ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 20 "My Home Is Your Home"
Action20 −無形−
言うまでもなく、地球が満を持して出撃させた母艦は恐るべき兵器である。地球の秘密兵器であり、主戦力と断言出来る巨大な戦艦。
惑星規模の戦争を目的とする巨大戦艦であり、内蔵された無人兵器は千を超える数と万に匹敵する製造力を持っている。最低でも、国家戦力で挑まなければ勝ち目はない。
無人兵器もまた、恐ろしい。人間の臓器を刈り取る目的で戦う自動兵器、手加減を知らず容赦なく牙を向いて襲い掛かってくる。戦闘力も、非常に高い。
マグノ海賊団内では共通の恐怖対象であり、大人であっても怯えてしまう恐るべき兵器なのである。
大人達より日頃からそう教わっていても、子供達の冒険心は恐怖を上回ってしまうものらしい。
「シャーリー、よく来たね! おにーちゃんの家に遊びに来てくれて、あーりーがーとーう!」
「ウザい、ひたすらウザい」
「人間って、ホントバカね」
「ピョロも、人間のこういうところは好きじゃないピョロよ」
「え、えーと……」
ニコニコ笑顔、大空を羽ばたかんばかりに手を広げて出迎えるバート・ガルサス。家族愛に満ちた彼の歓迎に、妹の友人達は実に辛辣であった。
肝心の妹シャーリーは義兄のお出迎えに喜んではいるものの、お友達の辛辣さに苦笑するのが精一杯であった。
困惑して泣き出したりしないあたり、多少はメンタルが鍛えられているのかもしれない。最初はオロオロして泣き出していたものだ。
一方普段より職場で罵倒を浴びせられているバートは、平気の平左であった。
「シャーリーにも、こんなに沢山お友達が出来たんだね。兄として、僕は鼻が高いよ!」
「そう言われると、否定したくなるな」
「と、友達じゃないもん、部下だもん!」
「ピョロが友達!? お、おお、ピョロにも遂に心の友が……!」
「と、友達だと思われてるのかな……?」
友人知人に恵まれていなかった一同勢揃いなだけあって、友達という存在にそれぞれ三者三様の反応で返ってくる。難しい年頃なのである。
それでもシャーリーの呼びかけでこうして集まってきたのだから、彼女なりの人望といえよう。バートの感涙は的外れでは決してない。
ただ彼も年長者、子供に甘いだけの男ではいられない。
「いいかい、君達。この船は安全確認中だから、あまり好き勝手に行動しちゃいけないよ。
大丈夫、怖がらなくてもおにーさんがちゃんと君達を守ってみせるからね」
「真っ先に逃げ出すだろう、テメーは」
「たかが機械如きに負けるユメじゃないもん」
「ピョロのスーパーヴァンドレッドパンチでぶっ飛ばすから安心しろピョロ!」
「み、みんな、おにーちゃんの言うことを聞こうね……!」
ツバサ、ユメ、ピョロ。同年代というべきか微妙だが、精神年齢はピッタリ一致する三名。彼女達が、近頃シャーリーとよく遊んでいる子達である。
この子供達はマグノ海賊団ではなく、異星人。カイやバートが乗船させた者達で、お頭や副長の許可を得てバート達が面倒を見ている。
彼らの立場はまだ複雑ではあるのだが、仮にタラークへ無事帰れたとしたら本当の家族として一緒に生活する予定である。ただ、一筋縄ではいかない。
軍事国家タラークは男性国家、女性は敵であり入国も禁じられている。子供であろうと、異星人であろうと、例外はない。
その点についてはカイも革命とでも言うべき行動に出るつもりであり、バートもシャーリーの為なら何でもする心積りだ。彼らに見捨てる選択肢はない。
彼らのそうした決意が分かっているからこそ、彼女達もまたこうして男達の住む船に遊びに来ている。
「で、あの馬鹿は今何処の部屋に住んでいるんだ」
「そうそう、お前はどうでもいいからますたぁーの部屋を教えなさい」
「君達は相変わらず、あいつ一番なんだな……最終的に部屋は分けるつもりだけど、今は固まって寝ているよ」
「げっ、男同士でかよ」
「ちょっと、ますたぁーはユメ一筋になるんだから、男なんて近づけないでよ!」
「部屋割りがされていないんだよ!?」
当然である。この母艦は無人兵器が搭載されている船、有人用に製造されていない。個人の部屋なんて用意するだけ無駄である。
ただがらんどうではなく、ある一定の空間で区切られた区画となっている。カイ達は比較的こじんまりしたスペースを確保して、雑魚寝している状態だ。
もっとも女の子のミスティは野戦生活を死ぬほど嫌がり、生活改善を訴えて男達を働かせている。そのおかげで、人並み生活が出来つつある状態だ。
バートからガイドを受けて、ツバサは呆れた顔をする。
「せっかくシケたミッションから飛び出してきたってのに、何でまた雑魚寝生活しなきゃいけないんだよ」
「君はニル・ヴァーナの温泉施設で働いているんだろう。あっちで住んだ方がいいんじゃないか?」
「バーカ、大人には子供を育てる義務があるんだよ」
「……これはまた新しい、大人への甘え方だな」
自信満々に鼻を鳴らすツバサの背中には、巨大リュック。生活用品一式と、マグノ海賊団の女性達より貰った衣服が押し込まれている。
彼女とてようやく就職したばかりの人間、一応自立しており今後も働くつもりでいる。とはいえまだ子供、帰る場所が必要なのである。
日頃文句ばかり言っているが、カイとの生活を止めるつもりはないらしい。隙あらば、遊びに来るつもりなのだろう。
ツバサのそうした態度をみて、シャーリーもまた上目遣いに家族を見つめる。
「お、おにーちゃん、シャーリーもおにーちゃんと一緒がいいな」
「勿論だよ、僕達は永遠に家族だ!」
「ありがとう、おにーちゃん!」
「ユ、ユメも、マスターと家族だもん!」
「ピョロだって、ピョロUという新しい家族がいるピョロ!」
抱き合う兄妹が癪に障ったのか、ユメとピョロが必死で訴える。不安の現れなのか、対抗心なのか、どちらとも言える態度で叫んでいる。
逞しい子供達、されどまた子供。母艦へ来たのは子供の冒険心であり、子供なりの親への愛情でもあるのかもしれない。
今まで自分のことで精一杯だったバートも家族ができて、ようやくそうした心の機微が分かるようになってきた。
「よーし、じゃあ今日は僕が君達を引率してあげよう! 色々案内してあげるから、楽しみにしていてくれ」
「待て、リーダーを決めるぞ」
「何言っているんだ。リーダーは僕に決まっているじゃないか」
「使いっ走りの足のくせにナメんな。アタシは温泉施設のチーフ様だぞ」
「僕、子供にまで足扱いされてる!?」
ニル・ヴァーナの操舵手、船を動かす仕事だと聞かされて、ツバサが真っ先に思い浮かんだイメージにバートがげんなりする。
人を載せて運ぶという意味では確かに足だと言えなくてもないが、表現の仕方は最悪である。誰がどう聞いても、いい印象など持てない。
代替出来ない重要な任務なのだが、子供の認識なんてそんなものかもしれない。残酷極まりないが。
そして子供というのは常に、声が大きい人間が勝つ。
「ちょっと待ちなさいよ。リーダーはユメよ、アンタ達は部下なんだから!」
「何言っているピョロ。ナビゲータークルーのチーフはピョロ、だったらリーダーはピョロがやるべきだピョロ!」
「わ、わたしはおにーちゃんが、いい……かな」
見事に言い争いになった。現在大人達は地球と人類の存亡をかけて戦っているが、子供なりにこの闘争も真剣勝負そのものである。
子供にとっては人類の明日より、今日の勝負が大事なのである。子供の一日は、大人の一年よりも長い。
言い争いも加熱していき、やがてツバサが思い切った提案をする。
「よーし、勝負して決めようぜ。この母艦の端まで駆けっこだ、一番乗りした間がリーダーだ!」
「いいわよ、やりましょう!」
「ピョロは絶対負けないピョロ!」
「えっ!? わ、わたし、走るのは苦手で……」
「シャーリーは特別に、家族の参加を認めてやる。おいお前、そいつを背負って走れ」
「この母艦の端まで!? 死ぬほど遠いよ!」
一応説明しておくと、先の母艦戦では内部突入してカイ達SP蛮型やドレッドが激しくカーチェイスを行った。つまり宇宙戦が走り回れる広さがあるのである。
人間の、それも子供の足で走ったら、一日や二日では終わらない。真っ先に体力、その内気力もなくなるだろう。遭難確実である。
当然、引率役であるバートが止めなければならない。
「あのな、そんな危険な事は絶対認められな――」
「ごめんね、おにーちゃん。シャーリー、重いよね?」
「軽いもんさ、シャーリー! 君に勝利の栄冠を捧げるよ、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「あ、こら!? フライングするんじゃねえ!」
「待ちなさいよ、絶対にリーダーは譲らないからね!」
「ピョロの本気を見せてやるピョロ〜〜〜〜〜!!!」
どこぞとしれず、走り出す子供達――かつて戦争が行われたこの船で駆けっこ、平和というべきなのか。
やがて見事に遭難したバート達を、後程カイ達が見つけ出す事となる。
<to be continued>
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