ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 20 "My Home Is Your Home"
Action2 −借家−
「――で、此処を使えとおっしゃるのね?」
「何処の部屋でも自由に使っていいよ。選り取りみどりだ」
「無人なだけじゃねえか!」
「新しくて、大きく、適切な広さがあって、周りが静か――お前さん達の希望は全て、満たしているじゃないか」
「広すぎて逆に不安になるし、静か過ぎて何だか怖いよ僕……」
「何だったら、お友達とかも連れて来ようかい。パルフェに頼めば、動かせるかもしれないよ」
「人間には興味はあるが、機械となると専門外だ。医者の私でも、面倒は見切れないな」
「文句が多いね、何が不満なんだい?」
『母艦なのが嫌!!』
先の戦いで手に入れられた最大の収穫、地球の巨大母艦。カイの立てた作戦により実行され、ミスティが持ち込んだカプセルのウイルスでシステムの鎮圧に成功。
システムがダウンして全無人兵器が停止、セキュリティも無効化。コンピューターが動かなくなってしまえば、どれほど強力な艦でも無人ではどうしようもなかった。
地球の最大戦力の一部を奪う事に成功したマグノ海賊団は我が物とすべく、ブザムが編成したチームが母艦内部で今探索を行っている。
探索チームのリーダーを務めるガスコーニュが、カイやミスティ、ドゥエロやバートを案内している最中であった。
「何が悲しくて、敵の船で生活しなければならんのだ」
「広くていいじゃないか。どれほど騒いでも誰にも文句言われないよ」
「こんだけ無駄に広いと、監房の狭さが懐かしくなるわ!」
幾多の大攻防があったとはいえ、予定外の事故による装甲の大穴以外はほぼ無傷で手に入れている。カイ達も内部でかなり暴れ回ったが、損傷は軽微である。
大穴を含めた母艦の修繕は一応行われてはいるが、システムさえ回復すれば自動修復機能が働く仕様になっている。現在、メインシステムも分析中であった。
何しろ敵の船である、いきなりシステムを再起動させる訳にはいかない。ウイルスで沈黙したシステムを完全に掌握して、乗っ取らなければならないのだ。
そうした分析時間も含めて今、長期停泊を行っているのである。
「部屋というよりもうホールよね、どこもかしこも。一人一区画専有しても、まだまだお釣りが来るわよ」
「ニル・ヴァーナに積んでる資材類も一部運び入れるつもりだよ。非常用の物資とかも置いておきたいからね。
もっともメインは、母艦に積んであった機材の数々だね。こいつはお宝の山だよ」
「し、資材とかもあるの!?」
「敵さんはこの母艦で無人兵器をわんさか作ってたんだよ。それらをバラせば、使える部品や機材類が大量に手に入れられるだろうね。
こんだけあれば、故郷まで十分持つよ。ほんと、大助かりだ」
ミスティの驚愕に、ガスコーニュは珍しく不器用にウインクを見せる。レジを担当する店長、彼女の一番の悩みは物資や資材の不足であった。
刈り取り部隊は毎日のように攻めて来て戦闘による物資類の消費が続くのに、供給が一切出来なかった状況。だましだまし使って、何とか持たす算段でいたのである。
立ち寄った星々で何とか物資の提供は受けていたのだが、それらの星々も地球との交戦で不足していた。提供を受けるのも、心苦しい限りであった。
そんな状況下でようやく手に入れられた大量の物資、浮かれずにはいられない。
「だったら、食料とかも手に入ったの!? これからはいっぱい食べられるかな!」
「おやおや、タラークの青年はすっかり女の飯がお気に入りのようだね」
「そ、そうじゃないよ!? ペレットだって好きさ、僕は! ただその、たまにはいいかなと――」
「ははは、良い傾向じゃないか。ただまあ、そっちは正直芳しくはないね」
「えっ、何で!?」
「だってこの母艦、無人だからね。兵器の連中は飯なんか食わないだろう」
正確に言えば兵器だって供給は必要なのだが、人間の食べる食事とは違う。ガッカリするバートを前に、ガスコーニュは詳しい説明を敢えて避けた。
芳しくはないだけで、全然無くはない。少なくとも水は冷却用等も含めて多く保存されていたし、人間が食べる食料も無い訳ではない。
無人兵器には確かに、食事は必要ない。なのに、食料は保管されている。必要ではないのに何故持ち込まれていたのか、理由は想像が付いた。
刈り取りの目的は人間の臓器、臓器はなるべく使用可能な状態が望ましい。つまり――
獲物である人間を生きたまま連れて行ければ、理想的なのだ。
「機材搬入も行えるのは喜ばしいが、医療室まで移す訳にもいかない。私やバートが此処に滞在するのは、職務を考えると厳しい」
「アタシらだって、いつまでもアンタ達を此処に押しこむつもりはないさ。少なくとも今の漂流生活よりはマシだろう」
「なるほど、もっともだ。話としては分かったが、別の思惑もありそうだが?」
「やれやれ、ドクターにはお見通しのようだね。此処に住み込みがてら、母艦内の探索や整備作業を手伝って欲しいんだよ。
人手不足ってのもあるけど、タラーク側の視点が欲しいんだ。こいつは地球の乗り物だからね」
ドゥエロ・マクファイルは船医、バート・ガルサスは操舵手、カイ・ピュアウインドはパイロット。どれも欠かすことの出来ない、貴重な人材である。
カイはSP蛮型を持ち込めば済むが、ドゥエロやバートはニル・ヴァーナに居なければ務まらない。母艦内で呑気に生活は出来ない。
提案したマグノやブザムも先刻承知の上であり、説明しなかったのは冗談半分でもあった。
カイ達が驚く顔が見たかった、大人なりのユーモアである。
「ふーん……ま、いいけど」
「あれ、珍しいな。こういう地味な作業、嫌がりそうなのに」
「華やかな仕事を望むのなら、取材なんてやってないわよ。この艦、前から色々調べておきたかったからね。
本当は最初乗り込んだ時に洗いざらい調べまくってやるつもりだったけど、どっかの馬鹿が色々事故ったせいでそれどころじゃなくなったから」
「……一応言っておいてやるけど、目の前のこの人も事故の当事者だからな」
「そういえば礼を言ってなかったね。あんたのおかげで助かったよ、ミスティ」
「あわわっ、お、恩に着せるつもりはなくて!?」
ガスコーニュに笑顔で頭を下げられて、ミスティは逆にテンパってしまう。やりこめられた悔しさからか、カイを横目で睨みつけた。
自分の仕事よりも他人の命を心配して、特攻したミスティ。考えなしの行動は褒められたものではないが、行動理念そのものは立派だった。
彼女が今急速に仲間達に受け入れられているのは、こうした彼女の前向きな行動による。そして本人も、自分の行動力には意思を超えて動かされていた。
ミスティ・コーンウェルには、ここまでの自主性はない。決起させられているのはやはり、彼女に似た少年によるものであろう。
「となると、しばらくは此処が仮宿になる訳だな」
「仕事先の住み込みみたいなものだから、正直借家みたいな感じだね。僕も長い監房住まいで、すっかりこういう生活に慣れちゃったけど」
「これもまた、経験だ。少なくとも私は、君達とまた一緒に生活出来る事を楽しみにしている」
「いいなー、そういう男の友情。参加したいとは思わないけどね。ほら、部屋割り決めるわよ。
一応言っておくけど、女のプライバシーは絶対覗かないように」
「当然だろう」
「何言ってるんだ」
「この長き男女共同生活で、我々は教訓を受けている」
「そ、そう……あんたらも苦労しているのね……」
傍で聞いていたガスコーニュは、笑いが止まらなかった。もう男とか女とか、邪魔な垣根は一切何もない。今後の生活はきっと、より良く楽しめる。
しばらくの長期停泊生活も、存外に退屈せずに済むかもしれない。いい機会だ、もう一度お互いを見つめ直すとしよう。
男と女、友情を超えたその先にある――新しい関係を。
<to be continued>
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