とらいあんぐるハート3 To a you side 第九楽章 英雄ポロネーズ 第四話




 魔龍の戦士プレセア・レヴェントン、人外の狂姫。聖地を震撼させたユーリ・エーベルヴァインの力を恐れず、威風堂々と挑んで来た。魔龍を冠する戦士の恐るべき力量を伺わせる。

この地に集った戦士達の多くは聖女の護衛を名乗り出ているが、あの女は恐らく口実でしかない。聖王教会の権力や利権の餌に群がる強者達と戦うべく、不遜にも聖地へ足を踏み入れた。

聖王教会の承認と聖女の護衛を求める俺とは目標こそ違うが、その道程で多分ぶつかってしまう。人間の強者達にも及ばない俺では、人外相手には歯が立たない。早急に対策を立てねばならない。

積み立てられる懸念事項に頭を痛めるが、とにかくまずは現状把握に努めよう。案内役の聖騎士に、頭を下げる。


「来て早々、騒がせてすまなかった。一応言っておくが、知り合いでも何でもない」

「ええ、それは理解しております。この地を脅かす者の往来まで許してしまっているのは、他でもない我々の怠慢なのですから」


 ――聖騎士の苦悩を垣間見て、この地における治安の低下を改めて知った。魔龍の存在を知っていたかどうかはともかくとして、幾多の脅威が入り込んでいる現状は把握済みなのだろう。

少なくともあの魔龍は人目を憚らず、堂々と異形を晒して街中を闊歩していた。聖王教会騎士団とユーリ達の対峙にしても、鎧姿の戦士達や仮面の男達等が我が物顔で見物していた。

余所者だからコソコソしろとは言わないが、明らかに人を脅かす服装や装備で街を歩き回るなんて異常だ。俺の剣道着でさえも、このベルカ自治領では全く目立っていない。

聖地に住まう人達の多くは萎縮し、街中を自由に歩く事も出来なくなる。聖王教会騎士団が甲冑姿で歩くのは抑止力に他ならないが、それでも緊張や不安は到底消せないだろう。

人外や強者達に迂闊に手出しをすれば、戦争になる。だからといって放置すれば、余所者達に占拠されかねない。追い出せばいいのだが、彼ら自身の存在は今必要とされている。


火種は聖女の予言、導火線は聖王のゆりかご、点火は聖王教会――その全ては、神の名の下に訪れた人災。聖騎士はさぞ、苦悩しているだろう。心中を察して、溜息を吐いた。


「ともあれ、この娘達は今後俺が面倒を見ることになった。あんな馬鹿な真似は絶対させないから、今回だけは大目に見てやってくれないか。ほら、ユーリ」

「聖地の皆様にご迷惑をおかけいたしまして誠に申し訳ありませんでした、聖騎士様。私達は父の麾下に入り、言い付けをお守りすることを神に誓います」


 経験な姿勢を見せて謝罪するユーリに、ディアーチェ達も慇懃に頭を下げる。喋ればボロを出すのは分かっているので、口出ししないように厳命しておいた。

黒き太陽の如き脅威を発揮した少女の一転した淑女たる振る舞いに、聖騎士も驚いているようだった。聖地全体を震え上がらせた力を見せた後だ、無理もない。

ナハトヴァールは演技指導しても意味が無いが、この子は今俺の背に乗って機嫌良くしている。抱っこちゃん人形の状態だが、無害なので問題はなかろう。

と、思われたのだが――


「一つ伺いたいのですが、貴女がこちらの方を"父"とお呼びしているのは何故ですか?」


 演技指導の根本のミスを突かれて、息が詰まった。あれほど他人のフリをしていたのに、肝心要の部分をポカしてしまった。呼び名のミスなんて小学生か、俺は!

援護をお願いしたかったがそもそも事情を説明していなかったので、忍達も不思議そうな顔をしている。改竄した頁を読んでいたヴィータ達だけが、呆れ顔だった。

伺いを立てているのはユーリ達、ここで俺から口出しすると疑惑が深まるだけだ。ここは娘達の機転に期待するとしよう。俺とは違って賢い子達だ、きっと何とかなる。

事実問われたユーリは眉一つ動かさず、当然のように言い放った。


「人はみな神の子であり、神の分身です。ならばこの御方を、父と呼ぶのは必然でありましょう」


 ……別に神の教えを否定する気はないが、今時小学生でも信じていないカビの生えた神話論を持ち出してきた!? 誰が信じるんだよ、そんなご高説!

いくらこの地が聖地であり、聖王を神とする宗教国家なのだとしても馬鹿にしている。ほら見ろ、聖騎士様だって怒りに震えてらっしゃるではないか。


えっ、震えている……?


「でしたら……この御方が、聖女様の予言にある"待ち人"だと仰られるのですか!?」

「いきなり何言ってんだ、あんた!」

「しかしあの龍の化身も、貴方様こそ神であられると断言して……!」

「落ち着いて、いいから落ち着いて!」


 ものすごい勢いで迫り来る聖騎士様を、必死でなだめに入る。事の発端であるユーリ達を睨み付けるが、父を見る我が娘の目は光り輝いていた。何だよ、その無条件の期待感は!

さっきの魔龍もそうだが、何処にでも居る一般人なら信憑性も何もない法螺話だと笑い流してくれる。ユーリ・エーベルヴァインが断言するから、確信めいた話になる。

しかもユーリだけなら身内贔屓で押し通せたのに、敵対する事になったあの魔龍まで俺を神だと断じる始末。実力者であり絶対者である彼女の承認は、太鼓判に等しい。

この連鎖が何より恐ろしい。ユーリから始まって魔龍、そして万が一聖騎士様まで俺こそ神だと言ってしまえば、その余波は聖地全土に広がる。もう止められなくなるだろう。

とにかく違うのだと、俺は押しに押して説得する。何しろ唯一絶対の神だ、簡単に降臨するはずがない。それでも気が気でない様子の聖騎士だったが、ふと顔を上げて俺を見る――


「申し訳ありません、取り乱してしまいました」

「わ、分かってくれたかな……?」

「一介の騎士たる身の上で直接問い質すような行い、恥じ入るばかりです。改めて、謝罪させて下さい」

「いやいや、こっちこそ混乱させてしまってすまない。分かってもらえて、ホッとしたよ」

「今この聖地において、神を名乗る者は後を絶ちません。聖王教会自らも神を求めているがゆえに真偽を図る事なく、これまで放置しておりました。恥ずかしい限りです。
神とはすなわち、全ての命題を知る者。真偽はいずれ最後の審判が下される時、定かとなりましょう」

「審判……?」


「全ての準備が整いながらも聖王教会が座して待ち続けていたその意味、私は今こそ確信致しました。司祭様は、他ならぬ貴方様をお待ちになっていらっしゃった。
審判の場である"聖王のゆりかご"、神の真偽は"居城の王座"が示してくれましょう」


 なるほど、聖女の予言という明確な示唆があるのなら偽物が出るのも当然か。何しろ聖王教会自体が神を求めて強者を募っているのだ、名乗り出る人間だっているだろう。

どうやって真偽を見分けるのか気になっていたのだが、どうやら聖王のゆりかごがあれば見分けられるらしい。これは俺にとっていい流れであるかどうかは、微妙だ。

真偽を見分けられる事は、いい。そもそも俺は神じゃないのだ、誤解が解けるのなら何よりである。ただ神がもし本当に選出されれば、聖女の護衛が確定する可能性も多いにある。

神を聖女の護衛とするのはどうかと思うのだが、所詮庶民である俺の価値観でしかない。誉れ高き聖王であれば、聖女の騎士となる事は教会にとって見栄えがいいのかもしれない。

いずれにしても神の御心次第であり、聖王のゆりかごが鍵を握っている。聖騎士の話を解釈するなら、司祭は俺を居城の王座に座らせる算段のようだ。


つまり王座に座って"何の反応もなければ"、俺は神ではないと確定する。だったら魔力光の事もどうでも良くなるし、隠し立てしなくて済む。よかった、よかった。


「剣士殿、御安心下さい。この場は聖王教会騎士団、団長殿が責任を持って預かって下さいました」

「おっ、そうか。面倒かけて悪かったな」

(――馬鹿、何を安心してるのよ!)

(アリサ……?)


(聖王教会騎士団預かりとなれば、ユーリ達が今後大人しくしていれば騎士団が取り纏めたのだと民衆は信頼を高めるわ。
逆にユーリ達が問題を起こせば確かに騎士団の問題にもなるけど、どうしたって民衆は問題を起こした本人達に怨嗟を向ける。当たり前じゃない、そんなの。

わざわざユーリがあの場であんたに場を預けたのに、騎士団に手柄を横取りされたのよ)


 げっ、しまった!? 庶民感覚で萎縮ばかりしている間に、横から全部掻っ攫われてしまった。ユーリ達の演出が、台無しである。これでは無用に騒がせただけだ。

庶民感覚で要られては困る、カレンの忠告が今になって身に染みた。権力闘争だと分かっていて此処に来たのに、なに良い子ちゃんでいたんだ俺は。

罪悪感なんていちいち感じていたら、生き残れない世界。そもそもローゼの封印自体は正しい手段なのだ、正しさを捻じ曲げるのだから良い子でばかりいられない。

なりふり構わずなんて言うつもりはない、手段は選ぶ。だが少なくともこの場は、威厳ある対応をしなければならなかった。頭を下げるだけの社長の何処に威厳があるというんだ。

反面、あの団長はユーリ達にあれほど怯えていたのに毅然とした対応を取った。民を守るのに相応しい態度を示したのである――立派な、騎士としての振る舞いを。


(しっかりしろ、この馬鹿。お前がこの先、アタシらを取り纏めるんだぞ)

("団"とは戦力だけ揃えばいいというものではない、教訓として次に生かせ)


 メイドであり助手役のアリサが小声で指摘し、守護騎士二人が叱責する。こいつらはちゃんと気付いていたのに、俺は人に言われるまで分からなかった。

駄目だ、どうも聖地に来てから振り回されてばかりでいる。原因は、分かっている。目標だけが先走っていて、立ち位置や行動方針を何一つ定めていない。足場が固まっていない。

聖地の現状はよく分かった。その上で、俺達は今後どうするのか? 聖女の護衛だけでも、完全に出遅れている。もう他の勢力が聖地を侵略し、利権を勝ち取りつつある。

聖地を我が物顔で歩いて、何も注意されないのがその証だ。聖地で堂々と歩ける権力がある。スポンサーともいうべき背景がある。今の俺達は、単にお客さんなだけ。

夜の一族の会議も裸一貫だったが、あの時は少なくともスタートラインは同じだった。会議という公平明大な場もあった。ここは戦場、ヨーイドンで始まるお上品な場ではない。

先の行動を決めるのは俺、全ては俺の決断にかかっている。この聖地で、俺達は何をする? この欲にまみれてしまった神の地で、何を為せばいい?


ここは異世界、時空管理局は半ば敵対関係、聖王教会は客扱い、街の人達には怯えられている。完全に出遅れた上に行動方針もなく、背景も何もない――


「リョ、リョウスケ、そんなに落ち込まないで下さい!? ミヤが力を貸してあげますから!」

「ウジウジするなよ、らしくもねえ。騒ぎにならず済んだんだ、それで良しとしようぜ」

「……そうだな。ミヤ、アギト、お前らの言う通りだ。とにかくもうこの場を離れ――」





「セレナ、見て見て!? あれ、妖精さんですわ! 可愛い、可愛すぎますの〜〜〜!!」

「異種なのか、デバイスの形態なのか――分析する必要がありますが、よろしいでしょうか?」

「二匹共連れて帰ります、すぐに専門業者を手配しなさいですの」

「かしこまりました、お嬢様」





 強者とは、人の上に立つ存在。ユーリ・エーベルヴァインは力で人を圧し、プレセア・レヴェントンは武で人を払った。彼女達二人と異なりながらも、同種の存在。

聖王教会騎士団が収めた場でありながら、恐怖と不安に慄いていた人達の声が途絶える。徐々に、ではない。一瞬、一秒も必要とせず、弱者達を命じずに黙らせた。


豪奢なドレスを着た美少女と、清楚なメイド服を来た美女の二人連れ――豪華絢爛な、覇の存在。


「おい、下民。その二匹を、カリーナに献上するですの」

「……ミヤとアギト、この二人の事か?」

「本来なら屋敷に届けさせるところだけど、特別にこの場で貰ってあげる。カリーナの温情に感謝しやがれですの」


 どういう立場なのか分からんが、どういう人間なのかよく分かった。聖騎士や聖王教会騎士団、そして何より大勢の人々を前にしての傲岸不遜なこの振る舞い。若き暴君であった。

魔龍や猟兵団、騎士団のような剣を振るう強者ではない。剣を振るわせる立場の天上人、権力者の頂点に君臨する人間。ふざけた要求も、当然のように許される力の持ち主。

傍に控えるメイドさえも、当然のように受け止めている。厄介な人間が、現れてしまった――

カレンやディアーナと同じ、権力者。権力闘争の強者、剣では斬れない立場の暴君。ある意味、魔龍よりも手強い敵だった。


「お話の最中、失礼致します。カリーナ様、この方々は聖王教会の司祭様のお客人なのです」

「それがどうかしたの、聖騎士。このカリーナが献上しなさいと命じた。答えは一つですの」

「しかし――」

「聖騎士様。カリーナ様への御意見は、『カレイドウルフ商会』への正式な抗議と受け取ります。聖王教会騎士団の意思と、受け止めてよろしいでしょうか?」

「……っ」


 まずい、直感的に悟った。あのメイドの指摘そのものは権力者としての立場ならある種正しいのだが、この騎士は権力には絶対ひれ伏さない。

となれば聖王教会騎士団の意志となり、カレイドウルフ商会とやらと権力闘争に発展する。メイドも恐らく分かっていながら、指摘している。戦う気でいる。

教会と商会、どちらが上なのか明確なラインは引けない。ただ言えるのは金を握る存在と神を手にする存在が戦えば、聖地が確実に荒れるということだ。

火種が満載の聖地で宗教団体と大商会が権力争いをすれば、間違いなく今以上にこの街が荒れ果てる。人々の不安や恐怖は膨れ上がり、ますます生活を脅かされるだろう。

その発端がミヤとアギトであれば、二人共権力争いに巻き込まれてしまう。この二人を、傷付けさせてたまるか!


「聖騎士様、かまいません。この場は、俺に任せて下さい」

「剣士殿……?」

「カリーナ様、と仰いましたか。貴方様に献上しなさいとは、どういう意味ですか?」

「無論、カレイドウルフ商会への献上を意味しているですの。分かるわよね、下民」

「いえ、サッパリ分かりません」

「……それはカレイドウルフ商会を敵に回す、ということでしょうか?」


「いやそもそも、カリーナ様やメイドさんが何を言っているのか、全然分かりません」


 当たり前だがこの戦い、勝ち目なんてありはしない。絶対に、ない。ユーリ達だって勝てない。どれほど力があっても、法が制する世界の中では力を振るえないのだ。

逆にあいつらは、法を捻じ伏せて権力を振りかざせる。単純な殴り合いならともかく、勢力争いというのであればルールを支配した方が上だ。

権力者が嫌いだった頃の俺なら問答無用で引っ叩いていたが、先程アリサ達に注意されたばかりだ。人の上に立つ振る舞いをしろと、個人の感情では動けない。

だからといって、アギトやミヤを渡す訳にはいかない。どう見ても優しく扱うようには見えない。良くてペット扱い、悪ければ実験動物扱いされるだろう。

ならば、どうするか。さっき反省した庶民感覚を、逆に生かす――すなわち。


何も知らない小物として、ひたすらとぼけてやる。


「どうして献上しなければ、カレイドウルフ商会を敵に回す事になるのですか?」

「こ、このカリーナ・カレイドウルフを知らないのですの!? この、無礼者!」

「はぁ……そう仰られても、何しろ今日来たばかりなので、何とも……」

「カレイドウルフ商会を敵に回すということは、この聖地で一切商いが出来なくなります。仕事も出来ず、居場所も無くなり、身動き一つ取れなくなる。
それでもよろしいと、貴方は仰るのですか?」

「なるほど、私達を心配してくださったのですね。ありがとうございます、親切な人達なんですね!」


「……、カリーナお嬢様。あの男、これ以上ない田舎者です。分かりやすく言えば、お馬鹿さんです」

「ううう、これだから他所者は嫌いなんですの!」


 銀髪のメイドさんが美貌を苦しげに歪め、カリーナお嬢様が地団太を踏む。小物どころか田舎者扱いされてしまったが、開き直ってこの路線でとことんやってやる。

満更、でたらめじゃない。商会も企業の一種という程度の想像でしかないし、カレイドウルフ商会なるものがどれほどの組織なのかよく分かっていない。

想像がつかないのであれば、想像がつく相手をイメージすればいい。カレンやディアーナ達、権力者のお嬢様方のお相手には慣れている。


……何で剣士とは何の関係もないことに慣れているんだろうな、俺……切腹したくなってきた。


「お美しいお二方。そもそも献上というのは、何をどうすればよいのでしょうか?」

「どういう意味だと聞いたのは、そういう意味なんですの!? 根本的に何も分かっていないですの!」

「はい、その通りです!」

「胸を張ってどうするんですの!? ああ、もう、イライラするですの……! とにかく献上――」

「お嬢様、この田舎者は献上という意味を分かっておりません」

「……セレナ。こういう場合、献上以外にどう言えばいいんですの?」


「お任せ下さい、お嬢様。このセレナ、田舎にも精通しております。コホン――『いいからよこせ、ボケ』」

「嫌じゃ、ボケ」


「『申し訳ありません。どうしてもこの子達をお渡しすることが出来ません』、と仰っておられます」

「本当にそう言っているんですの!? 何だかこう、心の底からむかっとさせられたような気が……!」


 つい素で返してしまったが、わざわざ素の言葉をメイドさんが丁寧語に置き換えてくれた。やばい、あの美人主従コンビ、色んな意味で手強いぞ。

普段他人には命令してばかりのお嬢様だと、命令以外どう対応すればいいのか分からない。ならば罰せればいいのだが、その罰する行為の意味も知らないと脅迫する価値も何もない。

ボケ老人相手に、押し売りするようなものだ。恐喝しても、脅迫しても、右から左へ流されてしまう。


だって、何も分からないのだから。


「こ、こんな屈辱は、初めてですの……!」

「そうですか、光栄です」

「何で喜んでいるんですの!? あーもう、セレナ、どうにかするですの!」

「この田舎者には、カレイドウルフの名は通じない様子。お嬢様がお望みのペットは見つかったのです、今日のところはお帰りになり対策を練りましょう。
彼らは今日聖地へ参られたばかり、まだ明日もございます」

「仕方ないですわね――おい、田舎者!」

「はい、何でしょう」

「その二匹は明日、このカリーナ・カレイドウルフが絶対貰い受けに行くですの。覚悟しやがれ、ですの!」


「ありがとうございます! よかったな、お前ら。こちらの高貴な御方が直々に、お前達の友達になって下さるそうだぞ!」

「本当ですか!? ありがとうございます、カリーナ様! ミヤ、とっても嬉しいですー!」

「ワーイ、ウレシー」


 ミヤはとても無邪気に、アギトはとてもどうでもよさそうに返答する。社交辞令に乗ってくれるとはお前も成長したな、アギト。すごく、だるそうだけど。



「……ともだち……カリーナの……?」



「お嬢様?」

「!? ふ、ふん、こんな田舎者にこれ以上付き合ってられないですの!」


 遠巻きに見守る人々を蹴飛ばして――本当に蹴飛ばした!?――カリーナは、メイドを連れて去っていった。いやはや、とんでもないお嬢様だった。

明日とか言っていたが、あの調子だと渡すまで諦めなさそうだ。トボケ続けるのも限界はあるだろうし、断れば大商会を敵に回してしまう。

俺達の目標は聖女の護衛と聖王教会の承認、商売は関係ないように見えるが、この聖地を支配する大商会であれば金の流れを握られると圧倒的に追い詰められる。

戦争時、補給を絶たれれば死ぬだけだ。口振りではこの聖地における仕事から商売まで、全てを担っていると言っていい。敵に回すのは、まずい。

まあ、とにかく、


「庶民の、勝利だな!」


(……何に勝ったのよ、何に)

(教訓にして次に生かせとはいったが――)

(――転んでもただでは起きないな、この馬鹿)


 身内の評価は、辛めだった。身内贔屓は嫌だが、身内だからこその厳しさも辛い。何にしても、来て早々色んな騒動に巻き込まれたな。

上を見上げると、すでに夕暮れ。異世界であれど日が昇り、やがて暮れる。光に満ちていた聖地は閉ざされて、二つの月が登る夜が訪れる――神が住まう地の、夜の時間。


聖地であれど昼には昼の、夜には夜の商売というものがある。










<続く>








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