ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 20 "My Home Is Your Home"






Action13 −猛鳥−








『カイ・ピュアウインド、元パイロットだ。よろしく』

『よろしくって、あんたね……』



 就活イベントの特別ゲスト、カイ・ピュアウインド。サプライズで用意していたゲストではあったが、実のところイベントを盛り上げるべく用意していた刺客だった。

就活イベントは現状の職場に満足していれば不要なイベントなので、イベントの成否は志望者に問われる。誰も来なければイベントは即失敗に繋がる。

志望者本人の質も大きく、極端に言えば面白みのない人間ではあまり盛り上がらない。そういった意味でも、イベント参加者による部分が大きい。


そこで用意していたのが特別ゲスト、イベント協力者であり面談者であるカイ・ピュアウインド。彼がいればさぞ盛り上がると、本人の希望もあり抜擢した。


結局のところイベント自体既に大成功だったので不要といえば不要なのだが、ことイベントとあれば妥協はしないイベントチーフ。

生中継で視聴率百パーセントであっても惜しみなく、特別ゲストを投入する。その手腕こそ、彼女をイベントチーフとして抜擢された要因だった。


『面談者が志望者では公正に欠ける為、今回に限り私ドゥエロ・マクファイルが代理で行わせて頂こう』

『……準備がいいですね、チーフ』

『ふふふ、その点はバッチリよ』


 呆れ顔のミスティに、得意顔でイベントチーフがピースする。ドゥエロも先程の志望者ではあったが、公明正大な人物であることは誰もが皆承知している。

先程志望を辞退したばかりだが、ちゃっかり面談席に座っていても視聴者の誰一人文句が出なかった。独特の面白さのある人物であることも否定出来ない。

チーフもドゥエロも面白がっているのは誰の目にも明らかで、両者に挟まれたミスティだけが馬鹿馬鹿しさに頭を抱えつつあった。


暴れだしたくなる衝動をギリギリ抑えながら、ミスティは尋ねる。


『今までずっとあんた本人が問い質してたけど、あんたって今の仕事を辞められるの?』

『俺の代わりは大勢いる、問題ない』

『パイロットとしてはそうなんでしょうけど、あんたはあの合体メカのパイロットなんでしょう。あんたが居なくなれば、戦力ダウンするじゃない』

『そこだよ、問題点は』


 彼とてヒーロー願望が無くなったわけではない。厳しい現実を知って形は変わったが、明確な夢はある。

仲間を守りたいという気持ちに嘘はない。強敵であろうと、今更恐れたりはしない。恐れるのは自分ではなく、仲間の死なのだから。

だがそれはあくまで、緊急時における心構えである。客観的に見れば、今の職場環境に何の問題もないとは言い難い。


カイは拳を握りしめて立ち上がる。


『ヴァンドレッドのパイロットであるから、戦い続けなければならない。お前は戦えと、誰もが皆尻を蹴って戦場に送りつける。
それがはたして、正常な職場環境だと言えるのだろうか!?』

『パイロットなんだから、戦うことが仕事でしょうに』

『だから辞めて転職するべく、ここへ志望した』


『むっ、流れとしては成立しているわね』

『パイロット症候群はさほど珍しい症状ではない。特に彼は最前線、常に厳しい局面を強いられている』

『コメンテーターとして見事な説得力ね、ドクター』


 最近カイは作戦を立てる側に立っているが、それでも基本的に彼は常に最前線で戦っている。死が間近な局面に常日頃立たされている。

最初こそ捕虜扱いだったが、だからといってマグノ海賊団も特攻隊を命じているのではない。彼に戦ってもらわなければ勝てないのだ。

しかしそれはあくまで女性側の都合であって、本人の意向ではない。勝たなければ本人も死ぬのだが、意志と環境はあくまで別物だ。


ミスティは持っていたペンで頬を掻きながら、指摘する。


『つまりあんたは、戦うのが嫌になったと?』

『戦うのを当然とする、今の労働環境に異議を唱えたい。成果を出してもお疲れ様の一言もなく、今回の反省を活かして次の訓練を行うの一点張りだぞ。
ちなみにそう言っているのは現リーダーであり、お前のお姉様だ』


『うっ――そうくるとは』

『お姉様の悪口は許さないと言わないあたり、面談者としての公正は保っているわね』

『彼女の人柄は私も評価している』


 ちなみに言われっぱなしの本人であるメイアは、頭を抱えている。最近は人付き合いも気にしている分、自覚もしつつあった。


カイも子供から大人へと成長している時期、何にでも褒めてもらいたいと駄々をこねているのではない。何の評価もないのは不公平だと問うているのだ。

実のところ作戦立案も含めて大いに評価されているのだが、労働者は労働環境に変化が出ないとなかなか上の評価には気付けない。


『話は分かったけど、どうして温泉クルーへの転職なの?』

『俺はタラークでは労働階級の三等民、酒屋で客商売を手伝っていた。店の清掃等の雑用全般も引き受けていて、こうした労働には慣れている。
下働きでも何でもこなせるぜ、任せてくれ』


『……ドクターの志望理由を聞いた後だと、これ以上ないほど妥当に聞こえるわ』

『それはどういう意味かね、ミスティ』

『カイって熱血馬鹿な部分はあるけど、本人は結構真面目に仕事するからね』


 元パイロットとしてゲストとしても面白いが、就活イベントとして相応しい人材でもある。面白ければ何でもいいというものでもない。

あくまでも就職の斡旋であるのだから、真面目な志望理由も大切だ。職業こそ違うが、客商売に長けているのは立派な志望理由である。

半年間のブランクこそあるが、カイは物怖じしない性格である。どんな客でも上手くやってくれるだろう。


面談者が揃って顔を見渡していると、丁度いいタイミングで割り込み回線が入った。


『カイ、私はお前の退隊を認めた覚えはないぞ』

『来たな、青髪。お前が何を言おうと、俺の意志は変わらないぞ!』


『いいだろう、ならば決闘だ』

『け、決闘だと……!?』


 メイアという人間から、予想もつかない言葉である。これにはカイ本人どころか、イベントチーフも含めて女性陣全員が注目する。

メイアは自他共に厳しい人間だが、体罰などの強行は行わない。あくまでも正論に基づいた叱責を行い、部下の管理を行っているのである。


このような決闘は彼女本人が一番嫌うやり方、の筈だったのだが――


『お前はこの後、ミスティと決闘するのだろう。彼女に勝てば、お前の退隊を認めよう。その代わり負ければ、引き続きパイロットを続けてもらう』

『な、何だと!?』

『お、お姉様!?』


『大丈夫だ、ミスティ。お前ならばカイに勝てる、私は信じているぞ』


 ――珍しく、本当に珍しく、メイアは自信満々にそう言ってのけた。得意げですらあった。自分の判断を、これ以上ないほどに信じている。

結果この就活イベントは次なる決闘への繋ぎとして大成功、これ以上ない布石となり伝説にすらなった。後日、表彰される実績として讃えられる。



こうしてヴァンドレッドの命運をかけた、温泉対決が行われる。

























<to be continued>







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