ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 22 "Singing voice of a spirit"






Action29 -夜度-








「お前達が、ペークシス・プラグマの意思!? だったら、俺の推測が当たっていたんじゃないか!」


"マスターの仰る通りなのですが、釈然といたしません"

"意味を理解していなさそうだもんねー"


 ひとまず、崖を登る事にした。カイの目的そのものは既に達成されているのだが、そもそも祠には出口がないのでどうしようもなかった。

気のせいかもしれないが、崖を登る事でカイ・ピュアウインドは肉体だけではなく精神も鍛えられる実感があった。

精霊の祠そのものが神聖だからなのかもしれない。精霊のいる空間だけあって、空気そのものが清廉で心身が清められていくようだった。


暗闇であるからこそ、"声"には素直に耳を傾けられた。


「そもそも、ペークシス・プラグマとは何なんだ。色々不思議な現象を起こす力も、お前達精霊の能力なのか」

"ペークシス・プラグマは、無機生命体です"

「無機、生命体……?」


"生命とは、有機的だけとは限らないんだよ"


 生命と聞くと生物というイメージが非常に強いのだが、肉体があっての生命ではない。カイの誤解を、ソラ達が正した。

持続する組織と、エネルギーパターン。この二つこそが生物の本質そのものであり、生命を構成する基本的要素なのである。


ソラは一つ一つ、丁寧に説明していった。


"自己組織型のらせん構造体、という表現がもっとも近しいかもしれません"

「……ここでも螺旋か」


 生命は螺旋を描き、宇宙もまた螺旋を描く。カイのクローン元である博士が提唱していた、研究。命あるものは、螺旋を描きながら成長する。

時空間移動を成し遂げた研究成果、その源はもしかするとペークシス・プラグマだったのかもしれない。

地球が博士のクローン製造に躍起になっていたのは、ペークシス・プラグマの完全制御を目論んでいたからだろう。ゆえに出来損ないだったカイに失望して、廃棄した。


生命の本質は円ではなく、螺旋なのである。


"進化する特質を持ち、再生産性に優れた私達が無機生命体――すなわちペークシス・プラグマ"

"そんなユメ達が唯一持ち合わせていなかったのが、自律性"


「自律――つまり、意思。そんなお前達に意志を与えたのが、俺だというのか」


"イエス、マスター。私の唯一人の、絶対なる主"

"だーいすきな、ユメのますたぁー!"


 無機生命体だった彼女達が完全となったのは、皮肉にも不完全だった人間であるカイという事になる。

地球にとって、これほどまでの喜劇かつ悲劇はない。失敗だと捨てたクローン体が、よりにもよって完全制御を成し遂げたのである。

勿論、会本人に特別な才能があったのではない。たまたま機会が与えられて、偶然的に声が届いたのである。


しかし――彼女達を最初に呼びかけたのは、間違いなくカイの"声"であったのだ。


「ニル・ヴァーナのペークシス・プラグマは、一つ。対して、お前達は二人」

"……"

「最初に出会ったソラが、ニル・ヴァーナのペークシス・プラグマ――だとすると、ユメは」


"!? ま、ますたぁ……あのね、ユメはますたぁーに隠すつもりなんてなくて……でも"


 姿を見せずとも、ユメの声が悲しみに震わせているのが分かる。彼女の正体なんてそれこそ、誰にだって想像出来る事なのだ。

彼女の日頃からの言動も物語っている。人間を容赦なく嫌い、軽蔑し、自分こそ特別であるとまで言い切っている。

正体を決して語らず、飄々とした態度で平然と人間を殺すのだと言っていた――地球人のように。


そう、誰だって分かっていた事なんだ。


「……厄介だな」

"ごめんなさい、ごめんなさい。お願い、捨てないでますたぁー!"

「何を一人で勘違いしているんだ、お前」

"え……?"


「地球の連中からお前を掻っ払うのは大変だと、言っているんだよ俺は」


   ――ユメが決してカイを裏切ったりしない事なんて、誰にだって分かっていた。だからこそ、カイを仲間にするマグノ達もユメを信用していたのである。

確かに、ユメがペークシス・プラグマである事は判明していなかった。ただ、ユメが単純な味方ではない事なんて誰がどう見ても分かっていた事だったのだ。

本人の真意はともかくとして、周りから見ればユメの正体なんてバレバレだった。普段から生意気で、平然と人を殺すと言ってのけているのだから。


カイを裏切らないのであれば敵にはならない、皆はそう思ってカイに任せていたのである。


"ゆ……許して、くれるの?"

「許すも許さないも、最初から何となく分かっていたからな。お前がこの期に及んで地球の味方をするなんて思っていないぞ」

"……!"


"だから言ったでしょう、素直に話せばいいと"


 声も出ないほど号泣しているユメに、ソラは優しい声色で声を掛ける。自分の主が自分の家族を否定する筈がないと、心の底から信頼していた。

だからこそ、この試練にまで辿り着いたカイに改めて尊敬の念を向けた。ようやくここまで来てくれたのだと、彼女は敬愛の思いを向けている。

これで何の憂いも無くなった。今こそ、自分達の持てる力の全てを発揮しよう。全てを尽くして、主の力となろう。



ソラとユメ――二つのペークシス・プラグマが、真なる力を発揮する。























<to be continued>







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