ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 18 "Death"
Action17 −降下−
――終わった。
単純に、それでいて明白に。選択の余地もなく、それでいて唐突に。自分がここで死ぬのだと、確信を抱く事が出来た。疑う必要も感じられない。
不幸中の幸いなのは、苦しまずに死ねることだった。死の瞬間を想像するのは難しいが、多分生死の境はあっという間に飛び越えられるだろう。
作戦は、完全に失敗。敗因は、敢えて言うなら不慮の事故。そればかりは、救いというべきか。少なくとも、誰かのミスではない。
自分も、仲間達も、精一杯やった。それがこの結果であるのならば、責めることなど出来はしない。これ以上は、なかった。
カイ・ピュアウインドは、事実のみを認めた。
「間に合わないな」
「ああ」
返答があったことに申し訳無さと、ほんの少しの嬉しさを感じた。死ぬのは一人ではない。道連れが居ることが悲しく、されどどうしようもなく慰められる。
死はほぼ目前だった。回避は断じて不可能。抵抗する余地もありはしない。絶望的な認識を、お互いに共有できている。
少年と、少女と――そして、ロボットと。
「……ピョロU」
ピョロが口にしたのは絶望ではなく、未練。機械らしからぬ感傷に、カイは唇を噛みしめる。ロボットであれど自分の大事な仲間だったのだと、強く思えた。
人間臭い奴だと常々思っていたが、ピョロはしっかりと成長していた。人間らしく、という言い方は彼には無礼であろう。
今回の作戦の主要メンバーに抜擢したのは、彼が宇宙空間で活動できるナビゲーションロボットだからだ。機械だからこその役目、さればこその仲間。
未練がましいと、揶揄できない。ピョロは、未練を残せる生を過ごしたという事だから。
「ついてねえな、まさか突撃した直後をつかれるとは」
ヴァンドレッド・メイアのコックピット内は、警報が鳴り響いている。急速接近を知らせる音声が、敵の接近を告げているのが何とも可笑しかった。
急接近しているのは無人兵器ではなく、デリ機。ガス星雲内の強い磁場をはねのけるように、みるみるうちにこちらまで迫り来る。
何が起きたのか、一瞬で察した。自分達が振り切った偽ニル・ヴァーナの人型、奴の手によって投げ飛ばされたのだと――
よほど強い攻撃を受けたのか、頑丈なデリ機が噴煙を上げている。デリ機は強力なシールドを張れる、単なる無人兵器ではデリ機をあそこまで破壊できない。
となれば、偽物シリーズ以外ありえなかった。ガスコーニュがヘマするとは思えず、必然的に倒されたのだろうと心静かに認められた。
状況の読み損ねによるミスにより振り切れたが、偽ニル・ヴァーナは確かに脅威であった。デリ機で勝てる相手ではない。
狙われたのは不幸としか言いようがなく、狙われた理由が自分達にあるのも明白だった。
――地球母艦はもう、目前だったのだから。
「分離を――」
「私はこの手を離さんぞ」
「ピョロも断固、お断りだピョロ」
敢えて失敗の原因を上げるのなら、やはり作戦が順調過ぎてしまったことだ。ヴァンドレッド・メイアの最大加速、その瞬間をつかれて横合いから狙われたのだから。
強い磁場の影響があるというのに、完璧な距離感と間合いでデリ機をぶつけてきた。ヴァンドレッド・メイアが地球母艦と激突するタイミングで、デリ機がぶつかる。
急停止は不可能ではないが、激突そのものはもう避けられない。少なくともデリ機はヴァンドレッドではなく、母艦の装甲に激突して大破するだろう。
ならば、自分達がクッションになるしかない。ヴァンドレッド・メイアの推進力とシールドの角度調整を行えば、衝撃の緩和は可能だ。
――逃げ場を失った衝撃は全て、ヴァンドレッド・メイアにふりかかってくるが。
ヴァンドレッド・メイアの弱点は、ここにある。加速に特化している分、装甲が薄い。早く飛べる事を念頭にされたデザインなので、防御力が低いのだ。
ヴァンドレッド・ジュラならば、確実に耐えられる。ヴァンドレッド・ディータならば、火力によって破壊のタイミングをずらせる。問題は、そのどちらも傍にいない。
仲間の援護は到底、間に合わない。全てが、完璧に仕組まれている。ここで死ぬことは、決定済みであった。
分離をすれば三人もろとも死ぬことはないが、誰も生存を選ばなかった。
「たく……馬鹿だな、お前らは」
「お前に言われたくはない」
「連れてきておいて何を言っているピョロ」
デリ機は衝撃の緩和により、かろうじて助かる可能性は出てくる。仲間達もこの事態の異常にすぐに気付いて、必ず救援に来てくれる。
不思議なほどに、仲間達を信じられた。死ぬのは、この三人で留められる。悲劇は避けられないが、死ぬ人数を減らせたのは上出来だろう。
死ぬ前だというのに、三人は今も笑っていた。
「覚悟を、決める。ガスコーニュに教わったことだ。説教は出来ねえだろうよ」
「それでも、我々を許しはしないだろうがな」
「聞かずには済むピョロよ」
どうやら、走馬灯とやらは一人でしか見れないらしい。三人も揃っていると過去を振り返るよりも、死ぬ瞬間の今を限りなく長く楽しめるようだ。
次の瞬間死ぬと覚悟を決めたら、時間の経過がゆっくり感じられた。今の三人にとってこの瞬間こそ奇跡であり、永遠だった。
末期の酒はないが、肴には事欠かない。それほどまでに話のネタは尽きず、良い関係を作れた。
三人は手と手を取り合って、離さなかった。そのまま目を閉じず、死と向き合う。
「これが俺たちの選択だ、ガスコーニュ」
<LastAction −段階−>
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