ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 24 "Men and Women"
Action4 -吾々-
――タラーク・メジェール両軍への無条件降伏に応ずると、お頭のマグノ・ビバンが決断した。
海賊団クルー達には困惑こそあったが、混乱は見られなかった。お頭への信頼が、それほどまでに厚かった。
困難な旅路でありながら一名も死傷者を出さずに、自分達を故郷まで送り届けてくれたのだ。
副長であるブザムが更迭された事実が、却ってクルー達を冷静にさせたのかもしれない。
『バアさん、話は聞いた。あんたの決断は重んじるが、悪いけど俺達は避難させてもらう』
『謝ることはないさね。お前さん達を巻き込んでしまって、こちらこそ悪いと思っているよ』
『それこそ今更だ。ここまで来た以上、一蓮托生だろう』
『ふふ、随分頭が柔らかくなったじゃないか。ヒーローらしくなったんじゃないかね』
『一年前とは全く違うイメージ像になっているけどな』
一年前。目の前に見える故郷の空を舞台に、カイとマグノ海賊団は戦い合っていた。
あの頃とは主義主張も異なるが、それでも揺るぎない信念を元にお互いの立場を尊重して、ここまでやってきた。
マグノ海賊団は自分達の犯した罪の為、両軍に捕縛される。悪は退治される構図であり、かつてカイが望んだ形だったはずだ。
このまま避難すれば無関係でいられるだろうが、カイは首を振った。
『お頭、申し訳ありません。私も彼と共に行くつもりです』
『――メイア』
『後任は、正式にディータへと引き継ぎます。まだ新人ではありますが、彼女はいずれ私より優れた指導者となるでしょう。
人の心が分かる優しさをかつて惰弱だと軽んじた私より、チームを立派に率いてくれます。サブリーダーのジュラもついています。
最後まで責任を果たせないのが悔やまれますが、せめて皆の帰る場所だけでも守りたいのです』
『よく言った。それでいいんだよ、メイア。その坊やと一緒に、新しい道を歩むといいさ』
通信画面越しに深々と頭を下げるメイアを見て、マグノは瞼を震わせる。
無責任などということは、決してない。むしろ責任を果たすべく、彼女はここに残って守るつもりなのだ。
自分の大切な部下を新しきリーダーに託すという事がどれほど重いか、彼女はよく分かっている。
何よりもあのメイアが他人を信じて任せるというのだ。彼女はようやく過去の悲しみに区切りをつけて、孤独から脱することが出来た。
『お頭さん。皆さんに預けていた私の両親からのメモリーチップ、返してもらいますね――これが切り札になると、私は思っています』
『――いいんだね? そのチップ、とんでもないよ。確実に、何もかもふっ飛ばしちまう』
『この船で皆さんに助けられて、私は真実を追求する道を選択しました。有耶無耶にすることなんて、出来ない。
タラークとメジェール。男と女の嘘で塗り固まれた二つの惑星に、両親の想いを受け継いだ私が全ての真実を公開します』
――とんでもない、決断である。
コールドスリープにより過去から現代へと渡ってきた、異星人。ミスティ・コーンウェルがもたらした、冥王星からのメッセージ。
内容は、刈り取りの真実。冥王星という悲劇の惑星で起きたあらゆる惨劇が詰まった、記録。
両惑星で一斉に公開すれば、地球に関するあらゆる全てが丸裸となる。男と女の壁が、問答無用で壊されるだろう。
『私がカイ達と出会い、皆さんと一緒にここへ来た意味がこのためにあると思うんです。
ジャーナリストとして、冥王星からのメッセンジャーとして、私は真実を明らかにする。
皆さんを決して、歴史の影に埋没させたりしない――必ず救い出して明るみに出すと、誓います』
『ははは、まさか海賊であるアタシ達を表舞台に出そうってオナゴに出会えるとは思わなかったよ。
ミスティ、あんたはとんでもない子だね。ヒーローなんぞと行っていた坊やより、よっぽど怖い子じゃないか。
やれやれ、早い目に叩き出すべきだったかね』
『ふふふ、覚悟していてくださいね。もう悪いことなんてさせませんから』
困った顔をして笑うマグノに舌を出して、ミスティはどうだと言わんばかりに胸を張っている。
その様子を全て見ていたカイは複雑な想いに駆られつつも、苦笑した。自分よりもよほど立派だと、思わされる。
ミスティは自分で自分の価値を見出し、役目と役割を勝ち取ったのだ。もはや彼女はお荷物ではない。
この戦いの鍵を握る、メッセンジャーだ。
『地球はまず誰よりも、お前を殺しておくべきだったな』
『ふふん、私の両親と故郷を奪った恨みは絶対晴らしてやるんだから』
恐らくタラークとメジェールはマグノ海賊団を捕縛して、永久に投獄するか抹殺するだろう。
そして地球に関するあらゆる不都合な真実を葬り去って、何もかもなかったことにする。
彼らはマグノ質さえ捕まえられれば、安心するに違いない。これで何もかも全て、思い通りに出来ると――
ここに真実を明らかにしようとする存在がいるというのに。
『ミスティ・コーンウェルを補佐するべく、お頭にお願いしたいことがあります』
『ほう、お前さんがアタシにお願いなんて初めてじゃないかね、ソラ』
『人事に関わることです――真実を公開するべく、タラークとメジェールのシステムを掌握する必要があります。
機関チームリーダーであるパルフェと、彼女の部下である私に行動の自由をお願いしたい』
最後の決戦前の、大勝負――
タラークとメジェールの革命戦争が、始まろうとしていた。
<to be continued>
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