ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 20 "My Home Is Your Home"
Action32 −回次−
ガルサス部隊――とバート本人が自称しているナビゲートチームは、運搬車に乗って南下。一直線に進むこの方向には、一応の意味はあった。
中央システムにドゥエロ達分析チーム、北部の不完全生体区画にカイ達調査チーム。また下手に鉢合わせすると揉めるので、南部の探索に乗り出したのだ。
昨日は途中までチーム全員で走っていたのだが、体力の無駄でしかないので車に乗って移動。母艦のナビゲートが目的なので、速度も比較的遅く進んでいる。
子供達が大半で構成されたチーム、仕事ではあるがのんびりしたものである。そこへ、ロボットのピョロに受信が入った。
「おっと、お待ちかねの品が届いたピョロ。データ受信、解析中〜!」
「ドゥエロ君達、本格的に作業を始めたみたいだね。この母艦のシステムを初期化とか何とかして、全体的に書き換えるとか言ってたかな」
「よく分かってないでしょ、あんた。まったく、人間ってのはホント無知で馬鹿だよね。ユメがリーダーとして、しっかり見ていてあげないと」
後部座席のど真ん中に座って、ユメがふんぞり返っている。お客様どころか大明神のような態度に、両脇に座ったツバサやシャーリーが呆れたり苦笑したりし合っている。
違う部署に移って独立した二人ではあるが、ユメにとってはツバサもシャーリーも自分の部下である。このチームで一番偉いという自負がある。
当初こそ違う部署へ移った二人を裏切り者だと罵ったが、変わらず仲良く接っしてくる二人にユメもいつしか機嫌を直してしまった。
何だかんだ言っても、他人に好かれるのはそれなりに気分が良いらしい。大人達からすれば、ユメも背伸びした子供のようで可愛らしかった。
「マップデータは、実際どうなんだ。今後僕達が住めそうな環境が整っているのかな」
「今も解析中だけど……刈り取り兵器の製造及び武装の開発、この巨大な母艦の運用機関が主要になっているピョロ。
その他の機器や施設はあんまり設けられていないので、無駄なスペースも多いピョロよ」
「あんまりというのは……?」
「不完全生体区画とか何とかの施設ピョロ。あそこは、ほら――」
「ああ、そうか。人間用の施設も多少は必要なんだよな」
ピョロが子供達を前に言いづらそうにしているのを見て、バートも納得した顔で言葉を濁した。
子供達も何となくでも事情を察してはいるが、教育上よろしくない話ではある。聞かせないに越したことはない。
事前にある程度推測出来る結果ではあるが、マップデータを見る限り完全に兵器利用された船であるらしい。
居住として考えると、広さが取り柄としか言いようがなかった。
「ナビゲートするにしても、何だか味気ないものになりそうだな。兵器とか、倉庫とか、そんなのばっかりだしね」
「面白みもへったくれもねえ船だな、こいつは。アタシが住んでたミッションだって、娯楽の一つはあったのによ」
「……わたしはずっと病院だったから、この船が少し寂しいというのは分かるよ」
ツバサは閉鎖されていたミッション、ツバサは剥離施設に該当する病院。子供が住むには不適切な環境で生まれ育っている。
慣れてこそいるものの、好き好んで住んでいたのではない。それを証拠に、二人はこうして故郷を飛び出して来ていた。
シャーリーにはバート、ツバサにはカイという家族が出来たが、だからといって住めば都となるかどうかは本人の気分次第である。
二人は嫌そうだが、故郷と呼べる所がないユメとしてはお気楽なものだった。
「贅沢ねー、ますたぁーが此処に住むだけでユメにとっては天国なのに」
「お前はそうだろうけど、アタシは嫌なんだよ」
「温泉とかいうのが好きだもんね、アンタ」
「ふふん、アタシ自慢の施設だからな。いずれ宇宙一の温泉施設にしてやるんだ」
「ユメちゃんもツバサちゃんも、すごいね」
ユメのようにふんぞり返るツバサに、シャーリーは素直な賞賛を持って拍手。シャーリーの純真な尊敬は、ユメにとっても心地良いものだった。
リーダーに生意気な口を叩くツバサには部下としての自覚が足りないとは思うが、子どもならではの生意気だと今では理解している。
そうした大人ぶるユメを、ピョロやバートが微笑ましく見つめている。このチームも少しずつ成り立ってきている。
面倒な仕事で嫌だという事では、嫌な意味でも一致しているチームだった。
「マップがあるんならそれを解析して、それなりの案内図にすりゃいいじゃん。それで仕事は完了ってのはどうよ」
「えらい! さすがユメの部下、それでいきましょう」
「そ、それはよくないんじゃないかな……お仕事サボっていると、怒られちゃうよ」
「子供はすぐサボりたがるから――バート、お前も何か賛成っぽい顔しているピョロね」
「うっ……ぼ、僕はあくまで子供達の意思を尊重すべきと考えて」
「カイもドゥエロも結果出してるのに、お前だけ妥協するピョロか?」
「むむっ」
マップデータが送信されたということは、ドゥエロの仕事は順調に進んでいる。システムの初期化は完了し、再構成が始まっているのだろう。
カイのチームは生真面目なメイアがリーダーで、ミスティが使命感を持って挑んでいる。確実に、成果を上げる事は間違いない。
一方自分はというと、適当にマップを作って子供達と遊んでいただけ。マップは作成しているので怒られはしないだろうが、評価は与えられない。
昔は気にしなかった。しかし今は――自分の仕事を見ている、家族がいる。
「ぼ、僕はだな、単に地図を作るだけでは駄目だと思っているんだよ」
「と、いうと?」
「ほら、こう、なんというか……もうちょっと、何とかしたいと」
「こいつ、何言っているの?」
「シャーリーの前ではカッコいい大人でいたいんだよ、言ってやるな」
「そう言われると、恥ずかしいからな!?」
ユメとツバサが意地悪く囁き合っているのを聞いて、バートは顔を真っ赤にして叫び出す。大人の見栄とは、口にすると恥ずかしくなるものだ。
ピョロはまだまだ人間の機微には疎いが、カイ達とともに生活して維持や見栄といった不可解な感情も知ってはきている。
はたしてどうするべきか、どのようにすれば結果を出せるのか――指示を聞くだけではなく、指示の意味を理解した上で自分から改善を求める。
それが大人にとっての、成長となる。
「仕事の改善、改善……そうだ、改善だ!」
「改善?」
「この母艦を、改善するんだよ」
「意味が分からない、もうちょっと分かりやすく言って」
「君達だよ。君達、子供達が住みやすい船となるように、生活環境の改善を行おう!」
「それの何処がナビゲートなんだピョロ?」
「無駄なスペースがあると、君が言っていたじゃないか。地図でいう空白の場所を子供達の視点から見つめて、この母艦の環境を変えていくんだ!
いきなり工事するのではなくこの地図上で描いていって、お頭達に進言しよう」
「へえ、なるほどな……大人がよくやる、『げんばのしさつ』という奴か」
「今ある施設を単に見るんじゃなく、今はまだ無い場所を見て回ってどう活用するのか、わたし達で考えるんだね!」
偉い大人がやっている事を、子供である自分達が今から仕事として行う。これもまた背伸びではあるが――どうしようもなく、ワクワクする。
冒険とはまた違った、浮足立った感覚。大人の真似事は、子供にとっては未知なる体験。その結果大人に認められれば、これ程嬉しいことはない。
上気する子供達を前にして、バートは胸を張って宣言する。
「決まりだね。僕達は、"新しい地図"を作り出す!」
「おー!」
――この日、このチームが一番駆けずり回り、仕事に精を出したという。
<to be continued>
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