ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 19 "Potentially Fatal Situation"
Action14 −先入−
母艦に異変が起きたのは、誰の目にも明らかだった。戦場においては如何なる機微も見逃さない、一流の海賊達。追い詰め、追い詰められながらも、敵の一喜一憂を観察し続けている。
巨大な構造の地球母艦は大規模な無人兵器を戦場へ投入し、自らは腰を据えている。その圧倒的なスケールは、ただ存在するだけで恐怖に陥れる。堅牢かつ重厚な城であった。
その母艦が突如、傾いた。近くで見ても微動、遠目で見ればさほどの変化は感じられない。けれど、あの地球の主力兵器がほんの僅かでも崩れたのには違いなかった。
見つけた隙は、決して見逃さない。それでいて、嬉々として食い付いたりもしない。美味そうな獲物であっても、釣り針がぶら下げられていては意味が無い。
「すぐに母艦の状況を確認しろ」
「了解!」
メインブリッジにはミスティの作戦と、ディータ達の行動は伝わっている。母艦に変化が起きたとすれば、間違いなく彼女達の行動による結果なのだろう。
自分の部下を信じてはいるが、同時に疑ってかかるのも指揮官であるブザムの仕事。無為な信頼は、プライベートで満喫すればいい。
何が起きるのか分からないからこそ、戦場は怖い。生死を決定するのは何時でも、客観的かつ無慈悲な冷静さであった。
作戦決行時より状況観測を続けていたアマローネが、即座に仕事を終えて報告する。
「"パニックン"、母艦に着弾。ディータ機が母艦内部に向けて、直接撃ち込んだようです。敵システムの内部崩壊が起こっています」
「ディータの判断によるものではない――ミスティめ、無茶なことをする」
「本人は嫌がっているようだけど、海賊向きの性格だね。あの嬢ちゃんは」
母艦に向けて撃てばそれで済んだものを、わざわざ母艦の内部に直接撃ちこんだらしい。事前の説明にはない行動、恐らく直前の閃きによる行動だろう。
臨機応変といえば聞こえはいいが、作戦成功率を落とすのは問題だ。敵の装甲に大穴が空いているとはいえ、もし敵側に意図がバレたら容赦なく殺されていた筈だ。
幸運による作戦の成功は、褒められるべき評価ではない。それでもお頭やブザムに笑みが溢れてしまうのは、海賊ならではの賞賛とも言える。
イチかバチかが嫌いな人間に、海賊は務まらない。
「"パニックン"の効果により、母艦が構築するネットワークが破壊されました。ただ同時に再構築も始まっており、こちらからの干渉には限度があります」
「外部からのシステム侵入も考慮には入れているか、当然だな。完全に再構築される前に、出来る限りのデータ収集を行え」
「了解。こちらからネットワーク攻撃も行えますが?」
「やめておく。時間がない上に、万が一でも対策を立てられるのはまずい。内部工作の可能性に行き着けば、作戦に支障をきたす」
ブリッジクルーのセルティックは、マグノ海賊団でも随一のシステム技術者。地球の高度な技術が構築したシステムであっても、彼女なら干渉が行える。
敵システムが崩れつつある今なら、ネットワークを通じたシステムへの攻撃が行えるかもしれない。その甘い誘惑を、ブザムは一瞬で振り払った。
魅力的ではある。相手は地球母艦、どんな小さい隙でもつけ入れるのなら飛びつきたい。誘惑は強烈だったが、甘い見込みだと断じた。
切り崩すこと自体は、出来るかもしれない。だが大元のシステムを破壊するのは恐らく無理、そして失敗すれば敵はすぐに学習するだろう。
学習による対策は恐らく完璧で、同じ攻撃は二度と通じなくなる。つまりシステム破壊を狙った攻撃は無効化されて、内部工作も通じなくなるのだ。
むしろシステムの破壊は、自分達がすべきではない。
「カイ、メイア、ピョロ――頼んだぞ」
ミスティとディータが作り出した、絶好の好機。母艦内部がどれほどの大きさなのか知る由もないが、どれほど些細な変化であっても彼らなら気付くだろう。
メイアは慎重派、カイは行動派。両者の意見はよく反発するが、同じ作戦でコンビを組めば相乗効果を発揮する。思慮に基づいて、適時適切に行動に移してくれる。
あれほどの事故だ、死んでいなくても負傷は免れない。行動不能になっている可能性も無くはないが、彼らにはピョロも居る。あのロボットがいれば、万が一が起きても救い出せる。
作戦には必要な構成だったとはいえ、あの三人は理想的なチームなのかもしれない。
「敵のネットワークを崩せたのであれば、こちらからの通信は行えそうか」
「現在、確認中。ただ、カイ機、メイア機の機体反応は確認できました。ただ生存報告及び救助シグナルは一切ありません」
「――行動に移していることを、祈るしかないか」
機体反応があるということが、必ずしも生存に結び付く訳ではない。機体が壊れていなくても、中のパイロットが死んでいれば、単なる事故死だ。
生きていれば救難信号の一つでも出せば良さそうなものだが、カイの性格から考えて作戦の継続を優先しそうだった。思慮深くはなっているが、まだまだ一兵卒の悪い癖が抜けていない。
その後母艦周辺の反応を観測していたアマローネが、カイ機とメイア機の反応移動を確認。これでほぼ生存は確定となり、ブザム達を大いに安堵させた。
信じてはいても、実際に事実が判明すれば、やはり安心してしまうのが人間であり、仲間というものだった。
「全く親を大いに心配させておきながら、子供達は元気いっぱいにやんちゃしているようだね」
「怪我の一つや二つ、彼らには何の障害にもならないのでしょう。帰って来たら、叱りつけてやりましょう」
それは必ず生きて帰って来るという、無自覚の信頼であった。机上の空論など指揮官にはあるまじき愚行だが、未来の展望を語るのが大人の楽しみとも言える。
カイとメイアの確かな生存の報は命じられずとも全クルーに通達され、戦闘員・非戦闘員問わずチームワークが大いに向上した。
偽ヴァンドレッドシリーズに苦戦していたバートは怒涛の反撃を行い、偽ニル・ヴァーナに翻弄されるだけだったジュラ機が直撃弾を何度も繰り返す。
無人兵器の数の暴力をチームワークで跳ね除けていたドレッドチームは特に顕著で、次々と撃ち落としていく。これ以上ない、反撃の狼煙であった。
これこそ、人間の真価――決して真似の出来ない、真のチームワークであった。
「お頭、副長。デリ機に通信が繋がりました!」
「! 本当か!?」
「すぐ繋いでおくれ!」
思い掛けない朗報に、ブザムどころかマグノまで腰が浮き上がる。あれほどの事故、一方が無事だというのならもう一方が身を挺して庇ったとも予測できる。
カイ達ヴァンドレッド・メイアが無事であるのなら、デリ機がカイ達を庇った。となれば死こそ免れても、重軽傷は負っている危険性もある。
加えて、母艦内への通信はこれまで一回も行えなかった。安否の確認も出来なかっただけに、長年の付き合いであるマグノは気が気でなかったのだ。
取り急ぎ通信を求めるお頭達に押されながらも、セルティックは何とか声を絞り出した。
「そ、それが映像どころか音声も届かず……旧来の救難信号を元にした、電子形式で送られてきているんです」
「くっ……さすがに、通常の通信まではさせてもらえないか」
「盗聴されるのを恐れたのかもしれないね。動けなくなっているのなら、発覚するとたちまち自分達の位置がばれてしまう」
モールス信号のようなパターンによる信号を前に、ブザム達が苦渋の表情を浮かべる。恐らくガスコーニュ達も、苦肉の策であったのだろう。
母艦の変化には気付きながらも、取れる行動は限られている。あからさまな通信は行えないが、助けを呼ばなければこのまま死んでしまう。
かと言って救難信号をそのまま送ってしまうのは、自分達を見つけてくれと言っているようなものだ。彼女達は遭難しているが、自然による被害ではない。
味方に見つけてもらいたいが、敵には見られたくない。この信号を送るだけでも、ギリギリの決断だったに違いない。ブザム達は、そう考えたのだ。
――実際は既に敵に捕獲されているのだが、さすがにそこまでの最悪はブザム達にも想像できなかった。
「じゃあせめて、居所は掴めそうかい?」
「解析すれば可能です。信号を分析した結果、乗員の無事とデリ機の損害を伝えてきました」
「一刻も早く救援隊を送ってやりたいがどうにかなりそうかい、BC?」
マグノの問いかけに、フザムはすぐに頷いた。どういう偶然か、はたまた神の采配なのか――いや違うと、ブザムはすぐに否定する。
想定通り、とは思わない。多分ここまで考えて行動してはいない。だが結果として、完璧な位置取りにスタンバイしている。
毒を食らわば皿まで――ブザムは、決断した。
「ディータ機に行かせます。彼女達は今、母艦の側にいる。このまま内部へ突入させましょう」
かくして、役者は揃う。敵は目の前、味方は行動に移している。目標はこのまま、予想外が続いたが脚本そのものはまだ崩れていない。
最終部隊は敵の腹の中――母艦の内部にて、決戦が行われる。
<to be continued>
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