VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 6 -Promise-
Action3 −邂逅−
---------------------------------------------------------------------------------------------
パイロット達が果敢に戦い続けているその頃、ある部署において早々たる活動が行われていた。
ドレッドチーム戦闘時の要となる補給担当レジシステムである。
レジは通常業務においては前線のサポート的な役割に徹しているのだが、今回の戦闘はそうも言ってられなかった。
度重ねる苦戦の連続に戦場で戦うパイロット達が次々と救難を呼びかけているのである。
『現装備が歯が立たないの!追加オーダー、お願い!』
「待ってください。ただ今追加のオーダー注文はお時間待ちになっていまして・・・」
『そんな!?こっちは今がやばいのよ!何とか優先してよ!』
「そういう訳にはいかないんです。順番待ちのお客様がいっぱいでして、その・・・」
『敵が迫っているのよ!このままじゃ私が危ないのよ、お願い!!』
「で、でも、その・・・・」
気弱な対応をしながら、レジクルーの一人は半泣きで一人のパイロットの注文を受けている。
兵装の追加注文を自分に優先してくれと言うパイロットに、後にしてほしいと懇願するレジクルー。
どちらの主張が正しくて、どちらの主張が間違っているのか。
自分の身が危ないので援助してくれと頼むパイロットが我侭なのだろうか?
あくまでパイロット一人一人を優先して、今現状で危ないパイロットを後回しにしようとしているレジクルーが冷酷なのだろうか?
それは誰にも選ぶ事の出来ない二者択一だろう。
命の危険が迫っているから助けてほしいと頼むのは、生きとし生ける者として当たり前だ。
懸命に母船を守って傷を負っているパイロット達の誰かを優先できないのは仲間として当然だ。
目の前を見ている者と、目の前を対処している者。
共通して言えるのは、両方ともに辛い心情であるという事であろう。
仲間に負担をかけたくないという気持ちはどちらにも持っている。
二人のこのようなやり取りは決して珍しい光景ではなく、レジ内には飛び交い続けている。
常軌を逸脱した敵の戦力にジュラの戦略遅れによるチームの乱れ。
カイ=ピュアウインドの一時的戦線離脱にマグノ達重鎮の対処の遅れ。
そして何より、メイア=ギズホーンというかけがいのない仲間を失いつつある精神的悲しみ。
さまざまな要素がパイロット達にダメージを与えられていった。
お陰でレジでは破損したパーツ・兵装・装甲の追加オーダーが圧倒的な速度で増えており、レジクルー全員が必死に対処している。
『ねえ、そっちから状況を確認できない?もうどこに動けばいいのか分からないのよ』
「所属しているチームはCですね?チームのフォーメーションは現在βに移行している筈です」
『嘘!?ジュラからは何の命令もなかったわよ!?』
「バーネットも指揮に入ってます。キューブ型が常に戦列を変えてきているので」
『もう、誰を信じればいいのよ!』
「申し訳ありません、こちらからはこれ以上の対応は・・・・」
『分かっているわよ。無理言ってゴメン』
そのままパイロットの通信が切れて、レジクルー主任補佐である茶髪の女の子はひっそりとため息を吐いた。
レジクルーに対してパイロットが戦い方を訪ねるなど前代未聞の事だ。
パイロットは前線で戦う事を許された、言わばドレッドによる戦いのエキスパートとして候補者である。
メジェール・タラークに悪名を轟かせていられたのは、ドレッド操縦の優秀性を誇るパイロット達のお陰といっていい。
前線でメイアをリーダーとし、総指揮をブリッジ内にて副長のブザムが取る。
チームメイトは命令を遵守し、その上で独自の手腕・臨機応変さを発揮して海賊団を盛り立てていったのだ。
組織として成り立っている以上、クルー一人一人に役割というものがある。
戦いの一旦を担っているのがパイロットなら、レジクルーはあくまで補佐的な役割に過ぎない。
レジクルーに戦い方を尋ねるというのは、パイロットが己が未熟であると宣言しているに等しいのだ。
だが逆に言えば、それだけパイロット達が追い込まれているとも解釈できる。
実際このような助言を与えているのは、何もこのパイロットだけではない。
数えるだけでも指だけでは足りない程の戦術的なメンタルケアを主任補佐は行っていた。
外部モニター状況を確認するだけでも、仲間達が追い詰められているのがはっきりと判る。
レジ内を見回しても、必死で対応しているレジクルー達が悲壮な顔をしているのが認識できた。
このままデリオーダーを受け付けられるのにも限界はある。
物資・兵器は無限大ではないのだ。
扱えば減っていくし、破壊されたら二度と復元は出来ない。
需要は格段に増えていっても、供給ははっきり言って0なのだ。
使えば使うほど無くなって行く、だがそれはどうしようも出来ない。
オーダーストップはパイロット達に死ねと言っているのと同じであり、さりとて注文を受け付けていればその内になくなる。
一方、敵は倒しても倒してもどんどん増殖していっている。
無論数を増やしているのは戦闘力が一番キューブ型のみだが、それでも数が増えれば十分脅威だ。
限界が見えない敵に、限界が迫ってきている自分達。
自分達のリミットが一番に理解できる立場にいるレジクルー達は悲壮的になるのも無理はなかった。
中には泣き出してきているクルーもおり、周りが必死で慰めている。
戦いに出ているのも辛いが、全滅の憂き目にあいそうな自分達も辛い。
主任補佐である自分が何も助けにならない事に、主任補佐は悔しくて仕方がなかった。
華やかなユニフォームを揺らして、それでも何とか皆を励まそうと口を開きかけたその時、
「何を辛気臭そうな顔をしているんだい!」
「て、店長!?」
対応に追われていたレジクルー達、そして主任補佐がレジ入り口に視線を向けた。
そこには自動扉を開いて中へ入って来たガスコーニュが気遣いの微笑みを浮かべて立っている。
一様に向けられた皆の目に動じる事無く、ガスコーニュは声を張り上げた。
「いつも言っているだろう?アタシ達は危険な死地に赴くパイロット達を笑顔で見送るのが仕事だ。
パイロット達が少しでもそれで明るい心境になってくれたら、戦いの流れも上向きになる。
なのに、あんた達がそんな顔をしてどうするんだい!
ほら行くよ。さん、はい!」
にかっと笑って促すガスコーニュに合わせて、レジクルー達全員が明るい微笑みを浮かべた。
『スマ〜イル、スマ〜イル!』
普段の教育の賜物か、クルー達が浮かべる笑顔は見る者をほっとさせる温かみがある。
ガスコーニュの言葉で本来の自分の役割を思い出したレジクルー達は意気揚々として仕事に戻った。
先程と違うのはもう誰も悲しい顔をしていないという事だろう。
戦いそのものはまだ好転した訳ではない。
追い詰められているのは事実であり、かつてない危機が迫っているのも確かだ。
だが、だからといって自分達が落ち込んでいては戦うパイロット達は暗くなっていくばかりだろう。
心を強く持って笑顔で対応する。
この場にいる誰もが皆プロ意識を持った優秀なレジクルーなのだ。
落ち込んだ雰囲気が一時的でも一掃されたのにほっとしている主任補佐に、ガスコーニュが歩み寄る。
「すまなかったね、留守にしちまって。後はアタシが仕切る。
あんたは少し休んでな」
ガスコーニュの労いに、主任補佐は少し考えて頭を振った。
「皆が頑張っている時です。わたし一人がゆっくりできません。
私もクルーの一人として最後まで仕事に励みます。
店長はデリ機でパイロットの皆さんのサポートに行ってあげてください」
責任感とそれ以上の仲間への思いを胸に、きっぱりと主任補佐はそう言った。
ガスコーニュは少し驚いた顔をして、優しい表情で主任補佐の頭を撫でる。
「・・・ふふ、強くなったじゃないか。修羅場でにもまれたせいかね」
「そんな事ありません。わたしなんてまだまだです。
それに・・・・」
「それに?」
続きを促すガスコーニュに、主任補佐はにっこり笑って言った。
「休んでいたら言われそうですから。
『人が必死になって戦っているのに何てめえは休んでんだ、こらぁ!』って」
誰が、とは言ってはいない。
だが主任補佐の声真似と発言内容に、ガスコーニュの思い当たる該当者はたった一人だった。
笑いをこらえながら、ガスコーニュは主任補佐を見つめる。
「その誰かさんはさっき出て行ったよ。もうすぐ戦線に復帰する筈だ」
「え、本当ですか!?
じゃあメイアは大丈夫・・・・じゃないんですね・・・」
誰かさんがメイアの安否を気遣っていた事は主任補佐も知っている。
ガスコーニュが自分に現場を任せて様子を見に行ったのも、その誰かさんが医療室の前で落ち込んでいると教わったからだ。
そのメイアを置いて戦いに出向いたと聞いて、主任補佐はメイアが持ち直したのだと思った。
普通ならそう考えても無理はない。
心配する者が命の危険に晒されているのに戦いに出れる心境にはなれないだろうから。
しかし、ガスコーニュの表情を見て主任補佐が理解した。
誰かさんがメイアの危機を理解していながらも、戦いに出たのだと言うことに。
もし誰かさんを知る前なら、主任補佐は薄情者だと罵ったであろう。
死ぬかもしれないものをほっておいてよくも平気で戦えるものだと言ってやりたくもなった筈だ。
でも、主任補佐は短い期間ながらに職場で共にしている。
その後メイアを何度も助けた事、砂漠の惑星で仲間達を自分の命をかけて救った事も耳にしていた。
今も戦いに出向くのがどれほどの覚悟と気持ちの尾を引いているかが分かり、主任補佐は複雑さを拭い切れない。
「辛いでしょうね、きっと・・・・」
「自分の気持ちの整理もついていないだろう。何も出来ないもどかしさを今あいつは味わっている。
でも、辛いのは皆も同じだ。一人甘えるのは許されない。
あいつがこれから生きていくのはそういう世界なんだよ・・・・」
見上げる主任補佐の目に、淡々と語る自分の上司が映っている。
気のせいだろうか?
主任補佐にはまるで上司本人が言いよえぬもどかしさを感じているように見えたのは・・・
マグノ海賊団総主力を猛攻果敢に敵側は撃破していく。
チームワークそのものすら成り立ってもいないドレッドチームは、敵艦隊の敵ではなかった。
メイアが初期段階に組み上げたドレッドチームによる何重もの防衛ラインが次々と破壊されて、突破されていく。
母船は小惑星群の影に潜んだまま、堅固守衛のポジションを維持したままである。
ペークシス暴走時に融合した船ニル・ヴァーナは全ポテンシャルをアップさせて、シールドも強化されてはいた。
しかしどれほど強いシールドも集中豪雨を浴びれば、いずれは破壊されていってしまう。
何体も何体も数をなして攻めてくる敵のビームの嵐に、ニル・ヴァーナのシールドは徐々に欠落されていった。
シールドが完全破壊されるという事は母船が丸裸になる事を意味する。
つまりは敵の集中攻撃をもろに食らってしまう事を意味して、船の撃沈をも暗示する。
船そのものが攻撃されるという事は、撃沈されるという事はどういう意味を示すだろうか?
乗船するクル−達の命運が危うい、それもある。
だが第一に被害にあう人物がまぎれもなくこの男であった。
「うわー!うわぁー!!
来た、来た!また来たーーー!!」
船の操舵の全権を委ねられ、ブリッジ先端のナビゲーション席に鎮座することを許された者。
母船と完全にリンクして一体化しているバートは、押し寄せる敵の恐怖に正面から晒されていた。
例えばドレッドは自分の愛機と運命を共にするが、あくまで戦うのは自分の機体であり自分ではない。
カイは機体との密接なリンクを果たしているので別にしても、ディータ達はあくまでコックピット越しに敵を見ている。
艦内に乗員するクルー達は外部モニターや送られてくる戦況からしか、外の状況を把握できない。
その点バートは違う。
バートがナビゲーション席にてクリスタル空間内にいる以上、バート=船となっているのである。
船が見える状況はバートの目から見える状況、船が感じるダメージはバートのダメージとなってしまう。
すなわちキューブ型・ピロシキ型・鳥型が攻撃を攻撃を仕掛ける所からリアルに感じ取れ、ダメージもまたリアルに感じてしまうのだ。
これほどまでに恐怖を味わう事はない。
感覚としては自分当人が敵艦隊に攻撃されているのと同じだからだ。
ましては根が臆病なバートである。
シールドも少しずつ破壊されていき、バートの丸裸となっている身体にはいくつもの裂傷がつけられていた。
現在の不利な状況を一刻も早く何とかしてほしいのは、当のバートが一番望んでいるのかもしれない。
無駄だと分かりながら、バートはクリスタル空間にて敵を追い払うかのように必死で両手を振るっている。
まるでそうすれば敵が蝿の様に追い払えると思うが如く振り回し、バートは泣きそうになりながら悲鳴をあげて怒鳴っていた。
「もうやめてくれよ!!こっちに来るなーーー!!
って、そんな事いっている間にまた一杯敵が来ているし!?
ちょっとブリッジ!!早く何とかしてくれよ!!」
宇宙の宙航速度が段違いな鳥型が、何度も何度も母船をビームで攻撃しているのだ。
船の被害が断続的に伝わって来ており、バートは悲鳴交じりの文句を言いのけた。
バートの苦情にいち早く反応したのがアマローネだった。
ナビゲーション席に通信モニターが展開され、アマローネの怒った顔が映し出される。
『勝手な事言わないでよ!こっちだって必死なんだから!』
戦況は時間が経つにつれて悪化の一方を辿っている。
船は度重なる攻撃を受けて軋み始めており、強固に母船を守っているシールドとて不安定になってきているのだ。
手元のコンソールから伝えられる被害の増大に、アマローネも頭を悩めている。
バートの悪い所は自分を第一に優先してしまうところであり、アマローネの苦しい心境を理解しようとはしなかった。
「じゃあなんとかしてくれよ!こっちだっていつまでも持たないんだぞ!」
普段のバートなら自分が捕虜である事を意識して、アマローネ達女海賊の言う事に反論しない。
信頼を得て自分を安全に置いていたいという自己防衛からであった。
だが、現在行われている戦いは安全どころか自分も巻き込まれている激戦である。
状況も極めて悪く、このままでは海賊達ごと心中させられかねない。
反射的にバートが猛然と抗議するのも無理はなく、何もしなければやられてしまいそうなくらいなのだ。
ある意味でバートは正直だと言える。
少なくとも一所懸命に頑張って戦っているクルー達を思い遣って、弱音を吐かないアマローネとは違った。
追い込まれている今の状態では誰もが不安や苦悩を口にしたいほど苦しく辛い。
敵の行動データを逐一調べているベルヴェデールも同じくである。
疲労と不安に顔色を青ざめながら、ベルヴェデールは声を張り上げて現段階を口に出した。
「敵主力、縦に展開!行動パターンを変えて母船に接近中!!」
ブリッジ中央モニターより映し出される鳥型の群れは、戦列を縦に並んで超速度で向かってきていた。
ぐんぐん接近してくる敵の様子を肉眼で確認して、ブザムは副長席のコンソールを立ち上げながら命令を飛ばす。
「ドレッドチーム、防衛ラインを再構築!2チームをアタック、1チームをディフェンスに」
「無理です!ドレッドが更に三機が大破しました。
現存するドレッドではチーム編成を再構成するには時間がかかります!!」
「くっ・・・・・・!?」
アマローネの悲痛な報告に、ブザムは口惜しげにコンソール画面を見る。
モニター画面では両翼を失って牽引されていくドレッド達が映し出されており、被害の深刻さを教えてくれた。
これだけの被害ではすぐに復帰するのは無理であろう。
パイロット達も心身共に疲弊しきっており、怪我人は重軽傷問わず大勢出してしまっている。
襲い掛かる鳥型に対しての決定的な策は浮かぶ事はなしに、ブザムは徹底抗戦を行うしかなかった。
いかなる逃亡や降伏は許してはくれない敵なのだ。
勝つ以外に道は開けず、完全勝利以外に自分達の未来はない。
分かってはいるのだが、強力な敵の主力艦隊を打ち砕く作戦が全く思いつけないのでいる。
これは何もブザムやマグノが無能なのではない。
前線にいてチームを指揮しているジュラが頼りないからでもない。
チームリーダーのメイアがいて、完全なる戦力で立ち向かっても勝てるかどうか怪しい程の敵の強さに原因はあった。
さらに今は味方が次々と戦線を離脱しており、指揮系統は完全に混乱している。
クルー達が不安になるのも無理はなく、ブザム達が打開策に困窮するのも致し方ないのだ。
パイロット達の悲鳴や助けを請う声は今も次々と寄せられており、ブリッジにいる皆が何とかしたいという気持ちを抱えている。
積み重ねる思いはやがて重荷となっていき、クルー達を蝕んでいく。
ブザムも普段の余裕は微塵もなく、コンソール画面よりデータ算出しての現状突破を考え込んでいた。
ブリッジクルー全般を支えるセルティックは疲労の極みに達しており、変わらず着ているぬいぐるみは窮屈そうに揺れている。
エズラは助けを求めるパイロット達に励ましの応答を繰り返しており、マグノはマグノで憂いに満ちた表情をしていた。
何とかしたいものの何も思いつかず、マグノは自身の無力を痛烈に思い悩んでいる。
苦しみ続ける目の前のクルー達一人一人を見つめ、最後にマグノは今最も苦しんでいるであろう人物に声をかけた。
「メイア・・・・」
声は小さく、喧騒と怒号に包まれるブリッジ内にて立ち消えていった。
マグノが案じる当のメイアはというと、現在も緊急手術が行われていた。
カイ達にメイアの状態を報告し終えた後も、ドゥエロは付きっきりでメイアの治療に専念している。
ドゥエロはタラークの士官学校において主席で卒業した経歴を持つが、医者としての経験は長いとはとても言えない。
お陰で重傷を負っているメイアのみに治療はかかりきりであり、戦いで傷を負ったパイロット達の治療までには至れなかった。
幸いにもメジェールの医療技術は進んでいるので、機械による治療や応急処置は可能となっている。
母船内でたった一人のドクターのドゥエロと看護婦のパイウェイがメイアのみに専念出来るのも、機微に対処するクルー達のお陰であった。
怪我を負った誰もが自分よりメイアを助けてほしいと願っているのも一因はある。
何しろメイアの怪我は命に関わるほどの重傷であり、助かる可能性は正直少ない。
ドゥエロがカイに述べた全ては真実であり、希望的観測も何もない現段階での容態であった。
外界より遮断された医療室内において、メイアは診療台に寝かされてセンサーの数々を取り付けられている。
心肺機能、心拍数、脳波、血圧に至るまでのメイアの身体の全ての反応をセンサーはモニタリングしていた。
ドゥエロはこれまでにない真剣な表情で手元の医療システムの操作を行っており、あらゆる角度から診断を行っていた。
「パイウェイ、酸素飽和度が低下している。何とか可能な限り安定させてくれ。
私は身体機能の安定を図ってみる」
「う、うん、分かった・・・・」
ドゥエロの指示に素直に従って、パイウェイはメイアの傍に歩み寄る。
痛々しいまでに全身を血に染めているメイアに、パイウェイは普段の生意気な態度は微塵も見せずに震えていた。
鳥型の攻撃によるダメージをもろに浴びてしまったのだ。
カイが助けに駆けつけなければ、まず間違いなく死亡してしまっただろう。
男に自分の仲間を助けられたという事実に、パイウェイは複雑さを隠せないでいた。
「何をしている!一刻一秒を争う事態なんだぞ!!」
考え事に手を止めていたパイウェイに、容赦のないドゥエロの一喝が飛んだ。
「ご、ごめんなさい!すぐにやるから!」
反論の余地もない怒号に萎縮して、パイウェイはメイアの手当てを続けた。
余程ショックだったのか、パイウェイの表情は悲しみに曇っている。
そんなパイウェイの様子に、ドゥエロは彼女がまだ子供盛りの年齢である事を再自覚する。
同時に自分が周りを気遣う余裕もなかった事を痛感し、ドゥエロは顔を俯かせた。
初めこそ海賊達に対して医者である事を通達したのは、女性の身体に興味があったからであった。
男である自分とは違う肉体を持っている女。
性的な本能ではなく知的好奇心から女性に興味を持ったドゥエロは、一言でいうなら興味から医者になった。
命を救う事や怪我を治す事は二の次であり、自分の探究心を満たすためのみで職務に励んでいたのだ。
が、今はメイアが裸で寝かされていても観察はおろか調べようともしていない。
ただ純粋にメイアの回復を願っており、それに全力投球をしている自分がいる。
なぜそうまで一生懸命になるのか?
『てめえ、医者だろう?患者の命を救うのがお前の仕事なんじゃねえのか!』
『助けろよ!あいつ、助けろよ!!何でできねえんだよ!!!』
「・・・・・・・・パイウェイ」
「な、何?!」
また何か自分がミスでもしたのかとビクつくパイウェイに、ドゥエロは紳士的な笑みを浮かべた。
「先程は怒鳴って済まなかった。
パイウェイ、我々は患者の命を担っている。私も全力を尽くすつもりだ。
手をかしてほしい」
ドゥエロがパイウェイにこうした言葉を言うのは初めてである。
いつもは自分一人で何でもこなしているドゥエロは、基本的に誰の力も借りずとも事は成せたからだ。
パイウェイも驚愕に満ちた表情を浮かべる。
真意を確かめるようにドゥエロを覗き込むが、ドゥエロはいたって真面目な顔だった。
パイウェイは少し照れたように顔を赤らめて、それでも力強く頷いた。
「ドクター・・・絶対に助けようね、メイアを」
「ああ」
二人は互いに頷き合って、メイアの治療に取り掛かった。
当の本人はただ虚ろな目を向けたまま何も語ろうとはしない・・・・
<Action4に続く>
--------------------------------------------------------------------------------