ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 20 "My Home Is Your Home"
Action21 −授子−
融合戦艦ニル・ヴァーナより、調査チームが到着。先の大戦で地球から奪取した母艦を正式に調査を行うべく、メイア率いる調査チームがマグノ海賊団より派遣されてきた。
出迎えたのはカイとミスティ、母艦奪取作戦立案者と作戦成功の立役者。母艦滞在中だった事も理由の一つではあるが、作戦に深く関わった事も大きい。
何より本人たっての強い希望ということもあり、調査チームに加わる事となった。久しぶりに捕らえた獲物が大物だけに、マグノ海賊団も意気揚々としている。
調査チームにディータの顔があり、ミスティが嘆息。ジュラの顔を見て、カイは首を傾げた。
「黒髪の奴はどうしたんだ、一緒に来るとばかり思っていたのに」
「バーネットはガスコさんのチームに加わっているわ。あの子、最近付き合いが悪いのよ」
「パイロットを引退して、レジクルーとなったんだ。無理強いは出来ないさ」
肩を怒らせるジュラに、メイアは静かにフォローを入れる。親友同士常に一緒だった二人、一時期は仲違いもしたが、今は関係そのものは修復されている。
仲違いした原因は当人達の変化であり、人間関係の変化でもある。この喧嘩は必然であり、二人で乗り越えなければならないものだった。
その喧嘩も最初の母艦戦が前後していると考えると、なかなか因縁が深い。奪取した母艦に対しても、二人は別々のチームで調査を始めようとしている。
バーネットはパイロットを辞めて、ジュラは海賊を辞めるつもりでいる。考え方の違いはそのまま、生き方の違いとなりつつあった。
疎遠にはなっていない。距離をおいても通じ合える関係へと、昇華されたのだ。本人たちも寂しさを若干感じてはいるが、悲観はしていなかった。
友人が正しい道を歩んでいるのであれば、何も言わず応援するものである。
「あんたがチームに加わった理由、当ててみせようか? あたしに会いに来たんでしょう」
「えっ、どうして分かったの!?」
「背中のリュックから枕が豪快に見えているわよ、この馬鹿。お泊りセットなんて持ってくるんじゃない!」
「……すまないな、ミスティ。私もキツく叱ったのだが、ミスティへの差し入れもあるらしい」
調査チームの中で、ディータが飛び抜けて大きなリュックを背負っている。リュックの口からカラフルな枕を覗かせており、ミスティやメイアを大いに嘆息させた。
ディータは明るい性格をしているが天然であり、UFOマニアという変わった趣味もあって、友達そのものは少ない。
だから異世界人であるミスティはディータにとって憧れと直結した女の子であり、母艦戦で生死を共にした親友である。一緒にいて楽しく、毎日が輝ける大切な人だった。
ミスティは言わずもがな故郷を出て、コールドスリープにより時代も超えた人間。故郷はなく、家族も、仲間も、友人も全て、失っている。
孤独だった彼女が消沈せずに済んだのはカイという喧嘩友達であり、そしてこのディータであった。無害かつ無警戒、無垢な好意を寄せてくる少女。
友達の家に泊まるワクワクさは、同じ女の子としてよく分かる。男女問わず、年頃の子は誰でも友達の家には憧れるものだ。
きっと昨日は眠れぬ夜を過ごし、荷物を選んで、何もない母艦で不自由に過ごすミスティに差し入れしようと、あれこれ選んで持ってきたのだろう。
それがこの大荷物――ディータなりの友情分であった。
「どうする? まずは俺達の部屋から案内しようか」
「我々は、仕事で来た――お前達の部屋は、帰りに寄ることにする」
「寄るのか、お前!?」
「何を意外そうな顔をしている。この母艦は広い、調査が一日で終わる筈がないだろう。
世話になるついでだ、お前達の生活習慣を改めるとしよう。放置しておくと、雑魚寝のだらけた生活を送りそうだからな」
メイアの穏やかだが的確な指摘にカイがぐうの音も出ず、ミスティはクスクスと笑っている。これ以上なく、図星だった。
ミスティは女の子なので身の回りの整理整頓から始めているが、カイ達男三人は部屋を決めただけの雑魚寝生活である。
なまじ元監房での生活が長かった為に、三人の生活水準は極端に低い。安全に寝られれば満足という、囚人生活を満喫している節さえある。
メイアは目を尖らせて、カイに人差し指を向ける。
「スーパーヴァンドレッドという新たな力に拘らず、お前はもう我々にとって必要不可欠な存在となっている。
功を成した人間には、功に見合う生活をする義務というものがある。贅沢しろとは言わないが、もう少し身の丈に合う生活を過ごせ」
「はいはい、分かったよ。まあどうせ、生活空間は整えようとは思っていたからな」
泊まり込みしそうなメイアの覚悟に、カイは早々と白旗を上げた。作戦行動では主義主張をぶつけ合うが、私生活まで意地を張るつもりはなかった。
カイはタラークでは三等民の労働階級、バートやドゥエロよりも悪習慣が見に染みてしまっている。雑魚寝でも高いびきの少年なのである。
水浴び程度はしているが、毎日の風呂も贅沢だと疎んでいる。メイアもそうだが、綺麗好きのジュラからすれば断固許せない生活習慣だった。
不衛生ではないが、衛生的では決してない環境に、ジュラは綺麗な眉をしかめている。
「ジュラも賛成、子作りするのには相応しい環境というものがあるもの」
「子作りする環境……?」
「そうよ。ジュラは赤ちゃんがほしいの、あんたに手伝ってもらうんだから!」
「……母艦で子供を作ることに抵抗感がないのか、お前は」
「だからこそ、ジュラとカイの子供に相応しい生活環境を整えるのよ!」
ジュラの子作り宣言は、今に始まった話ではない。事あるごとに話題を出しては、メイアやディータ達の女性陣の神経を尖らせている。
地球では男女が共に生きていた事実は、もはや真実となっている。であれば、男と女で子供も恐らく作れるのだろう。
タラークやメジェールは同性で子作りするのだが、子を成すには当然だが父と母が必要――つまり、結婚が前提なのである。
カイがジュラの夫になるという事に、同じ仲間として抵抗を感じていた。
「待て、ジュラ。本気でカイと子供を作るつもりか」
「そうよ、リーダーでも邪魔はさせないわよ!」
「海賊家業はどうするつもりだ、お前はサブリーダーだぞ」
「刈り取りを阻止したら、海賊は辞めるわ。前々からきちんと言っておいたはずよ」
「パイロットも廃業するのか、身重でドレッドには乗れないぞ。そこまで言うのなら、当然今後の生き方も考えているのだろうな」
「うっ……」
「――リーダー、顔が怖い」
「――嫉妬じゃないと、信じたいわ」
怯んだジュラに畳み掛けるように追求するメイアを、ディータとミスティは完全に怯えてしまっていた。
カイとジュラが結婚、想像できないのか、したくないのか。日頃感情の浮き沈みが少ないメイアは、自分の気持ちを持て余してしまっていた。
落ち着いて整理すればよかったのだが、彼女はついつい畳み掛けてしまう。
何とか諦めさせようとしたのか、メイアは腕を組んで宣言する。
「お前の言動には、前々から問題があった。男女の生活というものを知るには、ちょうどいい機会だ」
「お、お姉様、それってまさか!?」
「母艦だけではなく地球環境の調査も行うとしよう、私も此処に住む」
「ええっ、まさか男と同じ部屋で住むつもりですか!?」
「あっ、じゃあディータもミスティや宇宙人さんと一緒に!」
「ずるいわよ、メイア。じゃあジュラもカイと一緒に住むから!」
「せめて、家主の俺に許可くらいは求めろよ!?」
子作り可能な男女が、同じ部屋に住み、地球と同じ環境で生活する――地球より奪った、この母艦で。
本当に子供が出来てしまうのかどうかは、本人次第であろう。
<to be continued>
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