一人っきりの時間、それが日常だった。



友達を作るより、一人野山を駆け回る――

収容された孤児院は自然の多い田舎町にあり、のどかな環境が俺にとっての全世界だった。

政府の公共施設には珍しく、比較的行動制限の低い自由な規則が俺に合っていた。

自然は優しくも厳しい。

尖った雑草に小さな足を切られ、キザッ葉がやんちゃな手を刻む。

孤児院を抜け出して泥に塗れて帰った俺を、院の大人達はよく怒鳴ったものだった。

傷だらけになって、叱られる日々――




昔も、今も――俺はあまり変わらない。















とらいあんぐるハート3 To a you side 第五楽章 生命の灯火 第四十五話







奇妙な耳鳴りが癇に障り、俺は泥に塗れた意識を這い上がらせる。


胃が煮え繰り返るような嘔吐感と、気だるさに満ちた不快感――


気持ちの悪さに顔を顰めながら、俺は重い瞼をこじ開けた。


(・・・・・・俺、は・・・・・・あぐっ)


 耳の奥を木霊する分裂音が、頭痛のオーケストラに変わる。

身を捩じらせる度に引き攣るような痛みを感じて、四肢を悶えさせる。

痙攣する瞼を動かして、俺は薄目を開けて明るさを取り戻した。


煌々と照らされた照明に、真っ白な天井――


外界が見渡せる窓はなく、汚れのない壁に沿って医療機器が並んでいる。

広いが飾り気のない部屋のシングルベットに、俺は寝かされていた。


(海鳴病院・・・・・・じゃないのか・・・・・・此処は・・・・・・)


 偏頭痛に苛む頭で、ぼんやりとだが思考を張り巡らせる。



――思い出されるのは、鮮烈な戦場の断片。


宮殿を守る騎士、破壊の暴君、無力な自分、吐いた血、折れた骨。
削った血肉、紅に満たされた噴煙、無力な自分。
冷たい床、温かな少女の声、引き千切った血管、血染めの剣。


白銀と紅華の光――


螺旋を描いた魔力の渦を駆け抜けて、鋼鉄の巨人の心臓を斬った。



指先一つ動かすだけでズキズキ痛むが、我慢して腕を持ち上げる。


丁寧な治療が施された手。


消毒液の匂いが濃厚に漂う腕は、血管を損傷させて尚動いてくれた。

この手が――あんな巨人を、斬ったのか・・・・・・

理性と感情を爆発させて、生命を振り絞って全身全霊の一撃を叩き付けた。

荒れ狂う魔力と鋼鉄の感触が、手の平に強く残っている。

――そして、包んでくれた優しい光の感覚も。


(・・・・・・お嬢・・・・・・ありがとうな、助けてくれて)


 鋭く抉られた頬にガーゼ、切れた唇に縫合がされていて引き攣った笑みしか浮かばない。

鏡を見れば、ピカソ顔負けの顔が映し出されるだろうに違いない。

あの無垢な少女に見られれば、無邪気に笑われるに違いない。


まさか俺ともあろう男が、夢見るガキに助けられるとはな・・・・・・


腫れた瞼を閉じる。

一人で夢を叶えようとしていたあの頃が、既に思い出せなくなりつつある。


・・・・・・いや、そもそも夢と呼べる確かなものなどなかった。


他者を蹂躙する強さだけを求めて、一人我侭に木の棒を振っていただけ。

戦う相手すら分からず、歩み出す世界も知らず、自分も見えていなかった。


結果誰にも勝てず、世界の大きさに潰されて、自分を見失った――


一人だったら自分の非力を誰かに擦り付けて、自分勝手にくたばっていただろう。

不思議なものだ――

俺は結局、最後まで否定していた他人に助けられた。


俺の冷たい心に、温かな心を持つ妖精が宿った。

自分本位な望みしか持たない俺に、他者の願いだけを叶える法術の力が芽生えた。

一人ぼっちの空間に、沢山の人達が集まるようになった。



――虹の輝きを放つ俺の魔力。



フェイトやアルフ、ユーノ達の魔力を検証する限りでは、個人によって光は違うようだ。

共通点は皆それぞれに単色で、俺のような七色の光ではない。


他者の願いだけを叶える法術。
アリシアの想いが籠められた籠手。
月村の血を宿した剣。
妖精との絆が結ばれた魂。


――大怪我を負って、俺も遂にどうかしてしまったのだろうか?


七色の光を放つ俺の魔力でさえ、多くの人達の想いで彩られていると考えてしまっている馬鹿な俺がいる。


才能のない俺を赤の他人が満たしているとでも言うのかよ、おい。

幽霊や魔法をあれほど否定していた俺が、科学と技術に毒された魔導師より御伽話めいた魔力を持っている。

何とも、メルヘンチック。


ま、妖精に説教されているようじゃ俺も末期か――も、な?


――感傷めいた気持ちが、現実味を増す。

俺はカッと目を見開いて、上半身を起こした。


「――ミヤ!? フェイト!? アル――うっ!
っゲホ、ゲホ・・・・・・」


疲労と怪我が蓄積された身体は、急激な動作一つで悲鳴を上げる。
起きたばかりで眩暈が生じるが、頭を振って周りを見た。


――間違いない、見た事のない部屋だ。


見た目は清潔感溢れる病室だが、海鳴大学病院の病室ではない。

あの小煩い同居人達どころか、人の気配が感じられない殺伐感がある。

俺は自分の顔や身体を撫で回す。

全身ボロボロの酷い状態だが、戦いで負った怪我にしては軽過ぎる。


俺は既に死んでいた。


死ぬ前の消え失せつつあった命を燃やして、俺は限界まで戦えたのだ。

巨人兵を斬った後の記憶は定かではないが、集中治療室一直線な状態だった事は間違いない。

俺は一つ一つチェックしていく。

割れた額と折れた鼻は包帯が巻かれ、血管を食い千切った腕は綺麗に整えられている。

大火傷を負った全身は新しい皮膚が再生されており、定着するようにガーゼとテーピングがされている。

全身の痛みが生きている証、神経が繋がっている証拠だ。

現在医療では説明出来ない回復力――魔法が使用されたと考えて、間違いない。


(……問題は誰が俺を助けたか、だな……)


 部屋を見渡したが、時計やカレンダーの類はない。

広い室内には複数のベットが並んでいるが、俺以外には誰もいない。

不気味に静まり返った部屋に、医療機器の電子音だけが不気味に鳴り響いている。

俺の傍にも呼吸器や心電図モニターが置かれている。

これほどの重傷だ、恐らく最近までは俺に使用されていたのだろう。

髪を撫でている――短髪の黒髪、融合は解除されている。

不信感だけが積もっていく。



――力尽きる寸前、扉を開けるフェイトやなのはの姿を見た気がする。



彼女達が助けに戻ってきてくれたと考えるのが一番自然だが、彼女達なら海鳴病院へ連れて行くだろう。

確かに病室らしい部屋だが、海鳴病院にしては雰囲気が違い過ぎる。

何処か俺の知らない場所へ搬送された、と考えるなら――

不幸の連鎖が続いている昨今、簡単に救われたとは考えられない。


敵を倒して力尽きた瞬間、なのは達が助けに来てくれた――


そんな上手い話を容易く信じられる程、楽観的な事件ではない。

意識を失う瞬間見えた光景は、俺の希望が生み出した幻である確率は十分高い。

俺に死なれては困る人間は、何もなのは達だけではない。


(のんびり寝てる場合じゃねえな……)


 プレシア・テスタロッサ。


愛する娘の復活を生き甲斐にする魔女が、フロアに倒れていた俺を介抱した。

魔導師としての実力は明確ではないが、対峙した威圧感は相当のものだった。

巨人兵をいとも容易く操る魔力を有しているのだ、俺一人の治療は簡単だったに違いない。

大きな宮殿を所有し、禁断の領域たる生命の研究を行える財力を持っている女だ。

アリシア復活に向けて、医療施設の一つや二つあっても不思議ではない。

むしろ医療面の分野は積極的に研究した筈だ、愛する娘を救うために。


俺はアリシア復活の要――生きた奇跡の産物。


誤解も甚だしいが、アリサを生き返らせた実績を持っている。

死ぬ寸前だった俺を救う為に、回復魔法を施した上で医療機器で生命を繋いだ。

見知らぬ場所なのは当然だ、宮殿内で俺の知っている場所は王座と地下牢――


そして、アリシアの眠る場所。



(……お嬢……)



 歯噛みする。

最早、無関係などと言えない。

一度は偶然、二度目は必然――

夢の中で崩れかけた俺の心を癒して、現実の中で死に掛けた俺を救ってくれた。

動くだけで眩暈がするほど痛むが、首を一つ振ってベットから降りる。

黙って利用されるつもりはなかった。

プレシアとはいずれ、必ず決着をつける。


だけど、今は――無垢な少女に救われた命を優先する。


囚われた心臓病の少女は、フェイトとアルフが病院へ搬送してくれている。

……現状において尚救助に来ていない可能性を考慮するなら、彼女達は裏切った事になる。

俺の無様な抵抗を、プレシアが嘲笑っているかも知れない。

笑いたければ、笑え。

ふらつく足取りで病室内を歩く。

指先は震え、まだ馴染まない皮膚が引き攣り、痛め付けられた肉や骨が悲鳴を上げる。

汗が滲んで零れ落ちるが、唇を強く結んで一歩一歩歩く。

朦朧とする視界の中で、俺は小声で呼びかける。


「ミヤ、いるか……? 

おーい、チビスケ。チビチビ、チービ!  


……いねえな……」


 誰がチビですかーーー! と猛烈に怒って来るであろう妖精はいない。

激戦の最中消滅の憂き目にあったが、あいつもまたお嬢に救われた。

魔力を行使するミヤと、剣を振るう俺――

二人の呼吸はあの瞬間完全に一つとなり、敵を討てた。

あいつは絶対に生きている、そして俺を見捨てたりしない。


フェイトに裏切られて疑心暗鬼に陥った俺を一喝して、厳しく諭してくれた。

巨人兵の攻撃で命を落としかけた俺を涙ながらに呼びかけて、命を捧げてまで俺を助けてくれた。


この世の誰も信じられなくなっても、俺はあいつだけは信じる。


透き通った銀色の髪とはやてに似たリボン――蒼銀色の瞳の可憐な少女が脳裏に浮かぶ。


チビが居ないだけで、これほど心細くなるとは思わなかった。


「……へへ、こんな体たらくじゃまた怒られちまうな……」


 汗を拭って、痛みに震える拳を握り締める。

少し動くだけで倒れそうになるが、自分を叱咤して歩く。

武器になりそうな物を求めて探し回るが、医療機器以外何一つない殺風景な部屋だった。

地下牢では竹刀を持たせていたくせに、血を与えて強くした瞬間持って行かれてしまっている。

魔力は回復しているのか、ミヤが居なければ分からない。

自分自身の意思で魔力を使えない、未熟者だ。

バリアジャケットの一部である籠手も生成出来なかった。

ない物ねだりしても仕方ない。


「……ゼェ、ゼェ……とにかく、今は……ハァ……逃げ、ないと……」


 治療後でプレシアが留守にしている今がチャンスだ。

部屋は鍵がかかっておらず、外へ出られる。

靴がないので素足、真っ白な無菌服の着姿だが、今まで着ていた服や靴はボロボロだったので未練はない。

俺は疲労と怪我で重苦しい身体を無理やり引き摺って、孤独な病室を抜け出した。















――違和感が強くなる。

寝かされていた病室を出て、不案内に歩き回りながら疑心が根付く。

奥行きが見えない通路――

日本住宅には縁のない建築物の広大さは共通しているが、病室と同じく雰囲気が変わっている。

フェイトに案内された宮殿は歴史ある城をイメージさせたが、今歩いている通路は機能面に特化した無機質な感じがある。

目覚めた当初病院と間違えた俺だが、まさに施設的な空気があった。

断じて一般人が気軽に歩き回れる場所ではない。

何処からともかく駆動音や機械音が小さく鳴っていて、耳障りに響いてくる。

通路には幾つかの分岐点があり、見事な設計に基づいている。

多分要所要所に、何処かの施設関係に辿り着くのだろう。

気力・体力共に充分なら冒険心を沸くが、生憎今の俺に余裕は微塵も無い。

歩くのが精一杯で、壁に震えた手をつきながら進んでいる。


――考えてみれば出血死寸前だったんだよな、俺・・・・・・


回復魔法に造血効果があるのか分からないが、最低限生きられる血液量は補給されているようだ。

とはいえ、本当に最低限――

どれほど寝かされていたのか、胃は完全に空っぽで栄養不足。

極度の貧血で眩暈が激しく、胃液が溢れ出そうな嘔吐感に苦しむ。

見知らぬ場所に神経だけが尖って、不安に苛立ちが生じる。

痒みと痛みに包帯を掻き毟りたい衝動を堪えて、俺は出口を目指す。


必ず生きて、脱出する――


激痛で発生した熱に朦朧となりながら、思いだけが昂っていく。



心臓発作を起こしたレン――絶対に死なせない。

フェイトやアルフを必ず振り向かせてみせる。

ようやく掴んだアリサの存在を、二度と手離すつもりはない。

はやてに、俺はまだ何もしてやれていない。

なのはをこれ以上待たせるつもりはない。


俺の剣の道を――必ず、見つけ出す。

恭也に負けない、自分が胸を張れる生き方を。



逆上せた頭が割れた額の痛みと重なって、熱がヒートアップする。

風邪をこじらせたような酷い頭痛に、視界がぐらつく。

自分が何処をどう歩いているのか分からないまま、弱々しく一歩一歩歩み続ける。

一刻も早く此処から脱出して、病院へ――

発作に苦しむレンの顔が瞼の奥を焼く。


血が足りないくらいがどうだってんだ。


あいつは――レンは今でも心臓に爆弾を抱えて苦しんでるんだぞ。

レンの苦しみに比べれば、この程度どうって事はねえ。

このまま倒れたい衝動を懸命に噛み殺して、俺は足を引き摺って歩く。

ぼんやりとした眼差しで前を見やると、左右に通路が分かれている。

俺は手をついた壁に沿うように道を曲がろうとして――



――こちらへ向かう足音に気付いた。



(くそっ! プレシアか!?)


 コツコツと、軽快にリズムを刻んで左から一直線にこちらへ向かっている。

通路に遮蔽物はなく、扉の一つも無い。

見渡しが良いのは結構だが、逆に言えば隠れる場所はなかった。

急いで病室へ戻る時間もない。

俺は覚悟を決めた。


「・・・・・・ハァ、ハァ・・・・・・フゥ・・・・・・フゥ・・・・・・」


 分岐点の傍で腰を下ろして、無菌服を脱ぐ。

冷えた空気が素肌に張り付くが、熱が孕んだ身体には丁度良い。

たかが病室を出て少し歩いた程度で、息が苦しい。

服を脱いで段取りするだけで、手先が縺れて震えてしまう。

とてもではないが、戦える状態ではなかった。

いつも身体と心を癒してくれた妖精はいない。

せめてあの娘に笑われないように、俺は自分の力で状況を打開する。

服を両手で広げたまま、俺は腰を下ろしたまま息を潜める。


――足音は依然、無警戒に接近。


気付いた様子はないが、俺は息を呑む。

体調は最悪、気配を殺すもクソもない。

狙いは、姿を少しでも現した瞬間――



コツ



コツ



コツ



コツ



コ――






――壁の向こうから、小さな横顔がゆっくりと飛び出して――






「うらぁっ!!」

「きゃっ!?」


 自制心を即座に解放。

一瞬でも躊躇ったら、俺の命運が尽きる。

俺はいちいち顔を確認せずに、敵の顔目掛けて上着を力一杯投げつける。

敵は甲高い悲鳴を上げて、咄嗟に上着に覆われた顔を押さえる。

機敏に行動して四肢が千切れそうな痛みが襲うが、涙を呑んでタックルをかけた。


「うあっ!? ちょ、何――うぐっ!」


 縺れ合って、俺と敵が床に倒れる。

無菌服を頭から被ったまま必死で抵抗する敵に、俺は闇雲に横腹を膝蹴り。

息を詰まらせて身悶えする敵に圧し掛かって、俺は敵の首に手を回した。


「あぐっ、うううう・・・・・・!」

「ゼェ、ゼェ・・・・・・うご、ハァ・・・・・・ハァ・・・…くな! 喋るな。

少しでも・・・・・・ハァ・・・・・・抵、抗したら、首の骨を、折るぞコラ!! ハァ、ハァ・・・・・・」



 や、べえ・・・・・・だんだん目の前が暗くなって、きた・・・・・・



早く、帰らないと・・・・・・レンが・・・・・・フェイトが・・・・・・



混乱する敵の首に腕を回して、俺は即座に首を絞める。

敵はしがみ付く様に、回した腕をパンパン叩いて泣き声を上げる。


「苦しい――やめて! て、抵抗しないから・・・・・・」


 プレ、シアじゃない・・・・・・?

明らかに女の声だが、聞き間違えようのない別の声だった。


――別に誰でもいい。


プレシアの仲間なら、今の状態はむしろ好都合だった。

話せるように力を多少緩めるが、上着や腕の拘束は解かずに話しかける。


くそったれ・・・・・・目も霞んでよく見えない……


「ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・俺の質問に、答えろ・・・・・・
嘘だと、分かったら――!」

「あぅっ!? わ、分かってるって! 
く、首絞めないで・・・・・・!」


 白い上着越しに、女が涎を流して悶えている。

プレシアの仲間だ、手加減はしない。

フェイトを苦しめた罰だ・・・・・・容赦なぞ誰がするか。


「こ、答えろ、此処はどこだ」

「何処って、そんなの聞かなくても分かっ――ぐうううう〜〜〜!!
話す、話しますから!」


 余計な戯言を入れるな。

即座に言われた事だけ答えればいいんだよ、腹が立つ。

重くなる瞼を必死でこじ開けて、俺は女を容赦なく絞める。

血管が切れていた腕から血が流れるが、知った事ではない。

女は苦しみながら、必死で答えた。





「じ――時空管理局…・・・巡航・・・・・・L級、は、8番艦――『アースラ』」





 じくう・・・・・・八番・・・・・・艦・・・・・・艦だぁ!?


「ちょ、ちょっと!? 苦しい、苦しいって!?
ちゃんと答えたでしょう!」

「うるせえ! 嘘をつくなら、もう少しマシなのにしやがれ!
魔法の次は艦か、この野郎!」


 脳髄から燃え上がるような怒りを覚える。

ファンタジー地獄を潜り抜けたら今度はSFってか、ざっけんな!

憤怒が良い気付けとなり、多少痛みを忘れる事が出来た。

ジタバタ暴れる女を無理やり押さえつけて、首を絞めたまま床に引き摺り倒す。


「舐めやがって・・・・・・あんな女に義理立てする気か!」

「あんな女? 

……痛い、痛い、痛い!」

「てめえのボスの事だ! 


テメエで生み出したくせに、自分の子供容赦なく捨てやがって!


あいつがどんな気持ちだったのか、考えた事あんのか!」

「え、え・・・・・・? 艦長の子供――クロノ君の事?

待って、もしかして何か誤解して・・・・・・!?」



『エイミィ!』



 今度は反対側の通路から、足音が駆け込んで来る。


ぐっ――見つかったか!


悪化し続ける頭痛と強烈な眠気に押されるように、俺は女の襟首を掴む。


「お前、今すぐ俺を出口まで案内しろ!」

「こ、ここ船の中だよ!? 逃げ場なんて何処にもないよ!
落ち着いてってば!

もしかして君、フェイトちゃんが連れて来た宮本――」

「フェイトが俺を!? 


くっそ――そういう事かよ!!」


 悔しさと情けなさに、涙が滲む・・・・・・


――意識が閉じる瞬間見えた、フェイトとなのはの姿。


俺は助けに来てくれたのだと思った。

愚かにも、一度裏切った相手を信じぬく決意をした。


――違ったのだ・・・・・・


あの時なのはに見えたのは、アルフ・・・だった。

フェイトは助けに来たのではなく、俺を捕まえに来たんだ。

味方面して、レンを受け取って母親に渡したに違いない。


熱に魘された・・・・・・脳が残酷な答えを導き出す。


俺は女の襟首を掴んで、怒りに燃える身体を鞭打って走る。


「お前らの・・・・・・ハァ、ハァ・・・・・・思い通りになると思うなよ!
レンのいる場所を案内してもらうぞ、てめえ!

最悪でも、お前だけは道連れにしてやる」

「物騒な事言ってる!?


だから、話を聞いてってば〜〜〜!!!」


『ま、待て!』



 三者三様の声が通路に響き渡り――新しい開戦の合図となった。















――後に。




順風満帆だったアースラの航海記録に大いに泥を塗る結果となった、この事件。

後々大変お世話になる羽目になる艦長並びにアースラ一同に、衝撃的なデビューを飾った一騒動。






そして、何より――






後に並々ならぬ関係となるエイミィ・リミエッタとの、運命の出会いの扉が今開かれた。


























































<第四十六話へ続く>







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