ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 22 "Singing voice of a spirit"






Action27 -拝辞-








 ――自分にできる精一杯の声を出して、自分の意志を精霊の祠にぶつけた。"声"は出せずとも、声なら出せると言わんばかりに。

まるで心を自ら自分の手で無理やり広げようとせんばかりに、必死の声を振り絞った。精神統一も何もあったものではない。

ココペリやタタンカがこの場に居たら笑われていたかもしれないと、カイはほんの少しの羞恥と共に思った。それでも決して、恥じてはいない。


自分という存在は此処に居るのだと、自分の声で届けることが大切だと思ったから。


"イエス、マスター"

"アタシ達もここにいるよ、ますたぁー!"


 だからこそカイはこの時、失敗したと思った。声を出してみれば帰ってきたのは、馴染みのある少女達の声だったからだ。

未知なる存在ではなく、基地の存在の返答。声では、"声"のようにはいかないのだと、嘆いてしまう。

それほどまでに、この少女達の存在はカイにとって身近であった。身近となってしまっていたのだ、本当に。


だからこそ、他の誰よりも信じられなかった。


「何で、お前らが居るんだ!?」


"……その点は頑なに否定するのですね、マスター"

"こんなに可愛いのに、何で気付かないの!?"


 姿は一向に見えず、声だけが届いている。これほど明快に反応があるのであれば、もう是非はなかった。

別段、確証そのものはなかった。否定しようと思えば、いくらでも否定は出来る。存在証明が出来なければ、真相はそれこそ闇の中だ。

そんな自分の疑心に対して、カイが思い出したのは長ココペリの忠告だった。思えば、彼の言葉はこれを意味していたのかもしれない。


"闇を恐れず、心を開け。さすれば、精霊はお前に心を開く"


「……なるほど、真実を自ら遠ざけていたのは俺だという事か」


 真実が明らかになることを無意識に恐れて、心を開かなかった。追求すれば明らかになっていたかもしれないのに、決して指摘しなかった。

人間ではない、幻想の少女達。不審な点なんて山ほどあったのに、一つも掘り起こそうとは思わなかった。

それこそ真実を闇に葬る行為、闇への恐怖そのものだったのかもしれない。結局のところ――


本当の事を知るのが怖かった、自分の弱さにあった。カイは自分自身の闇を、今こそ自覚した。


「精霊だったのか、お前達」

"マスターに名前を与えられたその時、私達は自らの存在を自覚いたしました"

"黙っていた訳じゃないよ。ますたぁーが全然、知ろうとしてくれなかったんだから"


「うぐぐ、自ら話しかけていたのに無視していたとは……」


 振り返ってみれば自分から告白しようと思っていた瞬間は、幾度もあった。カイは今更ながらに思い出して、突っ伏す思いであった。

ユメが必死で弁護しているが、カイ本人も騙されたとは思っていない。彼女達は今まで、嘘をついたことだけはなかった。

ソラとは違ってユメは意地悪なことも言っていたが、カイに対してだけは絶対に嘘は言わなかった。話せないことは、断固として口を閉ざしていた。


ユメなりの精一杯の、誠意だったのだろう。欺いて今を安堵するよりも、口を閉ざして未来に賭けたのだ。


「考えてみればお前達が俺達に話しかける時は、常にニル・ヴァーナのシステムを通じての音声だったか」

"声無き"声"は、ヒトには伝わりません"

"ようやくこうして、ますたぁーとお話することが出来たね!"


 言うならば、ニル・ヴァーナのシステムそのものが彼女達にとっては翻訳機だったのだ。

システムを介在することで、ようやく人間側からも存在が感知できる。容姿だって、立体映像システムを通じて人の目に見えるように映し出していた。

この精霊の祠を通じて伝わっている彼女達の存在感こそが、精霊としての在り方なのだろう。こちらこそが、彼女達の実態だったのだ。


気を使ってくれていたのだということに、改めて頭が下がる思いだった。


「弁解するつもりはないが、俺なりにお前達の正体については考えがあったんだぞ」

"私達のことをお尋ねしなかったのも、マスターなりの確証があってこそだったのですか"

"ほんとーに? ユメのこと、どんなに可愛いびしょーじょだと思っていたの?"


 ソラはともかくとして、ユメは明らかに疑っている節でカイに尋ねてきた。当然である、今まで聞こうともしなかったのだから。

確証があったのではあれば敢えて聞かなかったという理由にこそなるが、そもそもカイに自覚がなかった事自体は事実である。

本人でさえ自覚していると言うのに、今更弁解なんて通じるはずがない。ユメ達が懐疑的になるのも、無理はなかった。


苦しい言い訳だと――突拍子もない発想だと分かっているだけに、カイも気まずそうに打ち明けた。


「俺はてっきり、お前達は――ペークシス・プラグマだとばかり、思っていたからな」


"……"

"……"


 ――恐ろしいほどの沈黙。困りきった顔で真実を明らかにしたカイに、彼女達は凍りついた。

全ての真実を知る神という存在がこの世に居たとすれば、空を仰ぎ見ていただろう――あまりにも的外れで、これ以上ない真実への接近。


正しいけれど、違う。違うけれど、正しい――それは正解なのか、不正解なのか。


本人達でさえも分からず、精霊達は困り果てていた。























<to be continued>







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