ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 19 "Potentially Fatal Situation"






Action3 −友情−







 ディータ・リーベライ、新人パイロット。宇宙人やUFOのようなSFチックな存在が大好きな、夢見る少女。子供じみた甘さを多分に持つ女の子だが、彼女は戦場に立つ戦士であった。

いや、戦士となりつつあるというべきだろうか。優しい非現実をこよなく愛しながら、厳しい現実に生きてきた毎日。人生経験と戦闘経験が、彼女から無邪気を奪いつつある。

カイ、メイア、ピョロ、ガスコーニュ、バーネットの死。友人であり、仲間であり、家族であった者達が、一人残らず殺された。残酷なまでに、いとも容易く、あっさりと。

童女なら、死のうと仲間の帰りを待っていた。新人なら、現実を受け入れなかった。パイロットなら、悲しみに暮れていた。今のディータは、そのどれも違っていた。


悲しみの果てに訪れたのは、果てしない後悔と――強い、怒り。仲間を殺した敵を憎み、仲間を救えなかった自分を呪った。



「よくも……よくも、宇宙人さん達をーーー!」



 リーダーとして展開していた戦場分析図をダウンさせて、外部モニターへ切り替える。味方の位置関係よりも知りたいのは、敵目標。懐へ切り込んで、撃ち殺す。

ガス星雲内での戦闘を想定した、マニュアル操縦。自動補正が一切きかない難易度の高い操縦性を求められるが、その分パイロットの意向に百パーセント従う。

操縦桿を巧みに操作して、ディータ機は猛然と敵陣へ突き進んでいく。狙いは一つ、地球母艦――では、ない。


全ての元凶でありながら的外れな復讐対象、偽・ニルヴァーナへ特攻した。



「こ、のおおおおおおおおおおおお!!」



 なまじリーダーとしての適性が高く、メイアに徹底した教育を受けたのが祟ってしまった。純粋だった少女に復讐する強さと、実行に移す行動力を与えてしまったのだ。

闇雲な特攻でありながらも、リーダー教育を受けた実力が徹底抗戦を成立させる。相手が人型に変形したのも、今回においてはプラスに働いた。

加速に優れたドレッドの最高速度に合わせられず、懐に潜り込むのを許してしまい、ディータに先制攻撃を許してしまったのだ。


レーザーによる先制と、ミサイルによる一斉放射。隙のあった懐に攻撃を仕掛けられて、偽・ニルヴァーナは巨大な身体を爆発させる。


大きな損害ではないが、確かな損傷ではある。与えられたダメージが、少女の復讐心をほんの少しだけ満足させた。同時に自分自身への不甲斐なさも、少しだけ慰められる。

死んだ彼女達に報えるのだという確信を、ディータは強めてしまう。引き続き、攻撃に移った。


「宇宙人さん達の仇、ディータが討つんだ!」


 攻撃を受けた敵も反撃に出るが、少女の特攻は息をつかせないほど早い。振り上げられた腕にミサイルを打ち込んで、敵の攻撃を事前に阻止する。

巨大な腕がミサイルの威力で逆方向に振り回され、偽・ニルヴァーナは体勢を大きく崩してしまう。その瞬間、胴体部分がガラ空きになった。

チャンスとばかりにディータは操縦桿を前に傾けて、全力前進のシグナルを送る。パイロットである主の意思を受けて、ドレッドは前へと発進する。


まっしぐらに偽・ニルヴァーナへ突き進んでいく、その航路に――横から、レーザーが打ち込まれた。


「えっ、何!?」

『何やってるのよ、ディータ!』


 突然の攻撃にディータ機が急停止した途端、偽・ニルヴァーナの胴体から赤い光が発射される。後退していた敵の、まさかの反撃であった。

幸いにも機体を停止していたので難を逃れたが、あのまま特攻していたら直撃を食らっていただろう。下手をすれば、そのまま即死だった。

肝を冷やす場面だが、肝どころか頭も冷えない。少女の復讐心が、仲間の援護を邪魔だと認識してしまった。


ディータは唇を噛み締めて、通信を送ってきた相手を睨む。


「どうして邪魔をするの、ジュラ!」

『何寝ぼけたことを言ってるのよ、アンタ。アタシらの役目を忘れたの!?』


 覚えてはいる。忘れていたかったのに、忘れたままではいられない。職務は放棄してしまったのに、職務意識だけは既にハッキリと刻み込まれてしまっていた。

何よりカイが発案し、メイアに託された作戦である。忘れてたまるものか。絶対に、成功させなければならない。それは、ディータとて理解はしている。


ただ、悲しいのだ。どうしても、許せないのだ。


「宇宙人さんも、リーダーも、死んじゃったの。だったら……作戦、なんて」

『何の意味もないって? アタシはそうは思わない』


 ジュラ機はシールドを展開して、突き進もうとするディータ機を押し返す。敵の攻撃から彼女を庇う意味合いも、兼ねて。

ドレッドチームリーダーとしての職務を放棄し、己が復讐心に走ったディータを、ジュラは決して責めようとはしなかった。

サブリーダーとしては彼女を諌め、叱責する義務はある。けれどディータ同様、今だけは職務なんてくそくらえだった。


仲間が死んだかもしれないのだ、冷静でいろなんて無理だ。自分でも無理なのに、相手に無理強いはできない。


『カイも、メイアも、バーネット達だって死んだとは限らない。通信が出来ない状態だけなのかもしれないわ』

「……」

『信じられないの、自分の仲間を?』

「……信じたいけど……」


 歯切れの悪い彼女の口調が、そのまま自分の本音を物語っている。ジュラも、ディータに同感だった。生存を信じたいが、簡単に信じられない状況に陥っている。

何しろどう見ても、母艦に激突して爆砕したようにしか見えないのだ。事故現場を目前で見てしまったのに、生存を確信するのは無理だった。

その点こそ、ディータやジュラの不幸であったのかもしれない。悲劇の現場に近い位置にいたから、生存を信じられずにいる。

ジュラが冷静でいられるのは、ディータは冷静ではないからだ。相手を見て、自分を無理やり落ち着かせているだけだ。


『ディータ。アタシはカイ達が生きていると、アンタに断言出来ない。ごめんね、そこまで優しくなれないの』

「ううん、ジュラは優しいよ」

『ありがと。でも、考えてごらんなさいよ。どうせ、戦うのなら――

仲間を殺された恨みより、仲間を救い出す決意の方が美しいでしょう?』


 ディータは、後悔と悲しみで濡れた瞳を見開いた。その通りかもしれない、いやきっとその通りだ。その方が、ずっといいに決まってる。

だって仲間を助けようとするカイはいつも、すごくカッコよかったから。


「で、でも、生きてるかどうか――」

『……久しぶりにイライラさせてくれて、どうもありがとう。最近頑張ってると思ったけど、そのウジウジするのはまだ治らないのね』

「うう、ごめんなさい」


 最近ずっと頼りにされていた分、久しぶりに誰かを頼れるのはとても心地が良かった。重苦しい気持ちまで晴れてくるような、心地の良さを感じる。

リーダーとしての責務を背負う覚悟は固めているが、その重責は大変なものだった。投げ出したいとは思わないが、いつの間にか心の中まで固まっていたかもしれない。

ペチペチと、自分の頬を叩いてみる。固く強ばっていた顔が、若干緩んだ気がした。


(ごめんなさい、リーダー、宇宙人さん。ガスコさんも、バーネットも、きっと怒ってるよね)


 それでも今だけはリーダーではなく、一人の仲間として彼らを助け出したかった。個人の意志を優先するなんてリーダー失格、彼女はその場で頭を下げる。

自分の役目は、復讐ではない。何時だって、仲間を守りたくて戦っているんだ。そうだった、何故忘れていたのだろう。

リーダー達は多分、きっと、死んでいる。それでも、生きてはいるかもしれない。とても少ない可能性だけど、どうせ信じるならそっちだ。


いいのだ、別に。今はリーダーではなく、一パイロット――現実の死より、非現実的な生に賭けてみよう。


「行こう、ジュラ。宇宙人さん達を、助けに!」

『オッケー、飛び込むわよ!!』


 マグノやブザムの許可も得ず、彼女達は作戦に邁進して突き進んでいく。命令違反ではないが、命令に対処しようとしない。そこにあるのは、個人の意思のみ。

仲間を思う気持ちだけを持って、彼女達は巨大な敵に立ち向かっていく。今度という今度は、間違えない。


猛追する偽・ニルヴァーナを無視して――彼女達は、母艦の装甲に空いた穴に飛び込んでいった。



























<to be continued>







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