ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 24 "Men and Women"
Action67 −羽布−
流刑地における刑務作業の報酬は、厳密にいえばない。
通常の刑務所であれば刑務作業の報酬は出所時に渡されて、主に生活費などに充てられる社会的復帰となっている。
しかしながら流刑地では出所などほぼありえない事であり、報酬も渡す必要はない。だからといって何の報酬もない強制労働も流刑地という環境では罰則以外の効果はなかった。
こういった場合は所内で嗜好品を購入する際に利用するか、報酬に応じた申請を行うことである。
「それで休憩時間の私語を申し出たんだね」
「天下のマグノ海賊団様お相手じゃ断れないよ。何でも聞いてくれていいよ」
刑務所内では私語厳禁、大鉄則である。
休憩時間でも刑務官達の目は鋭く光っており、迂闊なことは喋れない。少しでも聞き咎められたら即座に叱責が飛んでくる。
流刑地に送られてくる囚人達は重犯罪者であり、会話一つでも神経を尖らせる。何の悪巧みをするか分からないし、どんな事を話されるかわかったものではない。
刑務作業を通じて刑務官達の心象を良くしたマグノ海賊団は、私語の権利を獲得した。
「ここ一年間のメジェールの状況を聞きたいわ。アタシ達、事情があって活動できてなかったから」
「そういえばあんた達、最近静かだったね。無条件降伏したと聞いているし、政府に目をつけられていたのかい?」
「……まあそうだね。おえらいさんの機嫌を損ねたのは事実かな」
マグノ海賊団が接近したのは政治犯、国の政治的秩序を侵害する罪を犯した者達である。
政治的動機によって犯される罪は重い。内乱罪のように政治的色彩を有するものだけに限らず、殺人罪などでも国政を紊乱する目的であれば政治犯となってしまう。
船団国家であるメジェールでは後者はあまり当てはまらない。国家中枢が船である以上、未然に防止されるケースが多い上にテロリズムの効果は薄いからだ。
一方で内乱罪には厳しい。メジェール政府への風当たりは元々強いため、内乱罪の誘発は比較的容易いからだ。
「ここ一年は国家の弾圧が強かったね。不穏防止を正す活動が多かったよ」
「それって以前からじゃないの?」
「以前は見逃されていた政治団体も弾圧の対象になったのさ。流刑地送りになった連中も多かったんじゃないかな」
自分達も実はそうだ、と苦笑気味に申告してくる。
刑務官たちは話を聞いているが、特に注意などはしてこない。私語の許可の範囲であったからだ。
マグノ海賊団の刑務作業は流刑地のみならず、刑務官の環境も劇的に改善したと言って印象も良い。
奉仕的活動をする彼女達が、私語の許可を与えられたからといって妄言を吐いたりしないという信用を得ていた。
「あと平和的な団体も結構吊るし上げられていたね」
「平和的?」
「ほら、男女平等とか訴える思想犯が何時の時代もいたじゃないか。
表立って口にしていなかった奴らまで調べ上げられて、片っ端から裁判送りにされていたよ」
あれは酷かったと、当時の世を振り返って囚人達は嘆いている。
マグノ海賊団の女性たちは顔を見合わせた。政治犯、思想犯への弾圧が加速化している。
それはすなわち国家に服従しない者達を処分していき、盲目的に従う者達だけを選別している。
――地球への”出荷品”を、選んでいる。
「顕著になったのはタラークの連中、男達との共同作戦は噂された頃だね」
「極秘にされていたけど、おえらいさん達の動きなんて簡単に見えてしまうからね。
結構な反発あったけど、それも全部圧力かけられて相当荒れたんだよ」
弾圧が顕著になった理由は、マグノ海賊団と地球の動きを察知したからだろう。
マグノ海賊団はメッセージポットを送り、刈り取りに関する情報を送ってしまっている。
故郷を案じて送ったその情報を、地球の手先に成り下がったメジェール政府はむしろ刈り取りに同調する行動を取ってしまった。
おそらく最終決戦のタイミングで、タラークとメジェールを献上するつもりなのだろう。
自分達の動きが故郷を破滅へ追い込むのに利用されていたと知り、マグノ海賊団は憤りを感じた。
<to be continued>
|
小説を読んでいただいてありがとうございました。
感想やご意見などを頂けると、とても嬉しいです。
メールアドレスをお書き下されば、必ずお返事したいと思います。
[ NEXT ]
[ BACK ]
[ INDEX ] |
Powered by FormMailer.