Corporate warrior -Prologue-


Not in Education Employment or Training――NEETニート

英国政府が労働政策上の人口の分類として定義した言葉で、就業や就学、職業訓練のいずれもしていない人間を指している。

近年若年者のみならず中年層にも純粋無業者は増加の一途を辿り、日本の社会状況は深刻だ。

ニートには大きく分けて、二種類に分類される。


高所得者層の家庭に育ち、学歴はあるのに仕事の種類にこだわり社会に出てこないタイプ。

低所得者層の家庭に育ち、高校中退などで学力を培うことが出来なかったタイプ。


特に実力不足等で履歴書に空白期間のあるニートの場合、大企業等恵まれた条件での就職は極めて困難だ。

この俺――「冬真 泰」も恥ずかしながら、この中に含まれる。


「質問が無ければ、面接は以上となります。
この後適性検査を行う予定ですが、一応・・受けられますか?」

「――いえ、結構です。失礼します」


 昨日必死で書いた履歴書と職務経歴書を、完全に興味を失った社長が俺に返却してくれる。

何か言ってやりたい気もしたいが、負け犬の遠吠えでしかないので頭だけ下げて退室。

面接では始終横柄な態度だったのに、見送る挨拶は丁寧で余計に腹が立つ。

事務所の扉を閉めて廊下を歩きエレベータボタンを連打、苛立ちを大いに含んだ足取りでビルから出て行く。

ビルから離れる瞬間上を向いて、たった今面接を受けた会社のある階を睨む。


(てめえの下でなんか誰が働くかよ! こっちからお断りだ!)


  真剣にそう思うなら声に出せばいいものを、周囲を気にして胸の中で吐き出すしか出来ない。

消化しきれない怒りは自分への惨めに変わり、立ち去る足取りは重くなる一方――

憎たらしいほど晴れ渡った青空の下、ビジネル街を歩くサラリーマンに混じってスーツ姿のニートが一名情けなく歩く。


「雇用条件は良かったんだけどな・・・・・・転職サイトに書かれていた仕事内容も、自分なりに興味を持てたのに。
未経験歓迎とか書かれていても、やっぱり学歴や職務経験がないと駄目だな」


 俺も今年で25歳、人生五十年に例えれば折り返し地点に入っている。

同年代の連中は大企業で出世した者、海外進出で重要なポストに就いた者――学生恋愛で結婚、子供が生まれた者までいる。

同じ学生時代を過ごした者達が人生半ばを過ぎて着々と築き上げている中、俺は今だにスタートラインにも立てていない。

――中学高校は平凡、三流大学卒業後就職活動に失敗。

お決まりのフリーター生活を数年過ごして、暢気に生きてきた人生のツケが回ってきていた。

最近買ったスーツのポケットから煙草を取り出そうとして――就職活動再開で最近やめた事を思い出し、肩を落とした。

面接後の疲労も手伝って、ビルの谷間に埋もれた小さな公園のベンチに力なく座りこんでしまう。


「くっそ、あの社長め・・・・・・ネチネチと、人の無知を嫌らしく突っつきやがって。
どうせ正社員経験もねえ、社会経験不足のフリーター上がりだよ。畜生が」


 下手な弁論や言い繕った志望動機、上辺の綺麗さを装った所で会社を運営する立場の人間には通じなかった。

この程度も知らないのかと見下ろす社長の態度には腹は立つが・・・・・・言い分は、正しかった。

向こうにしても遊びで経営しているのではない、利益を生まない人間を雇わない。

貧弱な学歴や脆弱な職歴、人間性の弱さ――その全ては、自分の責任にある。

結局八つ当たりでしかないのに、悔しさに涙が出そうになってしまう。


「日雇いのバイトも続かねえしな・・・・・・いい加減、働かないと駄目なんだけど・・・・・・」


 社会に出ようという積極性に人間関係の調整能力、そのどれもが中途半端な自分―― 

フリーター生活に幕を下ろす決断をしたのも、ご立派な理由があったからではない。

つい先日25歳という年齢を迎えて、ふと我に返ってしまったのだ。


このままのバイト生活で、この先食べていけるのか――当然の疑問であり、経済的な問題。


高校時代に悩むべきだった自分の将来に、あろう事か今更悩みだしたのだ。

「働く意欲が無い者」あるいは「ひきこもり」を最近はニートと呼ぶらしいが、今の俺だって社会人からすれば立派にその仲間だ。

希望の求人がない、能力に自信がない――そんな言い訳を並べている間、俺は何一つ成長していない。

職業観や就労観は低下する一方、今日受けた会社も追い詰められなければ志望していたかどうか怪しい。

あの横暴社長も、俺の腐った性根をきっと見破っていたのだろう。

学歴や職歴、資格や技能なんて才能云々だけの話ではない。

自分自身――俺が頑張らなければ、何も手に入らない。

逆に言えば俺がもっと真剣に自分の人生を生きていれば、こんな惨めな気持ちにはならなかった。


「貯金もねえ、恋人もいねえ、何の力もねえ――



――俺に出来る事って、何だろう?」



 「自分はダメな人間だ」と開き直って努力せずに諦める――その結果が、今の自分。

行動しないで後回しにして、いたずらに時間が過ぎても何も変わらない。

気付いた時には既に25歳、何度もあった機会を全て棒に振ってしまったのだ。

情けなくて、恥ずかしくて・・・・・・泣きそうだった。


「このニート生活から脱出したい――その為には、とにかく仕事に就くしかない。
でも、俺はもう25歳。学生でも新社会人でもないんだぞ。

今から何か出来るのかよ・・・・・・」


 行動に移した結果が、今日の失敗。面接を受けたその日のうちに、不採用確定。

自分の手で何か作り出したり、工夫して考えたりする経験をしていない人間に用はないらしい。

俺自身も体験から学んでいないので、自分に自信が持てずに立ち止まり――行動意欲を失う。

悪循環、ニート生活へ逆戻り。社会はこんなにも、愚か者に厳しい。


「もう一度人生やり直す機会は無いのかよ。あったとしても、どうやって掴めばいいんだ?」


 物事にすぐ飽きてしまう自分に見切りをつける――そのチャンスが、掴めない。

方法は分かっている、努力をすればいい。

資格を取る勉強、能力を身に付ける訓練、就職活動を熱心に行う――今までの失敗を生かす最善の手段。

だけど、今の俺には目標がない。

お子様チックに言えば「夢」・・・・・・自分の人生全てを捧げられる、未来。

勿論、世の中には沢山の仕事がある。その中に自分の向いている職業もあるかもしれない。

25歳の今からでは無理な選択肢もあるが、努力をすれば見つけられるだろう。

問題はそれが何なのか、分からない。俺のやりたい事が見えない。

輝かしい夢を持って働いている人間なんて、世の中にどれほど居るのか。

殆どの人間は不向きな仕事で辛くても、汗水流して働いているのだ。

生きる為に――自分の力で精一杯、生きていくために。

既に社会に出ている年齢になって悩んでいる自分こそ、余裕ある若者――いや、馬鹿者なのだろう。


「本当の自分」なんて、簡単に見つかるはずがないのだ。


「やめだ、やめ! 底無し沼のような自分探しの旅になんぞ出てる場合じゃない。
早く自分の働き先を見つけないと、腐っちまう」


 深く落ち込み、自己嫌悪に陥っている自分を無理やり振り払って立ち上がる。

面接は終わりメデタク撃沈した以上、とっとと背を向けてオサラバしようではないか。

今日の予定は午前の面接のみ、午後からは用事はない。

前向きに努力するなら、ハローワークか転職センターに行って次の仕事を探すべき――


――だけど今日は疲れたし、明日からまた再開しようかな。


経済的に苦しいという単純な思いから生まれた決心なんて、こんなものだった。

自分の情けなさにウンザリしているのに、息切れしている自分を簡単に肯定する。

苦しい時こそ一生懸命走るべきなのに、立ち止まって休息する。

頭から離れない不安や息が詰まるような恐怖――己の弱さは自分を傷つける事を拒み、他人へと移る。

自分が居たいのが嫌だから、他人を傷つける。心の中で、拳を振り上げる事すら出来ずに。

社長を肯定する社会を、国を――世界を、呪ってしまう。





――こんな世界、滅びればいいのに――















 ――幼い頃から、本が好きだった。

幼稚園の時分から絵本や漫画を読み、小学生時代でも放課後図書室へ足を運んだ。

そんな本好きの自分にとって、近年流通を飛躍的に伸ばしている古書籍販売店の増加は喜ばしい。

ネットオークションなどのシステムの出現で、個人でも手持ちの本を不特定多数の人に売る事が出来る。

自分の欲しい本が手に入りやすい最近の変化に、嬉しさを感じる。

都会化の進む駅前には古本屋も最近多く見られ、俺もよく利用している。

古本屋・古書店として馴染みの深い職業として注目株の一つだが、競争率も激しいので難しいところだ。

仕事は自分を成長させるための場であり、仕事を楽しむ姿勢を持って働く――ぼんやりとした理想であり、夢想。

生きるために働くのに、働く楽しみをまだ追ってしまう。

お金のためだけに働いていると思うと、辛くなるのだ。どうしても。

なかなか答えが見つからず成果の出ない自分にうんざりしながら、俺はまず店頭販売の書籍類を見やった。


「こんな立派な帯のついた分厚い本でも100円か――悩み抜いて書いた作者が気の毒だな。
御立派な文章が並んでいても、不人気だと安売りされるからな。

就職関係の参考書とかないかな・・・・・・」


 問題集や赤本などが余裕で売られている時代、就職関係の教本類も沢山並んでいる。

今は就職難と呼べる時代でもないが、働けずに苦しむ人間はまだまだ沢山居るのだ――俺のように。

文学・エッセイ・詩集のみならず、就職ガイドや資格関係の本もあった。

店頭販売で立ち読みはし辛いが、ペラペラめくりながら見て回る。

就職さえ出来れば用済みとなる本だ、それほど内容を贅沢に求めない。

深い悩みに陥っている時は恐ろしいもので、哲学や心理学、宗教関係にも目が止まってしまう。

社会のうざったい人間関係が不得意な自分だからこそ、こういった本に引き寄せられる。

今立ち塞がっている問題は、自分自身の人生に関わる大きな壁――

悩みとは本来、「自身の心の何処に問題があるか」を教えてくれる信号だ。

心の深い所にいる自分に向けられた、強烈なメッセージ――

自分の人生に影響を及ぼす問題だからこそ、容易く答えは出せない。

ゆえに、求めてしまう。


痛みを共感してくれる他者に、答えを出してくれる本に――


「――あれ、何だこの本・・・・・・? タイトルがねえぞ」


 実用書などに埋もれていた、古ぼけた一冊の赤い本。

背表紙にも文字のようなものは見えず、題名も何も記載されていない。

特に興味は無かったが――偶然、自分の手に取って見た。



手にして、しまった――















"アナタは、世界を――"















"救いたいですか――?"





"滅ぼしたいですか――?"















to be continues・・・・・・







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