ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 18 "Death"
Action6 −遂行−
融合戦艦ニル・ヴァーナ、男と女の船。三人の男と百五十名の女の命を載せた、運命共同体の象徴。反地球同盟の旗印とも言える船が、敵側の手に渡ってしまった。
大量のキューブ型をピースとした建造物、誰もが偽物だと分かりながらも絶句させられるスケール。似ているなんてレベルではない、もう一隻のニル・ヴァーナと言い切れる出来栄えだった。
外見だけの話ではない。ペークシス・プラグマの輝きこそ紅く染まっているが、機能面も決して本物と見劣りはしないだろう。無人兵器を連れているのが、悪い冗談そのものだった。
悪夢のような、現実。どれほど戦っても楽には勝てず、常に絶望を与えてくる。次々と人類から希望を奪っていき、抵抗する気力を失わせる。
ニル・ヴァーナまで奪われてしまったら、もう地球に勝る武器など残されてはいない――
『今度は何を持ち出してくるかと思えば、結局偽物かよ。芸の無い連中だな、青髪』
『我々の想定を超えるものではないな。作戦通り進めていくぞ、カイ』
――そんな男女の絶望感を、少年と少女の楽観視が一気に吹き払った。予想通りだと、対処なんて容易いと、いとも簡単に軽く言ってのける。
これがカイ一人の意見であれば、皆を元気付けるための空元気だと勘繰っただろう。他の誰でもない、生真面目な慎重派のメイアまでカイに追従したのである。
マグノ海賊団の主力はドレッドチーム、率いているリーダーの発言力は大きい。彼女が明確に肯定することで、クルー達の顔は一気に明るい色を取り戻した。
今度の作戦は母艦を想定して綿密に立てたもの、新型の登場でも作戦に支障が出ないのであれば何の問題もない。勝利への道筋は出来ている。心配することなんて、何もない。
クルー達は全艦に流れている外部モニターを気にかけながらも、自分達の仕事へ戻った。作戦決行中は非戦闘員達の支援や援護は不可欠である。絶望に俯く暇はない。
低下しかけた士気は、再び上がっていった。
「……新型の可能性を指摘されていなければ、やばかったな」
「ガスコさんの忠告があったのか。いやに冷静だと思ったら」
「うるせえ、お前だってのってきたくせに」
「お前の言いそうなことだからな」
カイが偽ニル・ヴァーナに飲まれずに済んだのは、出撃前のガスコーニュの指摘があってこそであった。新型の可能性、こちらの新たな脅威となる無人兵器。
全くのオリジナル兵器か、それともこちらの持つ戦力の更なる模倣品か――答えは、後者であった。
「大体ニル・ヴァーナの偽物が出てくる可能性そのものは、作戦会議でも出ていただろう」
「最悪のケースを想定したものだ。的中すればいいというものではない」
ニル・ヴァーナの偽物、実はこの新型の出現自体は想定の範囲内だった。ヴァンドレッドの偽物シリーズが出たのなら、ニル・ヴァーナも十分ありえる話だったからだ。
それでもカイ達が震撼したのは、想定される中での最悪なケースであったからだ。何しろ今マグノ海賊団における最大戦力はヴァンドレッドではなく、ニル・ヴァーナ。
操舵手バート・ガルサスの成長により、彼が操舵する融合戦艦も覚醒を遂げてバージョンアップ。ホーミングレーザーと、ペークシス・アームが使用可能となった。
近距離兵器と遠距離兵器の、最大戦力。ペークシス・プラグマという無尽蔵のエネルギーを活用した、二大兵器。惑星すら破壊する、大戦略級兵器。
地球母艦破壊の切り札とも言える二つの兵器を搭載したニル・ヴァーナが、模倣されたのである。これで、戦力面でもまた大差をつけられてしまう。
出来れば当たって欲しくはなかった予想が、ものの見事に的中したのである。頭を抱えたくなってしまう。
「実際、どこまで盗まれていると考えている?」
「ホーミング・レーザーを使用したのは、たったの二度。シャーリーのいた星で手に入れたばかりの兵器だ、盗む暇もないだろう――が。
ペークシスアームはまずいな……何しろ、前の母艦戦で使ったんだ。完全にデータは取られただろうな」
「しかし、あの兵器は我々が保有するペークシス・プラグマの結晶体あってこその兵器だ。単に兵器の概要を盗んでも、実現化するにはエネルギー源が足りないはずだ」
「実際のところ、どうなんだ。うちが持つ結晶体規模のペークシスってよくあるのか?」
「あんなものがゴロゴロ発掘されていたら、タラーク・メジェールの深刻なエネルギー問題は当に解決されている」
「ふむ、とはいえ――」
「――楽観は、出来ないか」
次々と新型を作り上げる地球側の技術力に底知れぬ脅威を感じながらも、恐怖に飲まれたりはしない。多くの苦難を乗り越えた二人は、現実味のある推察を行って行動に移る。
最悪の最悪は、敵側がガス星雲内での戦闘を恐れて撤退してしまう事。場を改められると、カイ達の不利益は計り知れない。何としても、ここで一隻は撃破しなければならない。
不幸中の幸いではあるが、偽ニル・ヴァーナを旗印に無人兵器の大群が立て直しを図っている。偽ニル・ヴァーナによる戦力の追加を得て、再び刈り取りを実行するつもりのようだ。
敵の狙いに気付いたカイは、メインブリッジに通信を送る。磁場の影響で映像までは送れないが、音声は事前の準備によりノイズも無く届いている。
「俺達は作戦通り、無人兵器の群れを撹乱する。バート、お前はあのデカブツを頼む」
『任せろ。昔っからな、偽物は本物より弱いって相場が決まってるんだよ!』
『いいから落ち着きな、バート』
今ではマグノ海賊団最大戦力となったニル・ヴァーナを操舵するバート、彼の役割は重要であり本作戦の要とも言える。作戦会議でも、立役者として持て囃された。
そんな彼にとって偽ニル・ヴァーナはお株を奪うものであり、自分自身の誇りを汚す存在。元来の怖がりな性格も鳴りを潜め、珍しく怒りにかられている。
気合の入った操舵手に頼もしさを感じつつも、マグノはバートに冷静さを促すのも忘れない。ニル・ヴァーナには、百五十名の命が載せられているのだから。
始動するニル・ヴァーナの先陣を切るように、ヴァンドレッド・メイアが最大加速で出陣する。
ガス星雲内の磁場は健在、プログラミングを掻き乱された無人兵器達は補足も満足に行えない。翻弄される一方で、敵陣営は乱れに乱れていく。人のような臨機応変さは望めない。
速度で翻弄しながらも、敵の数を減らすのも忘れない。加速に特化された機体とはいえ、並の機体より戦闘能力には優れている。次々と、無人兵器を平らげていった。
そこへ、偽ニル・ヴァーナが重々しく接近――カイが気付き、メイアが機体を急転する。
星雲が、紅い光に蹂躙される。
「まさか、ペークシスアーム!?」
「の、劣化コピーだ。やはり、完全な模倣には至らなかったらしいな」
ペークシスアームの、模倣。赤い光は手の形にまで収束されず、まるで腕を伸ばすかのようにカイ達に突き立てようとした。
ペークシスアームの本質は光そのものではなく、腕の機能性に真価がある。腕とはただ伸ばすだけではなく、伸縮自在に操れてこそ身体の一部分を任されている。
単に伸ばすだけならば、軌道も読み易い。もしも曲げたり、振り回したり出来るのならば、回避するのは困難を極めただろう。
偽ニル・ヴァーナより放たれた主砲が、無数の無人兵器を飲み込みながら発射された。恐るべき威力と速度だが、来ると分かっていれば対処は可能だ。
赤い光に瞼を焼かれながらも、ヴァンドレッド・メイアは完全回避。後続に続いていたニル・ヴァーナも機体を傾けて、かろうじて直撃を免れている。
バートの機転もあるが、優秀なメインブリッジ達のサポートがあってこそだろう。男女同盟による一致団結は、完璧に機能していた。
その事実を喜びと共に噛み締めながらも、カイやメイアの表情は険しい。
「あいつがいきなり撃ってきたのは、俺らが急接近したからだよな」
「どうやらあの偽物の役割は、我々への刈り取りではないらしい。敵はやはり、モノマネが上手いらしいな」
「ふざけやがって、あの野郎!」
偽ニル・ヴァーナの役割、それは『仲間』を、守ること。
母艦、地球の未来が託された最大戦力を守る。大切な役目を果たす母艦を守ってこそ、地球が救われる。その為に、偽ニル・ヴァーナがこの世に生を成した。
守ることの意義を教わったのはマグノ海賊団、その役割を果たす本物の融合戦艦。コピーしたからには、役割も逸脱せずに忠実に果たすのみ。
大切な母艦を一機倒されて――彼らは、仲間を守る意味を知った。その上で、敵を蹂躙する事には何の躊躇いもない。
大切なものを守ろうとする力は、強い。人の臓器を刈り取る無人兵器は、学習する。
<END>
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