VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 6 -Promise-






LastAction −この素晴らしき世界−




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 波乱の一日が終わった。

敵艦隊は完全に掃討され、ブリッジクル−達の事後処理により母船周囲に害意対象は存在しない事が確認される。

ようやく訪れた平穏にクル−達が安堵した事は言うまでもない。

そこへもたらされたメイアの回復報告。

峠を越えて意識を取り戻したと聞いて、誰もが皆仲間の無事を心から喜んだ。

特に戦いを共にするパイロット達はリーダーの無事には胸を撫で下ろし、戦いの終わりに感慨にひたる。

当人が眠る医療室にも足を運ぶ者は多くいたが、室前で構えていたドゥエロとパルフェに止められた。

一目メイアの無事な姿を見たいのに何故止めるのかと猛然と見舞いの面々は抗議するが、中の様子を見て納得する。

横たわりながらも穏やかな表情でいるメイアに、涙を浮かべてその手を握るカイ。

二人の様子は男女の垣根を越えた心の共有が見られ、訪れたクルー達はやや驚きながらもそっと後にした。

これがタラークの他の男なら押し入ってでもメイアから引き離そうとはするだろうが、相手はカイである。

このニル・ヴァーナに乗船する人間なら、今日一日カイがどれほどメイアを思いやったのかを知っているからだ。

普段喧嘩ばかりしていた相手が重傷を負って衝撃を露にし、戦場では我を忘れて仇を討とうとした。

肉体も精神も疲弊してもカイは全力全霊で戦い抜き、メイアが死する道へ歩まんとした時は戦いを放棄して船へ戻った。

ほっておけばいいものを助けようとし、見捨てればいいものを支えようとした。

ともすれば挫けそうだった仲間の意識を拾い上げて、導いたのもカイだ。

危険性の高い作戦を実行に移し、マグノ海賊団が全力戦線で何ともならなかった敵艦隊をカイは倒した。

その全てはメイアを助けたい、ただそれだけの気持ちがゆえに――

男であり、価値観的な相違からの嫌悪も存在し、種族的な違いからの相容れない気持ちはまだある。

しかし今の医療室の二人の様子を見て、それでも中へ入ろうとする程クルー達は野暮でも愚かでもなかった。

皆が皆顔を見合わせて苦笑いを浮かべ、治療を行ってくれたドゥエロとパルフェに感謝してその場を去り行く。

唯一パイウェイは持ち前の好奇心を発揮して、二人の様子を物陰からこっそり観察してお手製のメモ帳に記している。

写真を撮ろうとまでしないところに、パイウェイなりに二人を気遣っていた。

覗き見している事には変わりはない行為だが、そんな自分の助手に対してドゥエロは表情を和らげるだけで咎めたりはしなかった。

激戦の最中メイアや仲間が負傷していくのを涙して、自分の無力を歯噛みしながらも看護に賢明だったのはまぎれもなく彼女だったからだ。

11歳にしてここまで逃げ出さずに頑張れる子供はそうはいない。

幼いながらにナースという仕事を任しているマグノの見識に間違いはなかったと言う事だろう。

メイアの治療に一役も二役も買ったそんなパイウェイに、今ばかりは自由にさせてやるのがせめてものドゥエロの労いだった。


「それじゃあ私はそろそろ戻るね」


 もたれかかっていた壁から背を起こして、パルフェはドゥエロを見やる。

成功率は低い試みだったが、手術は無事に成功してメイアは復帰した。

精神的なケアはカイが第一功労者だろうが、肉体的なケアはパルフェがいなければ成立はしなかった。

ドゥエロは心から感謝して、その気持ちを伝えた。


「今日は世話になった。君のお陰で彼女を助ける事ができた」


 真摯なドゥエロの礼に、パルフェは少し照れくさそうに身を縮める。


「ううん、ドクターが最後まで諦めずに死力を尽くしてくれたからだよ。
私は手伝いをしただけだから」

「いや、謙遜する事はない。私とパイウェイだけでは助けられなかった」

「それを言うなら、カイもだよ」


 パルフェがにこやかに医療質の扉を見るのに対して、ドゥエロもまた同じく医療室を見やった。


「ああ・・・その通りだ」


 先に怪我の手当てをしようとも言ったのだが、後でいいと突っぱねて昏睡状態のメイアに何度も訴えかけたカイ。

まるで遠くへ去ろうとする人間を無理やり引き止めようとするかのように、必死な形相でカイはメイアに怒鳴っていた。

思えば最後の最後でメイアが意識を取り戻せたのは、もしかするとカイの呼びかけが届いたからかもしれない。

医学的な見解からすれば馬鹿馬鹿しいと一笑するだろうが、人の繋がりは時として常識を超える。

そもそも常識という概念を何度も覆したのは他ならぬカイなのだ。

精一杯尽力を尽くし、後はカイに一人任せたのは正しかったのだろう。

ドゥエロもパルフェも同じ気持ちで二人の様子をしばし見つめ、やがてパルフェはその場から離れて歩いていく。


「さ、あたしも頑張らないとね!」

「まだ何かあるのか?」


 元気よく歩いていくパルフェの背に訪ねるドゥエロに、パルフェはそのままの姿勢で答えた。


「ペークシスちゃんの調整とドレッドの整備。
今日一日で大分壊れちゃったもん。あたしが見てあげないと」


 疲労も溜まっているだろうに、機械のメンテナンスを欠かさないパルフェの仕事意識にドゥエロは感嘆した。

自分よりも機械の全てを大切にしているのだろう。

体を壊さないように休息は取ってもらいたかったのだが、ここで引き止めてパルフェの意気込みを抑えるのも酷だろう。

ドゥエロはそう考えて少し黙考し、話を切り出した。


「パルフェ」

「なーに、ドクター」


 パルフェが顔だけ振り向くと、少し躊躇う素振りを見せてドゥエロは一歩前へ乗り出した。


「仕事が終わった後、時間を取れないか?」

「ん?うん、取れない事もないけど・・・・・・」


 何かあるの?と聞く前に、ドゥエロは言葉を重ねた。


「お茶でも飲まないか?改めて、今日のお礼がしたい」


 あくまで真面目にそう言うドゥエロに、パルフェは目を見開いて足を止めた。

まさかドゥエロからそんな誘いが来るとは思っていなかったのだ。

パルフェは珍しく決断が出せずに戸惑うが、一つ頷いてにっこりと笑って快諾した。


「いいよ、終わったらあたしから連絡するね」

「頼む。私は医療室でカルテを書いている」

 パルフェの承諾に気を良くしてか、固い表情を崩してドゥエロは言った。

そしてパルフェはそのまま別れドゥエロも持ち場へと戻ろうとしたその時に、表情に苦味が走った。


「・・・・・・なんだ?」

「いや〜、別にぃ」


 いつのまにか話が終わっていたのか、医療室から顔を出しているカイがにやにや笑ってドゥエロを見つめていた。



















   勝利の余韻が響く一時が艦内中を流れ、やがてその喧騒も収まっていく。

心身共に疲れ果てたクルー達は後処理を終わらせると同時に自分の部署を離れて、自室へと向かっていった。

英気を養う為にシャワーを浴びて食事を取り、やがて温もりに満ちたベットで眠りにつく。

静かな航海は眠りへの誘いに最適であった。

激戦時の苦痛や恐怖もない心の平穏こそが、クルー達にとって一番の安心なのである。

とは言え、全滅寸前からの大逆転という華々しい活躍は胸の内に昂揚感を生み出す。

母船内部から援助救援を行ったクルー達もそうだが、前線で直接敵と闘ったパイロット達は浮き足立った炎を消す事は出来そうになかった。

今回一番の功労者であるカイはその筆頭だった。

敵を残らず倒して約束通り皆を守りきり、メイアも無事に戻ってきた。

その喜びは一入であり、カイは当惑するドゥエロを尻目に医療室の連絡回線を利用してジュラ達に無事を通達する。


「青髪が意識を取り戻した。元気そうだから、もう大丈夫だろう」

『本当に!?そう、よかった・・・・』


 モニター先で心から安心したように胸を撫で下ろしているジュラに、カイも一息ついた様子で話を続ける。


「大怪我してたけど、ドゥエロがちゃんと治したみたいだしな。
全く何が危険な状態だ、あのばばあめ」


 危険な状態という言葉には変わりはなかったのだが、メイアが回復した姿を見ると悪態の一つもつきたくなった。

全て解決したからこそ言える台詞である事も承知で。

ジュラも今日一日でカイという男を知り、その態度が安堵から出ている事も何となく察知出来た。

昨日までとは違う印象にジュラはモニター先の男に親近感を感じながらも、揶揄しようとする悪戯心も性分から生まれ出る。


『あの時慌てて船に戻ったあんたはなかなか見物だったわよ』

「や、やかましい!青髪がやばいとか言われたら慌てて当然だろうが!」


 女が命の危機に晒されているから慌てて駆け寄る。

その行為を当然だと言い切る本人の常識化。

カイは自分が何を言っているのか、どれほど内面が磨かれているのかを知らずに言い放った。

ジュラは唖然としてカイの言葉の意味を吟味し、表情に優しさを混じえる。


『・・・ねえ、カイ』

「あん?」

『今から一緒にお酒でもどう?』

「はあ!?何企んでるんだ、お前」


 カイは警戒心と当惑を顔に出して、モニターより一歩引いた状態で後ずさった。

ジュラと言えばメイアとは別格での男嫌いであり、カイへの諍いはメイアに匹敵する。

今日も今日とて最後の最後で共闘はしたものの、その前までは激しい口喧嘩をしたのだ。

対して、ジュラは心外とばかりに表情を険しくして言い募る。


『何にもしないわよ!
ま、前の砂の星でもそうだけど、あんたが助けてくれなかったら危なかったから、その・・・・
しょ、しょうがないからお礼の一つでもしようかと思っているのよ。悪い!?』

「い、いや全然全然!」


 余程恥ずかしいのか顔を赤くして勢い込んでいるジュラに、カイは押されながらも顔が緩むのが抑え切れなかった。

今日は色々な意味で発見の多い日であり、周りの女達が身近に思えたのだ。

最後の最後で酒を囲んで盛り上がるのは悪くはない。

共に協力して死線を潜り抜けたのだ、一時的であったとしても折角の繋がりをこじれたくはなかった。

カイはジュラときちんと向き直る。


「そうだな、一緒に飲もうぜ。ついでだから、黒髪も一緒でどうだ?」

『当然よ。あんたの作戦はジュラとバーネットの協力あってこそだったのよ。
バーネットがいないんじゃはじまらないわ』

「はっは、確かに。お、そうだ。
どうせだったら他のドレッドチームの面々も誘おうぜ。皆で盛り上がりたいからな」


 ジュラやバーネットも無論そうだが、パイロット達の協力も作戦には不可欠だった。

敵を倒せたのはカイ一人だけではない。

皆がお互いをフォローして意識を共同してこそ、成功の果実は実ったのである。

カイの申し出に、ジュラも賛成の意を示した。


『それだけの人数だとカフェテラスがいいわね。
お酒だけじゃ大勢だと足りないから、料理でも用意する?』

「料理班には約四名ほど心当たりがいるから大丈夫だな。早速用意させよう」

『ちょっと待ちなさいよ、カイ。
・・・まさかとは思うけど、私を入れてないわよね?』


 いつのまにか合流したのか、ジュラの後ろからバーネットがひょっこり険悪な顔で覗き込んでくる。

カイは無意味に親指を立てて力説した。


「お前が入れないで誰を入れるんだ!
安心しろ、赤髪とブリッジのあいつらを助っ人に向かわせるから」

『ブリッジのあいつらって誰よ』


 アマローネとベルヴェデールとの約束を知らないバーネットは首を傾げている。

カイは全然聞こえない様子で、ウキウキ顔でパーティの算段を行っていた。

その時ふと思いついた顔をして、カイは背後を振り返る。

「青髪。お前もよかったら一緒にどう―――あれ?」

『?どうしたの、キョロキョロして』

「いや、青髪が・・・・・」


 さっきのさっきまで話をしていた筈のメイアの姿がどこにもなかった。

カイは医療室の隅から隅まで歩き回って呼びかけたが、メイアはいない。

どうやら話し合っている内に医療室から出て行ったようだ。

カイは通信をそのままにして外へと出向き、入り口付近で佇んでいたドゥエロに尋ねる。


「ドゥエロ、青髪知らねえか?」


 無事に復帰はしたものの、今日数時間前に重傷を負ったばかりなのだ。

体力もまだ完全には快復していない筈なのに、姿が見えずにいるのにカイは不安になった。

ドゥエロはそんなカイの様子を楽しげに見つめ、目を閉じて言った。


「彼女なら君が話し込む少し前に出て行った。
疲れたので自室に戻ると言っていたが」

「そっか・・・・ま、あんだけ怪我した後だからな。
疲れて当然か」


 少し残念な気もするが、今からのパーティへの参加は無理だろう。

カイは渋々断念し、ドゥエロに再度尋ね掛けた。


「あいつの具合ってもう大丈夫なんだよな。
医療室で寝ていなくて平気なのか?」

「その点は心配はない。
私個人の希望を言えば数日間の入院はしてもらいたかったのだが、本人に断れた。
一晩ゆっくり寝れば大丈夫だそうだ」


 カイはドゥエロの言葉を聞いてクスっと笑った。

眠りから覚めた時はしおらしい様子だったが、やっぱりメイアはメイアのままだ。

カイはその事が何故か嬉しく感じる。


「あいつらしいな・・・・
もう大丈夫とは思うけど、一応明日とかもそれなりに注意してみてやってくれないか?
あいつ、平気じゃなくても平気とか言うからな」


 カイの頼み事にドゥエロもまた小さくクスリと笑って、そのままカイの腕をがしっと掴んだ。


「な、何だよ、この手!?」

「平気ではなくても平気というのは、君も同じだ。
怪我はただほっておけば治るというものでもない」


 あまりにも元気なので外面では伺えこそしないが、カイはメイアに負けないくらい全身怪我だらけだった。

並みの人間なら傷みに喘いでいるか、とっくの昔に倒れている程である。


「ちょ、ちょっと待て!?俺はこれからパーティの準備が・・・・!?」

「早く取り掛かりたいのなら、早く治療を済ませる事だ」


 カイの主張を取り合っていてはいつまでたっても治療ができないと察しての力ずくの行動である。

生憎文武両道のドゥエロに体力で勝つ事は、怪我をした身のカイには不可能だった。


「くっそ、怪我人にこんな事していいのか!?」

「怪我人なら大人しくする事だ」


 そのまま無理やり引きずられて、カイは医療室に担ぎ込まれていった。

物陰から様子を見守っていたパイウェイのカメラのシャッター音を後にして・・・・・

















 薄暗い一室。

内装は至って簡素であり、派手なインテリア類は一切見受けられない。

だが細かい所に丁寧な配慮がされており、部屋主の控えめな女性らしさが見受けられる。

照明も何も焚かれていない小さな個人ルームにて、メイアは一人無言で座っていた。

ズタズタになったパイロットスーツは既に脱いでおり、今は下着姿でベットの上で落ち着いている。

暗い室内でぼんやりと浮かぶメイアの表情は憂いており、その姿は消え入りそうな儚い美しさがあった。


「・・・・・・・・」


 今日一日、様々な事があった。

過酷な戦いから始まって苦しみの眠り、残虐な痛みから忘れ難い昔の過ち。

現実に没頭して心の奥底に眠っていた全てが噴出した。

忘れようと思っていた。

強くなろうと思っていた。

しかし、そのどれもが成し遂げる事が出来なかった。

忘れようとしていた思い出は褪せる事無く浮かび、強くなったと思ったその性根は死に逃げだす寸前だった。

自分は今まで何をしていたのだろう?

これからどうすればいいのだろう?

メイアはそっと視線を傾ける。

ベットの傍らにあるナイトテーブル、そこには愛用のリングガンと一つのオルゴールがあった。

部屋に帰ったメイアが久方ぶりに取り出して、蓋を開けたのだ。

オルゴールから流れる優しい旋律は昔と何も変わりはなく、透明な音色を奏で出している。

蓋の内側には昔の家族の写真が貼られており、父親の映っている部分に補修された跡があった。

一度破いた後に、葛藤して再び張り直したのだろう。

今はもう会う事のない両親への気持ちの複雑さがそこにはあった。

メイアは小さく嘆息して、今度は自分の手の平を見つめる。

普段は協力なドレッドを操る手には、今は操縦桿ではなく試験管が握られていた。

いたって無機質なその試験管には一握りの土が混入されている。

かつて惑星の開発を試みた探査時のメジェール領土の一欠けら――

母星メジェールのテラフォーミングを願った両親の夢の結晶であった。


「・・・・ふう・・・・・・・・」


 思えば、自分には夢はない。

過去を置き去りにして今ばかりを見ていて、将来を考えた事はなかった気がする。

強さへの固執はあっても、強い自分がどのような自分かも想像出来ない。

沈痛に思い遣るメイアに、オルゴールや試験管は何も返答を返さない。

過去からは何も答えは得られない。

何故なら、もう終わった事なのだから――


「・・・夢、か・・・・・・・・・・・」



『宇宙一のヒーローになるために』



 何度も思い浮かび、助けられたカイの顔。

夢を熱く語るカイの表情は輝いており、何も迷いは見出せなかった。

メイアは小さく笑って立ち上がり、クローゼットから予備のスーツを取り出す。

オルゴールに試験管を大切に直して蓋を閉じ、部屋を後にした。

何か考えがあった訳ではない。

ただ何とはなしに、もう一度カイと話をしてみたくなかったのだ。

一人で考え込むよりも有意義のように感じたから――

その湧き出した気持ちこそ、メイアの内面での変化である事に当人は気づかない。

怪我人とは思えない足取りで方々を探し回り、メイアはカフェテラスの中へと辿り着く。

そして、絶句した――


「・・・これは・・・・・」


 テラス内のテーブルというテーブルに、乱雑に食器類が並んでいる。

床には空になった酒瓶やコップ類が転がっており、所々で飲み物が零れていた。

何よりテーブル席全部に埋まっているパイロット達面々。

その誰もが皆気持ち良さそうに眠っており、誰一人として起きてはいなかった。

一見すれば一目で分かるこの状況。

間違いなく酒宴が行われた後なのだろう。

メイアは一人一人の顔を覗き込み、食器類を丁寧に片付けて、酒瓶を拾って整頓する。

皆満足げな顔をしている所を見ると、本当に楽しいパーティだったのだろう。

参加をしていないメイアも安らいだ皆の顔を見ると表情が綻ぶのを感じた。

が、ある一点で困惑げな顔を見せる。

メイアはその視線の中心に向かって歩み、辿り着いてじっと睥睨した。

傍らよりアマローネとベルヴェデールが折り重なって眠っており、両脇にはジュラとバーネットがもたれて眠っている。

膝元にはディータが気持ちよさそうに寝息を立てていた。

頭と肩には血に染まった包帯に、顔や両手足にはガーゼとテーピングの処理がされている。

熾烈な戦いの後の負傷とは思えないほど、その当人は女性陣に堅苦しそうにしつつも幸せそうな顔をして熟睡していた。


「・・・・皆、よく頑張ってくれたよ」

「!?お頭・・・・・」


 メイアは複雑な色を隠せずにじっと見つめたままでいると、背後から声が降り注ぐ。

驚いて振り返ると、メイアの背後にはマグノが立っていた。

どう返答しようか迷っているメイアのその隙に、マグノはカフェテラスの中へと入り眠る一人一人の顔を見渡す。

マグノの目には皆への労いがこもっていた。

やがてその足取りがメイアを超えると、マグノはそっと腰を屈めてメイアも見つめていた一人の人間に目を向けた。


「それにしても不思議だね・・・・この単純馬鹿」

「?・・・・・・」


 当惑するメイアを他所に、マグノはそっと眠ったままの眠り続けるその人物の頬を撫でる。

まるで気遣うかのように――


「あんたとはいがみ合ってばっかりだったくせに、今日一番あんたを心配してたんだよ。
自分が生き残るのも必死だったのに、皆に頑張れって勇気付けてさ・・・・」

「お頭・・・・・」

「そして皆も・・・この子にいつの間にか頼ってた。
ふふふ、頼もしい限りじゃないか・・・・」


 心から嬉しそうにそう言って、マグノは振り返る。

見つめるメイアの視線を受け止めて、マグノは優しく微笑んだ。


「・・・もう、許してやってもいいころじゃないかい?自分を・・・・」

 マグノの言葉に、メイアはぎゅっと拳を握る。

今日全てを振り返ったメイアには、マグノの心遣いには一種の迷いがあったのだ。

そんなメイアに、マグノは付け加えた。


「人に支えてもらうってのも悪くはないよ、メイア」

「・・・あ・・・・・・」


 マグノは見つめる。

今日お頭である自分すら助けてしまった人間の顔を。

メイアは見つめた。

敵である自分や仲間を助けてしまった男の顔を――

メイアは視線を外さぬまま、迷いを吹っ切った表情で一言こう言った。


「・・・・はい」





 そんな二人の話を子守唄に――





カイはただ豪快に寝入っていた。























<-Promise- end>

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