ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 24 "Men and Women"






Action37 −鶏炬−








 ドゥエロ・マクファイルという男は聡明である。

マグノ海賊団を仲間だと認識してながらも、敵とみなしているかつての同僚達を批判したりはしない。

少なくとも彼らの認識は、決して間違えているとはいえない。彼女達が海賊として、彼らを襲撃したのは事実だからだ。


繊細な問題であるからこそ、切り込むのは慎重でなければならない。


「君達は、どう思っている?」

「海賊達のことか」

「ああ、何しろ我々は士官学校卒業時の演習で海賊達に襲われたのだ。被害者と言えるのだからね」


 彼らが被害者であるということを改めてドゥエロが口にして、隣りにいるバートも自重する。

ドゥエロがわざわざ口に出したのは、自分を戒めるためだ。感情的に抗弁してもキリがない。

一年間の付き合いを通じて、ドゥエロが何をいいたいのかくらいバートも分かるようになっている。


一方、ドゥエロに問われた同僚達は考え込む素振りを見せる。


「そりゃまあ、華々しい晴れ舞台で襲われたんだから、腹が立つ気持ちくらいはあるさ」

「俺達の手で捕まえてやりたかったとは思うね」

「ガルサス達が海賊達相手に立ち回ってくれたと聞いた時は、同期である俺達だって嬉しかったさ」


「あ、ああ、そりゃどうも……」


 意外なところから賛辞を受けて、バートは頬が引き攣るのを感じた。

同期の敵、仲間達の無念を晴らす。なるほど、見方を変えればそういう風には見えてしまう。

ハッキリ言って全くそんな気持ちはなかったので喜ばれても困るのだが、同僚が喜んでくれるのであれば訂正する気はない。


観察眼の鋭いドゥエロは、彼らの言葉から何かを感じ取った。


「ふむ、見たところどうやら君達なりに海賊達に思うところがあるようだね」

「い、いや、別に……」

「隠す必要はない、ここは軍部ではないのだ。久しく集った同窓会、無礼講といこうではないか」


 他ならぬドゥエロ・マクファイルという男から出た無礼講の言葉に、バートは吹き出しそうになった。

少なくとも一年前の彼であれば、絶対に口にする言葉ではなかっただろう。

最近は冗談も口にするようになったし、随分と柔軟になったものだと思う。


それは同僚達も同じなのか、意外そうな顔をする。だからこそだろう、彼らもつい口が滑ってしまう。


「……正直言って、海賊達が捕まったのにはホッとしているかな」

「安堵したと?」

「ああ、だってあいつらめちゃくちゃ強かったじゃないか。新造艦で出撃したのに全く叶わなかったんだぜ。
あそこまで完膚なきまでに叩きのめされたんなら、腰だって引けるさ」


 つまり、憎悪よりも恐怖が勝ってしまったということだ。

軍人としてあるまじき言葉ではあるが、当時新兵だった彼らに気概を求めるのは酷かもしれない。

何しろ指揮官である首相まで新造艦もろとも爆破するという暴挙にまで、最後は出てしまったのだ。


ワームホール発生によるワープでマグノ海賊団は事なきを得たが、暴挙に出なければ勝ち目などなかったのは間違いない。


「その後掃討作戦にでも出るのかと思えば、軍事演習は中止」

「何の進展もないまま一年が過ぎて、何を思ったのか敵国メジェールと組んでしまう」

「敵と組まなければ海賊達を捕まえることも出来なかったということだ。他でもないお偉いさんが認めてしまったんだぜ?
そりゃ俺達だって、自分でどうにかしようなんて思わなくなるさ」


 気概はともかくとして、軍人としての判断は正しい。

敵の強さを正しく分析できるのは、軍人として必要な技能だ。

タラークの軍事教育がある種実を結んだ結果ではあるのだが、同時にタラークの洗脳教育が解けているのは皮肉と言える。


女への偏見よりも、軍人としての目が勝ったのだから。


「――君達の意見はよく分かった。同僚として大いに賛同させてくれ」

「ドゥエロ……?」


 ゆえにこそ、ドゥエロ・マクファイルは考える。これはチャンスであると。

恐怖という感情ではあるが、彼らが今マグノ海賊団をメジェールの女ではなく、海賊という戦士で捉えている。

女性蔑視で見られていてはどんな指摘も通じないが、敵としての恐怖が勝っている今の感覚であれば――


マグノ海賊団という存在を、正しく判断してくれる可能性がある。


「今こそ話そう。我々がこの一年マグノ海賊団と共に歩んで知った、真実。
女という存在が、如何なるものであるのか」


 今もニル・ヴァーナに残って戦っているカイ達の為に。

今も故郷へ戻って、死物狂いで足掻いているであろうマグノ海賊団の為に。


仲間達のために――今こそ、仲間を増やしていこう。

















<to be continued>







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