とらいあんぐるハート3 To a you side 第五楽章 生命の灯火 第六十一話







 ようやく心配性の主治医に外出許可を貰って、俺はリンディと共に病院を出て一度腰を据えて話し合いを行う事となった。

この前は俺が巨人兵との戦闘で重傷を負っていた上に、艦内で騒ぎを起こして話し合うどころではなかったからな。

俺も聞きたい事は山ほどあるので、場所を移してリンディ達と今後の相談をしたかった。


場所は当然――世界を羽ばたく船、次元空間航行艦船アースラ。


リンディ・ハラオウン提督が指揮する艦で会議が行われる。

ただ時空管理局を警察のような組織だと想像していただけに、取調室ではなく――艦長の私室と聞いて驚かされた。

海鳴町からアースラへ移動する際、艦から連絡を取り次いだ相手も当然反対した。



『……艦長、こんな奴を部屋に呼んだら隅々まで荒らされますよ』



 そう――このブタゴリラである。

空中に浮かぶ魔法陣に映し出された、制服を着た一人の女。

愛嬌ある目元が蒼く滲んでおり、腫れた頬や切れた唇にガーゼ。

明るい性格で形成された魅力的な顔が痛々しく、その瞳が不機嫌に揺れていた。

一般男性なら女性の怪我に同情の念を覚えるのだろうが――怪我を負わせた張本人は、愉快痛快でしかない。

俺の誤解から始まった喧嘩とはいえ、重傷者を椅子で殴る女に罪の意識など感じない。

俺はわざとらしく、隣の艦長に大声で耳打ちする。


「アンタの艦、ゴリラが一匹混じってるみたいだぜ。檻に入れた方がいいぞ」


 ピクッと頬を痙攣させる女――エイミィ・リミエッタ。

今にも大声を上げそうな雰囲気だが、俺は絶対に感情的に反撃して来ないと分かっている。

暗黙のルール、先にキレた奴が負け。

拳で語り合った仲だからこそ、視線を交えるだけで敵の意図を感じ取れる。

これで恋人同士ならさぞ波長が合うのだろうが、残念――人間とゴリラでは交尾はおろか、意思疎通だって出来ないのだ。


――この時は・・・、本当にそう思っていた。


『……申し訳ありません、艦長。あたし、てっきり隣の人は御客様だと勘違いしていました。
今日の任務は犯罪者の捕獲でしたね。

安心して下さい、立派な牢屋を準備しています』


 牢屋に立派とかあるのだよ!

モニター越しに顔面パンチしたかったが、無意味なだけで相手に笑われるのがオチ。

……上等だ、このメスモンキー。

俺は首を傾げて、画面を指差しながらリンディに話しかける。


「艦長さん、ゴリラがウホウホ叫んでますよ。何言ってるのか、全く分かりませんよねー?
大方餌が欲しいとか、色気もクソもない事ほざいているんでしょうね。あっはっは」

「あのね……私を間に挟んで喧嘩しないで、二人とも!」


 ――既に聞いていない。

オマエをコロス、俺達の心はドス黒い殺意で染まりきっている。

美人艦長に唾を飛ばす勢いで、俺達はリンディ越しに罵り合った。


『……っ。
艦長、そこの犯罪者が何か言ってますよ。
小さい女の子しか興味がないんです、許して下さい――って』

『……っっ。
艦長、年下好みのメスゴリラって気持ち悪いですよねー。
可愛げがねえから、力で言う事聞かせるしか出来ないんです――って』


 目を見開いて――エイミィは手元のキーボードを叩き付けて、立ち上がる。


「クロノ君は関係ないでしょう、このロリコン!」


 俺も地面を派手に蹴り上げて、空中の画面を睨み付ける。


「なのはやフェイトだって関係あるか、このショタコン!」


 家族の裏切りに泣いたはやて、俺に魂を捧げた那美――闇に消えた女性と、悲しい少女の夢。

病院で起きた陰鬱な事件は俺に覚悟を求めると共に、精神を引き締めた。

元々お気楽に生きていた俺は、他人の為に頑張る事に慣れていない。

悩んだ時間は俺にとって貴重な過去であると共に、苦痛と疲弊で足を重くする枷となる。

ストレスもきっと溜まっていたのだろう。


新しい家族や心強い知り合いには決して出来ない――薄汚い口喧嘩が、この女と出来た。


相手はゴリラなのだ、人間のように傷付くかどうか心配する事も無い。

腹が立てば正面から怒鳴れる奴は、今の俺にはありがたい。

容赦なくボコボコにしてくれるわ!

いいね……調子が戻ってきたぜ、俺様。

直接対決だったら完全に第二ラウンドだった俺達の間に、軽やかな手打ち音が滑り込んでくる。


「はいはい。仲が良いのは結構だけど、後にして二人共」

『誰がこんな奴!』


 同時に罵声を浴びせるが、確かに言い争っている場合ではない。

エイミィも艦長には頭が上がらないのか、渋々矛を収めた。

俺だって大怪我で体力不足な今、ケモノ相手に疲労したくない。

生きている世界が所詮違う、事件さえ終われば永久的におさらばだ。

俺もそれ以上口出しは止めて、そっぽ向いて相手側の対応を待った。

プレシア宮殿へ招かれた時はフェイトの魔法で飛ばされた形だが、今回は『トランスポーター』と呼ばれる転送システムで向かう。

リンディに聞いた話だと、同じ世界や近隣の次元の間を移動する転移魔法をシステム化した機能らしい。

術者の力量で大きく変わるが、許可した対象を一定の範囲内に瞬間移動させる事が出来るそうだ。

高度な術式だと他人の転送はおろか、別々の場所にいる複数の人間を一斉に同じ場所に転送も可能らしい。

魔法と科学が融合した、画期的なシステム――この世界で発達させれば、億万長者も夢ではない。

俺には"生涯無縁"な話だが、例えば海外や別世界で友人や仲間が出来ても簡単に交流を深める事も出来るだろう。

基礎原理や構築理論は全く分からないが、IQ.200の天才幽霊なら理解可能な範囲かもしれない。

あいつも生きてさえいれば……世界に名を残す人物になれていたかもしれない。

アリサの事はリンディ達にも知れている、きちんと話しておく必要はある。

プレシアが狂喜した奇跡の集大成だ、他の連中にまで目をつけられたらたまらん。

――くっそ、自分以外の心配までしなければならない我が身が歯痒い。

色々考えてやきもきしていると、不意に頭に手が乗せられる。


「……心配? 大丈夫よ。フィリス先生から、貴方の事は頼まれている。
宜しく御願いしますって、頭を下げられたわ。
貴方の事を心から心配してる……アリサさんも」

「ぐっ……いつの間に、あいつら……」


 フィリスは出発前に事情を話したが、結局アリサとは話が出来なかった。

あのメイド、行動は正しかったとはいえ俺を嵌めた報復をしようと思っていたのに、探し回ってもいなかった。

頭の良いあいつの事だ、先読みして色々動いてくれるのは分かるけど腹が立つ。

リンディとだって、いつの間にか友好関係を結んでいるし――侮れないミニキャリアウーマンである。





地団太を踏む俺を優しく見守るリンディの指示で、その後俺達は海鳴町を出発した。 










 




 ――絶句した。

俺も大概の事には驚かない積もりだった。

心構えも出来ており、避け続けた他者が蔓延する世界へ舞い戻った。

誰かを救う為とか、奇麗事を言うつもりはない。

自分が誰かの為に泣くのは嫌だった。

誰かが自分の為に泣くのも――嫌だった。

俺を含めた悲しみを終わらせる為に。

ある日突然目の前に現れた異世界への扉を、今度こそ自分の手で開いた。

笑顔の似合う女性の手に導かれて、扉の向こうへ飛び込んだ先に――


――"純和風"の空間が広がっていた。


「お疲れ様です、艦長。エイミィがもうすぐ、御茶と菓子を持ってきます」

「ご苦労様、クロノ。――良介君もどうぞ、座って楽にしてね」


   物腰が丁寧な美人艦長にも応じず、俺は呆然と佇んだまま。

い、いや……最近荒んでいる俺の心を容赦なく癒してくれますけどね、この部屋――

招かれた部屋が醸し出す異質な空気に、心のバランスが保てずにいた。


宇宙戦艦の一画に再現された、和の世界。


日本で利用されている伝統的な床材である畳が、天然素材で織り上げられた丁寧に祝儀敷きされていた。

壁際には平安時代に日本へ入って来た園芸品の盆栽が、自然の景観として丁寧に手入れされて並んでいる。

赤い毛氈が敷かれた茶釜は、日本の風土に根ざした意匠が反映されていて見事の一言。

愕然と部屋を見渡す俺の耳に、鹿威しが風流な音を響かせる――


頭を抱えたくなった。


願いを叶える石に魔法、魔導師に使い魔、宮殿に巨人兵、宇宙戦艦と続いて……最後は日本の和ですか。

御願いですから統一してくださいよ……ニューワールド。

御伽話の世界だと笑っていたあの頃が無性に懐かしい。

回れ右して自分の世界でヒキコモリたくなったが、繰り返しになるので止めておく。

艦長に勧められてお茶の席についた俺は、早くも疲労困憊で苦しみつつあった。


「では改めて――時空管理局提督、このアースラの艦長を務めているリンディ・ハラオウンです」

「時空管理局執務、クロノ・ハラオウンだ。
君もまだ混乱しているとは思うが、色々話を聞かせて欲しい」

「――分かってる。
俺もあんた達に協力を求めたいし、分かっている範囲で説明はするつもりだ」


 リンディから話は聞いたのか、俺の参戦についてクロノは何も口出ししなかった。

多分後々注意や忠告が来ると思うので、蒸し返すのは避けておく。

落ち着いた形で自己紹介した後、まず最初に聞きたかった事を尋ねておく。


「クロノがさっき言った通り――クロノでいいよな?」

「ああ、かまわない。ミヤモト」

「俺も別に名前でいいぞ」

「――呼びやすい方でいいだろう」

「? まあ、別に好きに呼べばいいけどよ……」


 名前で呼ぶのを断れたのは初めてな気がする。

別に拘りはないし、クロノも友達でも何でもないので気にするほどではないが。

案外、俺のように馴れ合いが嫌いなタイプかもしれない。

クロノにしてみれば俺は事件の関係者でしかなく、俺の名前なんぞ事件解決後は書類の中に消えるだけの認識だろう。

不快には思わなかった。

そういうドライな関係のほうが、俺もやり易い。

――何故か、隣でクスクス笑う艦長殿が気になるけど。

話を戻す。


「まだ混乱しているって事もあるけど、正直に言わせて貰う。
俺はまだ――あんた達を100%信用している訳じゃない。もっと言えば、疑っている部分もある。
助けられておいて悪いとは思うけど――」

「魔法も何もない世界の住民ならば、無理もない事だわ。
時空管理局なんて突然名乗られても、怪しげに聞こえてしまうでしょう」

「時空管理局にとって、この世界は管理外の領域だ。僕達もまだ、掴めていない面もある。
今回の事件では特に、君がそれほど負傷するまで僕達は気付けずにいた。
その点に関しては申し訳なく思ってる」


 ――事件を未然に防ぐ事が、警察官の夢だと聞いた事がある。

横領だの不正だの最近の正義の組織は怪しい面はあるが、警察が民間人の味方なのは確かな事実だ。

それに当て嵌めて考えれば、クロノやリンディは理想的な"正義の味方"なのだろう。

欺瞞のない誠意ある謝罪に、俺は信頼度を高めた。


「あんた達が助けに来てくれなかったら、俺は死んでいた。謝るのはむしろこっちさ。
ただ事件を解決した言って気持ちは、俺もあんたらも同じだと思ってる。
その上で聞かせて欲しい。

『時空管理局』、世界を管理する組織とやらの実態を」

「……艦長、宜しいですか?」


 リンディの承諾を得て、クロノは「話せる範囲だが――」と前置きして詳細を説明してくれた。

後で聞いた話だが、民間人に――特に管理外世界の人間に話せる内容は、本当に限られているらしい。

法を破るギリギリの範囲とはいえ、詳しく話してくれた二人の気持ちが彼らに事件を託す後押しとなった。


『Administrative bureau』――世界を管理する部局。


次元世界における司法機関で、幾つかの世界が共同で運営している組織らしい。

主な仕事は魔法及び兵器の悪用の阻止と、世界間バランスを崩す次元犯罪の防止。

各世界の文化管理や災害救助等多岐に渡った活動を行っており、次元世界全体の安定を目指している。


「世界は変わらず慌ただしくも危険に満ちている」――クロノの言葉は重い。


魔法のない俺の世界でも戦争が歴史から消えた試しはなく、惨たらしい犯罪は毎日のように世界の何処かで起こっている。

クロノ達時空管理局はそうした世界のバランスを保つべく、日夜精一杯平和の理念に基づいて行動しているらしい。

自分の世界や、俺の今の現状を省みれば頷ける話だった。

科学技術でさえ発達すれば核爆弾なんて物騒な物を生み出しているのに、魔法なんて外的要素が入れば世界のバランスは一気に崩れる。

何の関わり合いも無かった俺も、つい先日魔法で動く巨人兵に殺されかけたのだ。

あんなのが戦争に利用されたら、大量の犠牲者が出る。

管理局は複数の次元間航行能力を持つ艦船を保有していて、世界の枠を超えて組織活動を行い犯罪抑制に始終している。

この艦にもオペレータや捜査スタッフ、俺が世話になった医療班や戦闘に携わる局員も乗船しているそうだ。

そんな彼らが最も危惧しているのは――


「ロスト、ロギア……? 
その名前、ユーノがちらっと口にしていた気がするな」


 ――俺の命運をとことん変えてくれたあの本も、ミヤや彼女がそう分類していた。

ジュエルシードに魔法の本――曰く付きのアイテム。

俺の推測は半ば当たっていた。

今度はリンディが真剣な表情で語り始めた。


「遺失世界の遺産……といっても分かり辛いわね。

――次元空間の中には幾つもの世界があるの。

それぞれに生まれて育っていく世界。
その中に、ごく稀に進化しすぎる世界がある。
技術や科学、進化しすぎたそれらが自分達の世界を滅ぼしてしまう――悲しい事だけど」


 俺が住む地球でも科学技術の進化で人々が富み、逆に自然環境が破壊されていく一方。

軍事需要により産み出された大量殺戮兵器は、明日にでも人類を破滅へ追い込む事さえ出来る。

別に今更エコロジーに目覚めた訳ではなく、俺だって平和を貪るだけの愚民だ。

非難するつもりもねえが、耳の痛い話ではある。

クロノは腕を組んで瞑目し、重々しくリンディの説明を補足する。


「進化した世界が崩壊し、その後に取り残された危険な技術の遺産――それらを総称して『ロストロギア』と呼ぶ。
使用法は不明だが、使いようによっては世界どころか次元空間さえ滅ぼす程の力すら持つことがある危険な技術だ」


 ……ちょっと待てよ。

世界を破滅させる力を持つ失われた世界の遺産――それに、はやての本が含まれてるってのか?

俺の記憶違いでなければ、確かに妖精と死神は自分達をロストロギアと称していた。

主となったはやての魔力は確かに絶大で、本気になれば町一つ簡単に吹き飛ばせると彼女も言っていたのは覚えている。

だからって……彼女やミヤが世界を破滅に追い込むとは思えない。

暴走したら確かに危険かもしれないが、そんな危ないアイテムから仲良し大好き妖精さんが生まれるとは思い難い。

俺には冷徹だった彼女も、主を思い遣る優しさは本物だった。

彼女があの本を管理している限り、世界に危険を及ぼす事はないだろう。


ただ……時に見せる彼女の悲しげな顔や、未来に諦観した様子が気になる。


悩むところではある。

主ははやてである限り杞憂とは思うが、俺との喧嘩で暴走したばかりだ。

はやては幼い頃から一人暮らしでしっかりした性格だが、内面に脆さがある。

俺との出逢いやその後の生活で、あの娘も年相応の甘えを見せ始めた。


たとえばの話だけど……この事件で俺が仮に死んだとしよう。


俺の訃報を聞いたはやてがどんな行動に出るか――予測が出来ない。

事実を知る前ならともかく、あいつは自分が力を持っている事を知った。

平和を涙ながらに説いたところで、ミヤは基本的にはやてに逆らえない。

プレシアに復讐する為に、彼女の力を――本の力を使用しないだろうか……?


クロノやリンディに話しておくべきか――これは重大な選択肢だ。


今まで何度も選択を誤った俺。

己が間違いにより生み出された悲劇は数知れず、関係のない人間に被害を出してしまった。

正義に目覚めた訳ではないが、流石の俺もこれ以上の被害は嫌だった。

人間関係を円滑に進めるならば、嘘をつくべきではないとフィリスやはやてとの喧嘩で思い知った。

彼女達に協力を求めるならば、本当の事を話しておくべきだろう。

万が一事が起きた後で説明しても、信頼を失って被害を大きくするだけだ。

ロストロギアに関しても、彼女達は素人の俺より遥かに扱いには長けている。

はやてや彼女の事を話しておくべきか――


「リンディ、クロノ。ロストロギアに関してなんだけど――」


 ――不意に、切ない瞳の彼女が脳裏に過ぎる――





『お前等の存在もばれるとやばいんだよな?』

『――出来る限り、表沙汰にはしたくない』





 判断が、つかない。

彼女が時空管理局を恐れているのは、自分が危険と認識しているからだろうか……?

危険だからこそ時空管理局に発見されれば、破壊される。

自分の消滅を恐れて存在の隠蔽を目論んでいるならば――自分を危険なロストロギアだと、認めたのと同じだ。

この世界を――はやてやなのは、高町一家や知人達が住むあの町を思うならば。

これ以上の悲劇を……アリサや那美のように、関係のない人達を巻き込みたくないのならば。


悲しみを、終わらせるならば――今の内に、彼女を……


「ミヤモト、ロストロギアがどうした?」

「あ、ああ……それが……」


 ――どうした、何を躊躇っている。

これ以上犠牲を出したくないと言ったのは、誰だ?

悲しみを終わらせると誓ったお前が、舌の根も乾かぬ内に意見を覆すのか。

今度の惨劇は一人や二人では済まない。

もしかするとなのは達が住む海鳴町――俺が生きて来た日本が、世界ごと吹き飛ぶかもしれないんだ。

アリサや那美のように無関係な人間を巻き込みたくないと、散々後悔しただろう!


――黙れよ。


心の中で沸き起こる葛藤を、俺は暴力的に吐き捨てた。

俺は総理大臣でも大統領でも――正義の味方でもないんだ。

世界なんぞどうでもいいんだよ。

俺はそんなモンより――こんな俺に親身になってくれた奴の方が、大切だ。

いずれ絶対に離れる家族や知人とはいえ……不幸になっちまえなんて思わない。


辛気臭い顔ばっかりしている彼女の――心からの笑顔も、見てみたいしな。


世界ありきの現実で馬鹿な事を言っていると思うが、俺はようやく気付いた身近な存在の価値を大事にしたい。

俺はコホンと咳払いして、俺らしく聞いてやった。


「ロストロギアって――どれくらい高く売れるんだろうなって」


 危険指定遺失物収集蓄積型の巨大ストレージ――"闇の書"。


この事件でその後、この本が表舞台に出る事はなかった。

"俺一人だけ"の正しさと、法の正義――

俺は彼女が生きる事を望み、世界は危険なロストロギアの破壊を肯定する。

一方では「殺せ」と言い、また一方では「生かせ」と言う。

何が正しく何が間違っているのか、俺には分からない。

多分、時空管理局の唱える正義の方が正しいのだろう。

俺の決断は――罪も無いはずの人間を殺してしまうかもしれない。

とんでもない極悪人の命を救ってしまう事になってしまうかもしれない。

俺はただ、この自分の選択が間違えていない事を祈るだけ。


神や女神ではなく――今まで出逢った、全ての人達に。


とりあえず今は――持っていた杖で容赦なく殴った正義の使者を、訴えようと思う。









 
































































<第六十二話へ続く>







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