Ground over 第四章 インペリアル・ラース その13 援軍







 爆裂弾の余波は思っていたよりきつかった。

ガタついた身体の節々に痛みが走り、打ち身や切り傷が酷い。

慣れない戦いなんてやるものじゃない。


「嘘だろ……何匹いるんだ、こいつら」


 小刻みに衝突音が襲い掛かり、船が軋み出す。

断続的に訪れる振動から察するに、一匹が船底から体当たりをかけているようだ。

もしも何匹もいれば、この船はとうの昔に沈んでいる筈。

そう考えれば、残り一匹か二匹程度と考えるのが妥当だろう。


「肝心なのは、その妥当な数のキラーフィッシュをどうやって打倒するかなんだけど」


   笑えない冗談を口に出せるくらいには冷静になった。

少なくとも、カスミに怪我を負わせた魚はバラバラになって転がっている。

お陰で俺の服は血と肉の破片でボロボロだ。

風呂に入りたくて仕方ないが、状況が全く許してくれない。


「……俺一人じゃ限界か」


 開発した爆薬系統は全て使い果たした。

催涙弾と爆裂弾は0。

策を練り直す必要がある。

――正直、悔しさはある。

無我夢中で頑張ったのに、この船の危機までは救えなかった。

葵の英雄馬鹿がちょっと伝染してしまったのかもな……

ガタガタの身体を引き摺って、俺は船尾から河の様子を見つめる。

姿形は見えないが、確実にもう一匹潜んでいる。

河の暴れん坊はこの船の鎮圧を目標に、活発に活動していた。

先程とは揺れの度合いそのものが違う。

仲間をやられて怒りを煽ったのかもしれない。

――こっちだって一人、やられたんだよ……


"友の武器は―――"


葵の言葉が脳裏に響いた。

心の中で毒つき、必死で戦略を編み上げる。

敗北は許されない。

カスミの怪我させて、無駄死になんてしたくは無かった。


「――手酷くやられたな、友よ」

「葵……」


 いつの間に戻ってきたのか、流れる風を背景に葵は立っていた。

俺が口を開く前に、葵が真っ先に聞こうとしていた事に答えてくれた。


「カスミ殿は無事だ。手当てを受けて眠っている。
安静にしていれば、ニ・三日で回復するとの事だ」


 あれだけの傷がニ・三日?

強靭な顎と歯で思いっきり噛み付かれて、肩は骨までやられていた。

――と見た目で判断したが、実はさほどでもなかったのだろうか?

間を空けず、手当てを急いだのが良かったのかもしれない。

疑問点は残るが、今は早期回復を素直に喜ぼう。

船の医務室で寝かされているであろうカスミに、俺は安堵の息を吐いた。


「ふむ、さすが友。無事倒せたようだな」


 肉片が飛び散る現場を冷静に見つめ、葵は呟く。

かなりグロテスクな状況なのだが、葵の神経は丸太以上に太い。

眉一つ動かないのはある意味でさすがと言えた。


「……一匹は確かに倒した。一匹はな」

「最悪な形で予定外が発生したか」


 船底にぶつかる手応えに、葵も厳しい表情になる。

冷静さを失わないだけましだ。


「残りの武器じゃ倒せそうに無い。後何匹いるのかも分からないし」

「新たに作製は出来ないのか、友よ」


 それが出来るなら最初から苦労はしない。


「材料が無い。それに作ってる時間だって無いぞ」


 デリケートな作業なんだぞ、一応。

それに頑強な船であれ、いつまでもつか怪しい。

こうして話している時でも縦揺れは起こり、神経が削られる。


「うーむ、材料不足とは手痛いな。
流石の友も材料を生み出すのは不可能か」


 俺は錬金術師か。

魔法でもない限り、世の摂理に逆らう術なんてありはしない。

……科学技術もある意味で世の摂理に反逆しているけど。


「この船で他に戦える奴がいればいいんだけどな」


 カスミは負傷、船員は客さんの護衛。

船長は船の操縦、キキョウや氷室さんでは魚の餌になるだけ。

――本当は俺達だってか弱いお客さんなんだ。

キキョウが余計な事言い出すからひけなくなってしまった。


「他の者にこの船の命運を安易に押し付けるのか?
それは冒険者として――男としてやってはいけない行為だ」


 俺の肩を掴んで、熱く語る俺のお友達。

これが漫画やアニメなら涙ものの台詞なのかもしれないが、俺は生憎ちっとも心を揺さ振られない。


「だって、俺達だけじゃどうしようもないだろう」

「大丈夫。友なら打開できるさ」


 そんな歯が光りそうな言葉を並べても、俺は騙されない。

第一、何の根拠も無いだろうが。

まあどのみち――


「確かに、逃げ場所も無いのは事実か」


 周りは一面の河。

下手に飛び込んでも、凶暴な魚の餌になって終わりだ。

――カスミだって被害にあってしまった。

何とかしないといけない。

分かってはいるんだけど、葵に言われると反発したくなってしまう。


「何とかして倒す方法は無いかな……」

「モンスターとはいえ、魚だからな。狙い目はありそうなのだが」


 葵の言う通りだ。

確か常識を覆す大きさの魚だが、それでも魚だ。

水中に引きずり込まれれば勝ち目なんて無いが、陸へ持ち込めば勝機は――駄目だ。

相手は鮫より凶暴な魚。

プロの漁師でもない俺達に、安易なやり方では怪我人どころか死人が出る。

――という事は弱らせれば……? しかし、どうやって――

俺は思考を張り巡らせる。

決め手が無い――

倒せない事はないように思えるが、決定的な何かが足りない。

有効打が無ければ、またカスミのような被害者を出してしまう。

何か手は……


『ふっふっふ』


「例えば、網を使って掬い上げるというのはどうだ?」

「そんな網があるのか、この船」


 それなりに良いアイデアだと確かに思うが、網が無ければ意味が無い。

――船長に聞いてみるか?



『くっくっく、あっはっは』



「やはりここはオーソドックスに銛を打ち込んで――」

「だから、この船にあるのかそれ」


 しかも簡単に言うが、素早く動く相手に銛を打ち込むのは相当な訓練と技術がいるんだぞ。


「――て、だから貴様ら!
俺様を華麗に無視するんじゃない!!」



「あ、おい。船の上から身を乗り出したら――」
 


ボチャッ



「船から落ちるぞって言いたかったんだけど、手遅れか」


 水中で悲鳴を上げている角の生えた馬鹿に、俺は溜息を吐いた。


















































<その15に続く>






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