ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 18 "Death"
Action5 −鳴動−
地球が保有する最大戦力である、母艦。タラーク・メジェールへ向かう五隻、その一隻を目の当たりにしてマグノ海賊団が最初に感じたのは『安堵』であった。
過去半年間における刈り取りとの戦闘の傾向から、一度破壊された無人兵器はほぼ確実にバージョンアップされて来た。キューブやピロシキのような兵隊ですら、改良されているのだ。
一兵卒でも改良型には苦戦させられたのに、母艦まで改良されてしまうと打つ手が無くなる。無論見かけで判断するのは危険過ぎるが、少なくとも大幅な改良はされていない様子だった。
圧倒的ではあるが、絶望的ではない。
『見たところ磁場の影響は受けているようだが、支障をきたすほどではないようだな』
「そこまで期待はしていなかったからな。影響があるだけでも、まだマシだ」
若干の落胆の色を帯びたメイアの通信に、カイは気楽に返答する。カイがこの出撃で一番懸念しているのは、新型の存在である。
ガスコーニュの忠告は、事前に作戦を練り自信満々だった少年の意気込みに冷水を浴びせた。その後仲間達とも熟議を重ねて、現れそうな新型の傾向を必死で探った。
仲間達との推測の一つが母艦の改良型だったのだが、その推測が幸運にも外れた。推測がはずれて喜ぶというのも変な話だが、心配の種は一つ無くなったのは喜ばしいだろう。
とはいえ、楽観は出来ない。改良されていなくても、母艦は十分手強い。
「作戦を決行するぞ。青髪、合体だ」
『了解。ディータ、フォーメーションはデルタフォーでいく。私達に続け』
『は、はい。あの……やっぱり、ディータと宇宙人さんとの合体で指揮を取るのは駄目ですか?』
「絶対に俺を頼るだろう、お前。お前の面倒まで見ている余裕はねえよ。頑張れ、リーダー候補」
『私は作戦に従事するので、動きが制限される。サブリーダーのジュラと上手く連携を取って、チームを指揮してくれ』
『うう、ラジャー……』
公私混同が甚だしかったディータも、リーダー候補としてメイアに徹底的に訓練されて自覚も出てきている。今の意見も、久しぶりにカイと共に戦える事への甘えから出たものだろう。
ディータはまだパイロット経験半年間の新米、リーダーの重責は相当なものである。必要に迫られているとはいえ、彼女が担う重さは同じリーダーのメイアが一番良く分かっている。
決して個人の我儘は許さないが、作戦決行前に多少個人的な希望を言うことくらいはメイアも目を瞑っている。カイも大変さは何となくでも分かるので、同じチームとして力にはなるつもりだった。
カイとメイアは、合体――同じくチームを任されたジュラが、落ち込む同僚に優しく声をかける。
『落ち込まないの。あんたとジュラで立派に結果を出して、主役になってやろうじゃない!』
『うん。ディータ、頑張る!』
ガス星雲内は強力な磁場が発生していて、通信機器に悪影響が出ている。予め対策はしているので遮断はされていないが、通信は明らかに妨害されて音声が乱れてしまっている。
その為通常作戦前のパイロット達の個人的なやり取りまでは傍受しないのだが、作戦運用上今回は全パイロットの通信をメインブリッジ側がキャッチしている。
作戦上何か不都合もしくは救難の危機が生じれば、いつでも対応出来るようにしているのだ。通信内容はセルティックを通じて、全てメインブリッジ側に伝わっていた。
話を全部聞いて、最前線での取材とばかりにメインブリッジへ来ていたミスティが呆れ顔をする。
「生死のかかった作戦前に、何を言い合ってるんだか」
「連中には一度、勝っているからね……経験は、自信にはね返るもんさ」
苦笑交じりのマグノ・ビバンの言葉に、ミスティも額の汗を拭って笑みを浮かべる。彼女は母艦戦を経験していない、実際に目の当たりにしてその脅威に震わされていたのだ。
マグノの言葉に緊張は何とか解れてきたが、拳は知らずと握りしめてしまっている。
「……あの大艦隊を、本当にあたしらだけで相手をするんだ」
『マスターの作戦により、艦隊の指揮系統は大幅に乱れております。マニュアルに切り替えられない分、この場においては蛮型やドレッドの方が有利です。
何よりマスターが陣頭指揮を取っていらっしゃるのです、勝利は確実でしょう』
「前半は大いに頷ける意見だけど、後半は完全に贔屓目よね」
バート・ガルサスひいてはニルヴァーナの補佐を行っている、ソラ。メインブリッジよりシステム介入している彼女の私見を聞かされて、ミスティは今度こそ憂いなく笑った。
全員、この作戦に自信を持っている。驕っているのではない。勝利を確信していながらも、勝利に向けて邁進している。全員が一丸となって、全体に蔓延する不安や恐怖を払っているのだ。
マグノ海賊団入りは明確に拒否したが、ミスティも皆の仲間として扱われている。まだまだ余所者としての扱いは拭われていないが、今この時ばかりは皆の中に入り込めている。
チームが一つとなって戦う熱い空気に触れて、自分の中で不安が溶けていくのが分かった。
「すっごい、無茶だけど――ここのクルーのこうした自信、あたし結構好きかも」
ミスティの電子ペットであるキューちゃんも、頷く。彼女もまた、仲間の一人。非戦闘員であっても隠れず、ブリッジに出て仲間達の戦いを見つめる。
ミスティはカメラとボイスレコーダーを準備して、この戦いの全てを記録していく。このまま、歴史に埋もれさせてはいけない。
世界を救う、戦いなのだから。
ガス星雲内での、戦闘。母艦はニル・ヴァーナを認識して、大量の無人兵器を排出。ニル・ヴァーナも母艦の位置を割り出して、ドレッドチームを出撃させた。
ニル・ヴァーナ艦内でも通常の戦闘とは違い、全部署が総動員して現場で作業を行っている。以前母艦での戦闘時、艦内にまで侵入された経緯もあって警戒態勢に入っていた。
各部署の外部モニターでは、カイ達と母艦との激しい戦闘模様が出力されている。無駄口を叩く者は誰もおらず、固唾を呑んで戦況を見守っていた。
開幕早々に――主力が、激突していた。
「――なるほど、あいつらがヴァンドレッドの偽物軍団か」
「オリジナルの我々と比べれば見劣りはするが、それでも十分脅威だ。我々で破壊するぞ」
以前の母艦との戦闘時、カイは地球側が作り出したヴァンドレッドの偽物シリーズを見ていない。ホフヌングの爆発により過去の時代へ飛ばされて、参戦していなかったのだ。
その後の決戦では最前線で出撃したが、恒星の大爆発で偽物シリーズも吹き飛んでしまい、彼は母艦しか見ていなかった。せいぜい、後の戦闘データで観測したくらいである。
今回の母艦戦では出し惜しみなしと言わんばかりに、最初から前線に出向いている。予想通り、彼ら母艦は情報を共有出来るようだ。
前回破壊した母艦から戦闘データを受け取り、再び再現したのだろう。メイアの言う通り脅威ではあるが、カイ達も二戦目で対策はできている。
偽物は、オリジナルに比べて一ランク機能が落ちている。カイとメイアが操縦するヴァンドレッド・メイアは、真っ先に自分達の偽物を攻撃に出た。
元々ヴァンドレッド自体特化された機能を持ち、偽ヴァンドレッド・ディータと比較すれば加速に特化したヴァンドレッド・メイアでは当然火力で負けてしまう。
その点同機であれば、機能で負けたりはしない。加えてカイの相棒であるメイアは最高ランクの腕前、技術ではプログラムよりも遥かに上回っている。
加えてガス星雲による磁場で動作が鈍っているとくれば、勝負にもならない。あっという間に、撃沈に成功した。
『宇宙人さん、ディータ達の偽物も一緒にやっつけよう!』
『次は、ジュラの偽物も華麗に破壊するわよ』
「作戦通りにやれよ、お前ら!」
「やれやれ」
隙あらば合体を求めてくる二人に呆れながらも、ヴァンドレッド・メイアは残り二機の相手をする。こちらに注意を引きつけて、チームメンバーが無人兵器の相手をする。
作戦の第一段階である、敵の主力の陽動は成功していた。
「偽物軍団を平らげたら、敵母艦に突撃するぞ――おい、いい加減覚悟を決めろよ」
「こ、これもピョロUの……ピョロUの為……うう、怖いピョロ……」
本作戦にあたって、SP蛮型にはナビゲーションロボットのピョロが同席している。メイア機と合体した後も、彼は共有コックピットの片隅で震えていた。
出撃前は勇ましかったのだが、どうもカルーアと離れていくにつれて勇気も萎んできているらしい。ある意味で、分かりやすい態度であった。
口を尖らせるカイを尻目に、メイアはコックピットを見渡している。
「マニュアル操作に切り替えた影響かと思ったが、違うようだな」
「? 何がだ」
「機体の性能だ。以前よりも加速度が増していて、安定性も向上している」
「慣れてきたからじゃないのか」
「今、我々はガス星雲の中にいるんだぞ。性能が落ちて然るべきなのに、向上するのは妙だ」
作戦が予想以上に上手く行っている事が、逆にメイアの疑念を生んでいるらしい。指摘されてカイも不思議には思ったが、不審には至らなかった。
ピョロを見やる。以前にも載せたことがあったのだが、その時も合体時に普段とは違う徴候があった。何がどう違うのか具体的には分からなかったのだが、変化があったのだ。
今回、改めて確信する。ドレッドと蛮型の機体、それにナビゲーションロボット――二つではなく、三つの合体が新しい何かを生み出すのではないか。
検証が必要となるが、もし上手く行けば戦力の拡大が望める。ピョロは戦いに出るのは嫌がるだろうが、カルーアの為なら頑張ってくれるだろう。
棚からぼた餅に近いが、朗報ではあった。この明るいニュースを皆に聞かせれば、より一層団結が図れるだろう。この作戦が無事成功すれば、弾みもつけられる。
大いに希望が出てきて、我知らず操縦する手にも力がこもるが――
『宇宙人さん!』
「いい加減にしろよ、コラ。合体なら後で幾らでも――」
『違うわよ、馬鹿! あれを見て!!』
少しずつ優位に傾きつつあった戦況が、激変している。最前線に出ていたキューブ型が一機残らず、撤退しているのだ。
ガス星雲内での戦闘が不利だと察して、ガス星雲から離れるつもりだろうか? そうなると当然、こちらの作戦が崩れてしまう。この有利はあくまで、地の利があってこそだ。
ドレッドチームの追撃を促そうとするが、メイアも冷静な表情を崩して驚きを顕にしている。カイは怪訝に思い、戦場のマップを拡大してみる。
背筋が、凍った。
"敵さんだって、強くなってる。手持ちの戦力を、交換しているかもしれないよ"
キューブ型は徹底しているのではない、一箇所に集まっている。一機ではなく一欠片、ピースとなって組み立てられている。馬鹿らしいほど精密に、コミカルなほどに丁寧に。
組み立てられる途中で、攻撃は出来た。けれど、手出しができなかった。攻撃しようとする意思が、奪われてしまう。どうしようもない程に、震え上がってしまう。
マグノ海賊団、全員が目の当たりにした。全員一丸となったその矢先に、見せられてしまった。
「あいつら……ここまで、しやがるか!」
男女平等の、シンボル。全人類の希望、カイとマグノ海賊団の同盟の象徴――ニル・ヴァーナ。
偽ヴァンドレッドシリーズを引き連れた、赤き装甲の融合戦艦が地球の手で建造された。
<END>
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