とらいあんぐるハート3 To a you side 第九楽章 英雄ポロネーズ 第三話




 恐怖も過ぎれば畏怖となり、畏怖の念を抱けば畏敬となり、やがて崇拝に至る。聖王という神を信仰するベルカ自治領にとって、神に等しき絶対者は渇望の対象であった。

沈む事なき黒い太陽の化身ユーリ・エーベルヴァインの降臨は、信仰者達に絶大なる影響を与えた。純粋な無私の愛を求め、弱者も強者も等しく頭を垂れる。

今日というこの日こそ聖女の予言の始まりだと歴史学者が唱えたら、その場にいた誰もが是とするであろう。聖王という偶像を信仰しながらも、太陽の如き絶対者に祈りを捧げてしまう。

ミッドチルダを支配する天の王国の王、神の王国より参上した人類の唯一の希望であると、人々は物語る。



「お父さんにキスしちゃいました!? うう、恥ずかしいですー!」


 ――実態は、物影で羞恥に頬を赤らめる女の子であっても。広場で起きた神降臨劇による混乱を受けて、聖王教会騎士団にあの場を任せて一時的に避難した。

当事者が居合わせたままでは騒ぎが収まらないだろうし、聖王教会騎士団が黙っていないだろう。聖騎士や関係者達にユーリ達を戒めると告げて、全員をあの場から連れ出した。

批判されるかと思ったが、聖騎士にはむしろ心配されてしまった。無理もない、あれほど絶大な力を見せつけられたのだ。人間に太刀打ち出来る存在ではない、恐怖は刻まれただろう。

俺なら出来ると宣言したあの時、聖騎士が深く頭を垂れたのが気になるが――ともあれ、まずは。


「お前が、ユーリか。俺の子供がこーんなお人形さんみたいに可愛い女の子だとは、想像も出来なかったな!」

「わわっ! お、お父さん、私重くないですか!?」

「あはは、何言ってるんだ。お、軽い、軽い!」


 綺麗な金髪の、可憐な少女。信者が神と誤認するのも頷ける、女神の如き愛らしさ。抱き上げてやると、顔を真っ赤にしながら嬉しげに頬を緩ませている。

清楚な白の布地の服装だがへそ出しルックスで、袖の長い上着を着ている。そして炎の模様の入った、紫色の袴のズボン。俺の剣道着と、実によく似ていた。

俺の眼差しに気付いたのか、お父さんの子供だからと、ユーリは恥ずかしそうに打ち明ける。控えめだが愛らしい自己主張に頬擦りすると、明るい声を立ててはしゃいでいだ。


我が子を抱き上げていると、俺の懐にしがみついて王者の如き少女が苛烈に吠え立てる。


「父よ。ユーリを見事に演出したのは我の見立てであるぞ、まずは我に賞賛を贈るべきであろう!」

「おー、お前がディアーチェか! ははは、見てたぞこいつめ。お前は俺にソックリだな、うりうり」

「……っ、む、無論だ、我こそ偉大なる父の娘、ロード・ディアーチェであるぞ。父の名を辱めたりはせぬ」


 全世界の人間に凛々しくも美しき顔を脳裏に焼き付けた少女、ロード・ディアーチェ。人々には不遜な態度を見せつけておきながら、俺の前では借りてきた猫のように大人しく撫でられている。

堂々たる美丈夫でありながら、凛々しき美少女でもある、不思議な存在感。人の前に立つだけで畏怖と畏敬を抱かせるのは、この少女ならではの才気なのか。

才能のない俺から生まれたとは思えない王気を持ちながらも、蒼白が混ざっている黒い髪や雰囲気が一番俺によく似た女の子。可愛くないはずがなかった。


二人に懐かれた俺の前にぴょんぴょん跳ねて、雷のごとく光り輝いた笑顔を女の子が振りまいている。


「パパー、ボクがレヴィだよ! カッコイイ名前をつけてくれて、ありがとう!」

「いいね、その元気さ。やっぱり子供は元気なのが一番だ。せっかくこの世に生まれたんだ、思う存分遊んで楽しめよ」

「やった、パパに褒められた。ボクの活躍に期待しててねー!」


 天真爛漫な少女、無邪気で我儘に見えるが、多分誰よりも大切な人の役に立つ事に喜べる健気さを持っている。あの町で培った海鳴の精神は、この子に遺伝されたようだ。

クリスチーナの無邪気な残忍性とは真逆の、精神性。生まれ持った素養が優しい姉妹達に育まれて、俺のようにねじ曲がらずに真っ直ぐに育ってくれた。それが本当に嬉しい。

目を細めて褒め称えると、レヴィは明るい笑顔を見せて笑い声を上げる。人々には死神に見えた少女も、俺の前では天使そのものであった。見ているだけで、優しくなれる。


三人の娘達に頬を緩めていると、コホンと、愛らしい咳払いが上がった。


「父上、誰かを忘れておりませんか? 今回のシナリオを描いた功労者、貴方の右腕に相応しき愛娘の存在を」

「お前とは一番よく話していたから離れていた気がしなかったよ、シュテル。通じ合えていた喜びは、いつもお前から感じていた」

「あ、当たり前です。私はいつも、父を思っていましたから」


 俺に一番似ていないのは恐らく、この子だろう。他人のように思えるのではない。俺とは似ていないからこそ、一番可愛らしく思えるのだ。

理知的な眼差しに、聡明な顔立ちをした少女。感情的ではない分、感情的な言動をする事で、自分の感情を表現する。自らの弱点を魅力とする人間こそが、俺の愛娘だった。

自分にはない聡明さに嫉妬どころか、誇りすら感じられる。自分の子供が立派なのが、ただひたすらに嬉しい。俺のそうした感情を察して、シュテルは涙さえ滲ませて瞳を震わせた。


それにしても、気になっていたのだが――その疑問さえも察して、シュテルは告げた。


「あの子でしたら、街を散歩させています。父の前で、演技は出来ませんから」

「行動的で好奇心旺盛な子だが、我らの誰よりも父想いの娘よ」

「何処にいても、お父さんの声ならきっと聞こえる。呼んであげてください、貴方の娘の名前を」


「分かった――"ナハトヴァール"!」



「おー!!」



 ドドドドドッ、と屋根の上を駆け巡る足音。猛烈という言葉さえ生温い怒涛の勢いで、巨大な物体が転がり込んでくる。頭上を見上げたその時には、既に遅かった。

天を覆い尽くす満面の笑顔が落下して、勢い良く俺に雪崩れ込んで来た。女の子特有の柔らかさと温かさに緩和こそされたが、確かな重量には打ちのめされてしまう。

俺の周りを囲んでいたユーリ達は心得たもので、距離を置いて微笑ましく見守っている。襲来を知っていたのなら、事前に教えて貰いたかった。

ギュッと力強く抱き締められる感覚に息苦しさよりも、親への愛情が強く感じられた。


「ナ、ナハトヴァール、か……?」

「おー!」

「おー、じゃないでしょう。ほら、この日の為にいっぱい練習したでしょう」


「お、おー……おとーさん!」


 白く尖った歯を覗かせて、黒髪の少女はニッカリと笑っている。あらゆる世俗の汚れを洗い落とした、純真無垢な笑顔。ようやく会えた親への愛情に、輝いていた。

恐る恐る触れてみる。絹のようにしなやかで、鳥羽玉の長髪。少しクセのある髪質は、まるで自分の髪に触れているようだった。くすぐったそうに目を細める表情も、そのままだ。

無造作なスタイリング、小柄で色白で均整の取れた肢体。尖りのある瞳に子供特有の豊かな頬、野性的な顔立ち。華奢に見えるが、シャープに引き締まっている。

法術で偶然生まれたとは思えない程俺に似た、自分の娘が微笑みかけている。不覚にも、涙が零れそうになった。


「おとーさん、おとーさん!」

「おう、お父さんだぞ。寂しい思いをさせて悪かったな、ナハト」

「おー!」

「こらこら、噛み付くんじゃない。あはは、くすぐったいじゃないか」


 尻尾があれば、絶対にブンブン振っているだろう。懐きっぷりが半端ではなく、生まれたばかりの子犬に甘えられているようだった。野性味のある愛情が強く、温かい。

夜天の魔導書の防衛プログラム。どういう仕組みになっているのか分からないが、完全に実体化されたようだ。元プログラムだけあって人格はあれど、記憶そのものはない。赤ん坊だった。

生まれたのが先月だと考えると、驚異的な成長といえる。うわ言のように言っているが、意味合いそのものは何となく分かる。賢い子なのだろう。これから育てていけばいい。


これで自分の娘は全員、揃った。宮本家家族一応勢揃い、離れていた親娘の再会だった。


「再会そのものは喜ばしいとして、さっきの演出は結局何だったんだ。自然に合流するにしても、他人を威圧する必要はなかっただろう」

「父上は本日、このベルカ自治領へ来られたばかりなのですね。来訪された父上の目的は、こちらも把握しております。
聖騎士による案内で領内を探索されたのでしたら、このベルカ自治領――聖王教会全体が抱える問題も、おおよそ把握された事でしょう」

「――聖女の予言と、聖王のゆりかご。二つの要素が劇的な化学反応を起こして、不穏と火種の種を撒き散らしている」


 俺の見解に、シュテルは強く頷いた。大いなる神の降臨と神の居城出現による奇跡に魅せられて、信者だけではなくあらゆる人種が集ってしまっている。

物見遊山であれば平和的であろうが、神の威光に利権の匂いを嗅ぎ取ってしまえば話は別だ。素晴らしき奇跡が人の欲で汚されて、禁断の果実にハゲタカがたかってしまった。

人が集まれば、よくもまた積み上げられる。積み上げられたままであれば繁栄もありえたが、その欲を刺激されてしまうと膨れ上がって爆発する。


神の降臨を待つのではなく、自ら望んで神を出迎えようとする教会の傲慢――聖女の護衛の、募集。


「我らがこのベルカ自治領へ入り込んだ時には、有象無象の塵芥共が蠢いておった。聖王教会もようやく重い腰を上げて対処に望んだが、時既に遅しであったな。
入国審査なんぞで今更締め出しても、既にこのベルカ自治領は穴だらけの虫食い状態よ。入国と出国時で明確に記録を取っていなかったせいで、何処に誰が入り込んでいるのか知れぬ」

「怖い人が危険な武器を持って、いっぱい町に集まっています。そんな人達を相手にするお店屋さんも増えて、法で禁止されている品まで大量に求められている。
需要と供給が膨れ上がるにつれて、ますます人が集まる。ベルカ自治領は今許容限界に達しつつあって、今にも戦争が起こりそうだったんです」

「パパがそんな人達の相手をすることなんて無いでしょう。だから、ボク達が追っ払ってやったんだ!」

「結論がひでえよ、お前達!?」


 すげえ、すげえよ、こいつら。よくここまで、俺に似たもんだ。分かる、よく分かる。権力争いとか面倒くさくなると、剣を振り回して追っ払いたくなるよ!

俺の場合才能がなかったので強者を蹴散らす事が出来ず、渋々策に頼るしかなかった。策を練り、仲間を頼み、家族に相談し、周到な準備をして、十分な時間をかけて対応する。

こいつらは言わば、力を持った俺そのものだ。小賢しい策なんぞ不要とばかりに、剣で他人をぶった斬る。なるほど、これ以上はないほど明確な勝利だ。


――他人の迷惑を全然考えていない点を、除けばの話だけどな!


「確かに欲ボケの連中がビビって追い払えるかもしれないけど、何の関係もない町の人達まで一緒に巻き込まれているじゃねえか!」

「大丈夫です、父上。あくまで威圧です。あの程度で逃げ出すような輩は所詮、神への信仰などありません」

「そうだよ、パパ。雑魚共なんて、わざわざパパが相手する必要はないよ。ボク達に任せて!」

「うむ、まったくもって情けない連中よ。その点、我が父上は堂々たる態度であった」

「お父さん、本当に立派でしたよ。私も娘として、お父さんがすごく誇らしかったです」

「あー、あー!」


「よし、分かった。そこになおれ、お前ら」


 人のふり見て我がふり直せとはよく言ったもので、自分の娘の所業に何だか恥ずかしくなる。自分によく似ているだけに、過去の恥を晒される気持ちにさせられる。

こういうのは、最初が肝心だ。俺のように致命的な失敗をしてからでは遅い。たとえどれほど可愛い娘であっても、俺は決して甘やかしたりはしない。可愛い娘を傷つける真似はしないけどな。

どう叱ればいいのか考えて、すぐにフィリスの顔が出てくるのが我ながら情けない。あいつの言った事をそのまま娘に言ってやると、びっくりするほど素直に反省してくれた。

なるほど、相手を決め付けて説教するやり方は効果的だ。お前達は優しい娘達なのだから、他人の迷惑になるような事をしてはいけない。この論法で、驚くほど萎縮する。


全員揃って落ち込んだ所で猛省を促し、聖騎士達の前に連れて行こうとしたところで――ナハトが俺の前に座り、唸り声を上げた。


「がー、がー、うがー!」

「ど、どうしたんだ、急に!? 癇癪でも起こしたのか」

「剣士さん、下がって下さい!」

「妹さんまで、どうして!?」



「ふふ、ははははは……素晴らしい、素晴らしいぞ、お前達っ! これほどの強者が一同に集うとは、恐れ入った。貴様達が紛い物などではない、本物の"騎士団"か」



 軽い拍手と賞賛の声につられて視線を向けると、一本道の奥からゆっくりと女が歩み寄ってくる。その瞬間、視線を向けたことを心の底から後悔した。

吸血鬼カーミラ・マンシュタインに匹敵する、異形の芸術品。悪魔の如く血塗られて、死神の如く冷徹で、魔物の如く暴力的な、美麗の魔神。


威容な両角、血に濡れた紅瞳、黒曜の甲冑、大仰な長槍、禍々しき魔力――"人外"であった。


「夜よりも暗く、闇よりも暗く、魔よりも冥き力。予言に刻まれた神の降臨、しかと見届けさせてもらったぞ」

「……あんたは、一体……?」

「神を喰らう魔龍、聖女とやらのお招きに預かり、我自ら晩餐を喰らいに参った次第よ。丁重に持て成すが良い、"待ち人"よ!」


 長い槍を一振りして、俺達の前に突き付ける。何を望んでいるのか、一目瞭然だった。言葉よりも、態度よりも、その気配が如実に物語っている。

恐ろしいのは彼女が見せる戦意が、無邪気そのものである事だ。ユーリ達の力を目の当たりにしながら、気軽に笑っていられる胆力。神を前に、悪魔が笑っている。

どうやら聖女の予言は、神に留まらないようだ。考えてみれば、無理もない。予言そのものは明確に、神の存在を示していたのだ。想像して然るべきだった。


"神"が居るのならば――"魔"も存在する。


聖騎士を筆頭に、妹さん達も雪崩れ込んでくる。率先して妹さんが前に立ち、シュテル達が固め、聖騎士が守りに入り、ザフィーラ達が防衛にあたる。

ユーリを前にしていた時は震え上がっていた彼らだが、魔神を前に戦意は衰えていない。恐るべき敵だが、絶望的な相手では決して無い。ならば、まだ戦える余地はある。

魔を前に強者が戦慄し、弱者が身を震わせる。住民から距離を取っていたのは、結果的に正解だった。表沙汰になれば人類戦争どころか、聖魔大戦が始まってしまう。

とんでもない事になった……もう人類どころの話じゃない。こんな魔物まで来てしまえば、人の手には負えない。対抗できるのが自分の娘達というのが、悔しい。


睨み合う中で、神とされたユーリが不思議そうに首を傾げる。圧倒的な暴力の気配に、怯みもしていない。


「勘違いされているようですね」

「勘違いだと……?」


「貴方が求める神は、私ではありません――この方です」


 ユーリはそう言って、俺を紹介する。えっ、俺!? ちょっと待ちなさい、我が娘よ。今、ハッキリと神だといったよな!?

紹介された本人が初めて存在に気付いたとばかりに、俺を訝しげに凝視する。ダニでも見るような目だった、くそう!


「……、……こやつが?」

「はい。私なんて、お父さんには足元にも及びません」


 ええええええええっ!? 自分で言うのも悲しいが、俺はお前にかすり傷ひとつ負わせる自信がねえよ! 太陽を相手に、凡人なんて見あげるしか出来ない。

満点の太陽を地面から見上げて、空しく剣を振り回す我が身を想像して泣いた。実力差は、天と地である。一生かかっても、勝てる気が全くしません。

ユーリだけではない。同じ娘であるシュテルも、ディアーチェ、レヴィも、ナハトヴァールまで、自信満々であった。おいおいおい!

妹さんが、前に出る。彼女を前にして、魔龍が感嘆の唸り声を上げた。


「異様に惹き込まれる、その存在感――我を惑わすとは、恐るべき怪物よ。何用か、夜の王女よ」

「その確かな見識を持ってしても、計れませんか」

「――待て。まさかとは思うが……貴様も、この男が絶対者だと嘯くつもりか」

「剣士さんの素晴らしさが分からないなんて――申し訳ありませんが、失望いたしました」

「ぐっ、貴様……!」


 うわっ、すごい目で俺を凝視している。絶対の暴君に、一筋の汗がこぼれ落ちる。ユーリ達や妹さん、確かな素養を持つ強者達が自信を持って紹介出来る男が計れず、苦悩しているらしい。

彼女が俺を見いだせないのは当然だった。だって、何にもないのだから。あるものは見えても、何もないものまで見えない。どれほどの強者でも、完全な弱者から何も計れない。

これが例えば忍達かたの紹介であれば、彼女は鼻で笑っていただろう。贔屓目に過ぎぬと、馬鹿馬鹿しいと、さっさと俺を槍で突き殺していたはずだ。


だが今俺を紹介したのはユーリ・エーベルヴァイン、黒き太陽の化身。そして月村すずか、夜の一族の純血種。神と魔の、真なる後継者達。


大いなる力がこの地で見事に示されたのだ、悪魔でさえも彼女達を疑えない。その彼女達が絶対の自信を持って紹介しているのだ、嘘だとはとても思えないのだろう。

実際ユーリ達や妹さんも嘘をついていない。真実を語っている。彼女達は、俺が本当に強いと思い込んでいるからだ。単純明快な贔屓なのだが、第三者にはそれが分からない。


だからといって自分には分かりませんなどと、悪魔のプライドにかけても言えない。となれば――こう言うしかない。


「なるほど――底知れぬ器を持った人間、ということか」

「は……?」

「道化を装うとはなかなかに意地が悪いではないか、"待ち人"よ。なるほど、この地における神とは"聖王"――人を器とした神であったな。
いいだろう。貴様の化けの皮、我がこの手で剥がしてくれる。ふふふ、神の生皮を剥がすのもまた一興よ。

神よ、今世における貴様の名を聞いてやる」

「名前は、良介――宮本、良介だけど……なんか勘違いしてないか、あんた」


「我は魔龍の戦士、"プレセア・レヴェントン"。貴様を喰らい尽くす、龍の名だ。此度の屈辱、次の戰場で必ず晴らしてくれようぞ」


 何故かユーリでも妹さんでもなく、俺を目の敵にして龍の姫君が去っていった。どういう理屈で生まれた因縁なのか、まったくもって理解できない。

化けの皮を剥がすも何も、そもそも何もないのだ。どうやって証明するつもりなのだろうか、あの魔物さんは。龍に付け回されそうで、怖い。

明らかな魔を目の当たりにしながらも、聖騎士が見つめるのは俺のみ。やめろ、仮面で見えないけどその目はやめろ。違うんだ、周りが誤解しているだけなのだ。

次会ったら殺すとまで言われたのに、ユーリ達が不安の一つもせずに父を無邪気に応援している。だから無理だって、あんな化け物!?


しょげていると、俺の両肩を叩く者達が――



「安心して、侍君。私はこれ以上ないほど侍君を愛しているけど、イケメンだと思ったことは一度たりともないから」

「心配しなくていいわよ、良介。あんたの事が好きなのは認めてあげるけど、単純バカとしか思ってないから」

「両極端なんだよ、お前らは!?」



 強者と弱者、世の中にはどうして二種類の人間しか区別してくれないのか。凡人という存在だって、この世にはいる筈なのに。

聖地に来て初日、早くも問題山積み。降って湧いてくる難題に、毎度ながら頭を抱えるしかなかった。










<続く>








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