ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 24 "Men and Women"
Action32 −地国−
マグノ海賊団が無条件降伏した際、融合戦艦ニル・ヴァーナも明け渡している。
自分の主戦力を無条件に差し出すという、海賊として見れば首を差し出すのと同じ行為。この無謀さが意外にも功を奏していた。
ニル・ヴァーナは融合戦艦であり、タラーク軍の最新艦であるイカヅチが海賊船と合体して生まれたものだ。
タラークの新しき歴史の象徴に、メジェールの海賊船が混じっている――この事実が、大いに議論を呼んでしまった。
「最悪システムごと初期化されると思ってたんだけど……意外とあちらさんも混乱しているのかな」
マグノ海賊団を捕らえたのは、タラーク・メジェール両惑星の軍隊。この連合軍が両国の最高トップの命により、出撃した。
グラン・パとグラン・マの命令は絶対であり、是非はない。だがしかし、彼らはその最高トップの方針による洗脳教育を受けている。
女性蔑視に、女尊男卑。男にとって女は鬼であり、女にとって男は汚物である。お互いを嫌うように仕向けたのも、両国家の首脳。
互いを敵視している両軍が連合を組む――ハッキリと言って、矛盾であった。
「せめてシステムダウンさせればいいのに、ロックかけているだけだね。
触るのも嫌っていう感覚だったのかな」
その最たるものが、この融合戦艦ニル・ヴァーナだ。
恐るべき戦力を保有する戦艦を、どちらが管理するべきか。大いに紛糾し、揉めた。
いっその事解体するべきと処断も出たが、タラーク軍部が元イカヅチであるこの戦艦を庇い、メジェール軍は海賊船を捕縛したいと躍起になる。
地球の命は絶対、国家の命は絶対――ゆえにこそ一律ではなくなり、相反してしまう。
「アタシらが奪った母艦にいたっては放置されているし……不気味にでも思っているのかな。
地球の戦艦だから、扱いに困っているのかも」
母艦に至っては元々地球の戦力なので、触るのも駄目だという始末。神聖なる方舟であるかのように扱われている。
解析を行っていたパルフェはシステムを通じて現状を知り、呆れ果てた心持ちだった。
罠ではないかと疑ってもみたのだが、そんなことを仕掛ける余裕もないほど、連合軍は紛糾していた。
首脳の命だからこそ一致団結しているのであり、首脳の教育だからこそ一致団結できていない。
「セキュリティシステムの掌握もさほど時間かからないね、こりゃ……とりあえずペークシス君ことソラちゃんの本体を取り戻すところから始めようかな。
主導権はこっちが全部握っちゃってるけど、それはそれとして機関部チーフとしていざという時活躍させてあげたいしね」
両軍の混乱の隙をついて、パルフェがこっそり行動を起こす。
まずハッキングして、ハードウェアやソフトウェアに干渉。元々はマグノ海賊団のシステムだから改変するより、掌握できるようにするのが適切。
現状のシステムがどうなっているか解析出来たので、元通り利用できるようにする必要がある。
機関システムのリーダーであるパルフェにとっては、自分の専門分野だった。
「すぐに行動できるように、母艦側のシステムもこっそり再起動させちゃうか」
ハッキングとはコンピューターについて高いスキルを持つ技術者がシステムを解析して改変する行為。
ソラやユメの協力を得られれば、現在別のところで封鎖されている母艦への干渉も行える。
そして――母艦には、無人兵器を生み出せるシステムが眠っている。
パルフェがコンソールを必死に操作する最中、専門分野にはうるさい他のエンジニアも行動に移していた。
融合戦艦ニル・ヴァーナの保管庫。この区画にはマグノ海賊団の戦力であるドレッドや蛮型が保管されている。
流石にこの区画の警備は厳重であり、危険だという意識自体は両軍も同じく認識している。
メインブリッジを除けば、保管庫の警備が徹底されていた。
(ぐぬぬ、まさか儂の小柄な体格を生かせる日が来ようとは……小娘と揶揄された頃が懐かしいわ)
カイの蛮型を整備するエンジニアのアイ。他の整備クルーが連行される中、彼女はドレッドや蛮型を守るべく一人残っていた。
SP蛮型は特殊な機体なので、彼女ほどの天才がなければ整備ができない。ドレッドや蛮型を破壊されないように、システムを通じてガードしていた。
両軍もすぐ破壊する気はないのか、物理的な拘束を行って動かせないようにしている。
言い換えると、廃棄や徴収はされないという示唆でもあった。
(やれやれ、いざという時の避難路や隠し部屋は荒れされずに済んだか。まあ、奴ら程度では把握しようもないが)
地球の刈り取りとの戦いで、ニル・ヴァーナは何度も襲われている。ゆえにこそ、いざという時の危機管理は徹底していた。
アイにとって保管庫は職場であり、住居でもある。小柄な彼女のみが行き来できる避難路や隠し部屋を内々に工事していたのだ。
この工事は以前カイ達の監房が水道管の事故で壊れた時、一緒に工事させたものであった。
小さな整備士の、大きな事業である。
(――人間は、未知を恐れる。彼奴らからすれば、ペークシス・プラグマで改良された兵器類は恐ろしくて触れぬか)
カイのSP蛮型は元々タラーク軍の人型兵器であったが、もはや原型をとどめていない。
ディータ達のドレッドもスーパーヴァンドレッドの影響で、さらなる改良が加えられている。
強力な兵器となった機体はタラークとメジェールにとっては未知であり、期待と不安を生み出す技術であった。
恐ろしくて破壊は出来ず、さりとて優れた技術に廃棄も出来ない。人間のジレンマが、機体を拘束させている。
(彼奴らを、儂も笑えぬ……結局、カイにはまだ明かせておらぬからの)
――アイ・ファイサリア・"メジェール"
腰まで届く黒髪を結う赤いリボン、華奢な身を大仰に纏う着物。
メジェールでは洋服を好まない一部の庶民か――
位の高い者達しか着用しない独特の服装を着こなしている。
「いい加減親離れしたらどうじゃ、"母上"よ」
――その素性は、マグノ以外に知る者はいない。
<to be continued>
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