とらいあんぐるハート3 To a you side 第七楽章 暁は光と闇とを分かつ 第十六話







 ……。


















"ウサギ、ほら起きて。早く帰らないと、ディアーナに怒られるよ。明日も一緒に、ベルリン観光しようね"

"お譲様、ご無事で――こ、これは!?"

"来たんだ、ミカミ。あのね、ウサギが全然目を開けないの。日本人って、ねぼすけさんだね"

"……龍……あの子・・・の友達にまで、手をかけたのか!"

"あはは、なーにその言い方? まるで、ウサギが死んじゃったみたいに聞こえるよー"

"……お嬢様……"

"ウサギはね、クリスの事が大事だと言ってくれたの。クリスを一人ぼっちになんてしないんだよ"

"……"

"どうしたの、ミカミ? 何で、泣いてるのー? ウサギ、起きて起きて。大人なのに、ミカミが泣いてるよ"

"……人を呼んできます。ここを動かないでください!"



"ウーサーギー、起きて。ね? 美味しいお菓子、買ってあげるから。



……起きて……起きてよぉ……ウサギ……"


















 ……。


















"テロリストによる爆弾に、市街での銃撃戦。怪我人は出ていますが、死傷者は出ていません。
日本の若者の勇気ある行動が無ければ、大量の犠牲者が出ていたでしょう"

"表向きの話は結構です。テロリスト達を掃討した、その日本人の容態を聞かせて下さい"

"……手は尽くしましたが……明日までは、もたないでしょう……"

"私の血を使って――"

"お、お待ち下さい、ディアーナお嬢様!? 私がボスに殺されてしまいます!"

"……っ……クリスには、私から説明しておきます。一緒に搬送されたマンシュタインの容態は?"

"全身の火傷が酷く、翼も切除しました。こちらも危険な状態です"

"容態が悪くなれば、すぐに私に報告して下さい。彼の御家族には、私の方で調べて連絡しておきます"

"これほどの事件です。警察も総力を上げて捜査に出るでしょう。病院側で隠しておくのも、限界があります"

"分かっています。彼の遺体は……私が、引き取ります"

"分かりました……お譲様、どうかお気を確かに"



"……そうですか、私が気落ちしているように見えるのですか……そうかも、しれませんね"


















 ……。


















"血液検査を行いました。信じられませんが、カーミラ・マンシュタイン様の血液が適合しています。
この日本人の血液ならば、カーミラ・マンシュタイン様への輸血も可能です"

"ロシアのマフィアは?"

"ご命令通り、死亡したと連絡してあります"

"結構。よくやってくれました"

"……あの、この件については――"

"相手はロシアンマフィア。所詮は、平穏な世を乱す悪なのです。
マフィアのチンピラと、マンシュタイン家の後継者。どちらを優先するべきか、考えるまでもないでしょう。

裏切るのは貴方も心苦しいでしょう。御安心下さい、必ず貴方と貴方の御家族を一族に迎え入れます"

"お、お約束頂けますね!?"

"勿論です――当主の方が見えられていますので、貴方は下がっていて下さい"


"氷村君・・・、娘の容態はどうなのだ!?"


"残念ですが、極めて危険な状態です。事前に御連絡差し上げたとおり、例の日本人の血液を使わなければなりません"

"ああ、何という事だ……! アジアの汚らしい人間の血を、我が家に入れるなんて……!"

"仕方ありません。少なくとも、日本人は確実に死にます。この一件が、他の家に発覚する事はないでしょう"

"し、しかし、その……娘の凶行の件まで、隠し通せるかね?"


"僕に考えがあります。この日本人に、ドイツの英雄となってもらいましょう"


"と、いうと?"

"龍が起こした爆破テロ事件を利用するのです。幸いにもこの日本人、単なる一観光客ではありません。

ネット上で世界中に公開された動画に登場する、日本の侍。
ドイツで一躍ニュースとなった、黒い翼の天使。
ベルリンで起きた爆破テロ事件を阻止した、剣道着の男。

爆弾からアメリカの要人及び観光客を救い、銃撃戦から市民を守り、テロリスト達を討伐した男。それが彼です。
今はまだ一つ一つが点でしかありませんが、一人の日本人に結びつくのは時間の問題でしょう。事実、既に顔写真が出回っています。

我々が、その時間を早めるのです。情報公開を行い、大々的に宣伝する事で"

"日本人の武勇伝を明るみに出して、娘の凶行を闇に隠すという事か"

"彼が刀一本でテロリスト達を倒したのは、紛れもない事実なのです。真実の影響力は、途方もなく強い。
手回しは既に終えています。海外の大手メディアに日本のマスコミ等、ネット上にも爆発的に広まるでしょう。

絶好の目眩ましとなりますよ"

"彼の存在が公になると、死亡理由も疑われるのではないか?"

"テロリストの銃弾で倒れた――事実でしょう? 人間は死して、初めて英雄となれる。

昨今の日本の国際的評価は、年々低くなる一方。外交面のみならず、政治面でも世界中から嘲笑されている。
ドイツという大国の平和に貢献し、アメリカの偉大なる要人を救った彼は、日本中から讃えられるでしょう。

そして、その死に涙する――憎まれるのはテロリストであって、ドイツの一族ではない"

"ロシアの屑共は事実を知っているぞ"

"ロシアのマフィアは、テロリストと繋がっている。真実を知っても、明るみには出せませんよ"

"……君は恐ろしい男だ、氷村君……"

"死体の処理と工作も含めて、マンシュタイン家の御力が必要となります。お力添えいただけますか?"

"ま、任せておいてくれ! あらゆる権力を行使して、この男をドイツの英雄としてみせよう!
本当に、君のような男を当家に迎え入れられて嬉しく思う"

"ドイツの名門貴族カーミラ・マンシュタイン様の花婿となれる事を、僕も誇りに思います"

"ははは、そう畏まらないでくれ。これからもよろしく頼むよ、氷村君"

"今晩御予定のパーティには、カーミラ様の代理で私が参加いたしましょう。
各界で御活躍されている皆さんなら、爆破テロ事件だけではなく日本の侍についても聞き及んでいる筈。

同じ日本人として彼の勇気を讃え、彼の死を悼みましょう"

"君がいる限り、我が家は安泰だな"



"フフフ……お前が悪いんだよ、さくら。お前が人間の男なんかに、夢中になるから――"


















 ……。


















"間もなく死ぬけれど、今の気分はいかがかしら? 声を上げる元気もないでしょうけどね、ククク"

"猿と言ったけれど、訂正するわ。今のお前は虫ね、踏み潰された虫ケラ"

"喜びなさい。虫の息のお前を役立ててあげる。奪われた血ごと飲み干して、私は黄泉帰る"

"分かる? 人としてのお前の生は、私を生かす為にあったの。お前は私に捧げる為に、今まで生きてきたのよ"

"傑作ね。私を否定しておきながら、私を肯定してお前は死ぬ運命にある。
とんだ喜劇、哀れなピエロだわ。アハハハハハハハハハハハハ!"

"……"

"……どうしてよ……"



"どうしてまだ、生きようとしているの!?"



"意識もないのに!"

"剣も折れたのに!"

"身体はもう、死んでいるのに!"



"なのに、何故まだ足掻こうとしている!?"



"致命傷を負って……まだ立ち上がろうというのか!"

"最後の血の一滴まで、戦うつもりなの!?"

"……死をも抗う精神力……孤独に戦える心の強さ……一体どんな人生を歩んできたの、お前は?"


"ふん、もういいわ……お前はどうせ、助からない"



"無駄に足掻いて、勝手に死になさい"












 ……っ!


















『――本日未明、ベルリンで爆弾テロとみられる爆発があり、通行中の市民及び観光客が負傷する事件が発生。
一般人で賑わう場所を狙う悪質なテロに、治安当局を中心に捜査を開始。犯行グループ4人が、現行犯逮捕されました。

目撃者の話によると、日本人観光客が発見した爆弾を投擲。市街での被害を未然に防いだとの事です。

和服姿の日本人観光客との事で、身元の確認が急がされております。
市民3人、観光客15人が負傷。前年ではジャカルタで爆弾テロが発生しており、引き続きテロ事件への警戒が――

ここで――続報が入りましたので、お知らせします。



先程お知らせした日本人観光客ですが――病院内で、死亡が確認されました』


















"Auf Wiedersehenさようなら"



















































<続く>







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