ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 24 "Men and Women"
Action23 −天凱−
――実のところ、タラーク・メジェール両軍はマグノ海賊団捕縛に多大な苦悩と労力を費やしてきた。
そもそもの話、簡単に捕まえられるのであれば、以前からすでにやっている。
今まで出来なかったからこそ彼女達を強く警戒し、恐れ、手配をかけてでも捕まえたいと注視していたのだ。
そこへきて突然の両国首脳からの捕縛命令――現場を理解しているのかと、全軍揃って頭を抱えていた。
メジェール軍が出揃っても逃走を続けられており、彼女達のアジトは見つからず尻尾も掴ませない。
タラーク軍に至っては、最悪である。彼らは軍艦イカヅチという当時の最大戦力を襲撃され、正面から奪われてしまったのである。
いきなり捕まえろと言われても、どうすればいいのか。両軍が戦力を揃えても勝てるのかどうか、甚だ疑惑的でしかなかった。
そして蓋を開けてみれば無条件降伏、両軍揃って最大の疑問と疑惑に襲われた。
ただ単純に一言、「何故」の二文字である。
何故無条件降伏などするのか、両軍揃って全戦力で包囲されたので敗北を覚悟したのか。
そんな可愛げのある連中であれば、そもそも今まで煮え湯を味わされなかった。
敗北するにしても、徹底抗戦するくらいはするのではないだろうか。必死で戦って、生き延びようとしないのか。
――そもそもの話、無条件降伏に何の意味があるのか。
命乞いすれば命は助かるとでも思ったのか。馬鹿な、それこそ馬鹿なとしか言いようがない。
余罪を追求するまでもなく死刑、命は助かっても終身刑だ。彼女達の人生は終わりである。
何の抵抗もなく両手を挙げたところで、その先はなにもない。白旗を振っても助かる道はないのだ。
タラーク・メジェール両軍は異常なほど警戒し、彼女達の捕縛に全身全霊を持って対処した。
ある意味現実的な恐怖なのだが、この対処がカイ達の計画を多大に狂わせた。
(ちょっと、いつまで経っても兵士が撤収しないわよ。いい加減動かないとまずいわよ)
(くそっ、何なんだあいつら。全員連れ出したんだから、さっさと出てけよ)
そう、つまり両軍は――無条件降伏に、『理由』を求めたのである。
"あの"マグノ海賊団が無条件降伏したのはなにか理由があるのではないか、逆転の秘策でもあるのではないか。
彼らは徹底して、融合戦艦ニル・ヴァーナを調べ上げた。システムダウンしているので調べようがないのだが、それも疑惑に拍車をかけた。
ニル・ヴァーナという最大戦力が沈黙しているのにも、理由を求めたのだ。
(ソラの力を用いて格納庫を調べてみたのだが、我々のドレッドやヴァンガードに物理的な封鎖をしているな)
(何だと!? せっかく俺達が自分からロックしてやったのに、何で二重に拘束してやがるんだ)
――パイロットが居なくても、自動で稼働するのではないだろうか。
ここまで来ると心霊現象なのだが、なんと両軍は大真面目に検討した。検討してしまった。
『万が一』稼働するケースを恐れて、カイやメイア達の機体にシステムのみならず物理的な拘束を行ったのだ。
馬鹿馬鹿しい措置ではあるのだが、意外にもこれがカイ達にズバリ的中してしまった。
(あー、こいつら!? ますたぁーの部屋も土足で上がって荒らしてる。殺そうよ、ソラ)
(駄目です。落ち着いてください、ユメ。
些か以上に私も不快感を感じてはいますが、下手に手出しするとマスターの行動に更なる制限をかけてしまいます)
彼女達もプライベートルームも当然、徹底的に捜査の手が入った。
無条件に降伏したので何も残していないのだが、彼らは決してそうは見ない。
弾薬や爆発物の類でもあるのではないかと、必死になって探し回った。
ある意味何もないからこそ、何かあるのではないかと勘ぐられたのかもしれない。
(バートお兄ちゃん、だいじょうぶかな……)
(大丈夫だろ。あいつ、弱虫のくせにしぶといから今も平気な顔で頑張ってるよ。
お前を置いて死ぬようなタマじゃねえさ)
――カイ達はペークシス・プラグマの中で、持久戦を強いられていた。
彼らにとって救いだったのは、シャーリ達のような子供が泣き出さずに耐えてくれている点である。
エズラより預かったカルーアもスヤスヤ眠っており、平気な顔でいる。メイアやユメ達に懐いていて、親がいなくても泣き出さない。
子供達がしっかりしている分、大人がむしろ悩んだ顔をしていた。
(どうしようか。いっそのこと、荒っぽい行動に出てみる?)
(正規兵相手に、ガキンチョ抱えている俺達では勝ち目がないだろう。
ユメやソラがいればやりようがあるかもしれないが、俺達が隠れている利点がゼロになっちまう。
もう少し待とう、俺達には切り札があるだろう)
(ああ、我々にはエズラさんが残してくれた置き土産がある)
そして何よりも――
タラーク・メジェール両軍は、マグノ海賊団が保有する刈り取り母艦の扱いに困り果てていた。
地球の戦力であるこの母艦を、両首脳は丁重に扱うように厳命したのだ。
刈り取りの事実を知らない両軍にとって、この命令はひたすらに意味不明であった。
<to be continued>
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