『…なんか…怪我されてるようですけど…大丈夫ですか?』





 ――早朝の公園で出逢った少女。


寝巻き姿のまま、ぼんやりと車椅子に座り込んで静かに朝を迎えていた。

少女の横顔に感情らしい感情もなく、寂しさに顔を俯かせていた。

広い家を持ちながら、少女は独りだった。

帰りを待つ人間は誰一人おらず、たとえあの場所で死んでも悲しむ人間は一人もいない。



――そして、俺達は出逢った。





『友達もいない。大切な人なんて、一人もいねえ。
――気が付けば此処へ来てたよ、あはは…』


『…わたしも、なんです。
家族も、友達もおらんで…真っ暗な家に一人で…
気付いたら、此処にいてました』





 自暴自棄になって、温かい家を手放した俺。

広い家を捨てて、冷たい公園に座り込む少女。

居場所を失った俺達が出逢った事に、何か意味があるというのなら――





『少しずつ、仲ようしていこう。


足使えへんわたしと、手使えへん良介。
友達も、家族もおらん二人や。


助け合っていこう』





――俺は闇を啜ってでも、惨めに這い上がってやる。


アリサやフェイトの心を一度失って、俺は悔恨と同時に心に強く決意した。


好きになった人間は決して手離さない。

どれほど拒絶されても死に物狂いで掴む、と――


残念だったな、八神はやて。





絶望の闇は、もう見慣れてしまった。














とらいあんぐるハート3 To a you side 第五楽章 生命の灯火 第五十五話







「――介! 良介ってば!」

「ん……?」


 耳元で鳴り響く甲高い声が煩わしくて、俺は不快感と共に目覚める。

気持ち悪い眠気を振り払って瞼をこじ開けると、眩しい陽光が瞳を刺激する。

――明るい太陽を背に、俺を心配げに覗き込む少女の顔。

柔らかい茶の長髪に、利発的な瞳――アリサだと気付いた瞬間、寝そべる俺の胸元に飛び込んだ。


「良かった、目を覚ました……
もう、何でアンタって人は心配ばっかりさせるのよ!」

「いっつ……アリサ、馬鹿。痛い」


 胸骨が折れている怪我人に、気安く抱きつかないで欲しい。

全身から伝わるアリサの温かい感情に、俺の抗議もちと弱かった。

主を慕う可愛いメイドを胸に抱えたまま、俺は上半身を起こす――



……え〜と……



「……あの、俺実は死んだ?」

「あたしがいるでしょう、目の前に」

「幽霊の存在が生きている証拠になるか、ボケェ!」

「死んでて悪かったわね! アンタが呼び戻したくせに! 


……まあ、あたしも最初にこの景色見た時は天国かと思ったけど……」


 目の前には――大草原が広がっていた。

穏やかな陽光に満たされた青い空、優しい綿毛のような白い雲。

大地の感触は暖かく、草花が緩やかに広がっている――

俺のような粗暴者でさえ、心が安息に包まれるような世界だった。

知性の少女に対して、俺は腕を組んで首を傾げる。


「天国でなければ、夢――と思いたいけど、全身が悲鳴を上げているのは何故だろう……?」

「いい加減現実を見つめなさい。

……自暴自棄になったはやてに襲われたのよ、アンタ」


 闇に沈め――狂気に犯された少女。

脳裏に浮かぶはやての冷笑が、俺の背筋を震わせた。


闇の魔法陣に暗黒の光、虚無の魔力。


俺如きとはスケールの違う強力な魔法が、瞬時に俺自身を飲み込んだ。

次々と浮かぶ恐怖の連続に、俺は状況を再確認した。


「あいつの闇って――えらく明るいよな。
頭の中に御花畑でも咲いてるんじゃねえのか」

「どうしてそんなに呑気なのよ、アンタは!」


 先程から何を苛立っているのか、メイドさんは地団太を踏んでいる。

――勿論アリサが何を言いたいのかは、分かっている。

現状置かれた状況は正直サッパリだが、それに至る経緯は心の中できちんと受け止めている。

なのは、フェイトに続いて、今度ははやてまで……

悲しみに心を壊した少女を想い、悪党な俺でもほんの少し胸が痛む。

リンディに突きつけられた最終選択を前に、俺はまた間違えたのだ――

明るい日差しでさえ照らす事の出来ない心の痛みを抱える俺に、アリサが悲壮な顔で胸倉を掴む。


「アンタだけじゃない……はやては、あの小さな娘も殺したのよ……
どうして、そんなに平然としてるの!?
大切だったんじゃないの、あの娘は!」


 悲鳴に似たアリサの糾弾に――猛烈に、悔しさと悲しみがこみ上げてくる。

アリサが傍にいなければ、俺は泣き叫んでいただろう。

短い付き合いだったけど、あいつは最良のパートナーだった。

説教と文句ばかり口にしていたが、全て俺を心から思い遣って叱ってくれた。


優しくて素直で、誰からも好かれる容姿と心を持っていた妖精――


あんな呆気ない死に方で、納得出来る筈がなかった。

アリサは沈痛な表情を浮かべて、俺の胸に額を当てる。


「……ごめん……良介が一番辛いのに、あたし……」

「いいよ、お前の言う通りじゃねえか。
――はやてをあそこまで追い込んだのは、俺の責任だ。

それより、お前までどうして俺と一緒にいるんだ?」


 目の前に広がる平和な世界――落ち着いて見れば、覚えがある風景だった。

俺の予想が正しければ、此処は決して天国でも地獄でもない。


敢えて言えば――天国に一番近い場所、だ。


ただはやてに攻撃された俺はともかく、アリサが一緒ならば落ち着いてなどいられない。

胸の中のアリサを、俺は力強く抱き締める――


「――瀕死に陥った俺を助ける為なら、絶対やめろ。
あの時は事後承諾だったけど、今後は許さないぞ」


 アルフに倒されて死の淵を彷徨っていた俺を、アリサは自分の命を犠牲にして助けた。

結果俺は救われてアルフに勝利して――アリサは眠りについた。

俺はあの時の引き裂かれるような悲しみを、不甲斐ない自分を焼き尽くす憎悪を、未来永劫忘れる事はないだろう。

同じ奇跡は二度も起こせない。

もしアリサが再び俺を救うつもりなら、今度という今度は許さない。


「お前の命を犠牲にしてまで、俺は生きるつもりはない。

もう離さないからな、アリサ」

「……うん……ごめん、良介。
実ははやてが魔法で良介を飲み込んだ後、あたしは助けようとして自分から飛び込んだの」


良介が死ぬなんて――耐えられないから」


 驚くほど気弱な声を出して、アリサは俺の身体に手を回してぎゅっと抱き返す。

痛みが猛烈に走ったが、生きている証拠だった。

無茶な事をしたものだと叱ってやりたいが、気持ちは同じなのでそっとしておく。

お互い、既になくてはならない存在となっていた。



……。



「――はやても」

「え……?」

「あいつも、お前のように大切にして欲しかったんだろうな。

奇跡すら望んで、俺はお前をこの世に戻した。
自分の薄っぺらな生き方なんぞドブに捨てて、多くの他人に助けを借りた。

はやてもきっと――そうしてほしかったんだろうな、って」

「良介……」


 つくづく、俺という奴は反省しないらしい。

フェイトの時も思い知った筈なのに――特別な人間など、いないと。

強大な魔力を持っていても、重い宿命に耐えられる強さを持っていても、フェイトは普通の女の子だった。

母親の愛に飢える、悲しい子供だったのだ。

俺はそんな事すら分からず、彼女を追い詰めて心を壊してしまった――



『――今頃気付いても、手遅れだ』

「!? 誰だ」



 穏やかな光景に突如浮かび上がる、黒い影。

影はゆっくりと形を取り――女性の姿を浮かび上がらせる。


血に濡れた瞳を持つ、一人の女。


銀色の髪が印象的で、際立った容姿が溜息が出るほど美しい。

黒の簡素な服装が、豊かな胸元やくびれた腰を強調している。

アイドルやモデルが嫉妬する美貌だが、鋭利な瞳と強い孤独の影が警戒心を与えてしまう。

俺を見る女の瞳は――強い殺意に燃えていた。

アリサを背中に隠しながら、俺は問いかける。


「……見覚えのある顔だな」

『通常、私の記憶は残らないものだが……貴様に常識を問うのは無駄か』

「褒めてないな、てめえ!?」

「いい見識ね、この人」

「何故感心するんだ、お前も!」


 したり顔で頷くアリサを横目で睨みつつ、突然現れた女に身構える。

強烈な殺気と裏腹に――蜃気楼のように、女が透けて見える。

儚い存在感は、幽霊時代のアリサを思い出させる。

一応、今もアリサは厳密に言えば生命で固めた幽霊だけど。


『貴様がどういう人物か――
主にどのような影響を与えるか、見届けるつもりだった。
不思議で不明瞭な行動ばかり取る男だったが……主を大事に思う気持ちに嘘は無いと思っていた。

書への強制的なアクセス、頁の書き換え、少女の魂を宿した融合器の誕生――管制人格わたしの、不完全な稼動。

過去何人もの優れた魔導師が成し遂げられなかった、死者の生還。
書のルールを平然と破り、不可能を可能に変えていく貴様に私は敬意すら感じていた。


――在り得ない期待を、私に抱かせるほどに。


とんだ見込み違いだった。
書が目覚める前に、主が魔力に目覚めてしまった。
いずれ私を取り込んで、本格的な暴走を始めるだろう。

貴様には責任を取ってもらう』


 ――殺す気だ。


俺を見下ろす彼女の瞳は無感情、ゴミでも見るかのように冷たい。

法律や倫理に縛られず、彼女は造作もなく俺を殺せる。

幽霊に似た存在の彼女を取り巻く空気が歪み、陽炎のように漂っている。

直感でも何でもなく、彼女の実力が肌で感じられる。


――怪物だった。


巨人兵など、彼女にかかればアリンコ以下だった。

抵抗も無意味、戦いにすらならずに殺される。

アリサが意を決して前に出ようとするのを――俺は押し止める。


「責任を取る前に――三つ聞きたい事と、一つ言いたい事がある」

『聞く必要はない』

「まず、突然出てきたアンタは何処の誰なんだ?」

『聞く必要は無いといっている!』

「あの本の関係者っぽいけど、ミヤは無事か?」

『貴様……』

「闇に沈んだ俺とアリサを此処へ連れて来たのがアンタなら、此処が何処だか教えてくれ」

『――聞く耳は持たないか、私も同じだ。
何の役にも立てなかったが……せめて主の願いを、私は叶える』

「それと――」

『――闇に沈め、宮本良介』



「俺は八神はやてが、好きだ。この気持ちはあんたにも負けない」



『――!』


 女を包む強大な魔力が、彼女が目を見開いた瞬間沈静化する。

俺を驚愕の眼差しで見つめていたが、やがて強烈な怒りに変わった。


『その主を傷付けておきながら、ぬけぬけと……』

「ああ、自分勝手だな。認めるよ。
はやてを破滅に追い込んだのは俺だ。
嫌われて当然の事をした、許されない事も分かってる。

でも――謝り続ける。
許されるまで、謝るんじゃない。

許されなくても謝る、嫌われても好きだと言い続ける。
――はやてがずっと向けてくれた気持ちを、俺が今度は返す」


 正義なんぞくそ食らえ、愛なんて蕁麻疹が出る。

他の人間に優しくする暇があるなら、修行でもして強くなった方がいい。

俺はそういう人間だ、他人より自分が可愛い。


そんな俺が初めて――そして多分最後、家族として心から受け入れたのがはやてだ。


はやてはこんな俺を家族として迎えて、ずっと優しくしてくれた。

俺は優しさはないけど、彼女がくれた気持ちは今もこの胸を仄かに温めてくれている。

一度や二度踏み躙られて諦めている有様では、はやての心を掴むなんて未来永劫不可能だ。


――俺の手を握る、柔らかい感触。


「……良介は、本当にそれでいいの? 殺されかけたんだよ」

「俺だって何度も、あいつの命を危険に晒したんだ。
文句を言える筋合いじゃねえよ」

「今のはやては普通じゃない! 
また攻撃されるかも――ううん、絶対に攻撃されるわ!

今度こそ殺されるかもしれない……そこまでされても、はやてに会いに行くの?」


 躊躇う必要もなかった。

泣きそうな顔で問い質すアリサの頬を撫でてやる。

気の強い少女だが、俺の事になると驚くほどに弱い。

失った経験を持ち、喪いたくない気持ちを共に抱くからこそ、俺達は繋がっている。

はやてに嫌われた今結ばれる事はなくても、俺自身の意思で手を伸ばす。

俺は黒衣の女性に、精一杯の反抗心を掲げる。


「あんたは既に諦めているようだが、俺は諦めない。

はやては俺を殺そうとした、でも俺は死んでいない。
俺ははやての命を天秤にかけた、でもはやては死んでいない。

偶然か、必然か――どちらでもかまわない。

俺達二人で、決められた運命をぶっ壊す。
俺ははやてを死なせないし、はやても俺を殺したりしない。

信じ続ける、あの娘の強さと弱さを。

暴走だかなんだか知らないが、お前の主は力の誘惑に溺れたりしない」


 はやても――フェイトと同じだ。

俺ははやてが寂しさに耐えられる、強い奴だと思っていた。

歴史に名立たる偉大な魔導書に選ばれた、絶対の王――

奇跡の力を持つ妖精が敬愛する主、八神はやて。

俺とは比べ物にならない魔力の持ち主で、今でこそ子供だが将来は絶大な力を振るう人間となる。

時折見せる貫禄は本物で、事実先程見せた圧倒的な実力と威厳に俺は萎縮するしかなかった。


だけど、それでも――あいつは、一人の女の子なのだ。


早くに両親を失った、独りぼっちの子供。

あの時公園で見せた寂しげな横顔こそが――あいつの素顔だったのではないか?

俺はまた知らずにあの娘の強さに甘えてしまい、はやてを追い詰めてしまった。

思えば――俺は一度だってはやてを、なのはやアリサのような接し方をしていない。

家族だと口では言っていたくせに、はやての弱さを何一つ受け止めてやれなかった。

魔力だの、生まれ持った宿命だの、関係ない。

魔導書の持ち主だとか、強大な力の魔導師だからとか関係あるか。


どれほど強く、偉大な存在になろうとも――俺にとって、はやては普通の女の子だ。


最早俺への価値や興味は消え失せているだろうが、また取り返してみせる。

フェイトと一緒だ。

片思いだからと言って、簡単に諦められる女じゃない。

小さくても、出逢って良かったと胸を張れる佳い女だ。

独白を聞いた彼女は、俺を見つめたまま苦しそうに視線を落とす。


『……その身体で、その程度の魔力で、主と戦うつもりか。
死ぬぞ』

「戦うつもりはないね。敵じゃないんだ、はやては」

『主にとって、お前は明白な敵だ!』


 俺を殺そうとした女が、死地に出向く俺に激情に駆られて叫んでいる。

俺の死を望むのならば、尚の事黙って行かせればいいものを。


変な女だが――嫌いにはなれそうにない。


むしろ、どこかくすぐったい。

俺には素直じゃないあの妖精も、はやての闇に突撃する俺を叱ったものだった。





――マイスターを、助けに行くですか?――





  ――死にますよ――





あの時はミヤが助けてくれて、生き残る事が出来た。

今度は誰一人、味方がいない。

いや――それは違うか。

握り締められたままの手を、俺は静かに離して見下ろす。


「アリサ、悪いけどお前は此処で待ってろ。俺ははやてに会いに行く」

「……うん、行ってらっしゃい。
正直あたしだって聞きたい事は山ほどあるけど、我慢してあげるわ。


どうせ此処が何処か、本当は知ってるんでしょう」


 不満げな少女に、苦笑する。

俺のメイドを務めるだけあって、素晴らしい勘だった。

はやての魔法で、闇に沈んだ俺とアリサ――

この見覚えのある平和な風景と合わせれば、誰が救ってくれたのか簡単に想像がつく。


幽霊との対話が出来る若い退魔師に、闇を切り裂く雷を放つ獣の女の子。
――そして、この優しい世界の御姫様。


どいつもこいつも御人好し、俺の危機に我が身の危険を顧みず飛び込んでくれたのだろう。

救う役目は本来白馬の王子なのに、情けない事に俺はあの御姫様に助けられっぱなしだ。

姿を見せない理由も分かる。


――女の子を泣かせたら駄目なんだよな、お嬢……


痛みに震える身体を引き摺って、俺は歩き出す。

確証はないが、確信はあった。

はやては俺を探している――

向かうべき方向は、俺の中に残った妖精の残滓が示してくれていた。


『……待て』


 背後からかかる制止と、歩み寄る大きな気配。

俺は振り返らずに言い放った。


「あんたの制裁は後で何度でも受けてやる。今ははやてを優先させてくれ」

『貴様の意思など、私は知らん。
問題は、貴様と主を接触させれば事態を悪化させかねないという事だ』

「邪魔するつもりなら、悪いが問答無用で行かせて貰うぞ」


 制止する理由は痛いほどよく分かる。

何しろ今のはやての暴走は、他ならぬ俺が原因なのだ。

はやてを助ける理由だって、一方的な片思いでしかない。

俺の我侭でこれ以上はやてを傷つけるのは我慢ならないのだろう、こいつにとって。

ハッキリ言って今の俺は走っただけで眩暈がする状態だが、こうなれば逃げるしかない。

戦うのは論外、実力で歯が立たない上に彼女の方が正しい。

本当にはやてを気遣っているのは、間違いなく彼女だ。

……くそう、こんなところでもめてる場合じゃないのに……



『その覚悟が本物かどうか、私が見定める――私と融合しろ、宮本良介』



 こうなったら自慢の足が頼り――って、へ……?

予想だにしない発言に振り返って目を合わせた瞬間、何故か逸らされた。


『……言っておくが、貴様を助けるつもりはない。
余計な言動及び行動に出ないか、貴様との融合を通じて監視する。

万が一にでも主をこれ以上傷つけるならば、貴様を魂ごと飲み込む』

「獅子身中の虫って奴か……」


 融合化すれば心も身体も重なり、文字通りの一心同体となる。

迂闊な考えや下手な言動が、そっくりそのまま命取りとなる。

他者を拒絶する俺がミヤとの融合を素直に受け入れられたのは、あの娘の純真さによるところが大きい。

俺を心から嫌うこの女との融合は、考えただけで胃が痛くなる。


『言っておくが、貴様に拒否する権利はない。
嫌ならば、二度と主に近づけないようにするまでだ』

「ちっ……だけど、お前と融合してはやては大丈夫なのか?
あの本の厳しいルールに抵触すれば、はやては死ぬんだぞ」


 そもそもそれが原因で、今回のトラブルが発生したのだ。

そのルールさえなければ、もっと平和的に解決出来た。

俺の心配に、彼女は鋭い視線を向けてくる―ー


『主を死なせないといった、先程の言葉は嘘か? 貴様の決意はその程度なのか?
口から出任せであると言うならば、貴様の存在は主の害になるだけだ。
直ちに闇に――』

「暗闇が大好きだな、お前は!? いいよ、勝手にしろ。
あんたがこの先もはやての力となるんなら、立派な家族の一員だからな。

俺がどういう奴か、しっかり見届けやがれ」

『ま、待て!? 家族とはどういう意味だ!?』

「そのまんまだろ。
あんた無愛想だけど……はやてを心から案じているみたいだからな。


あいつもきっと、あんたを好きになるよ」


『……。


……家族……』



 綺麗な唇で小さく反芻し、彼女は頬を染める。

モデルのような体格の女だが……意外に、内面は子供のように純真なのかもしれない。

ミヤのように案外泣き虫だったりして。

そう考えると、こいつが身近に思えるから不思議だ。


――などと和んでいると、すげえ目で睨まれました。


『な、何を笑っている貴様!? 早く行くぞ。
時空管理局に発見される前に、主の元へ一刻も早く駆けつけなければ』

「……何気に信じてくれているんだな。
俺が行けば、はやてはきっと止まってくれるって」

『誰がそんな事を言った! 私は貴様に期待などしていない!』

「はいはい。とっとと融合して行こうぜ」

『何故貴様は私の話を少しも聞こうと――! ……もういい、時間の無駄だ。
目を瞑れ、無駄な抵抗はするな。

力を抜いて、私に身を委ねろ』


 ミヤとは違うが、俺もいい加減融合には慣れている。

少しだけ話していて、俺はこいつに好感を持っている。

はやてを想う気持ちが同じならば、きっと俺達は繋がる事が出来る。



待ってろよ、はやて――!















――ユニゾン・イン――


























































<第五十六話へ続く>







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