ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 20 "My Home Is Your Home"
Action29 −安眠−
母艦調査と分析の進捗会議が終わり、明日マグノ海賊団の最高幹部が母艦へ出向となった。その為、現場の調査員達は今晩母艦に宿泊する事となった。
宿泊出来る施設はそもそも地球の母艦に設立されていない為、母艦の広さを利用した野営となる。キャンプというより雑魚寝に等しいが、慣れたものだった。
カイ達男三人は元監房暮らし、マグノ海賊団の女性陣は故郷を追い出されて難民生活を経験している。寝るスペースさえあれば、基本的にどこでも寝られる。
とはいえ、海賊達もうら若き乙女達。恥も外聞も無くした訳ではない。
「差し当たって、お手洗い場を作ることが肝心かな」
「それよりもお風呂よ、お風呂よ。ニル・ヴァーナと同じく、温泉施設を作りましょうよ」
「何を言っているんだ、お前達。早急に必要なのは、ドレッドやヴァンガードを整備出来る環境ではないか」
「はいはーい。ディータ、自分のお部屋を作りたいです!」
「……女ってのは、わがままだな」
「……僕達、昨日は雑魚寝していたのにね」
「……私としてはまず、医療施設を用意して貰いたいのだが」
調査員どころか、リーダー格であるメイア達まであれこれと言い合っている。拉致があかないとはまさに、この状況の事だろう。
なまじ彼女達の申し出は的外れではないだけに、揉めに揉めてしまっている。着地点がない論議は荒れるだけだ。
横槍を入れて、補器先を自分達に向けるほど愚かではない。半年以上の共同生活で学んだ男達は、黙って寝床の確保に移る。
寝る準備を進めていたカイは、ふと顔を上げる。
「何をボケっとしているんだ、お前」
「――えっ? ああ、別に何でもないわよ。ちょっと疲れただけ」
「だったら尚の事、休む準備くらいしろよ。寝床を奪い取られるぞ」
「こんなに広いんだから、何処でだって寝られるでしょう。余計なお世話よ」
「へいへい」
カイに声をかけられたミスティは我に返って毒づいた。口汚いが、二人の関係からすれば挨拶に等しい。カイも鼻息を鳴らす程度で、何も言い返さない。
異星人であるミスティは若干人見知りする性格だが、基本的には明るくて物事にハキハキしている。陰鬱に悩むことはむしろ少ない。
その彼女は呆けている姿は貴重ではあるが、重傷とも言える。嘆息こそするが、カイはそれ以上追求しなかった。
やがて女性達の論議も結論は先送りという形でまとまって、寝床を確保。食事の準備に取り掛かった。
「皆さん、今日はお疲れ様でした。本日の食事は、お疲れの皆様を労うべくガルサス食品のレインボーペレットを用意しました!」
「……あのよ。人間様が食う食事に、虹色ってのはどうなのよ?」
「色とりどりで綺麗だろう。綺麗物が好きな女性にも気に入って貰えると、自負しているよ!」
「人間って、こんなもの食べるんだ。物好きだねー」
「食事にはちょっと憧れるけど、正直コレは理解出来ないピョロ」
「子供やロボットには不評なようだが、肝心の女性陣の反応は?」
「携帯食の一種なのだろう、最低限の栄養価があれば見た目はどうでもいい」
「お菓子感覚で食べられる分にはいいと思うよ、これ。アタシは好きかな」
「ディータは好きですよ、これ!」
「綺麗なのはいいけど、ジュラのセンスには合わないわね」
「歯にくっつきそうなのがちょっと嫌だわ、あたし」
ツバサ達子供は珍しい物好きだが食べ物にはうるさく、ピョロ達人外はむしろ食べ物であることに驚愕。女性陣は賛否両論であった。
今晩の食事はバートが持ち込んできた、ペレット。母艦には当然カフェなどなく、料理を作る施設もありはしない。
最初はメイアが持って来た携帯食を薦められたのだが、全員が拒否。最前線のパイロットが食べる携帯食は、不味いことで評判だった。
ペレットも携帯食に近い食料品だが、タラークでは主食となっている食べ物である。特にバートの会社であるガルサス食品は、味にも追求していた。
とはいえ、味気ない。
「とりあえず第一に、カフェテリアを作るべきだな」
――カイのこの一言で、本日の課題は解決された。
色々文句を言いたい放題だったが、全員顔を並べて盛りつけられたペレットを食べる。大人達は勿論のこと、子供達もモグモグと口に入れていた。
ツバサはミッションでゴミ溜め生活、シャーリーは寝たきりで病院食の毎日。彼女達にとって、ペレットはお菓子感覚で食べられる。
タラークの主食であっても、この場で拒絶する人間は誰もいない。このペレットを肴に、皆で歓談に華を咲かせていた。
最低限の食事であっても、仲の良い面々で食べられば美味しく、何よりも食事の場が楽しくなるというものだ。
男であっても、女であっても、異星人であっても、ロボットであっても、立体映像であっても、育まれた友情に何の違いもありはしなかった。
他愛もない会話に盛り上がり、真剣な話に耳を傾けて、つまらない話を揶揄する。それだけで、味気ない食事は本当に美味しくなる。
そして美味しい食事は人を安心させ、苦しんでいる心を和らげてくれる。
「……あたし、どうすればいいかな」
――ポツリと零れた、ミスティの弱音。本人は特に自覚もしていないのだろう、ペレットをぼんやりと口に運んでいる。
全員が一瞬、手を止める。進捗会議に出席していた人間でなくても、ミスティが悩んでいることくらいは見て取れる。
地球の真実、刈り取りの狂気。大いなる秘密を暴き立てることに迷いはない、ただ秘密の大きさに逡巡するのみ――
何が正解なのかはともかくとして、何が間違えているのかは明白だった。今更、問い質す必要もない。
地球は確実に、間違えている。だから、カイ達は止めようとしている。
一瞬の沈黙の後、カイが口火を切った。
「故郷へ帰ったら、タラークとメジェールの戦争を止める」
「えっ……?」
「俺は略奪を許さない、戦争という奪い合いも同じだ。何が何でも、止めてみせる」
この場にいる全員、誰もが皆仲間であった。友達であった。家族同然の関係であった。だから、カイの言いたいことはすぐに分かった。
触発されて、皆が口々に宣言する。
「僕は女の子のシャーリーと一緒に暮らす。その為にタラークとメジェール、男女の垣根を取り除くよ」
「私は医者であり、カイとバートの友だ。友がやるべき、あらゆる事を助ける。
彼らの理想が実現すれば、メジェールとの交流が行われるだろう。その時、メジェールの医療を本格的に学びたい」
「戦いが終わったら、私はドレッドチームのリーダーを降り、後任のディータに託す。その後、自分の人生を今一度見直してみようと思う」
「ええっ、聞いていませんよ!? あのあの、ディータは立派なリーダーさんになれるように頑張って、ミスティと一緒に住みたいです」
「リーダーには言ったけど、ジュラは海賊を辞めるつもりよ。子供を産んで、育てようと思うの」
「アタシはもうパイロットを辞めたし、ガスコさんの後釜になるべくレジの勉強かな」
「へー、皆色々考えてたんだね。アタシはやっぱり、ペークシス君の面倒かな。いっぱい苦労かけたし、楽させてあげたいからね」
「私は今後もマスターにお仕えする覚悟です」
「ソラと一緒というのもあれだけど、ますたぁーとずっと一緒! 後は――ま、まあ、部下の面倒くらい見てあげようかなー」
「何でピョロを見て言うんだピョロ!? ピョロは当然、ピョロUの父親ピョロ!」
「父親は他にいるんじゃねえのか、あの子? アタシは、あの温泉をタラークとメジェールで盛大に流行らせてみせるぜ!」
「えとえと、シャーリーはおにーちゃんと一緒かな。あと、ツバサちゃんと一緒に頑張る!」
言いたい放題、やりたい放題の夢だった。全員故郷を出た頃は、夢にさえ見なかった理想であっただろう――ミスティは、目を丸くする。
壮大であり、それでいて何処にでもある夢。珍しくもあり、ありきたりでもある。そういうものだ、だからこそ尊い。
語り終えた全員が、ミスティに視線を向ける――お前の夢は、何だ?
ミスティは、快活に笑った。
「あたしは地球の秘密、刈り取りの事を世界中に公開する。二度とこんな過ちを、誰かが犯さない為にも!」
それはきっと難しく、何より覚悟がいることだ。だが難しい事であれば、諦めてしまうのか? そうではない。
どれほど困難であっても、自分がやりたいと思うから夢なのだ。等身大の夢なんて、現実と何も変わらないじゃないか。
やりたいことをやることが、人生なのだ。それが、生きるということなのだ。
<to be continued>
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