とらいあんぐるハート3 To a you side 第五楽章 生命の灯火 第五十二話







――とりあえず、だ。



骨まで豪快に折れた怪我人を、出会い頭に殴るのはどうかと思う。


「一週間以上無駄足させて、随分元気じゃないか。ん?」

「き、貴様はこの包帯やガーゼの数も数えられないのか」

「自業自得だろ、んー!」

「切れてる!? 頬、切れてるから!?」


ガーゼが張られた頬を抓る野蛮な女に、俺は必死で抵抗する。


俺の主治医フィリス・矢沢の友人、リスティ・槙原。


昨今の警察腐敗の原因が、眉間に皺を寄せて悩める怪我人の元へ訪れた。

何やらご立腹のようだ、やれやれ。


「痛っぅ……無事に帰ってきたんだから、素直に喜べよ」

「怪我人なら大人しく寝ていればいいだろ。
フィリスが泣いて頼むから渋々探してやれば、この始末だ。

いっそ死んでくれれば、遺体処理してやったのに」

「国家に訴えるぞ、てめえ!」


 仮に何処かで殺されたとしても、貴様にだけは死体検分はさせん。

警官紛いの分際で、民間人の死を望むとは何て奴だ。

同じ組織でも、時空管理局とか呼ばれる連中は俺を保護――くそ、また思い出しちまった。

突然疲労が圧し掛かってきたかのように感じられて、俺はベットに横たわる。


――リンディ・ハラオウン、彼女が悲しい笑みと共に用意した選択肢。


事件の事は何もかも忘れて、優しい日常へ帰るように便宜を図ってくれた。

誘拐事件や脱走騒ぎは闇の中に消えて、俺は再び平和な入院生活へ戻っている。

フィリス達病院関係者に事情を説明して、リンディは先程帰っていった。

現実感が無いので今も信じられないが、アースラと呼ばれる時空を航行する艦へ――

フェイトやなのはも事情聴取中。

二人ともジュエルシード事件に関わった主要人物だ、簡単に帰れない。

フェイトは当然として、なのはもこの先事件には多分関わるだろう。

――俺以上にジュエルシード暴走の悲劇を見たんだ、優しいあいつが放り出せる訳が無い。

俺は――どうなんだろうな……


「――その様子だと、ただならぬ事情があったみたいだね。
ボクのありがたい御説教はこのくらいにしておこうか。
どうせ、フィリスに散々怒鳴られただろうから」

「病院へ帰り辛かった一番の原因はアイツ」

「親身になってくれる人がいるって、幸せな事だと思うよ。ボクは」


 ……たまに、サラっと深い事を言うので侮れない。

俺の反応にようやく怒りが収まったのか、リスティは帰り支度をする。

手ぶらで来たので、本当にただ帰るだけだけど。


「一週間以上お前の捜索に費やしたお陰で、仕事が溜まってしまった。
依頼された仕事はまだ時間がかかるぞ」

「急いでいないから、あんたの都合に合わせてくれてかまわないぞ」

「愛しのプリンセスが戻ってきたから余裕だな、リョウスケ」

「さっさと帰れ!」


 こんな奴に協力を求めた自分が情けないが、俺も俺で今はそれどころではない。

誘拐したアリサを辱めて殺した犯人探しは、引き続き法の番人に頑張ってもらおう。


――こいつの言い分じゃないけど、アリサが帰って来なかったら俺も人任せにはしなかっただろうな……


そのプリンセスは、車椅子のはやてを押して散歩に出かけている。

戸棚の小さな女の子も主を案じて尾行――ストーカーと変わらんぞ、あいつ。

行方不明になった俺を一緒に心配していた共有感からか、なのは同様二人の仲は深まっていた。

どっちも家族や友人に恵まれず、幼い頃から孤独を味わい続けたんだ。

仲良くなれて当然とも言える。

メイドの幸多き人生を思い遣る素晴らしき主の心中など、不良警官に察しようが無かった。

嫌味な笑顔を浮かべながら、


「彼女の事も貸しだね。退院したら、君には仕事を手伝って貰おうか。
現場検証とか、証拠品探しとか、手間暇のかかる仕事があってさ、これがまた面倒なんだ。

肉体労働系はリョウスケの得意分野だろ、今度是非頼もう」

「大怪我している人間に、身体が痛くなる事いうな!?」


 怜悧な美貌を憎たらしい笑みに変えて、ヒラヒラ手を振って奴は立ち去った。

今度本当に仕事の依頼とか持って来そうだな、あの野郎……


五月が過ぎれば梅雨――そして、炎天下の夏。


セミが煩い季節の中をドブ攫いする自分を今から思い描いて、今からウンザリする。

……世話になりっぱなしで文句一つ言えないのが、余計に腹が立つ。

憎たらしい奴だが、フィリスの話では実績のある有能な女性らしい。


本場の警察にも頼られる民間協力者――


アリサを殺した犯人もきっと見つけてくれると、信じたい。

アイツの笑顔を取り戻して悲しみは消えたが、怒りはキッチリ残っている。

たとえ何とか魂だけは戻しても、アリサの身体は未来永劫戻らない。

アリサが味わった苦しみや悲しみは、今後永久に心に刻まれ続ける。

親に冷たくされて、友達に見捨てられ――陵辱されて殺されたのだ。

小さな女の子に生き地獄を味あわせておいて、のうのうと平和に生きるなぞ俺が許さん。

立てなくなるほどぶん殴って、牢獄へ放り込んでやる。


――そういう元気は漲ってるんだけどな……


誰もいない病室で、嘆息する。

恭也もレンの見舞いに行き、フィリスは往診――久しぶりの一人だ。

清々しい環境だが、俺の心は全く晴れなかった。


――ジュエルシード事件から、手を引け。


高町家に――この海鳴町に流れ着く前ならば、面倒事は御免だと簡単に放り出しただろう。

誰が死のうが生きようが、自分さえ良ければどうでもよかった。

今でも、一人自由だったあの頃を全面否定するつもりは無い。

他者と密接に関わらず生きて来たからこそ、今の自分がある。

弱く、ブザマで、不甲斐なく、死にたくなる事さえ多々あったが、今の俺の偽りない気持ちだ。

ゆえに、既に心も決めている。


フェイトとアリシアを助け、プレシアとに決着をつける。


フェイトの事が好きだ、好きな人間を助けるのは当然だ。

アリシアは俺を助けてくれた、恩を返すのも当然だ。

プレシアがレンを人質にした事は断固として許せないが――あいつの悲しみは、痛いほど理解できる。

許される事ではないが、他者を犠牲にしてでも大切な人を取り戻したい気持ちは俺が一番よく知っている。

元々常識や正義なんぞ持ち合わせていないが、アリサが死んだ時嘆き悲しみ――復讐を誓った。

多分あのまま行動に移していれば、どんな犠牲でも容認しただろう。

アリサを生き返らせる為に生贄が必要と悪魔に囁かれたら、誰でも平然と殺したに違いない。


プレシアと俺との違いは――傍に誰か居たかどうか、だ。


復讐に染まった俺を月村が止めて、恭也が叱咤してくれた。

なのはやユーノ、ミヤ達の協力があってヒントを掴み、フィリス達に助けて貰ってアリサを取り戻した。



プレシアには――誰も、居なかった。



くっくっく……一人だから救われなかったとは、俺にとって痛烈な皮肉だ。

俺がこの病院の中庭で拾った石から始まった、事件――

一人ならば、俺は絶対に生き残れなかった。


そして今――傍に誰か居るからこそ、悩んでしまっている。


俺は――



『此処だよ、此処! この部屋だよ、ノエル! 
侍君、また大怪我して寝かされてるんだって! 早く、早く!』

『忍御嬢様、病院内ですので御静かに』


 ――人が必死で悩んでいるのに、脳髄に響く声が廊下から聞こえてきやがりました。

鍵でもかけてやりたいが、生憎重傷患者の俺様は一歩でも動けば疲労と激痛に喘ぐ身。

無情にも、聖なる孤独が激しい物音と共に破られた。


「侍君! 
本当に――帰って来たんだ……良かった……」

「失礼します、宮本様」


 ホッと胸を撫で下ろす女の子と、礼儀正しく頭を下げる女性。

娑婆っ気のない無機質な病室を、二輪の美しい華が彩る。


慌てて着替えてやって来たのか、ラフな上着とジーンズ姿の月村――  


男勝りな服装だが、極上の容姿を持つ月村の美を強調している。

そんな美人も、俺の顔を見るなり潤んだ眼差しで俺の手を掴む。


「心配したんだよ、侍君! 一週間以上も行方不明になって……!
怪我人だって事ちゃんと分かってる、侍君!?

――また何処で倒れてるんじゃないかって、私……」


   ……思い出した。

何もかも嫌になり飛び出して、山中で倒れたあの時の事を。

月村の手の冷たさに、大雨に濡れて倒れた死の実感を思い出させる。


何もかもあの時に終わり、始まった――


一人で満足に死ねたのに、俺は孤独を放棄して立ち上がり仲間の元へ帰った。

途中力尽きて倒れた俺を救ってくれたのが、この綺麗な女の子だった。

月村はあの時、自分の血を大量に輸血してくれたのだ……

俺は苦笑いして、彼女の手を握り返す。


「ばーか、二度も三度も女に助けられてたまるか。
聞いて驚け。

なんと、今度は俺が病気の女の子を助けたのだ」

「……怪我が増えてる顔でカッコつけても似合わないよ、侍君」

「う、うるせえ! 無事に帰って来たんだからいいだろ」


「……。うん……

侍君が帰ってきてくれて、本当に良かった……」


 涙に湿った瞳は深さを増して、俺の姿を感情的に映し出す。

……この町で今まで沢山の美人に巡り会ったが、月村の瞳の美しさは別格だった。

世界のどの宝石よりも柔らかに輝いて、吸い寄せられそうな魅力がある。

こうして見つめ合っているだけで、胸の鼓動が高鳴る。


――っ、熱っ……!?


脳髄が麻酔に犯されたように痺れ、背筋に強烈な快感が走る。

心地良い酩酊に神経が陶酔感に震え、身体の痛みという痛みが真っ白に染まっていく。


手から伝わる月村の体温――瞳から伝わる月村の、感情。


月村の頬が紅潮し、彼女の瞳も恍惚に揺れている。

何か口にしたいが、舌が歓喜に滲んで声も出せない。

お互い口を閉ざしているが、興奮に必死で息を殺していた。


――月村の白い首筋と、首元から見える柔らかな肌に息を呑む。


「これほど……適合するとは思わなかった。
……ちょっと、ううん……かなり、予想外。


ハァ……」


「――忍御嬢様」


「うん……分かってる。ごめん、ちょっと酔っちゃった」


 ノエルの静かな声は、至福の感覚を味わっていた俺さえ呼び戻してくれた。

包帯やガーゼが邪魔に感じられる、汗ばんだ身体――

不快感はまるでなく、悪い膿を洗い流してくれるような爽快感だけが残された。


月村の手は、まだ握り締められている。


「少しだけ、じっとしてて。
侍君の苦痛を今、少しだけ取り除いてあげる。
――侍君も薄々、気付き始めてるでしょう?

貴方の中にいる、私の存在に」


 手を握り締めたまま、月村は瞳を閉じて厳かな声で語る。

神に祈りを捧げる聖女のように。


「私は決して、貴方を裏切らない。
貴方の中の血は、決して貴方を裏切らない。

だから――貴方も、自分を裏切らないであげて」

「――?」


 普段の茶目っ気ある口調は消えて、月村は優しくメッセージを伝える。

突然の言葉に目を白黒するが――何故か、彼女の言いたい事が理解出来る気がした。


俺の中に、月村忍が存在している。


今まで後一歩まで追い詰められた時、傷だらけの俺を支えてくれた熱い感覚――

手を握られているだけで沸騰しそうな感覚は、体内に流れる血が生み出していた。


彼女が傍にいるだけで、身体の芯から温まり――劣悪な痛みは消えていく。


傷は癒えていないが肌に血色が戻り、寝ても取れなかった疲労の蓄積が跡形もなく消えた。

俺の復調すら共有しているのか、快適さを味わっている最中月村は手を離す。


「どう? 
可愛い忍ちゃんに手を握られて、オトコノコの侍君は元気満々になったでしょ」


 ウインク、一つ。


――御免、やっぱ気のせいだった。


神秘的な雰囲気を放っていた女性は、心許した人間にだけ懐っこい女の子に戻っている。

俺は拳骨を思う存分直下した。


「お前なんかの汗臭い手を握られても、不愉快なだけじゃ。ぺっぺ」

「ノエル〜〜! 
侍君が私が握った愛しい手に、唾を吐いてるよ!

こういう場合今日から手を絶対に洗わないとか、もうちょっと意識するものだと思う」

「どんな童貞坊やなんだよ、俺は!?」

「あ、私は処女だよ。良かったね、侍君」

「親しげに暴露するな!」


 あー、もう!

どうしてこいつと話しているだけで、こうも軽い話題になっちまうんだ。

プレシアの重い悲劇や、フェイトの苦痛の愛すら遠い世界のように感じられてしまう。



――いや、違う。



俺は初めて――否、改めて認識する。

ジュエルシードや魔法、魔導師や巨人兵――時空を旅する艦。

四月の終わりから五月に渡って始まった事件の全ては、日常の向こう側の世界で起きている。

現実と非現実の壁は厚く、通常は破る事すら出来ない。


壁に穴を開けたのがジュエルシードであり――穴を通って、ユーノやフェイトがやって来た。


時空管理局は今その穴を塞ぎ、壁を元通りにしようとしている。

リンディは事故で壁を潜ってしまったひ弱な俺を、もう一度こっち側へ送り届けてくれたのだ。

傷付く事のない、世界へ。


  高町家やフィリス達――目の前で微笑みを向ける、月村がいる世界に。


この世界に知らぬ顔で留まり続ければ、やがて穴は塞がれる。

それまで穴を通ろうとする人間――プレシアのような犯罪者を、リンディ達が穴の前で立ち塞がって阻止する。

まだ出逢ったばかりだが、リンディやクロノは有能で優しい人間に見えた。

俺の状態や懸念材料を全て理解した上で、心配ないと俺に言ってくれたのだ。

ジュエルシードの回収やプレシアの処遇――この世界に及ぼした影響を、全て彼女達が消し去る。

その自信があるからこそ、リンディは静かに送り届けてくれた。

二度と穴を通る事のない様に――俺がこれ以上苦しむ事のない様に、配慮してくれた。


俺はつい先程月村との日常的な会話に、苛立ちすら感じた。


フェイトやプレシアが苦しみ、ジュエルシードの脅威がまだ残されているのに何をやっているのか。

お前はどうしてそんなのほほんとした顔が出来るんだと、八つ当たりでしかない感情をぶつけた。

でも――これが、普通なんだ。

自分自身、言っていた事じゃないか。

他人なんてどうでもいい、俺が信じる世界が全てなのだと。

俺の常識を勝手に壊すな、俺の世界に立ち入るなと強く否定していた。


――毒され始めている、異世界に。


馬鹿な俺でさえ気付いたんだ、聡明なリンディが気付かない筈はない。

このまま深入りすれば、俺は二度と抜け出せなくなる。

魔法だの巨人兵だの――今まで生きてきた人生全ての価値観を、根底から覆す世界に飲み込まれる。

俺は歯噛みする。


確かに――確かにフェイトが好きだ、アリシアだって放置出来ない。


ユーノにだって世話になった、借りは返したい。

プレシアだって、あのまま終わらせていい筈がない。

俺の本当の気持ちは、まだあの穴の向こう側にある――それは事実だ。


だけど――穴は、いずれ塞がれる。


いずれ……フェイトも……ユーノも……何もかも、向こう側へ帰ってしまう。

永遠の別れが、待っているんだ。

また会えるなどと、どうして言える?

気軽にあっちにもこっちにも行けるのなら、今頃異世界の国交だって結ばれている。

時空管理局なんて組織が成り立つ意味がない。

ジュエルシードが壁を破らなければ――フェイトやユーノも、こっちの世界には来なかった。

いずれ別れが待っているなら……深入りするべきではないかもしれない。


躊躇の後押しをしているのが、こっちの世界の連中――そして、はやての存在だ。


俺の身体はもう、限界を超えている。

月村に手を握られて何故か疲労や痛みは消えたが、生々しい傷は今も濃厚に身体を刻んでいる。

片目は見えず、剣を握る手は固定。

胸骨は折れて息をするだけで痛く、歩き回るだけでも倒れる始末。

月村でさえ、不安に顔を青ざめたんだ。

他人の顔色なんぞ知った事ではないが――三度も四度も無茶を続けて、その度に泣かれたら流石の俺も参ってしまう。

折角取り戻したアリサだって、また失ってしまうんだ。


はやても――融合する度に、命の危機に晒されているんだぞ?


確かに他人が死のうが生きようが、痛くも痒くもないさ。

ああ、そうとも。

俺はそういう人間だ、今更善意や優しさなんぞに目覚めてたまるか。


だけど――はやてまで、裏切れるか!


ミヤだって、命まで捨てて俺を助けようとしたんだぞ?

これ以上苦しめたくないって思うくらい、いいだろうが別に!

くっそ……くっそ……どうすればいいんだ――



俺は――



俺は―ー





もう――大事なものを、失いたくないだけなのに。





どれかを選べば、どれかを失うなんて卑怯だろ!


フェイトを助けたい――でも、別れたくもないんだ!

まだ戦いたい――でも、はやてを死なせたくない!


失敗すれば……また間違ったら、今度は取り返しがつかない。

映画やアニメの主人公は、どうしてあんな簡単に正しい答えを掴めるのだろう……?

リンディが用意してくれた、無難な回答だけが今俺の目の前にある。


はっはっは……大した女だよ、アンタ……


俺が苦しむと分かっていたから――こんなに優しい道を示してくれたんだな。

――その優しさが、彼女の労りが辛い。



「……侍君が、何に悩んでいるのか分からないけど――」



   引き攣るような重い頭痛の向こうから、声が舞い降りる。

顔を上げると、少しムスッとした月村の顔があった。



「一人で考えても、簡単に答えは出ないよ。 侍君一度頑張りだしたら凄いのに、落ち込んだからとことん駄目になるもん。

ちょっとほったらかしにしたら、怪我だってこーんなに酷くなってる。

侍君は自覚ナッシングだけど――相談出来る人は沢山いるんだよ?

私も――そしてノエルも。ね?」


「はい。

……宮本様、微力ではありますが私も御手伝いさせて下さい」


 ノエルの――小さな微笑みに、胸を突かれた。

心を震わせるような切ない笑顔を浮かべさせるほどに、俺は酷い顔をしていたのか――


――相談、か……


忍は得意げに、人差し指を立てる。


「侍君はね、難しい事を考えちゃ駄目なの。
一人で悩んでいると、また自爆するもん。

自覚はあるでしょう、いい加減――繊細な忍ちゃんを、傷つけたんだから」

「……言いたい放題言ってくれる」


 物怖じしないストレートな言い分が、清々しい。


なるほど……俺は一人で悩むと、自爆するタイプか。


思い返せば、我ながら悲しくなるほど自爆しまくった気がする。

現にアースラの時だって、普通にプレシア宮殿と間違えてゴリラと殴りあったではないか。


フェイトを疑った事を忘れたわけじゃないだろう、自分――


アリサの時だって、俺が自分で答えを出したか?

ユーノ大先生やなのはの経験、ミヤの説教で今まで軌道修正しまくっただろうに。

考えるより行動か――そうだな。



話してみよう、フェイトと。



リンディに事件の経過を聞いてもいいし、ユーノ教授に魔法について聞いてみるのもいい。

一緒に事件に巻き込まれたなのはにも、今度の事を相談するのも悪くない。

ミヤに弱音を吐いて、説教を甘んじて食らってみるか。

そして何より――



――いい加減にさ……自分から話そうぜ、はやてに。



あいつだけ部外者だなんておかしいだろ、俺。

巻き込んだのは何処の誰だよ。

何も知らないまま、命だけ無理やり預けさせるなんてどうかしてる。

はやてに内緒で――はやての命を重んじて戦うって、意味不明だろ?


儀式の夜黙って病室を出ようとした時――はやては泣いてたじゃないか。


自分は無力じゃない、そう叫んで足を引き摺っていた。

少女を根底から支える強さは、見惚れるほど強くてカッコよかった。

あの強さを――俺は欲しい。


決めた、決めたぞ――



"何もかも、全部はやてにばらすぞーーーーーー!!!!"

"ひえええええええーーー!?

待って、待ってくださーーい!!"



 念話なんぞ俺には使えないが、何度も心を共感した相棒だ。

俺の心の叫びを敏感に受信して、仰天しながら慌てて遠くから飛んでくる気配が伝わる。

愉快痛快に頬を緩めながら、俺は月村とノエルを見る。


「分かった、全部話す。相談に乗ってくれるか、二人とも?」

「――っ……うん、勿論だよ!」

「はい」


 来るべき決戦か、平穏か――

相反する二つの道を見据えながら、俺は安易に答えを出さずに話し合いを選んだ。





最後の道程を、正しく歩く為に。















 

























































<第五十三話へ続く>







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