とらいあんぐるハート3 To a you side 第六楽章 星たちの血の悦び 第十九話







八神はやてのサプライズパーティ、懸念材料は幾つかあったが大成功だった。

高町家と親交を深め、友達と語り合い、知人を増やしたはやては笑顔が絶えない。

和やかな雰囲気は肌に合わなかったが、年に一度なので我慢。

はやてから感謝感激のお礼を言われる前に、タイミングを見計らって撤退しよう。何度礼を言われても困る。

パーティの途中、役目を終えて暇だったので知り合いと世間話をした――


『レンの奴、術後の経過は順調のようですよ。医者の言う事をきちんと聞いて、回復に専念しているらしいです。
早く面会が自由になればいいんっすけど……』

『よかったじゃないか。今なら殴りたい放題だぞ』

『そうそう、あの憎たらしい緑亀をボコボコに――って、卑怯じゃないですかソレ!?』


 空手少女はライバルの帰りを胸を熱くして待っていた。


『リョウスケ、フィリスから聞いたよ。シェリーから手紙が届いたって本当?』

『お前らは何でそう馴れ馴れしく呼ぶんだ!? テレビでも放映されたレスキュー隊のエースだぞ』

『うふふ、それは内緒。あの娘と仲良くなったら教えてあげるね』

『ならん、ならん。良心的な女性なら、ファンレターの返事くらい書くだろ。二度はねえよ』

『出してみないと分からないよ。私で良ければ、また英訳してあげるよ。リョウスケの手紙が楽しみだもん』

『……本音がダダ漏れですよ、お姉さん……
うちには英字新聞を読むメイドがいるから大丈夫だ』

『アリサちゃん、英語の読み書きが出来るんだ!? すごいね……リョウスケも英語を勉強してみるのはどうかな?
新しい言葉を覚えるのは楽しいよ。きっと、シェリーと会話が出来るようになるよ』

『あのセルフィ・アルバレットと簡単に会えるか、ボケ』

『日常会話から始めてみようか? 私と少しずつ話して慣れていこうね』


 個人レッスンを期待するほど、俺はフィアッセを見誤っていない。天然美人の頭の中は、セルフィとの海外交流だけだ。

丁重にお断り申し上げたが、運悪くフィリスに聞かれてしまった。お人好しのお節介に、剣は通じない。

耳寄り情報によるとクロノ達の世界でも英語なら通じるそうなので、世界への旅路を考慮して教えて貰うことにした。

出来ても出来なくても損は無い。

――余談だが、フィアッセやフィリスに翻訳等の仕事関連をアリサが相談しているらしい。何者なんだ、あのメイド。


『おにーちゃん、コレ預かっています』

『CD? 音楽を聴く趣味は……最近興味が無くは無いけど、中身は何だ。お前の子守唄か』

『な、なのははあまり歌は得意ではなく!?
これは音楽CDではなく、映像データが入ったDVDです。

はやてちゃんにも渡したんですけど……フェイトちゃんからの、ビデオレターです』

『! あいつ、元気にしてたか?』

『はい! プレシアさんやアリシアちゃんともときどき話しているそうですよ。
はやてちゃんの誕生日プレゼントという事で、ユーノ君が送って来てくれたんです』

『そういうところはマメだな、あいつ。
あれ……? どうして二枚もあるんだ』

『クロノ君からです。おにーちゃんに直接渡してほしいとの事でして……
誰にも見せないように、と念押しされています』

『見るなと言われているのに、何で見るんだお前は!』

『見てません、見ていませんよ本当に!? そうだよね、レイジングハート!』

『YES』


 ちっ、証人がいるとからかうのが難しい。

それにしてもあの執務官め……決闘が終わったばかりなのに、また何かきな臭い物を送ってきやがって。

ただでさえ命を狙われているのに、これ以上の火種は勘弁してほしい。


『宮本さん、今日は月村さんは来られないんですか?』

『電話したけど、留守番センターだ。
俺は別にどうでもいいけど、はやてが世話になったからな。招待はするつもりだった』

『家庭の事情との事で、学校も休んでいる。
俺も気にしていたんだが……宮本も知らないのか。心配だな』

『ハワイでバカンスしてるんじゃねえの、あのマイペースお嬢様。
気になるなら、見舞いに行ったらどうだ?』

『クラスメートとはいえ、突然訪ねるのも迷惑だろう。
気軽に家になんて――待て。まさかお前はよく月村の家に行っているのか?』

『……宮本さん』

『何なんだ、その目は!
童貞に処女は想像力だけは豊かで困るぜ――イデデデデッ!? 食器で殴るな、貴様ら!』


 ……月村は一応命の恩人ではあるけど、俺も俺でやる事が多いからな……

暇で暇でどうしようもない時に、顔を出してやろう。


――とまあ、それなりに雑談してパーティは終わった。


会場の後片付けは予想通りはやてが申し出たが、主賓の座から下ろすつもりは無い。

高町桃子店長殿の厚意に甘え、はやては今晩高町家にお泊まりする事になった。


「今日は本当にありがとうございました! 思い出深い誕生日になりました」

「なのはの部屋で一緒に寝ようね、はやてちゃん。パソコンもあるから、フェイトちゃんのDVDが見られるよ!」

「わたし、友達の家で泊まるの初めてやから、何やこう……ウキウキするわ」

「そんじゃあ、おやすみ」

「――いやいやいや、ちょっと待ちいな!?」

「待って下さい、おにーちゃん!?」


 気を利かせて控えめに挨拶したのに、慌てて引き止める幼女二名。

生爪を剥がしてやろうか。

我侭なお嬢様方を、俺は優しく諭してあげた。


「パーティは終わったでしょう。子供はもう寝る時間だよー」

「ですから、おにーちゃんも一緒に帰りましょうよ!
おにーちゃんのお部屋、おかーさんが毎日綺麗にしているんですよ」


 御客様用の和室を俺の部屋にしていいのか、あの未亡人。宿賃もまだ払ってないのに。

あまり否定的な態度を取ると、五月の二の舞になる。

かといって守護騎士達を放置したまま、高町家で安らぐのもまずい。俺は昨晩一睡もしてないのに!


「分かった、分かった。今晩世話になるよ。ただはやてだってフィリスとかにお礼の挨拶とかするんだろ?
俺はそういうのかったるいから、ちょっとぶらぶらしてくる」


 半分以上本音である。たまには一人にさせてくれ。

俺の性分をいい加減理解してきたのか、分かりましたと素直に頷いてくれた。

ただ高町家の愛娘とは違い、八神家の大黒柱は釘を刺すのを忘れない。


「あんまり遅くなったらあかんよ。皆、心配するから」

「あいつも連れて行くから安心して、先に寝てろ」


 フィリスや桃子と談笑していたアリサは、ご指名に気付いて手を振る。

周囲の観察を常に忘れず、主の呼び出しに颯爽と応じるメイド。心得ているな。

誰かに教わったのか、自分で学んだのか――職務意識の高さに感心する。

ともあれ、お開きだ。


(約束しちまったからな……一年後、こいつらと一緒に――)


 優しい時間は間もなく終わる。恩返しは今日で終わりだ。

明日からまた他人に戻るけど、今日という日を無事迎えられた事だけは感謝しよう。


また来年――祝福の風が吹く事を、願って。


自分の願いは叶えられない・・・・・・魔法使いに、曇り空は星の光すら見せてくれなかった。

















夜の闇に沈む、ノスタルジックな廃ビル――

放置され荒れ果ててしまった建物に、この世ならざる者が潜んでいるとは仏様でも気付くまい。

五月に見つけた俺の新しい家は幽霊に魔導師、騎士に妖精と、たった一ヶ月で幻想の城になっていた。

その一ヶ月が遠く感じられるのは、濃縮された日々を過ごしているからだろうか?

隣にアリサが居るだけで、過去に出来る自分は単純なものだと思う。


さて――過去に縛られた騎士達と、対面しよう。


「リョウスケ、アリサ様。はやてちゃんはおウチですか?」

「なのはの家に今晩泊まる事になったの。はい、お土産」

「ありがとうございます、アリサ様! ミヤはもうお腹ペコペコで……わあっ!
皆さん、見て下さい! 『Happy birthday!』とチョコレートに書かれています!?」


 今時幼稚園児でも放置するチョコレートプレートに感激するチビスケ、つくづく純粋な奴である。

あむあむと口の周りをベタベタにしてチョコを齧る姿を見ていると、誕生日会で気を張った自分が馬鹿馬鹿しくなる。

こいつは本当、幸せな奴だよな……


――ん……? ヴィータとかぬかす赤毛のチビが、少し羨ましそうに見ている?


俺の視線に気付くと舌打ちしそうな顔でソッポ向いた、けっ。

アリサはケーキ箱と一緒に持って来た魔法瓶と、白い紙コップを並べていく。

コポコポと丁寧な作法で温かい紅茶を入れるアリサに、ノエルの面影が重なった。

紙コップに魔法瓶、庶民的なお茶のセットなのに気品が感じられる。

――飲むと、疲弊した心が和らいでいく……


「黙って協力してくれてありがとう。おかげで、思い出深い誕生日会になったわ」

「我々としても、主の御迷惑になる事は避けねばなりません。
アリサ殿の御配慮には感謝しています」


 大らかに語りかけるアリサに、桃色の髪の女性が静かに返礼する。

凛々しい顔立ちに浮かぶ微笑は綺麗で、不覚にも一瞬目を奪われた。

俺には全く向けられないから、余計に。


「折角のパーティなのに、途中で脱け出して本当にごめんなさい。
私達は場違いに思えてしまって……」

「――失礼をした」

「決闘を申し込んだのはあたしよ、気にしないで。貴方達の気持ちも分かるから」


 思うところがあったのか、シャマルやザフィーラ――二人の騎士にも昨晩の覇気が感じられない。

敵前逃亡と笑うつもりは無いが、勝者が敗者にかける言葉は無かった。

事を荒立てず俺は紅茶を口に運んでいると、アリサが落ち着いた様子で話し始める。


「――はやてを第一に考える貴方達の心遣いは、友人として嬉しいわ。
たとえ、作られた忠誠であっても」

「アタシたの忠義が紛い物だって言うのか!?」

「今日、証明して見せたわ」


 俺とはやての間に特別な何かがあるのか分からないが、未来へ繋ぐ約束をした。

過去の経験や蓄積されたロジカルな事実でしか答えを出せなかった騎士達は、口を閉ざす。

主への絶対遵守は決して、八神はやて個人を尊重して運用されているのではない。

『夜天の魔導書』の主に相応しい資質――書が自ら選出した人間だからだ。それ以上でもそれ以下でもない。


「……主がこいつを必要としているのは分かった。
けど、この野郎が主の命を脅かしたのは事実じゃねえか!」

「しつこいな、お前も! はやてと話し合ったんだよ、その件は既に!」

「許して貰ったからって調子に乗るんじゃねえ!
今お前が主を大事に思っていても、この先どうなるか分からねえだろ!?
人間なんて簡単に心変わりするじゃねえか!!」

「未来が分からないのは、お前らだって同じだろうが!
主を裏切った騎士なんぞ、歴史上にゴロゴロいるわ!」

「今の言葉、すぐに取り消せ!!」

「おおう、殴る気かぁ? 人を見る目の無い騎士様は暴力に訴えるしか脳がねえんだな。
殴りたいなら殴れ、鼻で笑ってやるよ。

はやてに気持ちが通じただけで、俺はもう充分だ。お前は一方的な忠誠振り回していろよ」

「テメエ……!!」


 紅の少女の瞳が蒼く染まる――

背筋が凍るような怜悧な殺意に貫かれて、俺は微動だにしなかった。

いい加減、腹が立っていた。

はやてに責められたのなら仕方が無い、甘んじて受け止めよう。ミヤとの融合で命を奪いかけたのは事実だから。

ただ、今のこいつらにアレコレ言われる筋合いは無い。

はやてを主とする騎士とか何とかほざいているが、単なる自称だ。アリサとの決闘ではやてを理解していない事は判明された。

偉そうに言いやがるが、魔導書がはやてを選ばなければ違う人間に尻尾を振っていたに違いないのだ。


「何度も言うが、ミヤとの融合についてははやてとよく話し合ったんだ。いちいち蒸し返すな」

「開き直りましたね。所詮、あなたはその程度の人です。無責任に主を危険に晒すだけ」


 金髪女の高飛車な物言いに、血が上っていた頭が逆に冷めた。

ツンツンした態度が鼻につく。

冷たい視線を浴びて、滾る心に冷水をぶっかけられた不快感だけがあった。


「身元不明の怪しい連中の方が、よほど迷惑だろうに」

「――我々が主の害になるというのか!?」

「お前らが勝手に主と決め付けているだけだろ。
迷惑な押しかけ騎士に怪しげな力、平和な世界に生きる一庶民には持て余すだけだ。
此処は魔法なんぞ必要の無い現代日本だぜ、騎士さんよ」

「貴様……」


 鋭い牙を光らせて、猛獣のような唸り声を上げる男。

獰猛な肉食動物を前にした小鹿の気分だが、口元を無理やり歪めて笑う。

はやてを本当に大切に思っているならともかく、偽りの忠義を掲げる騎士相手に引けない。

高町家は例外中の例外、一般家庭で突然こんな怪しい連中が押しかけて受け入れられる筈が無い。

当然のような顔をするこいつらを見ていると、昔の自分を思い出して苛々する。

――睨み合う俺達の間に、蒼銀の仲介人が飛び込む。


「喧嘩はやめて下さいです! 今日はマイスターはやての生まれた日なんですよ!?
思い出を汚す行為は、ミヤが絶対に許さないです!」


 妖精の髪に結ばれたリボンが、悲しげに揺れる――

優しさの象徴が訴える平和への願いに、俺も騎士達も渋々矛を収める。

はやての誕生日に血を見せたくないと、最初に誓ったのは俺だ。自制せねばなるまい。

腐敗したビルの中で、窮屈な気まずい空気が流れる……

ミヤは困りきった顔で右往左往して、頼みの綱とばかりに紅茶を飲んでいるアリサに――寛いでる!?

アリサはコクコクと美味しそうに紅茶を飲み、フゥッと一息ついた。


「両者の言い分はよく分かったわ。コレで決まりね。
はやてともきちんと相談しないといけないけど――とにかく。


明日からはやての家で、一緒に生活しましょう」


 本当に話を聞いていたのか疑わしい提案を、平然と吐き出すメイドさん。

険悪な空気はどこへやら、皆呆気に取られた顔をしている。

全員を見渡して、アリサはどこか楽しげに語り始める。


「あたし達は信頼関係を結べていない。お互いが、お互いを疑っている。
このまま言い争っていても不毛よ。
まずは距離を縮めて、相手を知る事から始めましょう」

「ぜってぇー、やだ! 誰がこんな奴と!?」

「立場が分かっていないようね。
八神はやてが今信頼しているのは、あたしの主――宮本良介。

あなたははやてと主従関係も結べていない、赤の他人なのよ」

「ぐっ……そ、そりゃあそうだけど……」

「あたしも良介を主として、新しい生活を始めたばかりなの。
生まれや年齢は関係なく、主を持つ身として――共に学んでいける関係を築きたいの。

鉄槌の騎士ヴィータ、他の誰でもない貴方と」

「……アリサ……

そ、その……アタシも――お前の事、すげえっていうか……仲良くなってもいいかなって」


 うわ、顔真っ赤だぞアイツ!? 感動と尊敬で、ルビーの瞳がキラキラ光っている。

実力の差は明白なのだが、この瞬間立場は完全に決定した。

微笑みと共に差し出された手を、ヴィータは顔を背けながらも握りしめている。

俺の前では獰猛な少女が、借りてきた猫のように大人しくなった。


「――我々に、貴方の指揮下に入れと?」

「違うわ、あくまで対等な関係。貴方達が危険視しているのは魔導書への強制アクセス――ミヤとの融合。
疑わしきを罰するのではなく、危険な芽を安全に摘めばいい。

貴方達4人が交代で、良介を24時間監視するの。同じ屋根の下なら可能だわ」

「もしも彼が原因で主に危険が及んだ場合、私は彼を排除して改竄した頁を回収します。
それでも宜しいのですね……?」

はやてが望まぬ・・・・・・・行動であったのならば、かまわないわ」


 コラコラコラ、当事者を差し置いて何を勝手に話を進めてやがる!?

アリサめ……全てを解決する策とはこの事か!

俺に何のメリットもねえじゃねえか、この野郎。

魂の叫びが届いたとは思えないが、ザフィーラという名の犬耳野郎が問う。


「この男の監視に異存は無いが、貴女に利する案とは思えないのだが?」

「主の好まない悪評が流れるのは、気分の良いものではないわ。
守護騎士ヴォルケンリッター、貴方達のような騎士に認められれば従者として鼻が高いもの」

「我らが私情でこの男を見定めるとは――」

「愚問ね、盾の守護獣ザフィーラ」

「――恐れ入った、アリサ殿。貴女の真心に必ず報いよう」


 えええっ! はやて以外の人間に頭を下げていいのか!?

おっさん、おっさん。その娘はつい先月までこの廃墟で漂っていた亡霊なんだぞ。

何一つ事態が掴めないのに、理解だけが進んでいく――


「……少し我々だけで相談させて頂いて宜しいか、アリサ殿。
ミヤを含めて、今の案を検討したい」

「ゆっくり話し合って。あたしも主に説明しないといけないから」


 その通りだよ、この最悪仲介人め!

騎士達が一箇所に集まって論議、その隙にメイド服の天才少女を連れ去る。

そのまま廃ビルの外に担ぎ出して、厳かに告げる。


「お前、クビ。あの世じっかに帰れ」

「ちゃんと説明するから、そんな事言わないでよ!?」


 百戦錬磨の騎士達には堂々と挑む少女が、俺の解雇通告に大慌て。

涙を滲ませて縋るアリサに、背徳感のある悦びが胸に湧き上がる。

他人には見せない弱さが可愛いんだよな、こいつ。


「通り魔か、確信犯か――いずれにせよ、良介は一度命を狙われた。この策は再犯防止に役立つの」

「その為の24時間体制か? あいつらが俺を守る訳ねえだろ」

「心理的な抑止力になるの。騎士達が始終傍にいるだけで、犯人は相当やりづらいわ。
ヴィータ達は良介の一挙一動を監視――彼女達の強い警戒心が伝わって、犯人の足を止める。

なりふりかまわずなら、好都合。巻き込まれた騎士達は、犯人を必ずその場で成敗してくれる」


 敵意と疑念で漲っているからな、あいつらは。

遠目から犯人が様子を伺っても、険悪な空気に呑まれて気後れしそうだ。

例の街灯投擲攻撃では俺以外も容赦なく巻き込むので、他人事ではいられない。

自分の身は自分で守るからな、俺も。


「融合だって普段やらないでしょう。はやての命が危ないから」

「気が狂う痛みに襲われるからな、頼まれたってやりたくない。
ジュエルシード事件も解決したし、今後法術を使う機会もねえだろ」

「……良介の場合、そうとも言い切れないから怖いけど……
とにかく、しばらくの我慢。護衛がついてると考えなさい。

これから先一緒に生活を過ごせば、良介の良い面を評価してくれるわよ。信頼も得られるわ」

「……言い切っているけど、人に好かれる男じゃねえぞ」

「根拠はちゃんとあるわよ」

「どんな……?」


 共同生活だからといって、愛想良くするつもりは無い。

嫌われている相手なら尚の事、媚びたりはしない。

売られた喧嘩は買う、殺伐とした睨み合いの日々が待っているだけ――なのに、アリサの笑顔に陰りは無い。



「……。男に陵辱されて、命まで奪われたあたしに――」



 曇った空を引き裂く、月の光――

スポットライトに照らされた少女は美しく、舞い踊る。



「――恋をさせたのは貴方よ、良介。あたしの心は全て貴方に奪われたの、ご主人様。
プログラムにもきっと、心を与えられるわ」



 自分自身を証拠として、アリサ・ローウェルは幸せの微笑みを向けてくれた。

プログラムに心、か……出来損ないの魔法使いに相応しい仕事かもしれない。

空には歌を、窓には星を――君には、夢を。


かくして"家族"という題名の御伽話が、始まろうとしていた。

















「……ところでさ。はやての騎士になるなら、どの道共同生活になるんじゃないか?」

「だから、先に提案したのよ。発言権が強くなるでしょう、ウフフ」


 ――怖っ!?


















































<続く>







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