ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 20 "My Home Is Your Home"
Action24 −安心−
「案内役が真っ先に迷子になるなんて、致命的じゃねえか」
「僕はシャーリーに勝利を捧げるのだと、この命に誓ったのだ!」
「おにーちゃん、カッコいい!」
「……駄目だ、この家族」
バートが案内役となった冒険チームと合流した、カイ達調査チーム。別行動する予定だったバート達が明後日の方向から突然走りこんで来た理由を聞いて、開いた口が塞がらないカイ達。
地球より奪取した母艦の規模を考えれば、母艦の端まで競争なんて狂気の沙汰。冒険好きなカイ達も母艦内の広大さを考慮して、乗り物での行動を真っ先に提案している。
乗り物探しと部屋案内の為に集団行動を行っていた矢先に、こうして奇妙な合流を果たしたのである。
兄と妹で朗らかに盛り上がっている彼らを、同じく冷ややかな目で見つめるもう一組の兄妹。
「お前までこいつらの馬鹿に付き合うなんて珍しいな、ツバサ」
「勝負自体は馬鹿らしかったけど、勝負を吹っ掛けられたからには負けられねえだろう」
「意地を張る点が完全にずれている気がするぞ」
「馬鹿野郎に馬鹿にされて、てめえは何とも思わねえのか?」
「……なるほど、わざと負けてもムカつく顔ではしゃぎそうだな」
ツバサはもう抱き着くのをやめているが、疲れたとカイにおんぶさせている。肝っ玉は強いが容姿は可憐な少女、体重も軽くカイは特に負担を感じていない。
途中まで不安そうにしていた少女もカイと合流して元気を取り戻し、いつも通りの悪態をついている。憎まれ口も絶好調だった。
心なしか機嫌もいいツバサを目にして、普段は子供にも厳しいメイアも目を細めている。
「ユメが困った時にすぐ助けに来てくれるなんて、ますたぁーはやっぱりユメの王子様だね!」
「……ふーん、やっぱり困ってたピョロね」
「ち、違うもん! 皆が困っていたと言いたかったの!」
ツバサとは違って、天真爛漫なユメの感情表現は分かりやすい。カイと合流した時から始終ニコニコで、少年の周りを飛び跳ねている。
素直に喜びを語るユメを、ピョロがジト目で指摘。途端顔を真っ赤にするあたり、立体映像としてはなかなか芸が凝っている。
感情表現の豊かさは人としての成長を意味しているのだが、残念ながらこの場で気づく者達は居なかった。
空気だけは読んで、カイがメイアに目を向ける。
「どうするよ、こいつら」
「目を離せばまた途方も無い場所へと迷いこんでしまいそうだな……そもそも何故、我々との合流が行えたのだ。位置関係が異なるはずなのだが」
「ほんと、変だよね。僕達は端っこを目指して、真っ直ぐ走ってきた筈なのに」
「……なるほど、方角を確認せずに直進したのか。この愚か者め」
「……ニル・ヴァーナと一体化しているくせに、お前は宇宙船の立体構造というものを知らんのか」
「何か馬鹿にされている!?」
当然だが、宇宙船というのは構造上直列に建造されていない。あらゆる総合的観点から設計された船であり、直進すれば最果てに辿り着くというのは子供の想像でしかない。
バートも母艦の巨大さそのものは理解していたが、あまりにも巨大な船という事実に囚われて構造を見失っていたのだ。
真っ直ぐ走れば自然と端に辿り着けると楽観してしまい、結果あらゆる方向を見失って右往左往していたのである。
暴走レースの果てにカイ達が居たというのは偶然だが、ゴールとしては理想的だったといえるかもしれない。
「母艦の調査を行う上で子供達を連れ回す訳にはいかない。だからこそお前に案内と面倒を頼んだんだぞ、バート」
「わ、分かってるよ、君達の邪魔はしない。さあ皆、レースの再開といこう!」
「やだよ、メンドイ」
「いちぬーけた」
「まっぴらゴメンだピョロ」
「さっきまであんなに盛り上がっていたのに!?」
「うう、寂しいね、おにーちゃん」
盛り上がっていたから走っていたのであって、冷静になってしまえばどれほど愚かな行為なのか身に染みて出来てしまう。子供達が嫌がるのは当然だった。
シャーリーはバートの味方だが、彼女はそもそも病み上がりで走っていないので当事者とは言い難い。賛同に影響力は少なかった。
しょげるバートだが、本人も当初は反対していたので強行するつもりはない。困った顔で右往左往していた。
事態に難渋しているのを察して、新米リーダーが手を挙げた。
「リーダー、一緒に連れて行ってあげましょうよ」
「我々には調査の任務があるのだぞ、ディータ」
「はい、ですから調査任務はリーダーに一任します。子供達の面倒役はディータに、案内役は運転手さんとジュラが頑張ります!」
カイが意外そうな目をディータに向ける。平凡な提案だが、この状況下では最善に近しい。揉める前に提案出来たのも及第点である。
普段の調子を崩すことなくマイペースに提案出来たディータに、健やかな成長が感じられた。メイアも無下にせず、検討し始めている。
今の意見は部下の提案ではなく、チームを率いるリーダーとしての立場からの発言だった。ディータに、他人の面倒を見る自覚が出来つつあった。
だが、サブリーダーにはまだその自覚が完全には出来ていない。
「何でジュラが子供の面倒なんか見なければいけないのよ!」
「えっ、ジュラは子供が欲しいんだよね? 子供の面倒を見るのに慣れておかないと大変だよ」
「い、育児教育!? た、確かに、ジュラもいずれはカイの子供を育てないといけないのよね……」
別に揶揄しているのではなく、純粋にディータが疑問を投げかける。何しろ先ほどジュラが口にしていた話題だ、ディータはハッキリ覚えていた。
育児教育の難しさは、現在子育て中のエズラの姿を見てジュラも実感している。赤ちゃんを育てるのは、ペットを可愛がるのと次元が違う。
子供の面倒を見るのは嫌だというのは、育児放棄の宣言に等しい。他人の子供と自分の子供では違うが、面倒を見る大変さは同じだ。
悩み苦しむジュラの発言に、ツバサが目を尖らせる。
「――どういう意味だ、今の台詞」
「こ、こいつが勝手に言っているだけだから」
背負っているツバサから首を絞められて、カイが苦しげに暴れながら言い訳を述べる。女性との結婚や妊娠なんて、家を出て半年のカイにはそもそも実感が無い。
タラークでも子供を作り、育てる文化はある。人間社会を構築する上で、子作りを欠かせる事は断じて出来ない。
クローン技術を使用するかどうかの違いこそあるが、子供を作るのは人間の義務とも言えた。
ただ子人間関係において重要なのは、誰と子作りするのかという点である。
「むぅ、ますたぁーと子作り出来ればいいのに。ユメとますたぁーの子供なら、世界一カワイイだろうなー」
「世界一可愛いのは、ピョロUだピョロ!」
「カルーアも世界一可愛いけど、ユメの子供だってカワイイもん!」
子供と大人の会話は糾弾する。多種多様な人間関係、男と女の垣根で分かれていた昔が嘘のように感じられる光景――感動的と言える。
この光景が当たり前だったミスティにとっては感慨も何もなく、単に揉めているだけにしか見えない。
面倒なので口を出さずに居たが、このままでは平行線に終わりそうなので投げやりに提案する。
リーダーであるメイアに手で呼びかけ、無難かつ公平な意見を述べてみる。
「連れて行きましょうよ、もう。お姉様のご希望通りしばらく男女同じ部屋で寝るんですから、この子達は夜まで一緒ということで」
「なるほど、次の日に改めて別行動すればいいのか。確かに道中で揉め合っていても、仕方がないな」
メイアが納得するのを見て、ミスティは安堵の息を吐いた。どうもメイアはカイに興味を寄せつつある、このままでは傾倒してしまいそうだった。
カイは女性にあまり興味は無さそうに見えるが、メイアとの仲は良好である。同じ部屋で寝泊まりすればどう転ぶのか、分からない。
だが子供達が入ってしまえば、どうも転びようがない。ツバサなんて本人こそ否定しているが、明らかにカイに懐いている。手出しすれば、彼女が吠え立てるだろう。
同衾の機会を出来る限り潰したいミスティにとって、渡りに船の状況だった。メイアは早速、バート達に指示を出した。
「今ディータとミスティの進言があったように、今日一日のお前達の同行は許可しよう。ただし私の命令は必ず聞くように」
「よかった、途方に暮れずに済んだよ。シャーリーも、このお姉さんの言うことを聞くんだよ」
「はい、分かりました!」
「ま、この馬鹿が先導するよりはマシか」
「ピョロも特に異存はないピョロ」
「ますたぁーが一緒ならついていってあげる」
こうしてバート達冒険チームと、カイ達調査チームが合流。タラーク人、メジェール人、異世界人、ロボット、立体映像の少女――それぞれの価値観を持つメンバーが勢揃いした。
彼らが向かう先は母艦の深淵、地球の闇。子供も、大人も、向き合うのはあまりにも惨たらしい血染めの真実。地球の狂気の産物。
刈り取りの真実が、暴かれようとしていた。
<to be continued>
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