ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 22 "Singing voice of a spirit"






Action13 -万事-








 カイ・ピュアウインドは打撲こそ酷かったが、怪我自体は重症とまではいかずに済んだ。それが幸運でもあり、不運でもあった。

大怪我こそ負わなかったが打ち所が悪く、行動不能となってしまったのだ。立つことも出来なかった彼は、惑星の住民の手で運ばれた。

意識はあったので恐縮しきりだったのだが、遠慮しても無意味なので黙って運ばれていった。彼が抵抗もしなかったのは、この惑星の事を知っていたからだ。

死の商人、ラバット。ミッションで同盟を組んだ彼が、同盟者に対して気前良く情報を提供してくれた。


『人手が欲しいってんなら、お前らの所の近くにも人が住んでいる惑星があるぜ』

『タラーク・メジェールから近い惑星か。故郷では貧民育ちだからかもしれないが、そんな星があるなんて聞いた事がなかったな』


 タラークでは三等民、労働階級だったカイに与えられる情報は少ない。日々の教育も満足されない国民性、貧民は奴隷に等しい。

彼らに必要なのは知識ではなく、健康な肉体である。肉体労働さえ出来れば、教育なぞ必要ないのだ。

当然メディア関係にも軍事国家より徹底した規制管理がされており、彼らが望む一方的な情報しか提供されない。


そうしたタラークの国家体制を知っているのか、ラバットも別段追求したりしなかった。


『少なくともお前らん所の上の連中走っているだろうよ。植民船で旅立った連中を祖としているからな』

『マグノ婆さんと同じ、植民船時代の仲間か。婆さんは知らなかったのかな』

『植民船といっても当然、一隻じゃねえからな。全員揃って仲間意識を持てというのは無茶だろう』


 苦笑い気味のラバットの感想に、それもそうだとカイは肩を落とすしかない。

百五十人が乗るニル・ヴァーナでも、全員揃って家族付き合いとまではいっていない。仲間意識はあっても、全員が友達ではないのだ。

マグノも当時はまだ少女時代、大人達に囲まれた植民船生活を送っていたのだ。既に覚えていない人間の方が多いだろう。


ラバットの言い分にはひとまず納得したカイだが、疑問は残っている。


『タラークもメジェールも、人の住める環境を望んでいる。その星に人が住めるのであれば、その……
移住とか、考えないのか。主義主張あれど、お互い長年争うほど困っているのに』


『お前は今、この可能性も考えたんだろう――どうしてその星に、"侵略"しないのか』

『……察してくれよ。言い辛い事だってあるんだからよ』

『その辺は相変わらず、いい子ちゃんだな。地球とドンパチ始めようというのに』


『敵味方がハッキリしていないから、俺も色々困っているんだよ』

『はっはっは、男と女ほど人間関係が難しいもんはねえからな』


 貧民にまで落とされていたカイではあったが、それでも惑星タラークを恨んだりはしていなかった。

国家に思い入れこそまったくないし、自分から進んで出ていった惑星である。それでも、地球に滅ぼされていいとは思わない。

だが愛着もないので、過度な期待も信頼もしていない。戦争に明け暮れている軍事国家である、平和とは程遠い。


だからこそ、人の住める手頃な惑星があれば攻め込む危険性も感じている。


『惑星タラークに野望があるかどうかは知らねえが、侵略戦争おっ始めるのは無理だろうよ』

『どうしてだ?』

『リズとも話しただろう、あの辺は磁気嵐が頻発している』


『――納得。ようするに、自然の要塞なんだな』


 磁気嵐が頻発している宇宙空間にある、惑星。誰が好きこのんで、侵略に乗り込んだりするだろうか。

遠征するには資材も物資も人員も、多く必要とされる。ただでさえタラークには余裕が無いと言うのに、成功する見込みがない戦争など出来ない。

強い地場が発生する嵐の中では、軍艦が活動出来ない。改良されたニル・ヴァーナも行動制限されるのだ、ただの軍艦では太刀打ちも出来ない。


そんな中遠征するのは、自殺行為に等しい。


『なるほど、だから地球の連中もおいそれと刈り取りに出向けないのか』

『そういうこった。だからこそ、今も生き残っている』

『あんたがいやに自信たっぷりに話していたのは、生存を確信していたからなんだな』


 ラバットは宇宙を股にかけて商売を行っている商人である。故郷を持たず、宇宙の各地を回っている。

たとえ過去人が住んでいた惑星であっても、時間が経過すればどうなるか分からない。地球もまた宇宙を巡って、刈り取りを行っているからだ。

実際カイが立ち寄った惑星の中で、人が滅亡していて罠が仕掛けられていた所もある。今も無事だという保証はない。


カイはそれで納得していたのだが、ラバットは浮かない顔をしている。


『確かに、今も無事っていえば無事なんだろうけど……』

『何だよ、アンタにしては歯切れの悪い返答だな』


『うんまあ……実際に行ってみれば、分かる。連中の"現状"を見て、お前さんが判断しな』















 ――そして今、カイはラバットが話していた惑星に不時着した。

生きていたかどうかと言えば、実際に生きている人達がいる。健康そのものどころか、むしろ怪我をしているカイの方が立派に不健康である。

怪我して動けなかった彼を、こうして丁寧に運んでくれている。SP蛮型の回収も行ってくれるらしい。


見ず知らずの人間に対して、本当に親切な人達だった。ラバットが太鼓判を押して紹介してくれるのも、頷ける。



だが――



(アンタ達の声が、頭の中に聞こえてくる)

"我らに、『声』は必要ない"


 一切声を発せずに、万事やり取りを行える人達。

地球は此処を滅ぼしていない。命ある人達を、奪っていない。侵略の手はなく、平和である。


だが、ラバットは――


『刈り取られていない』と、一言も言っていなかった。























<to be continued>







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