ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 20 "My Home Is Your Home"
Action25 −遺骸−
バート達冒険チームも合流したので、改めて乗り物を調達する事になった。ドレッドは基本一人乗り、蛮型は作業スペースがあるが、高速機動に向いていない。
デリ機であれば全員載せて安全に行動できるが、持ち主を含めて別チームで行動中。パイロットは多いが移動手段が限られており、全員で話し合う。
結果今日一日は子供達も同行する上で安全面を考慮し、整備班が使用する運搬車で移動する事となった。元々この母艦は今後運用する上で必要な機材が持ち込まれる為、作業車は必要なのだ。
ニル・ヴァーナより持ち込まれた運搬車を運転するのは、なんとバート・ガルサスだった。
「こんな大型の車を運転なんて出来るのか、お前」
「君はもう忘れているかもしれないけど、僕は元々士官候補生なんだよ。軍人になんてなるつもりはあまりなかったけど、一通りの教習くらいは受けている。
運搬作業なんて無理だけど、人を運搬するくらいは出来るさ。作業じゃないんだし、運転だけなら気軽だよ」
「その様子だと、候補生時代は乗り気じゃなかったみたいだな。何で今日に限って、運転役を買って出てたんだ?」
「シャーリーを乗せるんだぞ、安全運転は必要不可欠だ。他の人間にハンドルなんて預けられるか!」
「こいつ、俺らを全く信用してねえ!?」
そのシャーリーを運転手顕現で助手席に乗せ、運転席からバート・ガルサスが吠える。守られ役のシャーリーは困った顔ではあるが、小さく微笑んでいる。
当然他のメンバーは、全員後ろの運搬シートに乗せられている。完全な荷物扱いに、ツバサ達はこぞって不満顔を並べていた。
カイが後部座席から代表して運転手にクレームをつけるが、運転手は素知らぬ顔。シャーリー第一の姿勢は揺るがず、見事とさえ言えた。
家族第一は家長として立派だが、他人を容赦なく切り捨てる態度には呆れるしかない。
「シャーリー、大丈夫? ごめんね、今度連れて行く時はふわふわのクッションを用意するからね」
「う、うん、平気だよ。ありがとう、おにーちゃん」
「運搬シートのゴツゴツ具合をまずどうにかしろよ、コラ」
「普段無骨な蛮型で大暴れしている君なら余裕だろう」
「なるほど、一理ある」
「そこは納得するのかよ、青髪!?」
人数が多いので比較的狭いスペースなのだが、メイアは平気な顔。過酷な職場環境に鳴らされている女海賊は、皆強くて逞しい。
ミッションで生き抜いたツバサはちゃっかりカイの膝の上、ミスティはディータをクッションに、ジュラはピョロを抱いて身体のバランスを取っている。
ユメは立体映像なので衝撃等は平気、カイの隣で座っているだけでご満悦の様子だった。
環境に不満はあれど、適宜に適応できる彼らはとても逞しい。
「よーし、冒険に出発だ!」
「だから目的地も聞かずに、さっさと出発するな。調査に行くんだよ、ボケ」
「こいつ、全然反省してねえんだな……」
シャーリーと一緒でやる気満々のバートをカイが止め、ツバサが遺憾のコメントを出す。このまま走り出したらまた爆走するのは、目に見えていた。
今後母艦を運用する上で外部と内部は丹念に調査する必要がある。システム関連を含めた内部構造は、ドゥエロ達が別チームで分析を開始している。
カイ達調査チームは外部構造、母艦の構造自体を詳細に至るまで調査する義務がある。何処に何があるのか、という意味では大掃除に似ている。
戦闘兵器としても無論だが、ニル・ヴァーナのような生活空間も出来れば確保しておきたいところではあった。この広さは利点の方が大きい。
人為的な測量をしていては、時間が幾らあっても足りない。リーダーのメイアが熟考する。
「出来れば艦内のマップデータを手に入れたい。ピョロ、どうだ?」
「うーん、システム自体は停止しているけど、マップくらいなら何とか手に入れられるかも。ただ、あんまり触りたくないピョロね」
「むっ、何を躊躇っている」
「ここのシステム、例のウイルスに感染しているんだピョロ。ピョロはあのウイルスで、停止してしまった事があるピョロよ」
「人間で言えば、脳を止められたようなものだからな。死の恐怖による、トラウマか」
「そんな風に落ち込まれると、持ち込んだあたしも何だか責任を感じるわ」
「俺らも俺らでエレベータを止められて、エライ目にあったけどな」
母艦を強制停止したウイルスは、ミスティが持ち込んだメッセージカプセルに仕込まれていた物だ。開封したことで、ニル・ヴァーナに一次感染してしまった。
システムに接続されていたピョロは完全停止、エレベータに乗っていたカイ達は見事に閉じ込められた。あの時の苦労をしる当事者はゲンナリしている。
トラウマはパイロットにとっては常病の危険性があって、悩みの種。ピョロの心痛は、彼女も痛いほどよく分かる。
無理強いはしたくないが、マップデータがなければ限られた時間を費やしてしまう。
「ユメはどうだ?」
「……ますたぁーがどうしても必要なら手に入れるけどー」
「何か、不都合がありそうだな。じゃあピョロ、頼んだ」
「もうこっちにバトンが回ってきた!? ピョロはどうなってもいいピョロか!」
「一回感染したんなら、二回も三回も同じだろう」
「どういう理屈だピョロ!? 二回でも三回でも辛いものは辛いピョロ!」
「人間だって何回も風邪を引いて、その度に身体を強くするんだよ。お前もちょっとは鍛えろ」
「万が一停止しちゃったら、死んじゃうピョロ!? 嫌ったら嫌ピョロ!」
「だったらカルーアが風邪を引いても、伝染りたくないと逃げるんだな?」
「バッチコーイ! 病気に負けない強い自分になるピョロよ!」
「……あんな理屈で納得するのか?」
「……いいんです、お姉様。本人が納得しているんですから」
気が変わらない内に、とユメが嬉々として母艦内のシステムにピョロを接続する。メインシステムは感染しているので、あくまでもデータ探索に留める。
どのデータにまで感染が及んでいるのか不透明なので危険もあるが、ピョロは感染のリスクを恐れずマップデータを死に物狂いで発見。
探索を見事終えてピョロの顔を構成する画面にマップが表示された時は、一同揃って拍手を行った。
感心半分、呆れが半分という拍手ではあったが、本人はご満悦なのでいいとする。
「――基本的に、無人兵器の格納と製造場所が大半だな」
「"再生システム"というこの表示は何を意味している?」
「母艦の再生を維持するシステムよ。再生と書いているけど、実際は修理ね。壊された場所を修理して、改造していくのよ」
「以前の戦いでは、恒星の爆発力を持ってしても母艦は再生した――あのシステムか」
一度目の母艦戦でカイが提唱した作戦により、不安定な惑星を丸ごと恒星化して、その破壊力を誘導して母艦にぶつけた事があった。
結果粉々にまでなったのだが、再建造されて地獄から蘇った。あれは確かに生半可な修理ではなく、再生とまで言えるだろう。
カイは新型遠距離兵器ホフヌングの出力を臨界点まで高めて一度母艦を破壊した経験があった為、あの時は事なきを得た。
散々苦しめられた母艦の根幹に触れるシステムに、一同は生唾を飲み込んだ。
「ジュラ達がこの母艦を奪っていなかったら、真っ先に破壊してやりたいわね」
「でもでも、こういうシステムがあると分かっただけでも幸運ですよ。今後このシステムへの破壊を目的とした作戦を立てられます」
「うむ、常にその視点を持って行くんだぞ、ディータ」
ユメの母艦構造の説明を受けて、パイロット達がそれぞれの意見を出した。今後の戦いを楽にするべく、活気的な意見を出し合う。
子供達は大人の話にあまり興味はなかったが、マップ自体には多大な好奇心を示す。冒険者にとって、冒険マップは心を躍らされるものだ。
何処にお宝があるのか、地図を見て探すのが醍醐味というものだった。あれこれ見つけては、大騒ぎしている。
バート達はシャーリー達の微笑ましいやり取りに目を細めているが、ミスティは至って真剣に目を通している。
「そういえばお前は、この母艦には取材の意味でも来たんだよな」
「うん、地球の全容を全て人類に公開することがあたしの使命。この母艦には必ず、何かの痕跡が残っているはずよ」
「ふーむ、地球の重要なデータはやはりシステムの中心にあるんじゃないのか」
「うーん、データもいいんだけど、もうちょっとこう物証がほしいのよね……」
地球とは、全ての始まりの惑星。永きに渡った歴史を経て、遠く離れた惑星へ移民を行うほどの進化を遂げて支配階級となった。
その傲慢さにより生物的に遺伝子の飽和によって進化の可能性を失い、刈り取りという強行を行うようになってしまっている。
ミスティの生まれた冥王星はその犠牲の一つであり、唯一生き残ったミスティは地球の罪を暴くべくジャーナリストとしてこうして動いている。
地球は今も居住環境を失っており、試行錯誤の果てに刈り取りを始めるようになってしまった。この事実をまだ、殆どの人類が知らない。
「地球、刈り取り、無人兵器、うーん、何かキーワードは――"不完全生体"、何これ?」
「えーと、作戦上の機密になっているピョロ。一部の無人兵器を除いて、他の干渉を受け付けない場所のようだピョロ」
「! そこよ、まずは此処に行きましょう!」
「……怪しさプンプンじゃねえか」
ミスティが嬉々として目的地を告げるが、カイは嫌そうな顔。好奇心はミスティに負けていないが、警戒心はこの旅を経て常時完備されてしまっている。
メイアも怪しさを感じているが、同時に疑問もあった。無人兵器の宝庫であるこの母艦で、生体を意味する場所がある。このキーワードは何なのか。
刈り取り関連であるのなら、"不完全"の意味が釈然としない。彼らが求めているのは人間の臓器だ、不完全な代物など求めたりはしないだろう。
"不完全"な生体とは一体――?
「ミスティの言う通り、調査の必要性がありそうだ。しかし重要機密となれば、子供達を安易に行かせるべきでは――」
「やべえ、置いてきぼりにされちまうぞ。こんな面白そうな場所があるってのに!?」
「ふっふっふ、リーダーであるこのユメに任せなさい! シャーリー、ちょっと耳を貸して」
「は、はい……えーと、いいのかな――
お、おにーちゃん。わたし、不完全生体"という所へ行きたいな!」
「オッケー、この僕に任せて! 出発、進行ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「ま、待て、バート、子供達を――うわっ!?」
「ば、馬鹿!? 俺らを乗せたまま、最高速度で走るな!?」
暴れ馬に乗せられたように、カイ達が悲鳴を上げながら車は発進された――目的地は、"不完全生体"。
無人兵器さえ立ち入りを禁じられた、地球の秘密が隠された場所である。
<to be continued>
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