ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 20 "My Home Is Your Home"






Action12 −浪漫−








 ニル・ヴァーナの操舵手にマグノ海賊団の船医、ヴァンドレッドのパイロット。列挙してみれば明らかだがいずれも要職であり、代えのきかない貴重な人材である。

捕虜であった頃は働いて当然という認識しかなかったのだが、半年以上が経過して実績まで上げていれば重宝もされる。

彼らは既に立派な仲間であり、かけがえのない人達。適材適所などという言葉すら追いつかないほど、貴重な役職となっていた。

既にその認識自体は持っていたのだが、この就活イベントを通じて彼らの貴重さは更に浮き彫りとなった。生中継の視聴率はほぼ百パーセントである。


イベントチーフの株はうなぎのぼりでホクホク状態、面談者のカイやミスティもこのイベントを楽しみつつある。



『ドゥエロ・マクファイル、元医者だ。よろしく頼む』



 ふてぶてしいまでの、名乗り上げ。元よりドゥエロ・マクファイルという男に萎縮などありはしないが、元医者だと堂々と言いのけるあたり大物であった。

医者は趣味だと半ば公言している男だが、医者という職業に特段不便も不満も感じていなかった筈である。

ゆえにこの転職志望は不可解であり、意外という意味では就活イベントを大いに盛り上げる要素となっていた。


ともあれまずは真っ先に感じた疑問を、カイは問い質す。


『さっきのバートにも聞いたんだけど、医者って辞められるものなのか?』

『職業倫理を君から問われるとは思っていなかったな、ふむ。人を救うという意味では、職業に拘らずとも医者で在り続けるものかもしれない。
そういった意味では、元医者という表現は的確ではないのかもしれない』

『いやそんな難しい意味じゃなくて、純粋に』


『私には助手がいる。彼女になら任せられる』



 ――医務室で、いきなり任されたパイウェイが盛大に椅子から転げ落ちた。



確かにナースのパイウェイはドゥエロと会う前、マグノ海賊団の医者的役割を務めていた。怪我人や病人も看ていたのは事実だ。

だがそれはあくまで、メジェールの医療マシーンに頼り切っていた頃の話である。昔と今とでは、天と地ほどの認識の違いがあった。

あの病の星を通じて医療業務の辛さと厳しさを経験した今では、とても医療マシーンだけに縋れない。

今までのような遊ぶ半分での医療など出来ない、さりとてドゥエロの代わりを務められる自信などとてもなかった。


パニックになっている後継者を放置して、就活イベントが開催される。


『医者から風呂屋というのは劇的な転職に思えるんだけど、またどうして?』

『君達女性の人体はとても興味深い。ゆえに人体を清潔に保つこの業務に、非常に強い共感を覚えたのだ。身近で人体を観察出来る』


『ドストライクに、お前らの裸を見たいと言っているぞ』

『やばいわ、逸材かもしれない』

『ドクターでしか許されない変態発言ね』


 タラークとメジェールの男女の価値観は異なり、羞恥心の在り方も異なる。男と女という意識は各星で孤立しているので、互いへの意識はないのだ。

ただ半年以上も同じ船で生活していると、人間本来の価値観も芽生えてくる。思春期であれば尚更、本能で男と女を意識してしまうものだ。

同じ年代の中で唯一、ドゥエロの価値観だけ独特である。彼は男女の身体は本能ではなく、理性での違いで捉えている。


言わば人体模型と同じ視線で見ているので、女性の胸や尻も起伏の違いでしかないのだ。質問者のミスティも困惑してしまう。


『身体を見たいだけであれば、医者のままでも見れるんじゃないの?』

『医者は人の身体を治療する職業だが、風呂屋は人の身体を清掃する職業だ。
今まで私は人体の内面を診てきたが、この職業を通じて人体の外面を知りたいと思っている』


『やばいな、カッコイイこと言っているように聞こえるぞ』

『黙らされないで。吟味してみると、女の子の体を見たいとしか言ってないわよ!』

『男共、面白すぎる。どうしてこんな素敵な人達を迫害なんてしたんだろう、わたし達』


 カイ達だけではなく、生中継を見ている女性達からも歓声がわいている。素でとんでもないことを言いのけるドゥエロに、独特なファンが生まれていた。

極論するとミスティの言った通りの事しか言っていないのに、真面目な顔で堂々と言っているので無駄な威厳があるのだ。

笑うべき点なのか、真面目に論議するべきなのか、大いに理解に苦しめられる。だからこそ、ドゥエロというキャラが面白く感じられる。


堅物なマスコットという、新たなキャラクターが生まれつつあった。質問者のチーフも、ご満悦である。


『でも万が一採用されると、本当に医者は廃業だぞ。いいのか、お前』

『人体を救う職業に貴賎はない。それに私は、パイウェイを信じている』

『ふーむ、まあ確かにドゥエロなら、男風呂か女風呂のどちらになろうと公平に働いてくれそうだな』



『ちょっと待った!』

「ちょっと待ったコール、来たー!』



 面接会場に通信回線が割り込んだ途端、イベントチーフが立ち上がって大宣言。反射的な対応に、プロ意識を感じさせた。

割り込んできたのは看護婦姿のパイウェイ、どうやら仕事中のようだが就活イベントの展開に我慢出来なかったようだ。

当たり前である。本人からすれば、自分が知らないところで何もかも押し付けられそうになっているのだから。


絶対阻止してやると言わんばかりに、噛み付いてきた。


『ドクター、勝手なことばかり言わないで。絶対に辞めさせないケロよ!』

『大丈夫だ、君ならやれる』

『何の根拠もないケロよ!』

『私は君を信じている。それこそが根拠だ』

『そんなふうに信頼されても困るケロー!?』


 泣き出してしまった。その姿は親に置き去りにされた子供を彷彿させて、女性陣から悲しみと切なさを誘う。

先程のバート達は親に反抗する子の構図だが、今度は親に捨てられそうな子の構図。どちらも同じく、涙を誘うドラマであった。

パイウェイとしてもここで勝手に任せたら、まだまだ続く刈り取りとの戦争で四苦八苦するのは目に見えている。本人なりに必死だった。


――それもまたイベントの醍醐味とも知らずに。


『ドクター、パイウェイを捨てないで! ドクターと一緒にこれからも働きたいよ!』

『……分かった、君の意志を尊重しよう』

『! 本当の、本当に!?』

『ああ、君の気持ちを軽視してすまなかった。共に人を救うべく、頑張っていこう』


『だから何なんだよ、このお涙頂戴は。勝手に涙が流れてしまうわ!』

『うう、無意識に拍手してしまう自分がいるわ……』

『いいよ、実にいい。こういうドラマがいいのよ!』


 面談者三名に拍手で送られて、元医者の志望者が見送られた。就活志望の辞退となるのだが、イベントとしては盛り上がったので大成功である。

拍手喝采は艦内全域で響き渡っており、パイウェイやドゥエロは時の人となっていた。このイベント後、医務室へ遊びに行く人が増えたらしい。


まだ二名だが、もう既にイベントは大成功を博している。ここで〆ても大満足で終わるのだが――


『ではここで、特別ゲストに出てきてもらいましょう!』

『えっ、特別ゲストって――』



『何をかくそう、この俺だ!』



『あんたこそ、代えがきかないじゃない!?』


 面談側から立ち上がったカイ・ピュアウインド志望者登場に、生中継がついに100パーセントに達した。

























<to be continued>







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