ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 19 "Potentially Fatal Situation"






Action15 −中核−







 ミスティとディータの強力な援護を受けて、カイとメイアは合体。エネルギー不足のドレッドと機能破損した蛮型は、かろうじてヴァンドレッド・メイアへ移行した。

合体そのものは可能でも、母艦との激突により破損した二体の機体ではヴァンドレッドを維持するのは困難。ソラとユメが支えていなければ、すぐに分裂していただろう。

特化された加速も落ちてはいるが、並の機体よりは遥かに素早い。事故現場より即座に離脱して、一直線に母艦の中核へと向かっていった。


「ソラとユメは、システム維持で精一杯だ。案内役は頼んだぞ、ピョロ」

「任せるピョロ。うちの部下から、母艦内部のマップデータを受け取っているピョロよ」

『違うよ、ますたぁー。ユメが、こいつの上司だからね。えっへん』


 ニル・ヴァーナのナビゲーションスタッフである二人の案内により、広大な母艦内部も迷わずに最短距離で突き進められている。

お遊び半分で新設された部署がここに来て手柄を上げるとは、ブザムやマグノも予想だにしていなかっただろう。なかなかの大活躍だった。

得意満面な二人にいつからこれほど仲良くなったのか、カイは首を傾げる。ロボットと人外の少女、これほど珍しい関係は滅多に見られないだろう。

変に感心しながら、カイ達は目的地へと向かっていく。


「……厳重なセキュリティを用意しているだろうとは思ってたけど、隙間もなく発射口を並べてやがったか」

「二人の援護が無ければ、中核へ侵入するのは困難だっただろうな」


 母艦内部への侵入とシステム中核への突入は作戦の内だったが、この時課題として挙げられていたのが母艦のセキュリティシステムだった。

元々内部破壊を工作しており、セキュリティも破壊の対象だったが、壊すにはそのセキュリティを突破しなければならないという苦悩があった。

実現は限りなく不可能であっても、コンピューターであれば必ず対応はする。敵に内部まで侵入された時の対応として、このセキュリティが用意されていたのだ。


数百を超える、レーザーの発射口――システム中核へ向かうあらゆる通路に、ご大層なまでに並べられている。


無人だからこそ可能な、セキュリティ体制。人間が一人でもいれば、これほど馬鹿馬鹿しい数の発射口など並べない。呆れ果てる警戒態勢だった。

カイやメイアとて、最前線で戦うパイロット。レーザーやミサイルが縦横無尽に飛び交う戦場で、常に戦っている。今更銃口を向けられて怯む戦士達ではない。

網目のように張られた発射口が相手でも突破する自信はあるが、無傷で通るのは絶対に無理だ。何しろ隙間がないのだ、被弾は避けられない。


――その全てが停止していなければ、傷を負うのは避けられなかっただろう。


「お気軽極楽に、悠々と進めるピョロね〜」

『バーカ。もしシステムが壊せなかったら、帰り道がレーザーで塞がれちゃうよーだ』

「げげげ、そうだったピョロ!?」


 その通りである。彼らが向かう先は外ではなく、内。母艦の中核に向かっているということは、自ら退路を断っているのと同じなのだ。

作戦において突入チームの危険度が一番高いのは、言うまでもない。敵陣に斬り込むといえば聞こえはいいが、敵のど真ん中に飛び込む身投げ行為なのである。

リスクと引き換えの、リターン。母艦一隻破壊という大功績に見合う危険とは、自分達の命。彼らは全て承知の上で、自分から身を投げ出したのだ。

ピョロも同じ覚悟を持ってはいるが、いざ指摘されるとどうしても動揺してしまう。


「勝てばいいんだよ、勝てば。お前の頑張り次第だ」

「カイの言う通りだ、ピョロ。お前さえ頑張れば、堂々と帰れる。安心しろ、頑張るお前は我々が必ず守ってみせる」

『ますたぁーがこう言ってるし、仕方ないけど助けてあげる』

『作業の補佐はお任せ下さい』

「お、お前ら……うう〜、ピョロは何が何でも成功させてみせるピョロ!」


 最初は、カルーアの為だった。エズラが産んだ赤ん坊はピョロにとって我が子同然であり、愛称までつけるほど可愛がっている。あの子の為なら、どんな事でも頑張れる。

言い換えると、あの子以外の事では危険に飛び込む勇気はなかった。仲間を思う気持ちは、ロボットながらに持っている。だが、自分と引き替えに出来ない。

おかしなものだと、自分ながらに分析はしている。現場で恐怖するロボットなど、欠陥品だ。どんな現場でも求めるスペックを発揮してこそ、機械。

あのペークシスの暴走に巻き込まれ、自分は壊れたのだと思っている。実際、開発当時に求められていた自分ではないのだろう。感情で揺らぐプログラムなど、不安定でしかない。


けれど、不安定な自分の"心"を支えてくれる人達がいる。壊れた自分の頑張りを応援してくれる、仲間達がいる。


カイやメイアを失いたくなかったから、事故を起こしたあの時我が身を省みずに救った。ソラやユメと一緒に戦える今に、とても興奮している。

カルーアの為、初心に嘘はない。今は、新しい気持ちが加わっただけだ。大きな括りでみれば、目的に変更はない。


仲間を、助ける――それが、"ピョロ"というプログラムの第一目的であった。


「急ごう。ミスティ達は頑張ってくれたが、敵もいつまでも沈黙してはいないだろう」

「根幹から破壊しないと、すぐに直してしまうからな。こいつらのしぶとさは、散々思い知らされている」

「合点承知。急ぐピョロよ!」


 一直線、壁や天井のような障害物を破壊して突き進んでいく。途中見つけた無人兵器も、停止していては単なる置物である。容赦なく壊して、進んでいく。

作戦開始より長時間、幾つもの予想外が起きた。恐るべき新型に阻まれて、アクシデントも発生して、何度も死ぬような目にあった。

それでも誰一人欠けず作戦を遂行できているのは、誰もが皆頑張っているから。誰か一人でも頑張らなければ、ここまで辿り着けなかっただろう。



そう、此処が目的地――母艦の、中核である。



「……柱?」



 融合戦艦ニル・ヴァーナの、ペークシス・プラグマの保管室。厳重かつ堅牢に保管されているあの部屋と、此処は作りがとてもよく似ていた。雰囲気は、真逆だったが。

ほのかな光に満たされた保管室とは違い、母艦の中核は禍々しさに満ちていた。夥しい赤の光に満たされており、中央には厳かな構造体が君臨している。


円柱――悪趣味としか言い様がない毒々しい印象のある、柱。天井にまで伸びており、この部屋を根底から支えている。


柱には上下左右にパイプが接続されており、各フロアへと繋がっている。柱自体は光ってはいるが、パイプにまで光は到達しておらず沈黙していた。

その奇妙さを、ソラがこう説明する。


『システムの中核を結ぶネットワークそのものが切断されています。マスターのお仲間によるシステム干渉により、接続障害が起きているのです。
システム側も干渉を素早く察知して、自らアクセスを切断したのでしょう。中核にまで悪影響が及ぶ前に、物理的に切り離して事なきを得たのです。

ただ急な切断を行った影響により、システムが遮断されているようですね』

「無理やり切られる前に自分から切った分破損せずに済んだけど、再起動に時間がかかっちまっている訳か」

『システム干渉と言っても、実際はさほどの影響はありませんでした。なのに過剰な防衛措置に出てしまった為、余計な時間を費やされてしまっています』

「ま、いきなり心臓を攻撃されたら誰でもビックリするわな。この場合、脳みそかな」


 ミスティとディータによる、意外な援護射撃。地球母艦の装甲ではなく、内部への直接攻撃が思い掛けないダメージを与えたのである。

もしも装甲にパニックンを撃ち込んでいれば、リンクは一時的に切断されてもすぐに復旧しただろう。母艦には、それほどの高度なシステム体制が用意されている。

システムの復旧は万全であった。だがシステム側にとって予想外だったのはミスティ達があろう事か通信リンクではなく、内部のシステムに直接撃ち込んできた事だった。


メインシステムへの干渉、言わばハッキング行為にシステム側が最大級の防衛手段――電源を、切ったのである。


システムの強制切断、スイッチを切る行為。確かにもう一度スイッチを付ければ、再起動はする。だが大きなシステムほど、立ち上がるのに時間が掛かる。

まして母艦ほどの規模のシステムともなれば、再起動に長い時間がかかってしまう。その間、カイ達を無傷でシステムの中核まで近付けてしまったのだ。

いっそダメージ覚悟でパニックンの干渉を受ければすぐに対応できたものを、わざわざ遮断してしまったので無用な時間を割いてしまっている。


危険を犯してまで仲間を助けた、ミスティとディータの大手柄であった。


「皆、準備はいいな?」

「ああ、いよいよだ」

「準備は出来ているピョロ!」

『楽しくなってきたね、ソラ!』

『マスターの力になりましょう、ユメ』


「よし――本作戦の、最終フェーズに移行する」


 取り出したのは、この作戦の切り札――ミスティ・コーンウェルの私有物、メッセージカプセル。

かつてニル・ヴァーナ全域を停電させた、"ウイルス"である。


























<to be continued>







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