ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 24 "Men and Women"






Action33 −衣田−








 仲間達がそれぞれ独自の行動に出る中で、カイ達もまた動き始めた。

向かう先は、レジシステム。メイアの提案により、カイとミスティは同行する形で動いている。

融合戦艦ニル・ヴァーナは制圧こそされているが、内部については徹底した監視はされていない。カイ達は比較的自由に動けた。


頭目マグノ・ビバンが判断した無条件降伏により乗員は全員連行された――と思われていて、艦内への警戒が緩んでいる。


(念の為、次の通路を右に行っておくか)

(うむ、エレベータ口はセキュリティの塊だ。システムダウンしているとはいえ、迂闊に干渉しないほうがいいな)

(……お姉様は当然だとして、あんたも随分この艦に慣れているわよね)

(一年近く乗っていたんだ、流石に覚えるさ)


 融合戦艦ニル・ヴァーナはタラークの軍艦とメジェールの海賊船が融合した、全長三キロを超える巨大な艦。

全区画を網羅できているとまでは言わないにしろ、カイやメイアはこの戦艦には詳しくなってはいる。

当初こそ男女の垣根があってお互い不干渉だったのだが、仲良くなってからは互いの領域を行き来して全貌はある程度把握できている。


そうした点にほんの少し面白くなさを感じて、ミスティは口をとがらせている。


(お前だっていい加減慣れただろう、この艦も)

(アタシはまだ新参者ですから)

(さっき曲がった通路先、お前と閉じ込められたエレベーターのところだぞ)

(うわ、あそこだったのね……カルーアちゃんを抱き上げた瞬間は、忘れられないわ……)

(ふっ、ミスティにとって我々との初めての思い出となるな)


 自分の事も仲間だと思っているのだとカイやメイアに言われて、ミスティは若干頬を染めてはにかんだ。

刈り取りとの戦いは辛いことの連続だったが、生死を共にした経験は人生の密度となって、大事に刻まれている。

辛いことを乗り越えてきたからこそ今があり、団結があるのだ。知り合った期間なんて関係はない。


仲間達は離れ離れになってしまったが、それでも信じられている。


(レジシステムを正式稼働させたのはガスコさんという話でしたよね、お姉様)

(自分が出した成果や報酬を元に兵装が組まれる、独自のシステムだ。タラークやメジェールの技術者では、概要も理解できないだろう。
余計な細工をされていないことを祈るしかないが……)

(兵装用だとバレてしまうと、やばいからな)


 ドレッドや蛮型を格納した保管庫は制圧されているとはいえ、弾薬類を見逃すほどタラーク・メジェール両軍は甘くないだろう。

何しろ両国家が散々恐れてきた悪名高き海賊達である。無条件降伏をしたからと言って、船員全員を捕まえてめでたしとはいかない。

海賊達の戦力を取り上げるのは必須条件であり、ドレッドや蛮型も厳重に封印処置がされている。


万が一兵装を管理するレジシステムを破壊でもされていたら、目も当てられない――のだが。


(――ふう、ロックされているだけだな。そっちはどうだ?)

(俺がレジ見習いしていた頃のパスワード、そのまんま残ってる……こりゃあ弄りようがなかったな)

(レジとは何たるか、になってしまうもんね……兵装に繋がっているとは考えづらいか)


 弾薬類はパイロットに提供されて然るべきであり、まさかパイロット本人が成果による報酬で買い物をするだなんて夢にも思わない。

この発想はむしろ軍人だからこそ結びつかないと言える。兵士が弾薬をわざわざ自腹で購入する軍隊なんて末期だ。

海賊がこのレジシステムを採用している理由は、徹底した実力主義によるものだ。


海賊達は荒くれ者が多く、兵装となると皆強い武器を優先して持ちたがる。そんな彼らを統率する上で、結果という分かりやすい形で提供する。


(でもこのシステム、実力のない人だと強い武器が買えないから余計に危なくなるんじゃないですか)

(実力が認められなければ、そもそもパイロットにはなれない。乗船なんてさせないさ)

(あくまで優れたパイロット同士の優劣でしかないんだろう)

(ああ、なるほど……まあディータなんて変わり種も居るけど)


(――もう一年の付き合いになるけど、結局あいつは何なのかたまに分からん時がある)

(私もあの子を見定めるまで、一年がかかったからな。ある種、大物ではある……)


 ミスティのディータに対する指摘に対して、メイアやカイは頬を引き攣らせる。

旅に出た当初は新人パイロットとして出撃していた彼女も、今ではリーダー候補としてチームを率いている。

思えば当時から新人っぽくはあれど、ヴァンドレッドのパイロットとして成果は出していた。


どんな強敵でも泣き言こそいえど、必ず立ち上がって前を向く気力はあった。


(今頃なにしてんだろうな、あいつ。メソメソ泣いている、ような奴でもないか)

(仲間達を必死で励まして、ディータなりに励んでいるだろうよ。あの子がいれば、チームの皆も大丈夫だ)

(めげないですもんね、ディータは……)


 ディータのことを噂しつつも、三人はレジシステムを調べて状態を確かめる。

迂闊にロックは解除できないが、システムスキャンは可能である。レジ内部の状態を確かめて、使えるかどうか確認する。


多少の時間を要したが、状況把握は完了した。


(システムロックを解除すれば、兵装は問題なく使用できるな)

(ドレッドへの転送も可能なようにはしておいた。あいつらが帰ってきたら、出撃できるようにしておこう)

(没収されていないのは不幸中の幸いでしたね、お姉様……全部持ち出す暇はなかったのかな)


 全てシステム的に封印こそされているが、レジそのものは使えるという結論に達して三人はホッとする。

実は両国家がそもそもニル・ヴァーナそのものの扱いに困っていたなんてことは、彼らには伺い知れようもなかった。

弾薬や兵装類も破棄すること自体は出来なくはないのだが、そこまでするなら軍艦ごと没収すればいいだけの話。


両国家が判断できなかったからこそ、船ごと弾薬が残されていたという話でしかなかった。


(それになによりも)

(ああ――ガスコーニュの船はそのまま残っている)

(ここから脱出できますね!)


 レジが管理している船――ガスコーニュやバーネットが運用している、戦場で戦うパイロット達を補佐する艦。

彼らが何よりも欲していた翼が、残されていた。


まるで希望のように。

















<to be continued>







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