ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 21 "I hope your day is special"






Action35 -能吏-








 ――こうして、一連の事件は終わった。メイアに決して悟られないように全員一丸となって隠蔽工作に取り組んだので、水面下で起きた出来事は全て葬り去られた。

廃棄予定だったポットに乗り込んでしまった事故は限りなく本人には不幸ではあったが、本人以外には降って湧いた幸運だったと言える。

カイの思惑通り検査入院となったメイアは医務室で静養を強いられ、部屋から一歩も出れない状態。クルーから見れば、やりたい放題の環境であった。


加えて、パルフェが言い訳の理由とした艦内一斉清掃の提案も、生きた。ニル・ヴァーナ艦内がどれほどバタバタしても、メイアに勘繰られることは絶対にない。


無人兵器に待ち伏せされた件は戦闘データを分析後全て抹消、ディータを筆頭に怪我したパイロット達は奪い取った母艦内に設置されたメディカルマシーンに収納。

母艦での治療は病の星で戦場看護師の経験を積んだパイウェイが担当、メイア達がいる医務室はドゥエロが常任して目を光らせている。その間、とにかく後始末に走った。

掃除と称して戦闘により汚れた部分を洗浄、改修と称して船長で傷ついたドレッド等を修理。メイアが居ないので、おおっぴらに隠蔽工作が行えて万々歳だった。


周囲が騒がしい状況下、メイアの心境かというと――


「皆忙しなく働いているというのに、不甲斐ない限りだ」

「お前の場合、普段働きすぎだと思うぞ」

「うむ、過労による悪影響もあって身体の立ち直りが遅くなっている。今はゆっくり休んで、今後に備えた方がいい」


「……むっ……」


 メイアは戦場での経験で自分や他人の怪我の手当も行った事はあるのだが、結局のところ経験であって知識ではない。専門家には到底及ばない。

人間というのは案外、精神状態による影響が大きい。本当は何もなくても、誰かに指摘されれば本当に体が悪くなるケースもある。

メイアは普段本当に忙しく働いているので、疲労だと言われれば反論できない。実際身体は疲れているのだから、回復度合いを測るのは本人には不可能だった。


カイとドゥエロが申し合わせれば、本人も納得するしかない。


「私が休んでいる間は、ディータに任せきりになってしまう。ジュラより毎日報告書は見せてもらっているが、やはり気になる。一度も顔を見せないしな」

「だってお前本人に直接報告したら、また仕事の話になるじゃないか」

「すまないが、私の判断でディータは面会謝絶としている。彼女の顔を見れば、君はまた仕事に精を出しかねないからな」


 ――ディータは入院中の為、報告書はジュラがこっそり書いている。電子媒体なので筆跡はバレないが、内容でもバレないのは実のところ問題かもしれない。

音声のみのやり取りも行えなくはないのだが、変にやり取りして疑われるよりは完全に遮断した方がいい。

メイアもまさかディータの方が重傷だとは、夢にも思わないだろう。幸いにもメジェールのメディカルマシーンは優れており、怪我による回復は早い。


メイアが退院する頃には、ディータも何事もなかったかのように元気な顔を見せられるだろう。


「あーん、また泣いたー!」

「ピョロU、ほらほらピョロは此処にいるピョロ。泣かないで〜!」

「ユメちゃん、ピョロちゃん。そんなに無理してあやそうとしても、余計に怖がられるわ。ゆっくりでいいのよ」


 同じ戦場で生き残った最後の一人、カルーアも医務室で安静にしている。事件後は順調なのだが、騒がしい艦内に居させるよりは医務室の方が静かで平和だった。

行方不明になった事が余程こたえたのか、エズラは休暇を取った。前々からマグノやブザムからも勧められていたので、簡単に許可が出たのである。

一度は育児ノイローゼにまでなりかけたのだ、彼女にもまた休息が必要だった。カルーアとの時間を有意義に過ごす事で、心を満たしている。


育児による大変さはあるのだが、その点は家族代わりであるユメやピョロが補っている。


「……あの様子ならもう大丈夫そうだな」

「我々もカルーアの戦友だ。今後も引き続き、力になろう」

「育児ノイローゼだったとは、不覚。私もまだまだ経験も修行も足りないな」

「もうすっかり船医になってしまったな、ドゥエロは。故郷はもう目の前にまで来ているぞ、進路は決まったのか」

「ああ、私はこのまま医者になる。タラークとメジェールの関係が今後どうなっていくのか読めないが、私の進む先は決まっている」

「ドクターならきっといい医者となるだろう。船医を続けて貰えるのであれば、こちらにとっても何よりだ」


 まだ未来が定まっていない赤ん坊から、自分の未来を教えてもらった大人達。赤子からの天命は、天使の祝福そのものだった。

メイアもカルーアのお陰で両親の愛情を思い出し、両親の夢を引き継ぐ事を決めた。いずれは海賊を止めて、両親と同じ大地に立つのだろう。

落ち着く先はまだ誰も決まっていないが、進む先は見えている。後はタラークとメジェールがどうなるのか、それによって決まると言っていい。


そして、その件については――


「タラークとメジェールについては、俺が取り掛かる。俺一人で解決出来る事じゃないが、俺が旗印となって世論を動かしていくつもりだ。
この宇宙に出て、真実もハッキリ見えた。強いられた争いは一刻も早く終わらせて、カルーアが平和に生きていける世界にしないとな」


 口にしていて、改めてビジョンが明らかとなった。宇宙一のヒーローという憧れは今、形を帯びた平和へと想いが高まっている。

どちらにしても壮大な理想ではあるのだが、昔と違って今は一人でやり遂げるつもりはない。大切なのはまず、誰かがやることなのだ。

誰かが動かなければ、誰も動かない。誰も動かなければ、世界も動かない。そうして思考が停止してしまい、争いが起きているのが今なのだ。


タラークとメジェール、両国家が起きている戦争を止めなければならない。


「ピョロUの為ならば、ピョロだって全力でやってやるピョロ!」

「ユメはますたぁーにどこまでもついていくだけだもん。ますたぁーなら、いもーとも絶対守ってくれるもんね!」

「私はオーマと再会して、カルーアと明るい家庭を作ることかしら。みんなに比べて、何だか慎ましい気もするけれど」

「そんな事はないよ、おふくろさん。家族を作るのが一番大変なんだから」

「カイの言う通りです。家族を失った私だからこそ、家族の大切さは何より実感している」

「子育ての大変さは、医者として私も強く認識している。貴女は立派な母親だ」

「ピョロUを産んでくれたエズラの事は、ピョロも尊敬しているピョロ」

「人間なんてどうでもいいけど……いもーとの母親なら、ユメにとっても家族みたいなものだから――ま、何かあれば力になってやるわ」


「ありがとう、皆……私もこの子も本当に、幸せものね」


 この世に生きている事を実感する喜び、この世界に生きる事に胸を張れる幸せ――その原点は、生まれた日にこそある。

微笑ましく見つめているメイアは今も気づかず、暖かさに包まれて微笑んでいる。


彼女が生まれた日――祝福の日は、近い。























<LastAction −祝福−>







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