ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 24 "Men and Women"
Action49 −黒霧−
地球から略奪した母艦については現状、大幅な改修作業は行っていない。
母艦は地球にとっても最大の戦力、一艦であれど地球から奪い取れたのは計り知れない。
膨大な数の無人兵器が搭載された母艦は全長三キロのニル・ヴァーナを遥かに上回る規模であり、一国一星の戦力に匹敵する強大さであった。
かつて内部突入したルートを利用して母艦へ侵入したカイ達は、改めて圧倒される。
「相変わらず無駄にデカい船だな……」
「略奪後は何度も艦内を探索しているが、未だに全て掌握出来ているとは言い難い」
レジ船の操縦席でカイとメイアが顔を寄せ合って、感想を口にしている。
当然母艦の内部を徒歩で探索できるスペースではなく、そのままガスコーニュの船に乗って艦内を探索する。
両惑星が地球への忠誠として母艦に手を加えていないのは、どうやら本当の話であるらしい。
「他にもきっと理由があるんでしょうね」
「理由……?」
カイとメイアが仲良く顔を寄せ合っている光景が面白くないのか、やや不満げにミスティが顔を出す。
無条件降伏後にさほど日数も経過していない為もあるが、艦内に工作の後は微塵も残されていない。
その点については安心ではあるが、同時に納得もできるとミスティが意見する。
ジャーナリストを目指す彼女の視点はなかなかに鋭い。
「母艦なんて大げさに言っても、結局刈り取りの船でしょう」
「これだけの規模の広さを、兵器工場だけに使用していないだろうな」
「だったらタラークやメジェールの人に見せられないでしょ、そんなの」
「おっ、確かにな」
――そう、母艦は地球にとっては戦力であり輸送船でもある。
掃除機という表現は適切ではないかもしれないが、各惑星から臓器を回収する役目も負っている。
これは今まで襲撃してきた無人兵器のタイプを振り返れば分かることで、どの無人兵器も戦いに特化した構造を持っていた。
輸送に適しているのはまさにこの母艦と言える。
「物的証拠も欲しかったの」
「お前が先程言っていた、タラークやメジェールへの告発か」
「あたしが持っている故郷からのメッセージ――この真実をタラークやメジェールにも伝える。
ただメッセージだけだと偽証だと一蹴される可能性は大いにあるから、目に見える証拠も欲しい。
その点、この母艦は立派に地球から奪い取った巨大な証拠品でしょう」
ミスティが今回危険を承知で同行を申し込んだ最たる理由であった。
ミスティは冥王星出身ではあり、異星人である。だが少なくとも見た目は可愛らしい女の子である。
外見だけ見ればメジェール出身だと間違えられる可能性は大いに高く、タラーク・メジェール両国の性別蔑視が拍車をかけてしまう。
性別に敏感な両国に女という存在は、出身を誤認させる最たる要因だった。
「確かにお前、冥王星出身だと言っても分からないもんな。外見に特徴でもあればよかったんだけど」
「お生憎様、ディータが憧れるような宇宙人ではないのよ」
「角とか尻尾とか生えていればよかったのに」
「冥王星人を何だと思っているのよ、あんた」
逆に考えれば、メイア達女性陣と変わらない容姿だからこそ早々と受け入れられたと言える。
奇抜な容姿は異星人の特徴だと言えるかもしれないが、それだと差別される原因にもなりかねない。
マグノ海賊団は比較的常識にとらわれない人種が多いが、それでもカイ達男性陣と半年くらい揉めたのだ。
人間は容姿一つとっても違いを異端視する厄介な悪癖を持っている。
「メッセージにあった映像のパパとママも、あんた達と変わらなかったでしょう。
まあ祖先は地球なんだから同じ人類なのは当然なんだけど、同じ人類だからこそ種族の違いが分からない。
告発するにはあたしが異星人であり、地球の正体を知っているという強いメッセージ性がほしいのよ」
タラークやメジェールの人間だと、両国への告発に対して説得力に欠けているとミスティは懸念する。
それこそグランマやグランパ、第一世代であれば告発にも大きな影響力があるだろうが、ミスティ達はあくまで一般人。
マグノ海賊団やカイ達――厳密に言えばカイは違うが――も両国出身なので、告発しても戯言で済ませられてしまう。
ミスティは自分が異星人であることさえも、利用しようとしていた。
「この母艦にはきっと地球の刈り取りを示す確かな証拠がある。
それを持ち、母艦のシステムを使って両国に対して真実を告発する。
そうすればきっと混乱はするでしょうけど、真の敵が誰か皆分かってくれるはずよ」
カイやメイア達は絶句する。
旅の途中で救出したミスティという、星の外からやってきた女の子。
最初はただの遭難者であったというのに、今ではタラークとメジェールを揺さぶる重要人物となっている。
カイ達がこのミスティという少女と出会えたのは、まさに運命であった。
<to be continued>
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