ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 20 "My Home Is Your Home"
Action28 −会記−
三チームに分かれて母艦内を探索していたマグノ海賊団はそれぞれの活動を終えて連絡を取り合い、一旦集合という形になった。
母艦のシステムを分析していたドゥエロチーム、母艦内の構造を探索していたバートチーム、母艦内の秘密を捜索していたカイチーム。
メインで指揮していたのは女性達だが、母艦を案内していた男達三人の存在は大きい。功績と呼べるほどではないが、女性達から評価を受けていた。
ひとまず男達が住んでいる部屋に全員集まって、ニル・ヴァーナのメインブリッジに通信を繋いだ。
『――そうかい、母艦のメインシステムはやはり根本的な改善が必要だったのかい』
「申し訳ありません、お頭。あたしの独断で、母艦のシステムを初期化いたしました」
『事前報告をして貰いたかったが、システム分析においてパルフェには裁量権を与えている。
問題無いと言えないが、責めるつもりはない。母艦運用に必要なデータは、初期化する前に予め保存してあるのだろう』
「勿論です。ソラちゃんにも補佐して貰って、無人兵器に関するデータはバッチリ手に入れました」
母艦のメインシステムを初期化、エンジニアとしては実に重い決断である。システムの初期化とは、言うならば過去の実績全ての否定に繋がる。
敵のシステムであっても、運用されていたシステムそのものを消すのはどんなエンジニアでも躊躇ってしまう。
パルフェほどの優秀なエンジニアであれば、尚の事だ。だからこそマグノやブザムも、初期化という決断を下したパルフェを信じた。
その場に立ち合ったドゥエロも、重々しい表情を浮かべている。そんな友人の顔を見て、カイは殊更明るい声を上げた。
「無人兵器のデータが手に入れられたのは大きいな。今までは戦闘データのみで、経験を生かす事しか出来なかったからな」
「母艦内に無人兵器の製造システムがあったからね、生のデータが丸ごと手に入ったよ。どんな改造を加えたのか全部丸裸にしちゃうよ、うふふ」
「……すごくイヤラシイ笑みを浮かべているのに慣れっこだね、皆」
嬉々としたパルフェの報告に感心しているカイ達を見て、ミスティは呆れた顔で嘆息。異星人のミスティにはよく分からない感性だった。
カイ達も実績を讃え合っているだけなので、パルフェの趣味まで理解していない。共感にまで至っているのは、ドゥエロ一人だろう。
同じ女性ではなく、男性に理解されているということもまた、人間関係ならではの不思議さだった。
メイアも敢えて趣味や思考には触れず、事実を頼りに推察していく。
「奇妙な赤い光を使い出してから、尖兵の無人兵器も改良されて強くなっている。
改良型の構造データまで得られたら、奴らの技術力の進化も道筋を辿っていけそうだな」
「その点は今後の課題かな。今後母艦を運用していくのだから、ソラちゃんと一緒に解析を進めていくよ。協力してくれるよね、ソラちゃん」
「マスターの許可を頂けるのであればかまいません」
「じゃあ、駄目」
「イエス、マスター」
「何でそこで否定したの!?」
「だってお前、そうなるとこの母艦に職場を移さないといけなくなるぞ」
カイの指摘に、パルフェ達女性一同が揃って顔を見合わせる。今後の旅を考えると、なかなか難しい問題であった。
母艦の解析や無人兵器の分析は、地球との徹底抗戦を考えれば必要不可欠である。だが融合戦艦ニル・ヴァーナの運用も、パルフェの存在が欠かせない。
ニル・ヴァーナはここ最近まで驚くほど安定していたのだが、紅い光の影響を受けると不安定になってしまう。主任の不在は痛い。
カイの指摘にしばし考えた上で、機関クルー主任として結論を出す。
「母艦のシステム運用と解析をソラちゃんに任せようと思うんですけどいかがですか、副長?」
『……彼女は新人だ。実力と将来性は大いに評価出来るが、正式に入団もしていない』
「身元もハッキリしていない人間に、重要なシステム運用を任せられないというお考えは分かります。ですが、彼女は信頼出来る人間です。
何より、この母艦にはカイが乗船しています。カイがいる限り、彼女が我々に不都合となるシステム改竄を行うとは考えられません」
ブザムの懸念自体はもっともである。ソラはそもそも身元不明であり、乗船した経緯も突然で密航に近い処遇である。
本来であれば即座に放り出すところなのだが、カイへの忠誠と立体映像である点を考慮して、なし崩し的に見習いとしている。
その点ではユメも同じなのだが、こちらは精神性がそもそも子供であるので、害はないとされている。カイへの激愛も大きいのだが。
マグノ海賊団において悩ましい決断は、常にトップの一言で決まっている。
『いいじゃないか、その子に任せよう。ウチは実力主義だ、この子の腕を買おう』
『よろしいのですか? 彼女はシステムに恐ろしく精通しております』
『パルフェが今言っただろう、カイが母艦にいる限り何の問題もない。この坊やが共謀して悪企みするとも考えられないしね。
カイ、お前さんが身元引受人なんだ。ちゃんとソラの面倒を見てあげるんだよ』
「分かったよ。まあ、ソラなら難しいシステムでもこなしてくれるさ。頼んだぞ」
「お任せ下さい、マスター」
ソラへの信頼ではなく、カイへの信頼より母艦のシステムは託された。ソラは自己の主張も弁明もせず、信頼に答えるべく意欲を燃やしている。
この決定は、大きい。男達への評価と信頼はもはや揺るぎないものではあったが、この決定で権限まで与えられた事になる。
今後の働き次第では、マグノ海賊団の中枢にまで食い込めるだろう。トップの決断は、大きい。
その事実は大きいだけに、メイアもまた思い切った提案をする。
「いい機会だ。そろそろお前もソラも、正式に入団してはどうだ?」
「……お前らの仲間になる事に依存はないが、海賊入りするのは申し訳ないが断らせてもらう」
「マスターの意向に、私は従います」
「お前達がそう頑なだから権限を与えらず、我々も扱いに困る羽目になるんだ」
『そういえば坊やのセキュリティ権限も、まだ与えていないままだったね』
『……エレベーターが使えず階段で昇り降りしているのは、今はもうこの男だけです』
「えっ、もう俺だけ!?」
「うん。だって僕、操舵手だからね。ニル・ヴァーナのセキュリティレベルはお頭と副長さんの次だよ」
「私も医者だ、権限が与えられなければ迅速な救命が行えない。バートと同じ高権限を与えられている」
メイア達の話を聞いて、唖然とするカイ。本人だけが頑なになっているだけで、他の男達はもうマグノ海賊団に溶け込んでいる。
そもそもの話士官候補生とはいえ、ドゥエロもバートも軍人希望ではない。軍事国家で他の進路がなかったので、渋々士官学校に入学していただけだ。
バート達も海賊の仲間になった訳ではないのだが、メイア達の仲間として捕虜上がりの立場を上手く活用している。
ようするにカイだけが信念を優先して、気苦労をしているだけにすぎない。
『システム面の話はこれで決まりだね。母艦の運用と無人兵器の活用は、これで見通しが立った。
後はメイア達調査チームが発見した、刈り取りに関する秘密だね……何ともまた、厄介な代物を見つけられたもんだ』
『母艦が刈り取りの主力であるのならば、ミスティの推測通り刈り取りの成果を保管する施設があるのも道理です』
「お姉様の制止もあって調査は行いませんでしたが、お頭さん達が見聞を行うのであれば、あたしも参加させて欲しいです!」
カイ達が発見した刈り取りの秘密、地球の狂気そのものとも言える臓器の保管庫。常軌を逸した代物が、大量に保管されている。
内部を暴き立てる真似は子供の前では出来ず、お頭や副長の決断に委ねる形となった。
真実を白日の下に暴き出したいミスティとしては、到底見過ごせない代物である。挙手するのは当然だった。
ただその当然にも、権限が必要とされる。
『いかがいたしますか。ミスティもまた、海賊団の一員ではありませんが――ああ、誤解しないでくれ。余所者と言っているのではない』
「分かっています、海賊入りするのを断ったのはあたしですから。無理強いできないので、こうしてお願いしているんです」
『心意気は汲んであげたいんだけどね……正直に言わせてもらうと、お前さんにも危なっかしい物を感じている。
お前さんの使命感が復讐心から出たものではないと、言い切れるのかい?』
「それは……そうとも、言い切れません……ですが」
『ああ、分かっている。気持ちなんてそう単純に割り切れないものさ。その不安定さを加味した上で、アタシらはお前さんを心配しているのさ』
マグノ海賊団もほぼ全員、出生は訳ありである。故郷を失ったミスティの気持ちは、彼女達の誰もが共有できるものだ。
だからこそ、ミスティの使命感に焦燥を感じてしまっている。真実を明るみに出す気持ちは大切だが、本人を傷つけない保証はない。
ミスティの逡巡を見て、マグノが優しく微笑んだ。
『アタシらは明日、そっちへ向かう。今晩ゆっくりと考えて、結論を出してみるんだ。焦らないでね』
「……はい、分かりました」
答えは出ている。気持ちはハッキリしている。けれど――ミスティは唇を噛んで、顔を俯かせた。
メイアやディータ、そしてカイはそんなミスティを一瞥。お互いを見やって、それぞれ頷き合った。
こうして、男と女が揃った夜を迎える。
<to be continued>
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