う美しき魔力光が放たれる。ユーリを一刀両断とした一刃、太陽の前には燃え尽きようと、一介の剣士を両断するのは十分過ぎる。

真なる聖王の秘伝技、マグナ・グラエキア。信じられない速度で収束した魔力の刃が大地を断ち割り、そのまま俺を頭上から切り裂いた。


「水は高きを避けて低きに赴く」

「――何だと!?」


 手薄な箇所を攻めて、主導権を制する。勝ちを制する王道であるがゆえに、主導権は確実に制しなければならない。己を絶対とするがあまり、同じ戦法を取った事が失敗に繋がった。

騎士団長は驚愕に目を見開いているが、別に大した話ではない。最初の一撃で断ち割った決闘場の断崖に飛び込んで、そのまま伏せただけだ。面白いほど鮮やかに、光の刃は俺の頭上を通り過ぎて行った。

確信はあった。騎士団長の一撃は正確無比、魔力においても一切の狂いがない天才の領域。一度目で刃の鋭さを見切っていればどの程度伏せれば回避出来るのか、剣士であれば凡人でも見切れる。


「兵の形は実を避けて虚を撃つ」

『ウェイク・ピクシスメガ DAMEGE:0 LIFE:10000』


 敵の注意が集中している所は避けて、気が削がれた瞬間を狙って斬る。一撃に集中している瞬間を回避して、驚愕している一瞬を見計らって一閃。竹刀の乾いた音が鳴り響いて、騎士団長の鎧が切り裂かれる。

鎧の継ぎ目を狙った剣閃であったのだが、騎士団長の鎧は魔力で編み上げられた騎士甲冑。無防備に見えても、魔導師ランクS+の魔力で守られている。俺の拙い魔力付与など簡単に阻まれ、竹の刃だけが届くのみ。

人も殺せぬ竹刀で、どうして恐竜を打倒出来ようか。ライフポイントシステムが、無機質に嗤っている。こちらは一撃喰らえば致死であるのに対し、向こうは無防備のまま切り裂かれてもどうということはない。

正義の在り処を問う絶対の決闘において、騎士の長は吠え立てた。


「この私を侮辱するおつもりか、"聖王"陛下!」

「恥も外聞もなく、私は決闘の場に立っている。不服であるのならば、刃にかけて問うがいい!」


 聖王オリヴィエ・ゼーゲブレヒトの霊、彼女の荒御魂を刃には籠めない。この戦いは人外の魔を裁く決闘、魔を絶対の悪とする悪霊に問うのは間違っている。これは俺と騎士団長に問われている戦いなのだ。

目を血走らせて振り上げられた大剣は練り上げられた魔力が荒れ狂い、自然災害そのもの。暴風が荒れ狂って、刃に触れずとも切り裂かれてしまいそうだった。剣道着なんて、紙くず同然だった。

退避を命ずる本能を、剣士の理性で抑える。背を向けずとも、凡人の逃走は隙が生まれてしまう。天才は確実に見逃さず、あらゆる剣閃を持って血肉を断つだろう。迎え撃たなければ死ぬ。


「起こり頭又は懸かり口を打つ」


 格闘技であれば体格差や身体能力の差で優劣がつく場合が多いが、剣での斬り合いにおいてはその限りではない。実力差が全ての世界であっても、人間が絶対ではない以上完璧はあり得ない。

今までの戦いでは常に上段で構えていた剣を、中段の構えに切り替えて相対。この構えは攻守共に優れた構えであり、それでいて剣の基本姿勢はこの中段の構えから全ての動きが始まるのだ。

肉薄した大剣は命すら断ち割るが、その剣を捌いているのは人の手である。俺の頭蓋に振り下ろされたその時、俺の竹刀が剣を持つ手指を根元から切り裂いた。


「宮本良介 DAMEGE:3000 LIFE:7000』

『ウェイク・ピクシスメガ DAMEGE:0 LIFE:10000』


 天才と凡人の差は絶対、剣の力量に嘘偽りはあり得ない。本人は全く傷つけられなかったが、本人の剣の威力だけは確実に削げた。致死は回避出来れば、致傷など物の数ではない。死は、凡人の身近にあるのだから。

竹刀の鞘尻を相手の膝に打ち下ろす、DAMEGEは0。でも態勢は崩れて、下段から上段へ切り上げる。これもまたDAMEGEは0、蟻が噛み付いても恐竜は痛くも痒くもない。ただ、斬られたという事実だけが残る。

魔力が放射、魔導師ランクS+の魔力爆発は台風そのものだった。俺のひ弱な身体は木の葉のごとく吹き飛ぶ、目が回る中空で悲鳴を上げているアリサ達の顔が見れて、何だか可笑しかった。


「宮本良介 DAMEGE:2000 LIFE:5000』


 逆らわなかった。敵が天才であるということ、敵が強大であるということ、敵が倒せないということ、敵に敗北するということ――敵に飛ばされたということも全て、受け入れる。

無抵抗なまま転がされて、全身が惨めに泥まみれになる。無様ではあるが、衣服の汚れだけで身体は特に怪我はない。理不尽に抗っていれば態勢を崩し、大怪我を負っていただろう。目眩がするが立ち上がる。

力のある限り打っていく剣は凡人が憧れる豪剣だが、豪の剣は意外と勝負を決める事が出来ない。万を超える死の経験が、豪剣の弱点を如実に知らせてくれる。敵が顔を恥辱に染めて、襲い掛かってくるのが見えた。


縦から横、斜めの動きと多彩な剣の動き。この多彩な動きを熟せる者こそ強者、縦横無尽に襲いかかる剣を目で見て回避するのを即座に諦める。見の目ではなく、観の目を意識して剣を向ける。


この中段の構えの要として、剣先の位置がある。剣先の高さを相手の喉元に合わせる事で、相手は無闇に飛び込めなくなる。ライフポイントに影響がなくても、心理には大きな影響を与える。

相手の剣先が自分の喉元にカウンターでぶつかれば、非常に危険。少しでもそう思わせれば、天才であろうと剣先は鈍る。斬るという行為に、躊躇いを与えてしまうのだ。

無論、常に喉元へ突きつけるのは至難の業。敵の攻撃を見るのみならず、敵の動き全てを観察しなければならない。気配も読めない俺に、そんな芸当は不可能だった。

だからこそ肉体による技の不出来を、知識で補強する。


"「貫」――それが御神流、基礎乃参法だ"


 精神を集中させる事により、遠くの気配を察知する御神流"心"。技を極めれば銃器や爆弾、そして何より敵の殺気を感じ取れる。俺はその基本にさえも及んでいない、正真正銘の未熟者――決闘の場が、地球であれば。

此処は異世界、魔法という概念が根付いている舞台。この世界には唯一魔力という、未熟者でも感じ取れる気配が存在する。気配は感じ取れなくても、魔力の余波だけは余すことなく感じ取れる。

絶対であるライフポイント制の、唯一の弊害。魔法戦は魔力を用いなければ、ライフポイントを減らせない。必ず魔力は使用しなければならず、その魔力が俺に御神流を体現させてくれた。


「狐疑心の」

『ウェイク・ピクシスメガ DAMEGE:0 LIFE:10000』

「動くのを」

『ウェイク・ピクシスメガ DAMEGE:0 LIFE:10000』

「見たならば」

『ウェイク・ピクシスメガ DAMEGE:0 LIFE:10000』

「――打つ」

「ぐうううう……!」

『ウェイク・ピクシスメガ DAMEGE:0 LIFE:10000』


 単純に目で相手の動きを追うだけならば、回避も出来ない。魔導師流にアレンジした御神流で対応した上で、相手の動きや心理を読み取っていかなければならない。命懸けだが、命をかける価値はある。

相手の動きを魔力で感じ取って、相手よりも先に動いて攻撃を行う。それが御神流、基礎乃参法「貫」。全ての技の基本となる動きの一つで、鉄壁の防御を掻い潜って攻撃を届かせる為の技法。

とはいえ凡人の剣は有効にも何にもならない攻撃、絶望的な実力差でも焦らず奢らず、無心に剣を振るっていった。勝ち目がないのだと、覚悟している。


心に在るのは、感謝だった。敗北を教えてくれたリニス、勝利を教えなかった師匠――どちらの教えが違っていれば、勝利を目指していたかもしれない。敗北を悔やんだかもしれない。


恩師が与えてくれた知識こそが、今の俺の力となっていた。彼らが長年積み重ねた知識や経験が受け継がれて、俺の命となって凝縮されている。彼女達の生涯が、この一時の生存を許してくれるのだ。

仮想体験に疑似体験、死さえも与えてくれた幸運。この天才と戦えたというだけで、悔いはなかった。絶対に勝てない決闘に、絶望をしない。俺はなんて恵まれているのだろうか。


ありがとう。


『ウェイク・ピクシスメガ DAMEGE:0 LIFE:10000』
『ウェイク・ピクシスメガ DAMEGE:0 LIFE:10000』
『ウェイク・ピクシスメガ DAMEGE:0 LIFE:10000』
『ウェイク・ピクシスメガ DAMEGE:0 LIFE:10000』
『ウェイク・ピクシスメガ DAMEGE:0 LIFE:10000』
『ウェイク・ピクシスメガ DAMEGE:0 LIFE:10000』
『ウェイク・ピクシスメガ DAMEGE:0 LIFE:10000』
『宮本良介 DAMEGE:2000 LIFE:3000』
『ウェイク・ピクシスメガ DAMEGE:0 LIFE:10000』
『ウェイク・ピクシスメガ DAMEGE:0 LIFE:10000』
『ウェイク・ピクシスメガ DAMEGE:0 LIFE:10000』
『ウェイク・ピクシスメガ DAMEGE:0 LIFE:10000』
『ウェイク・ピクシスメガ DAMEGE:0 LIFE:10000』
『ウェイク・ピクシスメガ DAMEGE:0 LIFE:10000』


「剣尖の下がったところを打つ」


 歩み足、歩くような足の動き方で敵に向かって足を運ぶ。御神流の歩法では敵を殺すべく、足を滑らせるように移動する。中途半端な俺は知識を元に、剣術の基礎を用いて歩法を真似る。

苛烈な攻撃が来ようと、絶対に姿勢だけは崩さない。位置取りを断じて間違えず、敵の正中線を掴んで足を動かす。基礎乃参法が敵の動きを教え、自分の動きを導いてくれる。

魔導師ランクS+の攻撃は、防御も回避も行えない。ただし、攻撃を導けば話は別。それでもダメージは免れないが、致命傷だけは避けられる。激痛も悶絶も弱者には当然だと、受け止める。

万を超える死が、あらゆる死の可能性を告げる。億を超える敗北が、兆の剣閃を導き出す。算出するのは師の教えであり、先生の伝授。リニスと御神美沙斗が、教えてくれる。

どれほど傷つこうと、勝利が見えなくても、敵を見誤らない。戦う俺は一人でも、心の中には他人が大勢いる。仮想の敵が、俺の殺し方を教えてくれる。だから、感謝する。

こんな俺に対して、敵は異様であると逡巡する。


『ウェイク・ピクシスメガ DAMEGE:0 LIFE:10000』
『ウェイク・ピクシスメガ DAMEGE:0 LIFE:10000』
『ウェイク・ピクシスメガ DAMEGE:0 LIFE:10000』
『ウェイク・ピクシスメガ DAMEGE:0 LIFE:10000』
『ウェイク・ピクシスメガ DAMEGE:0 LIFE:10000』
『ウェイク・ピクシスメガ DAMEGE:0 LIFE:10000』
『ウェイク・ピクシスメガ DAMEGE:0 LIFE:10000』
『ウェイク・ピクシスメガ DAMEGE:0 LIFE:10000』
『宮本良介 DAMEGE:1500 LIFE:1500』
『ウェイク・ピクシスメガ DAMEGE:0 LIFE:10000』
『ウェイク・ピクシスメガ DAMEGE:0 LIFE:10000』
『ウェイク・ピクシスメガ DAMEGE:0 LIFE:10000』


「急かせて打つ」


 俺の唯一とも言える優位、クラッシュエミュレート――そう、これは"仮想の決闘"。何百何千何万と戦った仮想空間戦闘であれば、俺は団長より遙かに経験を積んでいるのだ。


前後左右に動いた足さばきで、敵の攻撃を誘導。送り足で前に進んで自分の剣を振るい、右足から前に踏み出して敵の剣を誘い、左足を素早く右足にひきつけて敵を切り飛ばす。

敵の剣に乱れが生じれば後ろに下がり、左足から後ろに引いて竹刀の先端で敵の芯を突く。ダメージがなくても、ダメージを与えられても、同じ挙動を繰り返す。

人は斬られれば死ぬ。仮想であっても、死の実感は恐怖を生み出す。ダメージがなくても斬られれば天才は慌て、斬られてばかりの凡人は慌てない。亡者のように取り憑いて、狂ったように斬る。

オーバーSランクであろうと、剣士。斬られれば切っ先は鈍り、威力は衰える。鈍った刃そのものを切り飛ばせば、甲冑は斬れずとも剣閃は切れる。


それしか出来ないのだと、思い上がるなと、基礎を阿呆のように繰り返して、馬鹿は天才に挑み続ける。右足を素早く左足にひきつけて、敵の足を切り飛ばした。


『ウェイク・ピクシスメガ DAMEGE:0 LIFE:10000』
『ウェイク・ピクシスメガ DAMEGE:0 LIFE:10000』
『ウェイク・ピクシスメガ DAMEGE:0 LIFE:10000』
『ウェイク・ピクシスメガ DAMEGE:0 LIFE:10000』
『ウェイク・ピクシスメガ DAMEGE:0 LIFE:10000』
『ウェイク・ピクシスメガ DAMEGE:0 LIFE:10000』
『ウェイク・ピクシスメガ DAMEGE:0 LIFE:10000』
『宮本良介 DAMEGE:1000 LIFE:500』
『ウェイク・ピクシスメガ DAMEGE:0 LIFE:10000』
『ウェイク・ピクシスメガ DAMEGE:0 LIFE:10000』
『ウェイク・ピクシスメガ DAMEGE:0 LIFE:10000』
『ウェイク・ピクシスメガ DAMEGE:0 LIFE:10000』


「――居付きたるを、打つ」


 左足を右足の位置まで踏み出して、騎士の頭蓋を打ち据える。その瞬間斬られるが、負傷を囮にして致傷を避ける愚挙に出る。愚か者にしか出来ない戦法は、天才の予想を外せられる。

左足を右足の部分にまで持ってくる事で、対等の位置に戻せた。骨は、砕けている。力も、残っていない。ただ懸命に、馬鹿みたいに自分の剣を振るう。それしか出来ないから無能なのだ。


右足をさらに大きく踏みこみ、そして――



『ウェイク・ピクシスメガ DAMEGE:0 LIFE:10000』

「宮本良介 DAMEGE:500 LIFE:0』



 勝敗は、決した。


 頭の先から爪先まであらゆる損害を被った俺と、無傷のまま膝を付いている騎士団長。俺は竹刀を持ち、騎士の長は大剣を落としている。最後の瞬間俺は両断され、騎士団長は剣を叩き落とされた。それで終わった。

団長は唖然とした顔で俺を見上げる。脳天から断ち割られたシュミレートは、ショック死さえ招く。何故立てているのだと、吠える――自分の命を盾にして、最期に俺はこの人の剣を斬ったのだ。

奇跡は、起きなかった。凡人には、起こせなかった。天才が勝利して、凡人は敗北した。ライフポイント制に不正はないのだと、俺が証明したのだ。自分の敗北を自分で確定した事が、何とも馬鹿馬鹿しい。

俺は、頭を下げた。


「ありがとうございました」


 痛む体を引きずって振り返って見れば、イレインが泣いていた。自分のことではないというのに、自動人形が涙を見せて悔しがっている。ジェイル・スカリエッティと月村忍の悲願は成就された。人が、創られたのだ。

逆に、ユーリ達は微笑んでいた。泣いてはいたが、笑ってくれている。クアットロでさえもこれから大変だと溜息を吐きながらも、それでも微笑ってくれていた。自己満足だというのに彼女達まで満足してどうするのか。

プレセアを見やる。自分の命さえも捨てて、相手を斬る事に専念する。凡人の――単なる剣士の戦いを目の当たりにして、彼女は何処か羨望の眼差しをしていた。


静まり返った決闘の場に、剣戟の音はない。ただ呻くような、勝者の疑問が上がるのみだった。


「……何故ですか、陛下。何故この正義を問う場で、貴方は"剣"を振るわれたのだ!?」

「私は貴方に敬意を評して、全力を振るいましたよ」

「分かっております。分かっては、いるのです!」


 ライフポイント制は、魔導師の力量を問うシステム。魔法を使わなければ、真の実力は問えない。そういう意味ではミヤ達やオリヴィエを使わなかった時点で、俺は魔導師の資格を放棄したと言える。

彼とて、分かってはいる。天才であれば、凡人の力量は容易く察せられる。俺の実力は、並の魔導師にも及ばない。事実俺は竹刀に魔力を込めてはいた、俺自身の魔力のみを。文字通り、刃が立たなかっただけだ。

プレセアとの命運をかけた戦いであれば、それこそなりふり構わず戦うべきだっただろう。聖女の護衛もかかっているとなれば、集団戦に集中するべきだった。その点は恥じ入るべきだ、本当に。

分かっていたからこそ、俺は感謝を述べたのだ。


「私が貴方との一対一を望んでいたことを、貴方は分かっておられたのでしょう」

「だから、私の決闘に応じたと? 貴方は愚かだ、断じて王がすべき所作ではない!」


「その為に、貴方達がいるのではありませんか――聖王教会の騎士団である、貴方達の存在が。
貴方達こそ聖王の権威そのもの、私は剣を掲げる存在でしかありません」


「……っ、本当に、愚かな方だ」

「かも、しれませんね」

「貴方と戦って、私は己の剣を思い出しました。かつて騎士を志し、この心中に誇りとともに掲げた剣を。
貴方が愚かであれば、私は大馬鹿者だ。本当に悔しいですよ、陛下……貴方とは是非とも、我が"剣"で戦いたかった。そうするべきだった。

さすれば、貴方が御相手でも――負けませんでしたよ、陛下」


 敗北宣言――ライフポイント制による敗北ではなく、自分自ら申し出た敗北。どちらが優先されるのか、今更問うまでもない。決闘場が、拍手と歓声で埋め尽くされた。

お互いに近付いて、硬い握手を交わす。やはりこの人は、偉大な騎士だ。魔法戦による結果ではなく、剣による決闘を重んじて、自ら引き下がった。剣士の暗黙の了解を、理解したのだ。


どんな結果であろうと、自分の剣を捨てるなど言語道断。たとえ相手が死のうと、己が剣を落とした時点で敗北――問うべき剣を失った時点で、剣士ではなくなるのだから。


そう理解しているのは、剣士である本人達のみ。観客は剣の価値を尊びながらも、魔法による結果も重んじる。白旗の正義に祝福を、騎士団の旗印に正義を、人々は喝采を上げた。

三役の方々も、聖女様も、貴賓の方々も、観客達も、素晴らしき決闘であったと褒め称える。


喜びの声は、これからの聖地の平和を約束するようだった。















『答えは、見つかりましたか?』

『剣術を基礎から教えてくれ』


『当たり前の解答に、これほど悩まないで下さい――ではまず、足捌きから教えましょう』










<続く>








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